今回お届けするのは、パブリッシングをコーラス・ワールドワイドが担当し、開発をトライコアが手掛けるプレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC用ソフト『夕鬼 -Yuoni-』。和と洋の要素を詰め込んだ、新機軸のホラーアドベンチャーだ。記事担当は、ビビリなのにホラーゲームが大好きという常駐戦場常広。記事の後半では開発者へのインタビューも掲載しているのでお見逃しなく。

恐ろしい怪異から逃げ切れるか……

01 のコピー

 不気味な世界からの脱出を目指す一人称視点のホラーゲーム。本作は、化け物から身を隠しつつ、必要なアイテムを見つけ出す“かくれんぼ”のような前半パートから、“鬼ごっこ”のような後半パートへとゲーム性が変化するのが特徴。すぐそばで怪異が待ち構える恐怖と、背後から追われ続ける恐怖が、プレイヤーを徐々に追い詰める……。

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少女が訪れることになる夕暮れの世界。学校、病院、日本家屋がいびつにつながった不気味な場所となっており、踏み込んだ者を迷わせる。

【異世界を照らす夕焼けは
美しくもどこか不気味さが漂う……】

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ステージには、プレイヤーの脱出を阻む化け物が徘徊。小学生の少女には倒すすべはなく、化け物に見つかったら走って振り切るか、隠れてやり過ごすしかない。
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夕焼けの怪談に囚われた少女

 シナリオパートでは、ツンと呼ばれる幽霊に取りつかれ、夕焼けの世界へと連れ去られてしまう少女の物語が描かれる。恐ろしい世界から助かる手段は、とある人形を拾って持ち帰ること。少女は命からがら逃げまわりながら、心に殻を作ってしまった原因である“大切なもの”を見つけていく。

【シナリオの結末は
プレイヤーの選択で分岐する】

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物語の結末は複数あり、プレイヤーの選択によって変化。さらに“裏”シナリオも用意されている。

夕焼けが照らす世界から脱出せよ!

 ふたつのゲーム性からなるアクションパート。前半はステージに隠された人形を見つけ出していくのだが、徘徊する怪物たちに見つからないように隠れつつ、慎重に進まなければならない。人形を見つけ出したら、後半パートへ。記憶を頼りに来た道を戻り、脱出地点へとたどり着ければクリアーだ。

【ロッカーや物陰に身を隠そう】

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化け物に見つかって追われている際は、一瞬の隙をついてロッカーやベッドに隠れ、注意が逸れるのを待とう。

【足もとまで気にかけて注意深く進むべし】

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ステージには、踏むと化け物に位置がバレてしまうガラス片が仕掛けられていたり、先へ進むための鍵がどこかに隠されていたりする。

【化け物から隠れながら人形を見つけ出せ】

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前半パートでは、多くの化
け物が潜んでおり、ときには息を殺しながら、その横を通り過ぎなければならない。

【後ろは振り向くべからず……】

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後半パートで後ろを振り向くと、おぞましい化け物が……。その恐怖に、スティックを前に傾ける手は思わず汗で濡れるだろう。

不気味な場所を徘徊するのは……

 ステージを徘徊する化け物たちは、それぞれ特性が異なる。不気味な姿の怪物“あれ” は、プレイヤーが視界に入ると襲いかかり、2度目の攻撃を受けてしまうとゲームオーバー。一方、影人間は音に、ツンは音と視界のどちらにも反応してプレイヤーを足止めし、“あれ”を呼び寄せる。いずれの化け物も非常に厄介だ。

【化け物の特徴にあわせて危機を回避しよう】

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影人間の前では、屈んで歩いたり、ツンの声が聞こえたら、その位置を確認して、いない隙に進むといった、化け物の特徴に合わせた行動が重要。

【直前からリスタート可能】

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初見だと、化け物にやられて何度もゲームオーバーになってしまうが、直前からのやり直しができるのでご安心を。

夕鬼』の前日譚を描いた『夕鬼 零 -Yuoni:ゼロ-』

 『夕鬼』と世界観を共有する『夕鬼零 -Yuoni: ゼロ-』もPCやNintendo Switch向けに発売中。本作はスケッチブックに描かれたふたりの小学生の恐怖体験を読み進めていくノベルアドベンチャー。両作をプレイすることで、ツンの謎や世界観により触れることができる。また、VRやジャイロ操作ならではのひと味違ったホラー演出も満載だ。

■子どもたちに降りかかる都市伝説の謎とは

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【特別企画】クリエイターズインタビューで開発秘話をお届け

 和と洋の要素を詰め込んだ、新機軸のホラーゲームとなっている『夕鬼』だが、開発を手掛けるのは、輝かしい開発歴を誇る精鋭集団のトライコア。そこで、同社の代表である由比建氏や、販売を担当するコーラス・ワールドワイドの大柳竜児氏、二宮文月氏に制作秘話や演出におけるこだわりなどを伺った。

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由比 建氏(ゆいたける・写真左)

トライコア 代表取締役

大柳竜児氏(おおやなぎりゅうじ・写真中央)

コーラス・ワールドワイド カントリーマネージャー

二宮文月氏(にのみやふづき・写真右)

コーラス・ワールドワイド 最高執行責任者

何ごとにも挑戦していく開発会社としてオリジナルタイトルを

――まずはトライコアさんのことを教えてください。公式サイトによると、 “プロの傭兵、業界人講師、挑戦する開発者が集う、福岡のデジタルコンテンツ制作会社”とのことですが、改めてどのような人材が集結し、どのようなことに取り組んでいるのですか?

由比トライコアは僕も含めてコンシューマーの人間がコアメンバーとなり、自社でゲームを作りたいという想いで設立した会社になります。プロフェッショナルの傭兵として他社のプロジェクトを手伝い、そこで貯めた資金で自社開発をおこなうというのが業務のメインになります。

 また、私がずっとお世話になっているゲーム業界への恩返しがしたいとつねづね思っており、実際にいろいろな会社の新人研修や、教育案件の講演などを行うことで、“ゲーム業界全体が住みやすくなる”ような取り組みも行っています。

 最後の“挑戦する開発者”というのは、自社で何ごとにも挑戦していくという意気込みを表しています。

――もともと皆さんはいっしょの会社に所属されていたのですか?

由比僕が以前サイバーコネクトツーに所属しており、メンバーは、フロムソフトウェアやトーセといった会社から集まったので、けっこうバラバラですね。

――ちなみに、どういった経緯でお知り合いになられたのですか?

由比前職のときに僕があるプロジェクトを立ち上げて、そのときに、福岡出身の方や福岡で働いていた経験のあるメンバーを呼んだことがありました。そのプロジェクトを通じて、このチームでゲームが作れるのではないかと思い、独立して当時のメンバーにお声がけをしたのが経緯になります。

――そうすると志を共有する人たちが集まったのですね。

由比自社でゲームが作りたいと僕を信じてついてきてくれて、仲よく作っている感じです。業界人の講師の部分は僕が言っているだけのところもあるのですが、いずれはメンバー全員には、そういった気持ちを持ってほしいと思いながら進んでいます。

――“自社でゲームが作りたい”との想いから、第1弾の自社タイトルとして『夕鬼』をリリースするとのことですが、どのようにプロジェクトが始動したのですか?

由比いきなり完全オリジナルの作品を出しても知名度は上がらないだろうということで、社内で会議をした結果、まずは、作りたいゲームの世界観を共有する作品をローコストで作ることになりました。そして、ノベルゲームの『夕鬼 零 -Yuoni:ゼロ-』(以下、『夕鬼 零』)を作り、受けがよければアクションゲームを作ろうといった形でプロジェクトが始動しました。

――トライコアを知ってもらう名刺代わりの一作という意味合いが『夕鬼』プロジェクトだとして、その取り掛かりとして『夕鬼 零』があったのですね。

由比そうです。『夕鬼 零』では、なるべく知名度を得るために、VRといった仕掛けを入れたり、“平成最後に出る、平成初期が舞台のゲーム”といったフックを設けたり と、いろいろな仕組みを盛り込みました。

――比較的コアなジャンルであるホラーを選んだ理由を教えてください。

由比僕らはホラーをコアなジャンルではないと思っていて、むしろインディーゲームを出すときに間口が広いジャンルだと考えています。“とりあえずホラーなら買ってみる”という層がけっこういらっしゃるかと思いますし、その層にアピールしやすいようにホラーを選びました。もちろん僕がホラー好きというのもあるのですが(笑)。

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――確かに。最近ではインディーゲームのホラータイトルが続々と出てきていますね。

由比あとは、ホラータイトルだと実況配信をしていただける機会が多いので、配信受けを狙っているというところもあります。『夕鬼』を露出させる機会を限りなく増やしたかったのです。

――由比さんはホラーゲームがお好きとのことですが、どんなタイトルがお好きなのですか?

由比いちばん好きなのは『SILEN』で、あの独特な世界観がお気に入りです。あとは『サイレントヒル』や『零』シリーズも好きですし、プレイステーション時代のホラーゲームをよくプレイしていました。

日本のタイトルにも目を向けていかないと考えさせられるきっかけになった作品

――『夕鬼』は開発をトライコアが手掛け、販売をコーラス・ワールドワイドさんが担当していますが、その経緯を教えてください。

由比僕らはもとも開発者集団なので、パブリッシングに関しては、ほぼ知識がない状態でした。とはいえ、パブリッシャーを探しても、まったく知名度がないため見つからず、「だったら自分たちでやるか」ということで、『夕鬼 零』を自社でリリースしました。その流れで、台北ゲームショウに出展したところ、ありがたいことにいろいろなパブリッシャーさんからお声がけをいただき、その中でコーラス・ワールドワイドさんともお話ししたのですが、いちばん丁寧にお話を聞いてくださったという印象がありました。

――コーラス・ワールドワイドさんに決めたのは、丁寧にやりとりしてくれたのが決め手だったのですか?

由比そうです。本当に親切にいろいろお話してくださりまして。そこで、コーラスさんがいちばん信用できる方々だと思い、ぜひいっしょにやりたいなと思いました。

――コーラス・ワールドワイドさんとしては、『夕鬼』のどこに惹かれたのですか?

大柳弊社のラインアップには、ホラータイトルや、3Dの一人称でプレイするゲーム、さらには、日本発のタイトルがほとんどなかったんです。国産タイトルは、喉から手が出るほど欲しかったですし、ホラーとFPSの組み合わせも魅力的に映って、『夕鬼』の本編を見たときに、これは運命的な出会いだと思いました。

――いまでのコーラス・ワールドワイドさんのラインアップからすると、毛色が違った感じのタイトルですね。

大柳そうですね。我々は日本に住んでいる日本人ですから、「もっともっと日本のタイトルにも目を向けていかないといけない」と考えさせられるきっかけにもなったタイトルです。そこに関しては、『夕鬼』との出会いは私にとっても、とても大事なものになりました。

――二宮さんとしては『夕鬼』のどこに魅力を感じましたか?

二宮弊社のラインアップは2Dやテキストの多いゲームが最近の主流で、3Dのリアルなゲームもずっと欲しいと思っていました。あとは、日本初のタイトルでできるだけ海外でも売れるものをと考えていたときに、日本のホラー作品は海外ではかなり刺さります。『夕鬼』は、日本の独特な夕焼け、学校、和室、病院という日本ホラーのコテコテな部分の集合体のようなゲームになっているので、これは見た目だけでも海外のホラーゲームユーザーには刺さるのではないかということで、すごくいいタイトルだと思いました。

『夕鬼』開発者インタビュー。和と洋の要素を詰め込んだ、新機軸のホラーFPSはどのようにして生まれたのか

大柳あとは、次世代のハードが出たタイミングだったので、どうにかして、プレイステーション5、Xbox Series X|Sでゲームを出したいなと思っていたんです。そのときに、たまたま由比さんとお話しする機会があり、「4K、60FPSでできますよ!」とのことだったので、次世代機に進出するきっかけになるだろうと、会社的にも強い動機がありました。

――そうすると、プレイステーション5やXbox Series X|Sでリリースするきっかけは、コーラス・ワールドワイドさんがやりたいからというのがいちばん大きな動機になるのですか?

由比我々としてはグラフィックを売りにいるということもあり、試しにやってみたら実際に4Kで動かすことができたので、「やってみるか!」と引っ張られた感じです。かなり苦労はしているのですが……。

一同(笑)。

大柳やはり、4K、60FPSでやりたいじゃないですか! 『夕鬼』は次世代機の4K、60FPSに対応していて、デジタル版が2420円[税込]で設定しているのですが、この価格帯でこの機能をサポートしつつ、なおかつ作り込まれているゲームって、たぶんないと思うんです。 “日本のインディータイトルはこれくらい底力がある”とアピールする意味でも、こだわりたかった部分です。

由比我々もコンシューマーの精鋭集団という肩書きがあるので、技術力をしっかり前に出していきたいという思いがありましたし、非常にいいチャレンジになりました。

二宮エンジン自体はUnityで作っているのですが、それが技術的にすごいです。そこのクラスになるとふつうはUnreal Engineでやるのですが、『夕鬼』ではUnityでがんばって、ハイクオリティーのグラフィックを出していただいていています。それをできる会社さんは少ないと思います。

由比Unityで作られたタイトルとしては、かなりグラフィックが高いほうであると自負はしています。

『夕鬼』開発者インタビュー。和と洋の要素を詰め込んだ、新機軸のホラーFPSはどのようにして生まれたのか

――トライコアの技術力があったからこそ、次世代機に対応できたということですね。先ほどPS5とXbox Series X|Sで苦労されているとおっしゃっていましたが、どの部分がたいへんでしたか?

由比純粋に同じクオリティーのきれいなグラフィックでありながらも、処理落ちさせないところのチューニングの部分が難しかったです。どうしてもパソコンと同じにはならないので、「このハードではどのような処理をするか」といった、細かい気配りが大変でした。

和ホラーと洋ホラーの融合。自分たちの好きなもの詰め込んだ、ほかにはないホラー体験

――本作は肝試しをベースに、かくれんぼのような前半パート、“鬼ごっこ”のような後半パートへと変化するゲーム性が特徴となっていますが、ゲーム性について詳しく教えてください。

由比最初は息を潜めて隠れながら進んでいくという、和ホラーの基本的な部分を守って進んでいくゲームとして考えていました。ですが、それだけだと物足りなくて、なおかつ、僕らは洋ホラーも好きだったので、だったら行きと帰りでパートを分ければいいのではないかということで、どんどんシステムを構築していきました。

――和と洋のホラーを取り入れた結果、いまの形になったのですね。

由比そこは海外の方のゲームプレイも意識して、どちらにも受けるようにうまく融合させていました。

『夕鬼』開発者インタビュー。和と洋の要素を詰め込んだ、新機軸のホラーFPSはどのようにして生まれたのか
『夕鬼』開発者インタビュー。和と洋の要素を詰め込んだ、新機軸のホラーFPSはどのようにして生まれたのか

――演出面ではどのようなことに気を付けましたか?

由比弊社の独特な世界観をどこまでホラーという形で出していくかということです。本作には、ツン、影人間、目玉の化け物という3種類の敵が出てくるのですが、これらが同じデザインになってはいけないということで、最後の最後まで調整を重ねていまのものになっています。

――なるほど。化け物のデザインにはかなり注力されているのですね。夕焼けに照らされた学校や、不気味な日本家屋などが入り混じる独特な世界観となっていますが、どのようなこだわりがありますか?

由比本作では、“夕方”がひとつにテーマになっていますが、これは「夜は怖くて当たり前だけど、夕方も怖くない?」というところからスタートしたものです。不気味な夕方はなんだろうとブレインストーミングしたときに、みんながイメージする夕方が少しずつ違ったんです。だったら、それぞれがイメージする夕方を混ぜることで、いろいろな表現ができるのではないかと思い、シチュエ―ションには僕らのこだわりを詰め込んでいます。もちろん、基本方針はありますが、日本家屋でもステージ2、3では見た目が違っていたりと、細かい変化も入れています。

――夕方に対する考えかたの違いというとどういったものでしょうか。

由比すごく日が差していて黄色くなっているときが怖いという人もいれば、日が落ち始めて、薄暗くなっている夕方が怖いという人もいて、みんなのイメージする夕方に差異がありました。

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――そういった細かな差異や独特な世界観を、トライコアの技術力で再現していると言えそうですね。

由比いろいろ紆余曲折ありましたが、それぞれ違った夕方を表現できたと思っています。

――時代設定は1990年代となっていますが、“夕鬼”という設定やキャラクターとマッチさせたかったからなのでしょうか?

由比我々が1990年代に子ども時代を過ごしており、再現しやすかったのと、自分たちと同じ年代に刺さるものを作らないと距離を測れないというところから、こういった時代設定をしています。

――たしかにキャラクターは小学5年生ですもんね。

由比そうです。ちょうど我々世代で、その人たちの子ども時代を再現しようということで設定しています。それにプラスして後づけになるのですが、"平成最後に出る、平成初期の物語"といったキャッチコピーを入れています。

――なるほど。『夕鬼 零』ではノベルゲームということでしっかりとしたシナリオがありましたが、『夕鬼』でもかなりこだわって作っていらっしゃいますか?

由比弊社の強みでもあるのですが、賞の受賞歴のあるライターが在籍しているので、お話の部分にかなり力を入れています。『夕鬼 零』がノベルということもあって、『夕鬼』のノベルパートも、テキスト量が多くなっています。当初、海外ではテキストが並んで出るのは受けが悪いといった指摘もあったのですが、シナリオをしっかりと出していきたいというこだわりがあってのことです。

――シナリオのこだわりポイントを教えていただきたいです。

由比プレイした人の中でそれぞれの考えかたがあり、自分が持った印象が正解であって、答えはありません。“プレイヤーの選択によって、どのような結末を見ることになるのか”というところをかなり意識しています。本作のシナリオには裏と表がありまして、1周目と2周目でゲームプレイも少し違うのですが、シナリオの大筋は変わらないものの印象がまったく異なるので、かなり新鮮な体験ができる作りになっています。

――『夕鬼 零』と『夕鬼』の両作をプレイするとわかる繋がりもありますか?

由比前作で重要人物だったナミが少し出てくるので、彼女がその後どうなったかの考察の余地が生まれますし、ナミと近しい関係の登場人物も出てきて、それで本編の考察も深まると思います。あとは、夕方の世界のしくみに関しては『零』のほうが文章量が多いぶん、より詳しく描写されているので、両作をプレイしていたほうが「こういう仕組みになっているんだと」とシナリオをより理解できるはずです。

『夕鬼』開発者インタビュー。和と洋の要素を詰め込んだ、新機軸のホラーFPSはどのようにして生まれたのか

絶妙な難易度へと落とし込むのに苦労した

――開発期間中にコーラス・ワールドワイドから、ゲームを見てアドバイスしたりしましたか?

二宮『夕鬼』は弊社のタイトルの中でもいちばん口を出させていただいたタイトルかもしれません。

 とくに難易度のバランス調整がとてもたいへんでした。トライコアさんでは、ずっと開発されているから、難しくても簡単にできるようになっていたようで、いざ我々がプレイすると、びっくりするくらい難しかったです(笑)。

 とにかく難易度を上げて、難易度にチャレンジさせるゲームなのか、それともシナリオを読んでもらえるように、ちょっとがんばれば最後まで遊べるくらいのバランスにするのかのふたつの視点があって、トライコアさんのほうでは、最後までシナリオを読めるようにしたいというのもあり、おそらく由比さんからすると、「ここを変えたら簡単すぎるだろう」と思いながら直してくださっていたと思います。

 それで、発売前に一般の方にデモをプレイしていただく機会があったときに、みなさんがクリアーできるかなと不安になりながらも実況を見ていたのですが、30分から1時間くらいかければクリアーできていたので、ちょうど狙っていた落としどころになっていて、すごく嬉しかったです。

――ちなみに、どの部分が難しくなりすぎていましたか?

二宮ゲームがスタートして、影人間に見つかってしまった瞬間に、目玉の化け物が出てきて殴られて終了みたいな(笑)。

由比当初は見つかったらアウトだったんです(笑)。

二宮すこし歩いて見つかった瞬間に殴られてゲームオーバーになり、それが3回くらい続くと心が折れて一回ゲームを終了するんですよ(笑)。テキストを読みたいのにぜんぜん読むことができず、下手したら後半の鬼ごっこのパートに行くのも、すごく苦労しないといけなかったので、見つかってからやられるまでの過程は調整しました。敵の攻撃を一回受けても、逃げる時間があるといった、細かいところの調整を加えて、絶妙なバランスへと持っていきました。

大柳追いかけられても逃げられるようになったのがいちばん大きいですね。

由比スタッフ的には「こんな奴にみつかったら、一発で死ぬよね」くらいの勢いで開発していたので(笑)。僕自身はプロデュース的な立場で、あまり難易度に口を出さずにいたのですが、社内の難易度調整スタッフとしては、どうしても難しくしたいと考えていて、それで当初の高難易度なゲーム性となっていました。そこから、ミーティングを重ねて、絶対に譲りたくない部分と譲ってもいい部分や、どういった目的のゲームなのかを話し合って、いまの形へと落とし込んでいった感じです。

――譲りたくなかった部分はどのようなところがありましたか?

由比変にゲームっぽさが出てしまうことはどうしても避けたかったです。このタイミングで化け物に見られたら絶対に襲われる場面なのに、変に猶予を設けてやさしくしてしまうといったことがないよう、化け物どうしのネットワークがあって、こういった場面では化け物たちはこう反応するんだと、綿密を話し合いました。

――難易度の話で言うと、かくれんぼや鬼ごっこの要素があると、道に迷ってしまい先に進めないといったことが起こるかと思いますが、その辺も何か工夫されているのですか?

由比そこも相当苦労した部分でして……。もともとの難易度が高い理由として、マッピングの難しさがひとつあったので、一本道を多くしたり、誘導するためのオブジェクトを大量に配置したりとマップ構成はかなり変えました。あからさまではないですが、自然に正解のルートへと吸い寄せられていくように、がんばって調整しています。

二宮ですが、特徴的なオブジェクトなどを目印にして、ある程度は道を覚えないと、さすがに帰れないくらいにはなっています。しかも、病院を抜けた先がいきなり和室になっていたりと、パラレルワールド的なつながりかたをしているので、そういったところも覚える必要があったりします。

由比もともと我々が想定していたのは、行きではマッピングをして、帰りは覚えた道を頼りにゴールを目指すという遊びかただったので、そこは意識しつつも、意図的に迷ってほしいポイントは何個か用意しています。

『夕鬼』開発者インタビュー。和と洋の要素を詰め込んだ、新機軸のホラーFPSはどのようにして生まれたのか

トライコアの今後の展開とは

――トライコアで予定している展開や、今後は『夕鬼』でこういったことをやってみたいといった予定などがありましたら教えてください。

由比今回『夕鬼』を作るにあたって走りすぎたので、小さいタイトルを探り探り出していく形に変えたいと思っています。『夕鬼』については、Switch版を出してほしいとのお声をたくさんいただいているので、移植を考えています。あとは、どうしてもVRで遊びたいというお話であれば、VR対応を検討しようと思っています。

――やはり、Switch版を望む声が多いのですね。

二宮こちらとしてもSwitch版を出したいとは思いますが、単純にスペックの問題があります。開発していただく側としては、現状のスペックで、できるだけ画質を落とさずに移植していただくのは難しいお願いになってしまいますから……。

――2017年に『夕鬼』のプロジェクトがスタートして約5年となりますが、この5年間はどんな日々でしたか?

由比毎日『夕鬼』を作ることだけに心血を注いだ5年間でした。5つくらいの業務を同時進行しながらだったので、その中でも『夕鬼』にはかなり捧げてきました。

 あとは、開発期間中はずっと、「ホラーとは何だろう?」という気持ちがあったのですが、最後まで答えは出なかったです。とはいえ、我々なりのホラーは作れたと自負しています。ホラーの中に切ない要素があったり、僕らが勝手に呼んでいる“ジュブナイルホラー”としての雰囲気を、作品に凝縮できたと思っています。

――ホラーとは何かを見つけるためにも、『夕鬼』の続編や、新たなホラータイトルを考えていますか?

由比今後はホラーから少し離れたいと思ってはいます。あくまで知名度を得るためにホラーを選んだというところもあるので……。新しい『夕鬼』については、続編を多く望まれれば考えようかなというつもりではあります。

――ちなみに、由比さんの中でつぎにチャレンジしてみたいと思うジャンルはありますか?

由比僕としてはストーリー性の強いアクションゲームを作りたいと思っていたりしますが、いまのところノープランです。ですが、我々はたくさんのゲームをプレイするゲーマーが集まっているので、アイデア自体はたくさん持っています。

――最後に『夕鬼』を遊ぼうと思っている方や、このインタビューを読んで『夕鬼』が気になったという方に向けてメッセージをお願いします。

由比『夕鬼 零』から引き続き、トライコアなりの世界観構築に力を入れていますし、シナリオも表と裏で印象がまったく違ったものになっているので、ぜひひと通りプレイしていただきたいです。ゲームの最後では、プレイヤーは選択を迫られて、シナリオ構成的にもひとつの答えを出していないので、どのように考察されるかにも期待しています。ぜひ最後までプレイしてみてください!

夕鬼 -Yuoni-

  • メーカー:コーラス・ワールドワイド
  • 開発元:トライコア
  • プラットフォーム:プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC
  • 発売日:8月19日発売
  • 価格:パッケージ版は各3278円[税込]、ダウンロード版は各2420円[税込]
  • ジャンル:アドベンチャー
  • CERO:12歳以上対象、Xbox Series X|S版とXbox One版はIARC16歳以上対象
  • 備考:Xbox Series X|S版、Xbox One版、PC版はダウンロード専売
『夕鬼 -Yuoni-』PS Storeサイト 『夕鬼 -Yuoni-』Microsoft Storeサイト 『夕鬼 -Yuoni-』Steamサイト
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