『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』には、綺羅星のごとき豪華な声優が集結
2012年2月2日にスパイクから発売されるプレイステーション3、Xbox 360用ソフト『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』。壮大な世界観を持つゲームファン注目の大型RPGだが、キャスト陣を見て、「おおっ!」と唸ったファンは多いのでは? そう、同作には壮大な世界観に負けないくらいの豪華声優陣が起用されているのだ。まずは、そのキャスト陣を列挙すると以下の通り。
・ホーク(男):浪川大輔
・ホーク(女):沢城みゆき
・カーヴァー:間宮康弘
・ベサニー:甲斐田裕子
・アンダース:てらそままさき
・イザベラ:増田ゆき
・メリル:大谷育江
・フェンリス:大川透
・ガムレン:納谷六朗
・リアンドラ:井上喜久子
・アリショク:飯塚昭三
・フレメス:京田尚子
・バートランド:秋元羊介
・探求騎士カサンドラ:田中敦子
・筆頭魔道師オーシノ:ふくまつ進紗
・騎士団長メレディス:榊原良子
・エルシナ大司教:小宮和枝
・セバスチャン:青山穣
・アリスター:草尾毅 ほか
中でも注目は、主人公・ホークを担当するふたりの声優、浪川大輔と沢城みゆきだろう。いま、掛け値なしに“もっとも期待される声優”と評されるふたりの起用は、ゲームへの期待をさらに膨らませずにはおかない。今回ファミ通では浪川さんと沢城さんを直撃。収録を(ほぼ)終えたばかりのふたりにインタビューをする機会を得た。おふたりに『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』の収録秘話などを聞く。ここでは、お話をうかがった順に、まずは沢城さんのインタビューからお届けしよう。なお、インタビューには、スパイクにて『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』のローカライズプロデューサーを務める本間覚氏にもご同席いただいた。
プロデューサーいわく「ひと言めのセリフを聞いた瞬間から、“もう成功!”と思った」
――収録を(ほぼ)終えての率直なご感想を聞かせてください。
沢城 収録中は、「本当に終わるのかな?」という気持ちでした(笑)。
本間 主人公のセリフ数的には8500くらいでしたね。分厚い電話帳が3冊くらい積んである感じです。
沢城 8500というワード数のヘビーさもさることながら、通常よりも倍は時間がかかる収録方法だったんです。というのも、英語版の原音が流れたあとに、自分がそれをなぞるようにお芝居をしていくという方法を取っていたんです。手間は8500×2なのかな……という感じもありました。さらに、収録順番もプロローグからエンディングまで、という流れに沿ったものではなくて、いろんな進行ルートのシーンが入り乱れていたんですね。その度に本間さんを捕まえて、「どこからどこまでがひとつのシーンなんですかね?」というのをやっていると、また時間がかかり……という感じで。
本間 ゲームの構造上やむを得なかったという部分はあります。たとえば、A、B、Cというイベントが、必ずしもA→B→Cという順番では起こらない……という感じで、そもそも時系列順にはぴったりと当てはめられないんです。物量に振り回されそうになりましたが、その都度自分のほうから声優さんに説明させていただいて、「このシーンは、このキャラは生きていて、このキャラは死んでいて……」というのを声優さんに説明しながら演じていただくという感じでした。
――それは、演技の持って行きかたがたいへんですねえ。
沢城 あるキャラが死んだあとに、そのキャラと楽しく話すシーンの収録をしたりということもありましたね。「ああ、つぎの行はこの人生きているときなんだ!」という(笑)。あるいは、告白されて、受け入れるセリフと受け入れないセリフをすぐに収録しなければならなかったりもしましたね。
――気持ちの切り替えがたいへんそうですね。基本は、原音を聞いて、それに応じる形で演技をするという収録スタイルだったのですか?
沢城 そうです。だから、いまだかつてない収録だったんです。純粋なお芝居というよりは、もう少しスポーツ的でした。
本間 反射神経が問われる感じですね。これだけのボリュームがあると、原音のテンションや雰囲気が、お芝居をする上ではかなり重要な要素になってきますので。声優さんには、そこをぱっと聞いていただいて、ぱっと判断していただくという感じでした。
沢城 『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』では、主人公の性格が3パターンくらいあって、台詞の上に小さく記載されているんです。「つぎにはこの性格のセリフが来るんだな」と、前のを読みながら同時に準備しないと間に合いませんでした(苦笑)。また、収録方法と阿吽の呼吸、とでも言うのでしょうか、呼吸が掴めるまでに、けっこう苦戦しましたね。
本間 実質3キャラを演じるようなものですからね。それをセリフごとに切り替えていかないといけない。
沢城 そうですね。やさしい声音で「じゃあ、私が手伝おう」と言ったかと思うと、つぎはコミカルでユーモラスな声で「私の力が必要か?」というセリフになったり、さらにはきびしくなって「私が行こう!」という、ひと言だったり……。
――収録中には、本間さんからどのような感じの指示が?
沢城 キャラクター性に対するディレクションというよりは、ひとつひとつのシーンに対する隠れた意図などを説明してくださる感じでしょうか。「本当は、そのキャラはこういう気持ちなので、言いたいことはそっちではないんです」という指示があったり。本間さんは、言うなれば『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』のことを何でもご存じの神様みたいな方なので、時間の許す限りではありますが、細かいところもいろいろと教えてもらいました。
――今回は本間さんが沢城さんをご指名とのことですが……。
本間 はい! 英語版をプレイしたときから、「これは、沢城さんしかいない!」と思っていましたので。海外ゲームの女性の主人公キャラってレアなケースだと思うのですが、吹き替えを考えたときに「より実力のある方にお願いしたい」と考えていました。あとは、沢城さんの声の感じも、海外版の原音と近い部分がありましたし。(ホークは)クールな女性ですからね。僕の中では、沢城さんしか考えられませんでした。なので、自分が勝手に「沢城さんにお願いします!」と。
――実際に聴かれたホーク役の沢城さんはいかがでした?
本間 完璧でした! ひと言めのセリフをいただいた瞬間から、「もう成功!」と思いました。
沢城 本当に恐縮ですが、うれしいです。見出しに使えそうだ(笑)。『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』の収録に関しては、新たな楽しさがありました。まず彼女(英語版を担当した女性声優さん)のやりたいことを理解してから、自分の表現に変換するという。通常ゲームのアフレコは単独になるのですが、『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』はひとりでの収録でない感じがしました。ふたりとまでは言いませんが、英語版の方といっしょに演じている感じがしましたね。
――ああ、それはおもしろい感覚ですね。
沢城 映画のオリジナルと吹き替えを比較していただくとわかるのですが、吹き替えのセリフって、原音よりもけっこうテンションが高めのお芝居をのせていることがあるんです。実際の外国の方ってそんなに大きな声ではしゃべっていないんですね。『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』でも、シチュエーションの割に淡々とした台詞が多くて、吹き替え版ではせっかく3つも感情のパターンがあるんだから、できるだけ個々に差がつくようにというのは意識しました。
本間 さきほどお話しした通り、『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』では3パターンの性格付けがあるのですが、原音だと性格設定の割には、「テンションが普通だなあ」というのがあるんです。日本語って、洋画の吹き替えでもアニメでもそうなのですが、より感情豊かに演技をしていると自分は思っていて、そういう意味では英語に負けない演技になっていると自信を持っています。ひとつのシーンに対して3つのセリフがあるとして、当然ユーザーの皆さんは、選んだセリフに見合ったレスポンスを期待するわけですからね。選んだ選択に対して、役者さんが期待通りのレスポンスをしてくださるのは、ゲームにとって重要なことだと思うので、そこは日本語版のほうが、より出せているのではないかなと。
――それにしても、沢城さんは役の幅が広いですよね。『べるぜバブ』のベル坊から、『ルパン三世』の峰不二子まで……。
沢城 デビューが若かったこともあって、いろいろな役をいただいたのですが、年相応の役ができなくて、「自分はこれがやりたいんです」、「これが地声なんです」とちょっとずつ説明していったら、こういうレンジになりました。本当は地声はこんなに低いのに、無理やりなところからスタートして、やっと地声が活かせる仕事が増えてきたという。『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』もそのひとつのように思います。
本間 ボリュームが大きいので、無理のないようにやっていただきたいと思ったんです。
沢城 こんなに地声で仕事をしたのは、初めてかもしれません(笑)。
本間 おお、これはセールスポイントになりますよ! いずれにせよ、沢城さんの地声は今回の『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』にドンピシャにハマったので、満足しています。
――沢城さん的に、「ここを見てほしい」といった部分はどのへんですか?
沢城 ものすごく個人的なことなのですが……キャストが豪華過ぎて、ぜひ会いたい!という方たちばかりなんですね。本間さんのキャスティングはすごいですよ! 「この人たち全員揃えるんだ。うわ、この人の声聴きたいな」という方がいっぱい出ているんです。個人的に、そこをものすごく楽しみにしています(笑)。
本間 これだけの実力派声優を揃えられるのって、むしろ海外ゲームだからこそだと思うんですよね。おそらく、日本のほかのゲームだと味わえない。そのへんは醍醐味です。
沢城 あと、本間さんがチャレンジャーだなと思ったのは、私の妹役が甲斐田裕子さんだったことですね。私、甲斐田さんより年上の役ができるかなと、悩みました(笑)。
本間 甲斐田さんもまったく同じようなことをおっしゃっていました(笑)。
――(笑)。最後に、ゲームを心待ちにしているユーザーの皆さんにひと言お願いします。
沢城 海外のタイトルって、空気感が違うというか、本当に映画を見ているような……ファンタジーのスケールがちょっと国産にはない厚さがあるように感じます。『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』は、まさにそれが体現されている。私のようにゲーム下手な方は、隣で見てるだけでもドキドキする世界観ですよ(苦笑)。多くの方に楽しんでいただけるタイトルです。この機会にぜひ手に取っていただければ……と思います。
『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』は未知の領域だった
――まずは、収録を終えての率直な感想をお願いします。
浪川 率直に言いますと、非常にたいへんでした(笑)。もちろん、ボイス量が多かったというのがあるのですが、なによりゲームの世界観が重厚で、気軽にセリフを口にすることができないという雰囲気があったんです。そういった意味では、精神的にも体力的にもとてもたいへんな作品でした。
――重厚な世界観に合わせての役作りもたいへんでした?
浪川 ストーリーを進めていくと、“アグレッシブ”、“ユーモラス”、“温厚”という3通りの選択肢から選べるのですが、どれを選ぶかによって、主人公の性格が変わっていくんです。どれを選んでもいっしょのリアクションだと、プレイヤーの方が選んだ甲斐がないので、3通りで少しずつ変化を持たせています。そういう意味では、3キャラを演じているのといっしょかもしれませんね。プレイヤーの皆さんには、3キャラ分のバリエーションを楽しんでいただけるとうれしいです。
――アフレコは、英語の音声を聴きながら、日本語をあてていくスタイルだったそうですね。
浪川 はい。もともと海外でできあがっているものがあるので、それに声をあてていくということで、なかなか自分のペースではできない……というところはありました。臨機応変かつ瞬発力を持って……という点は意識しましたね。当然オリジナルは英語なので、ニュアンスのすべてが聞き取れるわけではないのですが、「発せられた声の雰囲気をなるべく伝えよう」という心構えでいました。たいへんだったのが、1回噛んでも(英語のボイスが)流れていってしまうこと。噛んだらやり直せばいいことなのですが、やはりペースが狂ってしまう。まるで、歯車に慣れていない自分がいるみたいな感じで(笑)、「これは、噛めない!」という見えないプレッシャーもあり……という感じでした。
――舞台に近い感じなんですかね?
浪川 そうですね。否応なく進んでいくみたいな。あと、難しいのは、収録していても、話しが一気に飛んだり、分岐によってはいきなり戻ったりすることもあるんです。さっきまで興奮していたのに、つぎはいきなりおとなしくなったりするので、自分の中でスイッチの切り替えがたいへんでした。
本間 しかも、それが数秒単位で進行していくという。会話の流れがわかるように、前のセリフなどもひと目でわかるようにさせていただいているのですが、本当に瞬発力でやっていただいた感じですね。
――ちなみに、本間さんが浪川さんをキャスティングされた理由は?
本間 沢城さんと同じく、「浪川さんしかいない!」と思っていました。アニメや映画はよく観ますが、自分の知っている声優さんのデータベースの中で考えていくと、女性は沢城さん、男性は浪川さんしかいないな……と思っていたので。あとは、このボイス量に対してお仕事を引き受けていただけるかな、というところがネックでした(笑)。そこは、とてつもなくお忙しい方なので。
浪川 いえいえ、とんでもないです。でも、9月はほぼ『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』でした。ほかの仕事の合間にも収録が入りましたね(笑)。
本間 けっこう強引にスケジュールを入れさせていただきました(笑)。ひとりの声優さんの声をこれだけ聴けるゲームもそうそうないと思うのですが、「浪川さんが好き」、「沢城さんが好き」という方にとっては、とても贅沢なゲームになっています。
――実際に浪川さんの演技をご覧になっていかがでした?
本間 すばらしかったです! たとえば、ユーモラスな性格付けは自分の中ではもうちょっと軽いのかなと思っていたのですが、浪川さんに大げさに演じていただくと、そのほうが逆にハマったりするんです。適宜盛り込まれるアドリブも、ぴったりとフィットする。海外ゲームはボリュームもあるので、なかなか絵といっしょに音声収録はできないのですが、そういった中で、浪川さんを始めとする声優さんたちの演技の仕方だったり、キャラクターのつけかただったり、アドリブだったりにかなり助けられた部分は大いにありますね。海外版の音声は、声だけを聞くと淡々としてぼそぼそとしゃべっている印象になりますが、日本語版はどちらかというと感情の起伏が豊か。声優さんにいい味を出してもらってまとまっていると思います。
浪川 僕も、本間さんには助けられているところが多いですね。台本を読んでいても、どうしても文字だけではわからないところとか、掴めないキャラどうしの距離感があったりするんです。アフレコでは、それがずれることがいちばん怖いのですが、本間さんはそれを的確に修正してくれる。お芝居のさじ加減をお任せした感じです。
――浪川さんがアニメとかで演じている役柄からすると、『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』のホークは若干年上な印象があるのですが……。
浪川 そうですね。僕も最初にキャラのイラストを見せていただいたときは、「ずいぶんごっついなあ」と思ったのですが(笑)、主人公の容姿はカスタマイズできますからね。しかも、ホークの成長物語なんです。ホークの10年の成長を描く感じで、けっこう年齢に幅があるんです。原音はけっこう落ち着いた、どっしりとした感じなのですが、(日本語版では)元気なほうがいいかな……と思って、ボイスマッチというよりは、見た目よりもちょっと若めにしています。
本間 英語のボイスって、かなり淡々としていて、かつ低めなのですが、それに比べると浪川さんには元気で若い感じで演じていただいています。日本語版では、そういう感じでキャラ作りをしていただいているのですが、イメージとして、トータルで見た場合、英語版と比べてもまったく遜色がないと思っています。
――演じるにあたって、『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』ならではの難しさなんてあったりしました?
浪川 どうでしょうね。今回の作品でつねに念頭に置いていたのは、「はみ出しちゃいけない」ということ。たとえば、ほかのゲームだと、ときにキャラの魅力を立てるために、ひとつひとつのセリフを際立たせる必要もあるのですが、『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』のようなタイプのゲームだと、個々のエピソードで山付けをするよりも、ベースからしっかりしていないといけないという印象があるんです。ベースは絶対にブレてはいけない。僕もゲームは大好きなのでよくわかるのですが、プレイヤーの皆さんが遊んでいてあまり気になるようなことはしたくないというか……。そういう意味では、「あまり癖のある感じにしないように」というのと、「おもしろくやらないといけない」というところのバランスが難しかったですね。
――なるほど。ましてや本作は、主人公キャライコールプレイヤーですからね。
浪川 そうなんです。それで、プレイヤーの皆さんが気持ちよくやってもらえるためには、どうすればいいか……というところはあります。
――本作で、「ここは見てもらいたい!」というのはどんな部分ですか?
浪川 そうですねえ、むしろ、がんばったところしかないのですが(笑)、ゲームのデキは保証されているとして、あとは、僕たち声優陣が寝ずに取り組んだ収録でしょうか。ほぼ寿命が縮まったと思われる収録ですね(笑)。まずは、ゲームをプレイしていただいて、声優の奮戦ぶりを楽しんでもらえれば最高です。この血の滲むような努力は報われると、僕は信じています(笑)。
本間 「1日何時間収録しているんだ?」というようなことが、毎日のように続きましたからね。本作では、ひとりのキャラの人生をフルボイスで体験することになると思います。ひとりひとりの人生をフルボイスで楽しめるゲームって、そうそうはないですし、皆さんの演技のおかげもあり、重厚なファンタジーに仕上がったのではないかと思っています。
浪川 僕は、基本肩こりとかはしないのですが、体が固まってしまって痛みで目が覚めたくらいですから(笑)。初めての経験でした。そういう意味では『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』は、未知の領域でした。
本間 ご苦労をおかけしました。
浪川 皆さんにプレイしていただければ、それで大満足です(笑)。
もともとローカライズに定評のあるスパイクが手掛ける本作だけに、主人公を浪川大輔と沢城みゆきが演じると聞いて、「おお、スパイクやるな!」と思ったゲームファンも多いことだろう。実力派声優が勢揃いした『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』は、もしかしてオリジナル版をも凌ぐクオリティーでは……。そう、率直に本間氏に問いかけたところ、本間氏からは「それを目標にがんばっています」との控えめなお返事が。とはいえ、本間氏自身も相当な手応えを感じているだろうことは間違いなく、ローカライズによって、さらに完成度が高められた『Dragon Age II(ドラゴンエイジII)』の姿を、心待ちにしたいところだ。