ノベルゲーム製作を行うアニプレックスの新ブランド“ANIPLEX.EXE”(アニプレックスエグゼ)の第1弾タイトル『ATRI -My Dear Moments-』(以下、『ATRI』)、『徒花異譚』がSteamとDMM GAMESで配信中だ。

 『ATRI』は、原因不明の海面上昇によって地表の多くが海に沈んだ近未来を舞台に、主人公の斑鳩夏生(いかるがなつき)と、感情豊かなロボット・アトリを中心としたドラマを描くノベルゲーム。

 一方の『徒花異譚』は、記憶喪失の少女・白姫(しろひめ)と、筆を刀のように操る謎の少年・黒筆(くろふで)が日本のお伽話をめぐるノベルゲームだ。

ANIPLEX.EXEの『ATRI』と『徒花異譚』が目指したものとは。シナリオライターの紺野アスタ氏(フロントウイング)と海原望氏(ライアーソフト)に訊く
ANIPLEX.EXEの『ATRI』と『徒花異譚』が目指したものとは。シナリオライターの紺野アスタ氏(フロントウイング)と海原望氏(ライアーソフト)に訊く
『ATRI -My Dear Moments-』
『徒花異譚』

 ともにクリアーしたユーザーからの評価は高く、昨今、日本では注目されにくいノベルゲームの盛り上げに寄与している。

 ファミ通.comでは『ATRI』の企画・シナリオを担当したフロントウイング・紺野アスタ氏と、『徒花異譚』で同じく企画とシナリオを担当したライアーソフト・海原望氏の対談をお届け。

 各作品のことはもちろん、ふたりのルーツとなる作品や、ノベルゲームの魅力、ゲームシナリオの制作の苦労などについて詳しく訊いた。

紺野アスタ(こんのあすた)

フロントウイング所属のシナリオライター。代表作は『夏ノ雨』(CUBE)、『この大空に、翼をひろげて』(PULLTOP)、『向日葵の教会と長い夏休み』(枕)。(文中は紺野)

海原望(うみはらのぞむ)

ライアーソフト所属のシナリオライター。代表作は『フェアリーテイル・レクイエム』(ライアーソフト)、『バタフライシーカー』(シルキーズプラス)、『シンソウノイズ~受信探偵の事件簿~』(Azurite)。(文中は海原)

配信後、両タイトルの評判は?

――まずは配信おめでとうございます。『ATRI』『徒花異譚』ともにユーザーからの評価が高いですね。

紺野予想外の評価でした。体験版のときも評判は良かったのですが、それは期待値込みの評価だと思っていました。演出やグラフィックは体験版と製品版で評価が大きく変わるものではないですが、ストーリーは中盤から後半にかけて質が変わっていくので、どのような評価を受けるのか怖かったです。Twitterでは自信を持っているように振る舞っていましたが、内心は死刑宣告を受ける前のような気持ちでした。

海原わたしは言葉の弾丸が怖いのでSNSはやっていないのですが、少し覗いてみたところ評判が良かったようでホッとしています。いちばんうれしかったのは、原画の大石さん(※1)が自腹で本作を購入してくれて、「すごく良かったです」と伝えてくれたことです。大石さんが褒めてくれたので、なにより安心しました。

※1:大石竜子氏……『徒花異譚』のキャラクターデザイン・原画を手掛けたイラストレーター。代表作は、ライアーソフトの『赫炎のインガノック 』『Forest』『フェアリーテイル・レクイエム』など。

――体験版は本編の3分の1ぐらいのボリュームが収録されていましたが、どのような狙いがあったのでしょうか。

紺野体験版について、そこまでこまかい打ち合わせはしていないのですが、ディレクターと話をしてどこまでプレイできるかは決めていました。自分の過去作である『この大空に、翼をひろげて』も体験版のボリュームがあったのですが、そのときも評判が良かったので本作でも踏襲しています。

海原『徒花異譚』は章仕立てで進行する作品なので、体験版には最初の章が収録されています。仮にも美少女ゲームなのに最初のゲストキャラクターがおじいちゃんでいいのかというのは不安でした(笑)。

ANIPLEX.EXEの『ATRI』と『徒花異譚』が目指したものとは。シナリオライターの紺野アスタ氏(フロントウイング)と海原望氏(ライアーソフト)に訊く
『徒花異譚』の最初のゲストキャラクターとなる“花さかじいさん”。

――体験版をバーチャルYouTuberのさくらみこさん(ホロライブ)と郡道美玲さん(にじさんじ)が実況されていましたね。

海原『徒花異譚』は歴史の解説もされている郡道さんが実況してくれていたので、間違ったことを書いていたらどうしようとドキドキしました。でも、その実況ではいつもの客層とは違う反応を見ることができて楽しかったですね。

紺野私は自粛期間にVtuberにハマッたのですごくうれしかったのですが、ノベルゲームと実況プレイの相性を考えたときに少し不安でした。ただ、実際にはすごく盛り上がったので良かったです。いい思い出になりました。

シナリオライターに必要な資質とは?

――改めておふたりのシナリオライターとしての経歴を教えてください。

紺野もともとシナリオの仕事をしていたのですが、紺野アスタの名前で発表した最初の作品は2009年の『夏ノ雨』になります。長らくフリーランスで活動していましたが、いまはフロントウイングの社内ライターをしています。

海原私は13年前に本屋でアルバイトをしていたのですが、エロゲーが作りたくてライアーソフトにグラフィッカーとして入社しました。ただ、シナリオライターのヘルプがほしいという話があってから、ゲームの専門学校でシナリオ科を卒業していたこともあり、ちょくちょくサブライターとして手伝っていました。その後、社内で誰でも企画を出していいコンペがあったので、長年温めていた『フェアリーテイル・レクイエム』の企画を提出して、そこからメインライターもやることになりました。

――『フェアリーテイル・レクイエム』は5年前ですね。そこから『シンソウノイズ』などの作品を次々に発表されているので密度が高いですね。

海原会社のシナリオライターが次々に辞めてしまって、私がやっているという部分も大きいです(苦笑)。

紺野でもシナリオライターさんはそういう人が多いですよ。最初はヘルプでシナリオを書いていただけなのに、その人にすごい才能があることがわかったり。

――シナリオを書くうえでいちばん大事にしていることはなんですか?

紺野キャラクター同士の距離感です。距離感がしっかり書かれていると関係性に緊張感が生まれると思っています。映画やドラマでも、なんでもない普通の会話なのにおもしろく見えてしまうことがありますが、それは関係性がしっかり描けているからだと思います。

――それらの関係性はプロットの段階で固めているのでしょうか。

紺野そうですね。たとえばツンデレのキャラクターであってもツンデレだからツンツンしているわけではなく、主人公との関係性を考えてツンツンしている理由を作ります。

――理由がないとただの記号になってしまいますよね。

紺野美少女ゲームの場合は複雑な設定はノイズになってしまう場合があるので、記号になっていてもいいと思っています。自分はキャラゲーを作るのがニガテなので、そこはコンプレックスです。

海原キャラゲーでも土台がしっかりしているもののほうが好きですね。私は最初に作品でやりたいことを決めて、それを見失わないように書くようにしています。簡単なことのように感じますが、なかなか難しいです。骨組みに合わせてシナリオを肉付けしていくのですが、書きやすいところと書きにくいところがあります。

紺野テーマは決まっていてもエンタメとしてシナリオを作っていると、その作業の中でブレていきますよね。いちどテーマをすべて捨てようと思うこともあるのですが、不思議なことに作り続けているとちゃんと最初のテーマと一致していくんです。

――そもそもシナリオは最初から順番に書いていくものなのでしょうか。

海原私はシナリオの流れに沿って書いていきます。漫画を描いていたこともあるのですが、やっぱり順番に描いていかないとキャラクターにしっかり血肉が通っていかないんです。

紺野私も冒頭から書くのですが、ほかのシナリオライターさんの話を聞くと書けるシーンから書く人も多いようです。最近は自分もそちらの書き方にしようと思って練習していたのですが、やっぱり無理でした。読者と同じ立ち位置にいながら書かないと、読者が何を知りたがっているのか、トレースできないんですよね。

――おふたりがシナリオライターとして影響を受けた作品はありますか?

海原小さいころからなんでも好きだったのですが、衝撃だったのは『匣の中の失楽』という小説です。読み終わったときに喜怒哀楽を越えた感情を覚えました。ノベルゲームの楽しさを感じたのは『かまいたちの夜』で、エロゲーが好きになったいちばんの理由は『さよならを教えて 〜comment te dire adieu〜』です。『徒花異譚』でさっぽろももこさんを起用したいと提案したのも、『さよならを教えて』があったからですね。

紺野憧れと影響で作品が変わってくるのですが、憧れたのは上遠野浩平さんの『ブギーポップ』シリーズです。影響を受けたのは『赤毛のアン』で、「人が死んだりしなくても、こんなにおもしろい作品が作れるんだ」ということを教えてもらいました。『マリア様がみてる』にハマッたときに少女小説を読むようになったのですが、そのなかでも『赤毛のアン』は別格でした。

――シナリオの組み立て方についてお聞かせください。シナリオはどのようにして考えるのでしょうか?

紺野自分の場合は、まずシナリオの雰囲気を考えます。『ATRI』はプロデューサーの島田さん(※2)といっしょに考えたもので、アンドロイドを出すというのが島田さんのアイデアで、そこに自分がやりたかった潜水艇のアイデアなどを付け加えました。もともとアトリは海に潜ったら壊れてしまうという設定を考えていて、潜ったら壊れるのにうずうずして潜ってしまい、主人公に修理してもらうというシーンを作ろうと思っていました。水に濡れたスマホを乾かして直すみたいに、アトリが大の字になって乾かされていたらおもしろいかなと思ったんです(笑)。

ANIPLEX.EXEの『ATRI』と『徒花異譚』が目指したものとは。シナリオライターの紺野アスタ氏(フロントウイング)と海原望氏(ライアーソフト)に訊く

海原私は先ほど話したようにシナリオの順番に肉付けしていくのですが、もうひとつ付け加えるなら、迷ったら書き始めるということを意識しています。ただ、『徒花異譚』に関してはそうやって書き始めたものをいちど壊して端材からまた組み立てて作りました……。私自身、なにをどうしたいのかよくわからなくなってしまい、島田さんに呼び出されました(笑)。

島田 そのときは設定が増えすぎていたので、いちど整理しましょうと提案しました。

※2:島田 紘希氏……ANIPLEX.EXEの発起人。本プロジェクトのプロデューサーを務める。

海原島田さんに「この設定が生まれた理由はなんですか?」と聞かれて、そのことをしっかり考えた結果、最初とラストのシーンが頭の中に浮かんで、そこからはうまくいきましたね。

――おふたりともそれぞれ執筆の仕方がかなり異なるようですが、お互いに聞いてみたいことはありますか?

海原真面目な相談になるのですが、紺野さんは集中できないときはどうしていますか?

紺野目標のハードルを下げるようにしています。書けない日でも最初の3行だけでも書いておけば、明日は書きやすくなると前向きに考えるようにしています。それにいちど書き始めてしまえば筆が乗ってきて、気づくと10キロバイトぐらい書けたりします。

海原ライターさんはみんな集中力があると思っていたので、その話を聞いてちょっと安心しました(笑)。

紺野(笑)。フリーランスのときは夜に近づくほど罪悪感が増してきて、どんどん集中力が上がっていきました。そのため、昼夜逆転していましたね。

海原私もです(笑)。ちなみに展開が思いつかなかったりして詰まってしまったときはどうしていますか?

紺野いくつか解決のパターンはありますが、いちばんいいのは人に相談することです。『ATRI』でも島田さんや周りの人に何度か相談しました。あとは題材の近い映画やドラマを観ると、「こういうやり方もあるんだ」と参考になります。もしくは、思い切ってプロットを全部捨ててしまうという手もありますよ。

海原やっぱりプロットは賽の河原なんですね……。あと、もうひとつ聞きたいことがあるのですが、いい意味でトラウマになった作品はありますか?

紺野たくさんありますが、学生時代に観た『新世紀エヴァンゲリオン』です。当時はファンタジー小説を書いていたのですが、『エヴァ』を観終わったあとに自分の小説を破いて捨てました。

――越えられない壁を見せられたと。同じ美少女ゲーム業界ではいかがですか?

紺野じつはあまり美少女ゲームをプレイしていなくて、フロントウイングに入社したときに『Fate/stay night』や『魔法少女まどか☆マギカ』を知らないことで怒られました(笑)。いまは、コミック版で履修しています。

海原私も紺野さんと同じような感じなので、怒られてしまいますね。怖い……。

紺野(笑)。私自身が学生時代からバトルもののストーリーをあまり読んでおらず、最近になって「こういうのもおもしろいな」と気づき始めました。海原さんはトラウマだった作品はありますか?

海原私はむしろトラウマをたくさん集めるようにしています。最近だと、映画の『八甲田山』や漫画の『岳』がトラウマになりました。『徒花異譚』は昔話が題材の作品ですが、小さいころに観た『まんが日本昔ばなし』はトラウマになる話が多かったです。『徒花異譚』でも昔話の原作のエピソードを入れようかとも思ったのですが、ニッチすぎるのと私が要素を付け加えることで蛇足になってしまいそうなので止めておきました。

――紺野さんから海原さんにお聞きしたいことはありますか?

紺野自分は作品を作るときに「ここは絶対におもしろい」というポイントができてから書くようにしています。海原さんはどのようなところにおもしろいと思うポイントがありますか?

海原いつもおもしろいポイントがわからなくて、探しながら書いています。『徒花異譚』も最初は自分でもおもしろさがわからなかったのですが、いちどすべてを壊して端材から作り直したときに、その端材の部分は確実におもしろいと感じました。

ANIPLEX.EXEの『ATRI』と『徒花異譚』が目指したものとは。シナリオライターの紺野アスタ氏(フロントウイング)と海原望氏(ライアーソフト)に訊く

――おふたりが考えるノベルゲームの強みや魅力を教えてください。

紺野没入感です。ストーリーを楽しむメディアのなかでいちばん没入感があるのがノベルゲームだと思っています。あとは体験が長いというのもありますね。『ATRI』は短編ですが、テキスト量だとライトノベル3冊分ぐらいはあります。そのボリュームだからこそ、別れのシーンなどが深くなるのだと思います。『ATRI』はメインヒロインがひとりなので、彼女を好きになってもらえるように悩みながら作りました。

海原『かまいたちの夜』が原体験なので、選択肢を選んだあとの物語展開の違いに魅力を感じています。多彩なパラレルワールドを体験することにより、伏線が回収されたりドラマが深くなったりするのはノベルゲームならではだと思っています。

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――なるほど。

紺野『ATRI』はフルプライスのゲームに比べるとボリューム面で劣りますが、体験も濃厚で演出も豪華なので、決して簡単に作ったわけではないんです。

海原本当にそうですね。

島田 ちなみに、海原さんは演出素材もご自身で手がけられているんですよ。

紺野え!?

海原はい。絵草子はキャラクターを大石さんに描いていただいているのですが、加工は自分で行っています。その節は、作業が遅れてしまい迷惑をおかけしました……。

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――時代が変化するなかでおふたりが変えずにいる部分やこだわっている部分はどこですか?

紺野昔からこだわっているのは、無理に泣かせようとしないことです。シナリオゲーといえば泣かせるものと思われがちですが、自分はそこにモヤッとしたものを感じています。個人的には、泣かせようと思っていないのに泣いてしまうような作品が好きです。泣かせない、死なせない、必要以上に派手にしないことを意識していました。

海原純文学っぽいですね。

紺野もともと日常系の作品が世間で流行する前から好きで、そのジャンルをメジャーにしたいという想いもありました。ただ、いまでは日常系は人気のジャンルですし、短編と日常系の作品は相性が悪かったこともあり、『ATRI』で初めて泣きゲーに挑戦したんです。ただ、自分が文脈を知らないこともあって泣きゲーらしくなくなってきたので、途中から自分らしい作品にしようと方向転換しました。

海原私は好きなことを好きなだけやっているだけなので、紺野さんを尊敬します!

紺野いや、海原さんはそれで濃いものを届けているわけですから、素晴らしいと思いますよ。

海原ありがとうございます。私も時代に合わせて変わらなければと意識しているのですが、『徒花異譚』に関しては大石さんのビジュアルをいかに押し出すかを考えていたので、読みやすさよりも印象に残る文章を心がけました。

『ATRI』『徒花異譚』が目指したもの

――作品の話が出たところで、ANIPLEX.EXEについて詳しくお聞かせください。シナリオの打診があったときはどう思われましたか?

紺野当時はフリーランスだったのですが、島田さんからメールが届いて「なんのイタズラだろう?」と思いました(笑)。最初は美少女ゲームを知らない人が話を聞きたいだけなのかなと思っていたのですが、島田さんが自分のゲームをすべてプレイしてくださっていて、作風もわかってくれていたので前向きに検討することにしました。その後、フロントウイングに就職することになったので、いちど断ろうと思ったのですが、紆余曲折あり、そのフロントウイングでの初仕事が本作になりました。

海原私は話を聞いたときにとても感動しました。ノベルゲームはいまの時代に向かない媒体なのに、その可能性を信じてくれることがとてもうれしかったです。私自身が少し「ノベルゲームはもう時代遅れなのかな」と自信をなくしていたので、そのことを反省しましたね(笑)。

紺野最近は“なろう”小説なども流行しているので、文章を読むこと自体は嫌いじゃないと思うんです。ただ、自分も今回の企画を聞いたときはアニメ化のための原作が必要なのかと思っていました。なので、純粋にノベルゲームの魅力を伝えるプロジェクトだと知ったときは驚きました。

――ANIPLEX.EXEに参加するにあたって、それぞれの作品でこだわった部分はどこですか?

紺野『ATRI』はヒロインがひとりなので、彼女がユーザーに好きになってもらえるように注意しました。それ以上にこだわったのが主人公の夏生です。最初はどういったキャラクターにしようか悩んでいたのですが、キャラクターデザインを担当したゆさのさんが描いた夏生とアトリのイラストの身長差がとてもエモーショナルで、そのおかげでイメージが固まり、ふたりの関係も決まりました。

――過去作の『この大空に、翼をひろげて』ではメインヒロインの羽々音小鳥が車椅子に乗っていますが、本作では主人公が義足ですね。

紺野当たり前にあったものを失うことで気付くこと、取り戻すものもあると思っていて。『この大空に、翼をひろげて』と『ATRI』では、そういったものを描こうとプロットを組みました。

ANIPLEX.EXEの『ATRI』と『徒花異譚』が目指したものとは。シナリオライターの紺野アスタ氏(フロントウイング)と海原望氏(ライアーソフト)に訊く

海原『徒花異譚』は、黒い衣装をまとった男の子が、真っ白な女の子に物語を読み聞かせをしてあげるような内容を考えていました。その原型は紆余曲折あってなくなってしまいましたが、黒筆と白姫の設定自体はそのときからのものです。いちばん大事にしたのは相棒感で、迷いがない黒筆とどんなことでも自分のことのように考えてしまう白姫のコンビの対比は大事にしました。

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――ほかのキャラクターはいかがでしょうか?

海原じつは、ほかのキャラクターは設定を打ち壊す前に生まれたものをそのまま流用しています。最初の設定は、現代にいそうな人物たちがおとぎ話の化身として登場する話でした。

――日本には多彩なおとぎ話がありますが、『花さかじいさん』や『浦島太郎』をチョイスした理由を教えてください。

海原マイナーなものも考えたのですが、やはり誰もが知っているおとぎ話の結末を変えたほうがおもしろいかなと思い、メジャーなものを選びました。私はよく、既存の物語を自分だったらどのように変えるのかを考えるのが好きなのですが、『花さかじいさん』や『浦島太郎』は考えがいがありました。あとは、『花さかじいさん』は犬が何度も死ぬ話であると同時に、犬が何度も蘇る話でもあります。そういった、解釈次第で見え方が変わる作品に魅力を感じました。

――『ATRI』のほうはいかがでしょうか?

紺野『ATRI』は青春ものとして成り立つ必要最小限のキャラクターだけで構成しています。じつは凜々花は入れるかどうかは悩みどころだったのですが、「この世界に子どもは必要だろう」と思い、最終的に登場させることになりました。

ANIPLEX.EXEの『ATRI』と『徒花異譚』が目指したものとは。シナリオライターの紺野アスタ氏(フロントウイング)と海原望氏(ライアーソフト)に訊く

――人気キャラクターなのに意外ですね。

紺野あくまで企画の最初のほうの話で、男の子にするという案もありました。ギャルゲーなのですぐに女の子になりましたけどね(笑)。

――主人公の悪友である野島竜司も魅力的です。

紺野ギャルゲーにおいて、男キャラクターはとても大事だと考えています。自分は『サクラ大戦』シリーズに出てくる加山が大好きで、彼に影響を受けている部分もありますね。竜司は最初から主人公と仲がいいわけではないので、ユーザーさんから受け入れてもらえるかわからなかったのですが、しっかり友情が育まれていく過程を描こうと気をつけました。結果として、受け入れてもらえたようで安心しています。

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――各キャラクターの声優さんの演技はいかがでしたか?

紺野素晴らしいですね。収録に立ち会ったときはわからなかったのですが、実際にゲームをプレイしてみるとこれ以上ないぐらいにハマッていることがわかりました。とくにアトリの赤尾ひかるさんはバッチリでしたね。作品全体にシリアスなもの悲しさがあるのですが、アトリのあっけらかんとした声があるおかげでこんなにも世界は明るくなるのかと驚きました。

海原『徒花異譚』のオーディションは私も参加させていただきました。白姫役がなかなか決まらなかったのですが、南早紀さんの感情をあまり出さない演技が白姫のイメージと一致したので、南さんにお願いすることになりました。

 玉井勇輝さんが演じてくださった、花さかじいさんの“開花(笑)”するシーンの演技も印象的でした。最初は哄笑だったので「笑いながら泣いてください」とオーダーしたら、そのとおりに演じてくださって、本当に感動して鳥肌がたちました。サブキャラクターも乙姫の底知れない感じを桑原由気さんが、うりこ姫のこましゃくれたイメージを高森奈津美さんが見事に演じてくださいました。また、桃太郎は正義感の強いまっすぐなキャラクターで、こういったキャラクターこそ演じるのがいちばん難しいと思っています。そんな桃太郎を石谷春貴さんは見事に演じてくださいました。

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――すでに2作品をプレイしてクリアーした人も多いと思うのですが、改めて注目してもらいたい部分などはありますか?

海原いちばん見ていただきたいのは大石さんによるビジュアルです。私自身、どのようなシナリオを描けば、よりビジュアルが魅力的になるのかを考えながら制作しました。とくにクライマックスで白姫の衣装が変わるシーンは大石さん渾身の出来なので、注目していただきたいです。また、花さかじいさんは春、浦島太郎は夏と四季にも対応しているので、色彩の豊かさにも注目してほしいですね。エンディングが3種類あるので、気付かなった人はぜひ最後までプレイしてもらいたいです。

紺野どこを見てほしいというよりは、すべてを見てほしいです。会社でひとつの作品を作るときは、その作品独自の“売り”の部分を際立たせると思うのですが、『ATRI』は各パートを担当している人がそれぞれ全力投球したため、すべてが“売り”と言っていい出来になっています。あと、初めて作詞に挑戦させてもらったので、オープニングとエンディングにも注目してもらえるとうれしいです。

――今後、おふたりがANIPLEX.EXEに期待することをお聞かせください。

海原もっとたくさんの人にノベルゲームを知ってほしいと思っています。今回の2作品だけで終わりではなく、さまざまな作品を見ることができたらうれしいです。

紺野自分たちの世代が伝えてこなかったこともあり、ノベルゲームのノウハウがロストテクノロジーになりつつあります。ANIPLEX.EXEをきっかけにして、文化としてしっかり根付いていってほしいです。

『ATRI』『徒花異譚』のオリジナルサウンドトラックが10月28日に発売

 『ATRI』と『徒花異譚』のオリジナルサウンドトラックが10月28日に発売される。

 いずれも各作品を彩る劇伴のほか、主題歌のフルverを収録。初回生産限定盤には、『ATRI』『徒花異譚』それぞれのキャラクターデザイン・原画を務めるゆさの氏・大石竜子氏による描き下ろしBOXや本編ゲームディスクなどが特典として付属する。

【価格】

  • ATRI オリジナルサウンドトラック』:通常盤 3000円[税抜]/初回生産限定盤 5000円[税抜]
  • 徒花異譚 オリジナルサウンドトラック』:通常盤 2500円[税抜]/初回生産限定盤 4500円[税抜]
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