古今東西の気になるインディーゲームを紹介。今回は新進気鋭のクリエイター、生高橋氏が放つ2Dパズルアクションをお届け。担当は、頭を使うゲームが大好きらしい古屋陽一

漏電した小さなロボットが冒険していく2Dパズルアクション

 主人公は、漏電した小さなロボット“Elec(エレキ)”。一見頼りなげなElecが、闇に包まれた世界で、光を取り戻すべくとある施設を冒険していく2Dパズルアクションが本作『ElecHead(エレキヘッド)』だ。

 Elecは、ステージ上の壁や床などに触れることで、電気を通してさまざまなギミックを起動させられるのが特徴。頭は着脱式になっており、放り投げれば離れたところにも電気を流せる。ただし、10秒以内に頭を取り戻さないと爆発してしまうのだが……。そんなElecの特徴をしっかりと把握して、いかに先に進んでいくかが本作の醍醐味となる。

 同じギミックでもステージによってまったく解きかたが違うということもあり、まさに“頭”の使いどころとなっているのだ。シンプルな操作であるがゆえに、パズルを解いたときの爽快感は格別。ゲーム内にはテキストのたぐいは一切なく、不思議な感覚を味わえる一作だ。

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2〜3時間でクリアーできる本作。ステージに散らばったチップを集めるというやり込み要素もある。
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ステージは全部で6つ。Elecの先に待ち受けているものは……。
『Elechead』Steamページ 『Elechead』Itch.ioページ

『ElecHead』開発者・生高橋氏を直撃:プレイヤーに楽しんでもらうためにレベルデザインを極める

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生高橋氏

インディーゲームクリエイター。専門学校生時代に数々のゲーム賞を受賞し、注目を集める。2019年にNintendo Switch、PC 向けソフト『BATTLLOON - バトルーン』をリリース。

「好きなことで生きていきたい」との思いからゲーム開発の道に

――生髙橋さんは、2019年にリリースされた『BATTLLOON ‐バトルーン』でデビューしたわけですが、まずは『BATTLLOON ‐バトルーン』以降どうしていたのかを教えていただけますか?

生高橋はい。『BATTLLOON ‐バトルーン』を作ったときはまだ学生だったのですが、すぐに卒業して、僕以外は全員会社に入りました。僕は会社に入らずに、「どんなゲームを作ろうかなと考えていたんですね。そのときに頭に浮かんだのが、『ElecHead』でした。『ElecHead』はもともと学生時代に作っていたタイトルで、「リリースしたい」と思っていたもののできていなかったので、これをブラッシュアップして出そうかなというところで、あらためて開発をスタートしました。

――学校を卒業した後に、『ElecHead』のプロジェクトが実質的にスタートしたのですね。ところで、卒業した後にゲーム会社に就職するという選択肢はなかったのですか?

生高橋そうですね……。まあもともと、インディーゲームクリエイターというのが夢でした。学校入る前は、「ふつうに会社に入ろうかな」と思っていたのですが、途中でそういう人がいるんだと知って、「オレはこれになりたいな」となったんです。途中で学校側にも「僕は就職しないです」と伝えていました。

――そうなのですね。きっかけになったクリエイターさんがいたりするのですか?

生高橋それはもう、もっぴんさんの『Downwell』です。これが決め手ですね。

――ああ。そもそもなぜゲームを作ろうと思ったのですか?

生高橋高校を卒業してどうしよう……と将来を考えたときに、「好きなことで生きていきたい」と思ったんです。そんなときに自分の特技は何かな……と考えたときに、思い浮かんだのがゲームでした。ほかのことはぜんぜん継続できなかったのに、ゲームだけはけっこう遊び続けられたんですよ。だったらいままでの知識が活かせるのではないか……ということで、ゲームの専門学校に行くことにしました。そういう甘い感じではあります(笑)。

――それで専門学校に入って、作ったうちの1本が『ElecHead』だったということですね。『ElecHead』はどのような経緯で作ることになったのですか?

生高橋そもそもは、日本ゲーム大賞 アマチュア部門の応募用に制作したものです。2年生からコンテストに参加できるようになりまして。通常はチームを組んで制作するのですが、僕は将来個人で生きていきたいと思っていたので、「個人でやらせてください」と先生にお願いしてひとりで作ったんです。

――なかなか尖っている(笑)。

生高橋ご存じかと思いますが、日本ゲーム大賞 アマチュア部門には毎年テーマがありまして、その年は“流れる”というものでした。そのころ『ホットライン マイアミ』というゲームを遊んでいて、なぜかその流血表現がめっちゃくちゃ好きだったので(笑)、頭を吹っ飛ばすゲームを作ろうと思ったんです。当初はインパクト重視で……ということで考えていたんですね。

 で、実際に作ったのですが、さすがに「このコンテンツではきびしいのでは」とのことになりまして、泣く泣くあきらめることになったのですが、せめて頭だけは飛ばしたいという謎の気持ちが残ったんです(笑)。

――尖っていますね(笑)。

生高橋インパクトがあるので(笑)。そのときに「ロボットだったら大丈夫なのでは?」と思いついて、ロボット→流れる→電気で、『ElecHead』になりました。そうやってつながっていった感じです。

――とはいえ、いまの『ElecHead』のゲーム性は、頭を飛ばして……というところとは少し違う方向になっていますね。

生高橋そうですね。作っていくうちに、このゲームのおもしろいところはたぶん、パズル部分なのかなと気づいていきまして、そこにフォーカスを絞った感じです。

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――なるほど。で、日本ゲーム大賞 アマチュア部門に応募して結果はどうだったのですか?

生高橋結果は優秀賞をいただきました。ただ、自信はぜんぜんなかったんです。じつはコンテストに出す前に、プロの方が学校にいらっしゃってアドバイスをいただく機会があったのですが、とてもきびしいコメントをいただいたんですよ。「キミ、めちゃくちゃ性格悪いんじゃないの? 意地悪すぎない?」みたいなことも言われて……。それが、当時DeNAに所属していた馬場さんで(馬場保仁氏。現・ファリアー代表取締役)、アマチュア部門の審査員でもあったので、「これはダメだな」と(苦笑)。

――性格が悪いって(笑)。

生高橋当時ステージデザインが本当に意地悪だったんですよ。あのころはとにかくゲームオーバーにさせることしか考えていなくて……。わざと罠みたいなものを仕掛けまくっていました。馬場さんには「ストレスかけてもいいけど、そもそもはプレイヤーに楽しんでもらいたいんじゃないのかな?」と指摘されて。その後、馬場さんが学校で指導されることにもなり、そこから必死になってレベルデザインを勉強しました。いまの『ElecHead』があるのはそのときの馬場さんの言葉があったからこそです。馬場さんはとても尊敬している人です。

――優秀賞を獲得して、世界が変わったのですか?

生高橋はい。一気に変わりました。なんか自信がついたというか。ここまで評価されるんだということでうれしかったです。実際のところ、『BATTLLOON ‐バトルーン』をいっしょに作ったはちのすさんも、「『ElecHead』というゲームがあったから、(生高橋氏の在籍している)こっちの学校に来た、みたいなことを言ってくれていました。

――あら……。ゲーム作りでつながる縁ですね。

生高橋2~3年はひとりでやっていて、さみしくなったので最後くらいはチームで作ろうと思って、はちのすさんたちと制作したのが『BATTLLOON ‐バトルーン』ですね。

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2年生のときに『ElecHead』で日本ゲーム大賞 アマチュア部門で優秀賞を獲得した生高橋氏は、3年生のときは、『食い太陽』でファイナリストに、4年生のときは後輩たちと作ったという『Projection Remains』で、再度、優秀賞を受賞。「大賞はほしかった」とのことだが、3年連続でファイナリストに残るだけでも素晴らしいのに、そのうち2度も優秀賞に輝くという偉業を遂げている。

“考えかたのチュートリアル”を念頭に……

――で、2019年に学校を卒業して『ElecHead』をブラッシュアップすることにしたとのことですが、作業はすんなりといったのですか?

生高橋それがものすごくたいへんでした。紆余曲折がありまして……。当初は3ヵ月くらいで完成させるつもりでいたのですが、まったくできなくて。想定と違い過ぎるというか、全部見積もりが甘いという感じでした(笑)。

――見積もりというと予算ということですか?

生高橋予算もあるのですが、実作業が思ったように進まなかったんです。企画もそうですし、とにかくおもしろくならなかった。もちろん、『ElecHead』というそもそものベースはあるのですが、「商業ベースに乗せよう」となった途端に、まわりのゲームを参考にしてしまうというか、比べてしまったんですね。それで『ElecHead』はこのままではちょっと無理だろう……という思いがあって、ずっーと悩みに悩んだという。

 あと、焦りもあって……。「ヤバイ、これを出さないとオレ、死ぬかもしれない」みたいな。そもそも金銭面でそうとうキツかったので、企画もお金のことばかりを考えるようになるんです。専門学校を卒業してからは、『BATTLLOON ‐バトルーン』で得たお金でなんとかしのいでいたんですね。で、企画に、「お金を儲けないといけない」みたいなことを入れるようになって。でもそれだと、「オレがいままで目指してきたものとなんか違うな」というような葛藤が起きて……。

――アイテム課金制にしようかとかですか?

生高橋はい。基本プレイ無料でスマホ向けに出して、アイテム課金制にしようかとか、悩みました。相当甘い感じの見積もりでずっと悩んでいたんです。

 そんなときに、母校から「まずは、トライアルからでいいから講師として授業をやってみないか?」と声をかけていただいたんですね。そこでやってみたら、ある程度金銭面の問題がそこで解決されたので、じっくり開発に取り組めることになったんです。また、後輩たちに教えるということで恥ずかしいことはできないと、あらためて自分も日々勉強でもあります。教えることで改めて学べていることもあり、経済的にも自分の技術・マインド的にも大きなメリットを得ています。

――ああ! つまり金銭面の不安が解消されたのがとても大きかったということですか?

生高橋めちゃくちゃ大きかったです! 焦りがなくなった途端に、冷静な判断ができるようになった。冷静というか、自分のやりたいことに本気で集中できるようになりました。

――なるほど。やはりお金は大切だということですね……。とはいえ、もともと優秀賞を受賞して評価を得ていた『ElecHead』に対して、どのような点を悩んでしまったのですか?

生高橋これはあるあると言うか、リメイクするとなったときに、やはり盛ってしまうんですよ。盛りたくなるんです。以前のものをものすごくよくしたいというか、そのまま出したら負けというか(笑)。もっと豪華にして出したいという欲求があって、「どう豪華にしよう?」というところで悩んだ感じです。

 もともとコンテスト用に作った『ElecHead』は、すぐに審査できるようにしないといけないということも自分の中にあって、5分くらいで終わるんですね。それを1時間、2時間と膨らませないといけないとなったときに、最初は当時からさらに盛り上がりを見せていた、メトロイドヴァニア形式にしようと思ったんです。それで主人公が行ったり来たりして……みたいな試作版を制作したのですが、途中がつまらなくなってしまった。

 メトロイドヴァニアは途中で出てくる敵がいるおかげで間が持つのですが、『ElecHead』は純粋なパズルゲームなので、パズルとパズルのあいだを行き来するのがつまらないんです。そこをどうしよう……みたいな感じで悩んだりしながら、とても時間がかかりました。

――ステージを増やすという方向性にはならなかったんですね。

生高橋そうですね。もうなんか、こだわりがたくさん出てきて(笑)。ステージを増やしてもいいのですが、このまま段階的にやったらふつうのゲームになりそうだという恐怖があったんです。あまりふつうのゲームは作りたくないという、自分の中のこだわりがあって。「いままでにない進行ないかな?」とか、ずっと考えていましたね。

 あと、新しい能力を追加しようみたいな考えになったこともありました。メトロイドヴァニアはうまくいかなかったのでやめたのですが、主人公の能力がどんどん増えていって、それでパズルを作っていこうみたいな感じで考えたりしたのですが、これもしっくりこなくてボツみたいな(笑)。

 で、どうやってボリュームを出すかでずっと悩んでいたのですが、けっきょくは最初に戻るではありませんが、いまあるギミックだけでボリュームを増やそうということになって、そこから追加ステージを作っていった感じです。

――その境地に達するまでにはどれくらいかかったのですか?

生高橋1年半くらいですね。

――言いかたは何ですが、ある意味無駄な時間だったかもしれないけれども、結果としてそれは必要な期間だったかもしれない?

生高橋それは、必要だったと思います! 『ElecHead』はいろいろなところの評価で、“すごく凝縮されたゲーム”とか“無駄のないゲーム”と言われたりするのですが、それは試行錯誤の末に、無駄なところをしっかりと見極めて捨てられたということが大きかったんです。そのまま盛っていたら、ごちゃごちゃしたゲームになっていて、たぶんあまり評価されなかったのではないかと思っています。

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――なるほど。紆余曲折の末に、「もうシンプルで行こう!」と決断したら、逆にいらない要素は全部削ぎ落として、シンプルにやろうという発想に180度方向が転換されたということなのですね。そしていままで試行錯誤していたので、何が無駄かというのは生高橋さんの中で、きっちりと判断がついた。それで、「これはいらない」ということで削ぎ落とすことができたんですね。

生高橋そうですね。削ぎ落として、削ぎ落として……。とは言いつつも、つぎなる問題が持ち上がってきまして……。

――つぎからつぎへと生れ出づる悩みですね(笑)。

生高橋ただ単にステージを追加していくだけでも、あまりおもしろくならなかったんですね。重要なのは、どういう順番でひとつひとつのステージを配置するかということで、おもしろさが一気に変わるということだったんです。その順番をどうしようかなというので、とても悩みました。小さいひと部屋のパズルと、全体の順番のデザインをずっと迷っていました。「この順番にしてしまうと、このステージは簡単すぎるようになってしまう」とか、「これを先にユーザーに教えておかないと、ここで詰むな」とかが発生するわけです。

 『ElecHead』は6ステージあるのですが、順番は基本リニアなんですね。そのため、全員がちゃんとクリアーできて、おもしろいと感じられるような順番にしないといけない。そのためにめちゃくちゃ試行錯誤しました。ギミックを移動させたり、ステージの順番を変えたり……。

――必ずしも難易度が低いものを最初に持ってきたというわけでもないとかですか?

生高橋えっと、それはいろいろ複雑なんです。必要な知識は絶対に最初に持ってきて、ここで学んでもらいたいというか。言ってみれば、“考えかたのチュートリアル”を最初に学んでほしいんです。

――“考えかたのチュートリアル”ですか?

生高橋たとえば、“ジャンプをすると頭を遠くに投げられ”というようなことを、最初に教えておかないといけないわけです。“壁に触ると下に降りられるようになる”とか。

 パズルは後半になってくると、別々のものを組み合わせて解いていくことになるので、最低限の基礎パズルを最初に持ってきて、後々考えてもらえるようにしないと、後半で絶対に詰むんです。ただ、後半の応用に必要だから……ということで、前半で基礎パズルを詰め合わせると、その部分がおもしろくなくなってしまう。いい感じに、基礎→応用、基礎→応用となるように持っていくのが、思ったよりもたいへんでした。

――パズルの種類を考えて、それを順番通りに配置していけばいいというわけでもないということですね。

生高橋そうですね。全体を見ないといけないです。映画とかでも、感情グラフとかありますよね。中盤がつまらなくならないように、いい感じで感情がジグザクになるようにエピソードを配置すべきだという。

――なるほど。物語を楽しむようにパズルを解くということですね。それってけっこう時間がかかるのでは?

生高橋とてもかかりました! まさにこれがレベルデザインですよね。レベルデザインは最後までずっとやっていました。というか、そこしか僕の得意な部分がないというか……。僕は絵もそこまでではないですし、技術もそこまでではありません。やはりアイデアでしか勝負できない。まがりなりにも僕が評価されてきた部分があるとすると、それはレベルデザインなので、そこはちょっと妥協したくなかったんです。

――ご自身の強みはレベルデザインにあると?

生高橋コンテストとかで、毎回「レベルデザインがいい」と評価していただけるので(笑)。そもそもレベルデザインは馬場さんに指摘されてから意識し始めました。まあ、馬場さんには最初そこしか評価してもらえなかったんですけどね(笑)。でも、『Projection Remains』(※)のときにも、「とにかく、無駄なチュートリアルを作るな。自然と直感的に考え方が深まる構成にしていこう」と言われ、それが“考えかたのチュートリアル”の元にもなっています。

※生高橋氏が専門学校4年生のときに日本ゲーム大賞 アマチュア部門のために制作したタイトル。

――ああ、そこでレベルデザインの大切さに気づいたのですね。それが強みになっていったのか。

生高橋強みというか、やっていて楽しいです。レベルデザインの何が楽しいかといったら、たとえば、ブロックひとつ変わるだけで感じが変わるところが好きなんですよ。アイデアを追加するとか、プログラム書くとかではなくて、ただ配置が違うだけでおもしろさが変わるというところがとても好きなんです。

 アクションゲームでも、ジャンプをするときの跳べるか跳べないかの幅がちょっと変わるだけで、難易度がぜんぜん違ってきますよね。1ブロックだけでまったく変わるんです。それと同じで、順番も先に何を持ってくるかどうかで変わるわけです。

――それが、“考えかたのチュートリアル”につながってくるわけですね。

生高橋「先にこれを教えておかないとここで絶対に詰む」「この考えかたがないとできない」ということですね。数学とかのテストでも、いきなり応用問題を出されるとしんどいですよね。方程式を学んでいないのに、方程式の応用問題は解けないみたいな感じです。学習と同じで……。そこは、僕が講師を始めたことで再認識した部分でもあります。

――講師をやっていることが、ゲーム作りも活きてきているのですね。

生高橋そうですそうです。この生徒がなぜわからないのかというのは、これが理解できてないからだということで、だったらこれを先に教えないとダメだねという。

――ということでは、生高橋さんが体験してきたいろいろなことが結びついて、『ElecHead』ができたと言えそうですね。ちなみに、レベルデザインということでは、今回とくに気を配ったものはあったりするのですか? レベルデザインを意識しているという高橋さんが、応用編として、“考えかたのチュートリアル”という点で、『ElecHead』だからこそトライしたという要素はあるのですか?

生高橋めちゃくちゃ多いです。『ElecHead』では、とにかく自分の中で制限をかけまくりました。たとえば、言葉がないとか。

――あー! ないですね。

生高橋一切ないんです。状況でプレイヤーに気づいてもらうようにするという。

――言葉がないのは、最初に作った『ElecHead』のときもそうだったのですか?

生高橋2年生のときに作った『ElecHead』にはありました。ヒントみたいなものも出していましたね。『ElecHead』は、『VVVVVV』(シックスブイズ)というゲームにもインスパイアを受けているのですが、同作にはステージごとにタイトルみたいなものがあって、それがヒントになったりしているんですよ。タイトルでヒントを出すのはおもしろいなと思って、『ElecHead』でも採用していたのですが、今回全世界で出したいなとなったときに、「ローカライズがめんどうだな」と思いまして。

――めんどうくさいって(笑)。それが入り口で言葉をなしに?

生高橋そうです(笑)。だったら、もともとシンプルだし言葉がなくてもいけるだろうと思って、一旦制限をかけてみようということで制作を進めてみたら、逆に言葉がないほうがプレイヤー自身が気づく体験ができるなと。逆にけっこうよかったです。

――言葉がないことに対する苦労はそんなになかったのですか?

生高橋そうですね。あとストアページにも言葉がないんです。たぶんSteamで僕だけだと思います。Steamページに言葉がないのは。

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『ElecHead』Steamサイト。たしかに説明文のたぐいは一切ない。

――なるほど(笑)。レベルデザインでは試行錯誤したとのことですが、最終的にはある程度納得のいくものができたという手応えはあるのですか?

生高橋いやー、正直まだまだだなというのはあります。もう少しできたのではないかと、けっこう反省が出てきます。細かいところなのですが、「ここは少し不親切だったな」とか。「ここは余計なミスリードを生んでしまっているなあ」とか。パズルは、ヘンなミスリードをしてしまうと、そこはべつに正解ではないのに、ずっと同じことを試す人が出てくるんですよ。たとえば、ジャンプでギリギリ届きそうなところを用意してしまうと、「いけそうだ」と思う人がでてきてしまう。もっと高い壁を用意すれば、「これは絶対に行けないな」となるじゃないですか。

 『ElecHead』は、地味にアクション性があるので、「アクションでこれ行けそうじゃない?」と判断されるところを残してしまうと、まさに無駄な時間を過ごしてしまうというのが、いくつか見られたので……。

――たしかにアクション性がちょっとありますね。僕みたいなオッサンはたぶんギリギリでした(笑)。なぜアクション性を入れることにしたのですか?

生高橋それはもう、僕がアクションが好きということに尽きます。思考だけのゲームも、あまりおもしろくないなと思いまして。

――まあ、たしかに少しアクション性があったほうが楽しかったかもしれない。ちなみに『ElecHead』と話が少しずれるのですが、どんなゲームがお好きなのですか?

生高橋僕は、僕自身が成長するゲームが好きなんです。ゲーム側で強くなっていくのではなくて、僕が強くなるみたいな。僕の腕がよくなるとか、新しい発想を手に入れるとか……。そういうゲームがすごく好きです。

 だから、時間をかければ強くなっていくタイプのゲームはあまり好きではないんです。まあ曲りなりにも作っている側なので、仕掛けもなんとなくわかるんです。「あ、これはこういうふうに気持ちよくさせているんだな」という。僕自身は、そこにはあまり達成感がないんです。誰でも気持ちよくなれるんだったら、あまり達成感ないというか。

――だからこそ、そこでレベルデザインが非常に重要になってくるということが言えそうですね。

生高橋やっぱりそうですよね。ユーザー自身が成長するような……。学習と同じですよね。

――ところで、不思議なエンディングが話題になっていますが、あれは何か思いがあってのことなのですか?

生高橋はい。一応あります。というか、僕はシナリオがめちゃくちゃ苦手なんです。ただ、本作に関しては、ElecHeadというキャラクターを生み出したので、シナリオも作らないと……と思ったんです。そもそもプロモーションのときに、“世界に光がなくなって、それを取り戻すために冒険する”という設定を言ってしまったので(笑)。

――言ってしまった(笑)。

生高橋これはどうにかしないといけないとなって(笑)。言ってしまった以上は、これはもう作らざるを得ないというか、引くに引けない状態でしたね。ところが言葉もないので、伝えるのが難しい。でもエンディングは用意しないといけないというところでできたのがあのエンディングです。いろいろ設定はあって、本来は伝えたいこともあるのですが……。

 まあ、個人的には皆さんのご想像にお任せします系ではあります。言葉もないということで、逆に場面場面を切り取って、自分で考えられる余地はあるので……。受け手が自分なりにいい感じにまとめてくださってもぜんぜんいいなと思います。

――ストーリーがあったほうが感情移入はしやすいかもしれませんね。

生高橋ホントそう思います。日本の作品とか見ていると、ストーリーは本当に重要だなと、最近とくに感じています。つぎはもっと意識しようかなと思っています。

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「自分がいいと思ったものには、本気を出したほうがいい」

――『ElecHead』がリリースされたのは2021年10月でしたが、印象的なフィードバックなどはありましたか?

生高橋そうですね。まずは海外の有名なインディーゲームクリエイターの人たちが、「おもしろい」と言ってくれたのがもう、めちゃくちゃうれしかったです。実際のところは、リリース直前は正直とても不安だったんですよ。けっこう挑戦的な仕様がいくつか入っていたりもするので……。言葉がないというのもそうですが、『ElecHead』はパズルが詰んだら終わりなんです。ほとんどのパズルゲームは、ある程度ステージをクリアーしたら、つぎはスキップできる仕様になっていますよね。特定のステージで詰んでしまわないように。3問あって1問クリアーしたらつぎに進めるという仕様ですよね。

 それが『ElecHead』では、詰んだら先に進めなくなるんです。リニアなので、パズルの問題を全部絶対に解かないといけないんですよ。でないとクリアーできない。救済措置は一切なしです。ふつうのパズルゲームと違って、詰んだら終わりというのは、いまだとあまりないので、「クリアーできない人もいるのではないか?」ということで心配でした。

 実際のところは、『ElecHead』のクリアー率はとても高くて、6割近いんです。救済措置のある仕様にしなくてもよかったなと思っているところです。

――ちなみに、なぜ救済措置のある仕様にしなかったのですか?

生高橋救済措置のために3つのステージを作るのがもったいないなと思ったんです。だって、全部遊んでほしいじゃないですか。僕的には、全部のステージやってほしいんです。がんばって作ったので、素通りされてしまうようなステージはあまり作りたくないなというのがやっぱりあって。

 あとは、単純に自分のレベルデザインへの挑戦です。レベルデザインをちゃんとしていれば、全員クリアーできるはず! という。本当に挑戦というか、まあ、謎の自信があったというのもあります(笑)。

――6割近くクリアーしたということは、生高橋さん的には、ご自身のレベルデザインは成功したかなということで、及第点を与えてもいい感じですか?

生高橋はい。そう思います。かなり高いのではないかと思っています。

――ちなみに、『ElecHead』を開発し終えての気づきみたいなものはありますか? そして今後はこんなふうにしていきたいみたなことがありましたら教えてください。

生高橋それはたくさんあります。気づきは毎回あります。今回とくに思ったのは、「自分がいいと思ったものには、やはり本気を出したほうがいい」ということでしょうか。途中でブレそうになったことが何回かあったのですが、貫き通してよかったです。自分の本当にできることややりたいことを突き詰めたほうがいいなと。

 とはいえ、今回は運がよかっただけなのですが、自分がやりたいことができたのが、いちばん満足というか……。今後も、本当に自分が突き詰めたいことを目指してやりたいです。

――ひとりで作り続ける感じですか?

生高橋そうですね。ゲームって、複数の分野がバラバラになっているわけではなくて、全部つながっていると思うんです。絵を描いたおかげで、絵とプログラムを合わせてできた表現が生まれるとか……。いままで僕がひとりで取り組んできたものは全部無駄ではなくて、どこかでつながっているんですよ。なので、それはそれでアリだなというのはあります。ひとりでやったことが無駄ではなくて、どこかでつながっているので、別の方向に活かせている。むしろ僕は、ひとりでやりたいんです。

――ところで、少し気の早い話ですが、つぎの作品はもう作っていらっしゃるんですよね?

生高橋いいえ、構想だけ……。ほかにもやることがいっぱいありまして……。

――あら、お忙しいのですね。では、ふわっとした夢みたいなもので構わないのですが、つぎはどんな感じのものを作ってみたいのですか?

生高橋そうですね。つぎはちょっと違うジャンルを作ってみたいです。パズルゲームのレベルデザインは少し疲れたので、つぎはアクションゲームを作ってみようかしら……と思ったのですが、アクションゲームのアイデアを思いつけないという(笑)。

――どんなアクションにするかはこれから考えて……みたいな感じですか。

生高橋そうですね。ひとつはシューティングゲームを攻めていこうかなとは考えています。シューティングゲームを見ていると、いくつか疑問点が出てきて、それを解決できるタイトルを作れたらいいのかな……と思いはするものの、何も頭に浮かばないみたいな感じです。

――試行錯誤の日々が続きそうですね……。最後に、本作を気にしている読者に向けて、背中を押してあげるようなメッセージをお願いします!

生高橋それはめちゃめちゃ難しいですね。僕はPRがとても苦手なんですよ。そうだなあ……このゲームは自分が天才になれるゲームらしいので、ぜひ遊んでみてください。「あ、オレこんな解法わかったんだ!」と思わせるようなパズルがたくさん詰まっているので、ぜひ! 友だちと語り合ってほしいですし、やってみた動画とかがでてくるのも楽しみにしています!

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ElecHead(エレキヘッド)

  • メーカー:生高橋
  • 配信日:2021年10月14日配信
  • 価格:980円[税込]
  • ジャンル:パズルアクション
  • 備考:ダウンロード専売
『Elechead』Steamページ 『Elechead』Itch.ioページ
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