間違いなく人を選ぶ、けれどごく少数の人には高く評価されてきた同人作品ならではのノベルゲームが奇跡の復活! 今回は、『夢を確かめる』(リニューアル版)をお届け。贈り主は、“女児アニメ好きフリーライター”の小林白菜

世にも奇妙な経緯を持つ同人作品

 ノベルゲームには付きものの“選択肢”による分岐を、一度のプレイですべて確かめられたら……。そんな着想から始まったはずの物語が、予測不能な展開を見せる! 世にも奇妙な経緯を持つ同人作品を徹底紹介。

 企画・シナリオの士戸ナオミ氏には、すべて読み終えて気になったことをぶつけてみた。未プレイの人にはよくわからない部分もあると思うが、そこから何かを汲み取ってもらえたらうれしい。

『夢を確かめる』リニューアル版:数奇な運命を辿り蘇った幻の同人ノベルゲーム【とっておきインディー】
『夢を確かめる』リニューアル版を購入する(DSsite) 『夢を確かめる』リニューアル版を購入する(BOOTH) 『夢を確かめる』(リニューアル版)パッケージ版を購入する(メロンブックス)

“YTI システム”で体験する3つの物語

 通常のノベルゲームでは選択肢を選んでプレイヤーの意に沿わない展開になった場合、セーブデータをロードして選択肢を選び直すことになる。YTI(夢を確かめずには いられない)システムは、この煩わしさを解消。バッドエンドな展開はなかったことになり、直前の選択肢へと戻ることができるのだ。

 このシステムが使える“夢確かめ機”を手に入れた3人の主人公が、その力を行使しながら、明歩谷菱妃、古柄菜乃、森溝今子という魅力的な女性たちと交流していくのが『夢を確かめる』というゲームだ。

◆好奇心のままに選んでみる?

『夢を確かめる』リニューアル版:数奇な運命を辿り蘇った幻の同人ノベルゲーム【とっておきインディー】
明らかに人間関係が崩壊したり、社会的に終わってしまいそうな選択肢も、YTIシステムがあれば躊躇せずに選べる。信じるかはあなた次第。

◆三者三様のヒロインたち

『夢を確かめる』リニューアル版:数奇な運命を辿り蘇った幻の同人ノベルゲーム【とっておきインディー】
高校生、大学生、社会人を主人公とした3つのシナリオは、物語のテイストも文体もバラバラ。そしてやがてひとつに収束……しない!

紆余曲折を経て13年ぶりに復活

 2010年のコミックマーケットで少部数だけ販売され、その評判が口コミで広まる中、入手困難につき非常に高額で取引されることもあった『夢を確かめる』。いろいろ(本当にいろいろ)あって2023年に再販開始。

 もともと風変わりなゲームが本編を超えるボリュームのおまけシナリオなどをひっさげ、さらなる異形のゲームとなって帰ってきた。

■リニューアル版の追加要素(なぜかお値段は据え置きの500円!)

  • とめきち氏の新規イラスト
  • おまけシナリオ“プロトタイプ・サンシロー”
  • 音楽ユニット・あしたのーと(高岡兼時×RYUNKA)のボーカル楽曲
  • 歩サラさん出演“ 声を確かめる”コーナー
  • 参加ゲスト及び、大槻涼樹氏、うつろあくた氏、餅月ひまりさんからのメッセージ
  • ほか隠し要素多数……?

 なお、再販にいたるまでのより込み入った事情を知りたい人は、YouTubeにある餅月ひまりさんの動画をチェックしてほしい(※動画サムネイルの男性の写真はフリー素材で、制作メンバーとはまったくの無関係)。

小林白菜’S Recommendation

 このゲームのストーリーを難解な構成と感じる人は多いと思いますし、僕自身、意図が読み取れなかった描写は無数にあります。そうした要素の考察が好きな人にとって紐解き甲斐のある作品であるのは間違いないでしょう。

 一方で、すべてに意味を見い出せずとも散りばめられた描写に“共鳴”する形で、伝わってくるものを好ましく感じるという読みかたが許容されていることこそが、僕にとって本作が大切な作品になった理由です。

 海外のインディーゲームもよくプレイする立場としては、『ドキドキ文芸部!』や『Analogue: A Hate Story』にも通底する“美少女ゲームの皮を被ったアンチ美少女ゲーム”的側面を見い出しましたが、それもまた本作が幅広く許容してくれる解釈のひとつ。今後、より多くの人の多様な「私はこう思った」を“確かめられる”ことを願ってやみません。

[もっと確かめる]<企画・シナリオ>士戸ナオミ氏に確かめ尽くして気になったことをいろいろ聞いてみた

士戸ナオミアイコン
士戸ナオミ氏

――『夢を確かめる』(以下『夢かめ』)本編の注目ポイントを教えてください。

士戸3つのシナリオはそれぞれの主人公から見えている世界や価値観の違いを表現するため、文体からまったく違うものにしています。並行して読み進めることで、気圧差のようなもので脳みそをぐわんぐわんさせてほしいです。

―― 本編終盤に描かれる長尺の“講演”シーンが強く印象に残りました。この場面に込めたものは何だったのでしょう?

士戸まず、異質な要素を入れたかったというのがあります。作品全体のテーマを、キャラクターがわかりやすく代弁するようなものからズラして“芥川龍之介の晩年の作風”と絡めた専門性の高いものにすることで“わかりやすく収束する物語”に対する批判を狙いました。ほとんどスキップされるだろうと思いながら入れたものでしたが、よかったと言ってくれる方が一定数いらっしゃったのはうれしい驚きでした。

――士戸さんがX(旧Twitter)で共有している感想を読むと、女性であろうプレイヤーさんで本作に好感を持った方も多い印象を受けます。

士戸私自身少し意外ではあったのですが、『夢かめ』にはいわゆる美少女ゲームとしてプレイすると違和感を覚えるようなテーマを盛り込んでいるので、それを肯定的に受け取っていただけたのかもしれません。

――『夢かめ』は『長靴をはいたデコ』という美少女ゲームへのアンサーとして制作されたそうですが、こちらもやはりそうした要素が入っている作品なのですか?

士戸『長靴をはいたデコ』はけっこうネタゲー扱いされることが多いのですが、私はとても批評的なシナリオだと解釈しています。作中「フィクションから学んだことは現実で通用するのか?」という問い掛けがなされていて、これに対する私からの勝手なアンサーが『夢かめ』なんです。ものすごく影響を受けました。

――3人のヒロインへの“30の質問”で「友情と恋愛の境目は?」という問いに全員が「ないと思う」と答えているのも印象的でした。

士戸3人のヒロインと主人公の関係って、パッと思い浮かぶような恋愛とはちょっと違います。美少女ゲームで描かれる恋愛はどうしても型やパターンに沿ったものになりがちなので、もう少し柔軟に、ときに曖昧だったりする感情のやりとりを書こうとしていて、それを踏まえた回答ですね。

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ヒロインの趣味趣向は隠し要素“30の質問”で判明する。

――『夢かめ』は続編小説を執筆中であることがゲーム内の裏話で明かされていますが、“プロトタイプ・サンシロー”という、それとはまた異なるおまけシナリオが追加されています。

士戸それは現実的な理由です(苦笑)。続編は新たに必要となる素材などの面で、ゲームとして制作するのは困難だと判断しました。すでにある素材で新たなシナリオを書く必要性から“プロトタイプ・サンシロー”が生まれました。『夢かめ』の再販が決まり、とめきちさんがヒロイン3人の素晴らしい新規イラストを描いてくださって。私もそれに見合うものを追加するなら、10分くらいで終わる後日談などではダメだろうと。持ち前のサプライズ気質もあり、本編を超えるボリュームになってしまいました。

――士戸さんはサークルの仲間や、リニューアル版発売に際して参加・協力した方への感謝をよく言葉にされています。おまけシナリオにはズバリな台詞もありますが、やはり集団制作というスタイルには強い想いがありますか?

士戸自分が想定したゴールを超えたものになることが楽しいんだと思います。偶然生まれたものを活かしたい。『夢かめ』も私が意図したものだけではできていません。そうした人との縁のありがたさは再販の折、いっそう身に染みたので、その想いは物語にも込めました。

―― ここまでお聞きしたこと以外に、伝えておきたいことがあればお聞かせください。

士戸人間が関わったものごとって何らかの形で残るんだなと、リニューアル版を発売できる事態になって実感しました。少部数ながら流通させたものを、覚えていてくれた人がわずかでも存在していて、噂を呼んでという……我が身に起きて、改めて思い知ったと言いますか。いま「こんなもの作っても意味ないんじゃないか」などと自問自答している人もいると思うんです。でも作り手の意図はどうあれ生み出されたのなら、将来的に誰かが手に取って、おもしろい結果につながる可能性はありますよね。

『夢を確かめる』リニューアル版:数奇な運命を辿り蘇った幻の同人ノベルゲーム【とっておきインディー】

夢を確かめる(リニューアル版)

  • メーカー:ヤプシ街道
  • 発売日:2023年7月14日発売
  • 価格:備考欄参照
  • ジャンル:アドベンチャー
  • 対象年齢:――
  • 備考:ダウンロード版はBOOTH、DLsiteで発売、BOOTH版は500円[税込]、DLsite版は550円[税込]、パッケージ版はメロンブックスにて550円[税込]で発売
『夢を確かめる』(リニューアル版)パッケージ版を購入する(メロンブックス)
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