カジュアルとハードコアの間に可能性はまだまだある
米時間の3月25日から29日までサンフランシスコで行われたGDC 2013(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス 2013)から、『ギアーズ オブ ウォー』シリーズのゲームデザイナーで、現在は独立して自身のスタジオBitMonsterを立ち上げ、スマートフォンゲームを手掛けるリー・ペリー氏の講演をお届けする。
BitMonsterの第1弾タイトル『Lili』は、ペリー氏が在籍したEpic GamesのUnreal Engineを使って開発されたアクションアドベンチャー。iOS向けでありながらも、“コンソールクオリティ”の3Dグラフィックやストーリー性などに注力したタイトルだ。
開発からリリースまでは7ヶ月。メディアからは絶賛とともに多くの露出を得た! ……が、売上は「それほどでもない」というレベルだったそう。
例えばチュートリアル。あれをしろ、今度はこれをやってみろというテキストまみれのチュートリアルはコアゲーマーなら慣れてしまっているが、スマートフォンゲーマーの場合はテキストがだだっと出てきた時点で嫌がられてしまうこともある。
また難易度曲線の問題もあり、コアゲーマーを想定したカーブは、ゲーム的な文法に慣れ親しんでいない人にはそのまま適用できない。そういったさまざまな問題があったのだ。
だが、モバイルで確かなストーリーがあるゲームに挑戦すること自体は悪いことじゃない。ここでリー・ペリー氏はお気に入りのゲームとしてアトラスの『キャサリン』に言及。『キャサリン』は基本的にはパズルゲームと解釈できるが、ドラマパートでのディープなストーリーが合わさることで、それ以上の存在になっているとする。
スマートフォンはカジュアルな市場だから何もかもをカジュアルにしないといけないというわけではない。その間を繋ぐのが“ミドルコア”と呼ばれるジャンルだ。基本的にはコア寄りのゲームプレイにプレイしやすいガワ(シンプルでなくてはならないというわけではない、とペリー氏。)をかぶせたもののことを指す。
スマートフォンゲームの市場は急速に拡大しており、この新しいゲーマーの中には、ゲームを遊ぶこと自体が初めての人もいる。今からコンソールタイトルを3年かけて作る間に、モバイルではどれだけの進化が起きるか? スマートフォン市場でのハードコアが大きくなる可能性だってあるのだ。
またミドルコアはコンソールにおいても重要な存在だ。ペリー氏だって、ゲーム業界全体を考えればコンソールは必要だと考えている。しかしゲーマー層の経済的な問題もあって、「60ドルの価値を持てるのは本当に一部のトップタイトルだけ」だと指摘する。
だが、15ドルならどうだろうか? インディーデベロッパーによるダウンロードタイトルがヘタなパッケージゲームより人気を博すことがあるのは、まさにこういったプレイヤー側が払える価格のハードルを乗り越えているからなのだ。
では、インディーデベロッパーの資金調達手段として存在感を増すクラウドファンディング“KickStarter”とミドルコアの関係はどうだろう? KickStarterは“アイデアの市場”だとペリー氏。しかしゲームが実際に届くまでの仕組みが確立されていないことなども踏まえつつ、モバイルゲームではまだ苦戦しそうだと見ている模様。
またペリー氏は『Lili』の経験から学んだこととして、以下のようなことを挙げた。
・アイデアがモバイル向けでないならやめるべき
・複雑でもいいが、ゲームのコアはシンプルさが必要
・一回のプレイは短く
・わけのわからない部分はあってもいいが、デザインのリスクだと認識すべき
・ミドルコアはハイエンド/ハードコアと比べても意味がない
・何かを盲信することなく、柔軟に対応すべき
・開発者はアドバイスを積極的に聞くこと(『Lili』ももっとアドバイスを聞けば大成功していたかもしれない)
・トレンドはすさまじい数の人たちからのアドバイスだと捉えるべき
・いろいろな制約の中でゲームをデザインするのはスキルが求められるが、クールなこと
・これらは絶対のルールではない。ダメだと頭ごなしに怒鳴りつけられる権威などいない
新作の映像もチラッと紹介された。機銃を備えた軍用ジープに乗り込む一種のFPSで、プレイヤーは暗視カメラを通じて群がるゾンビを撃ちまくる、コア寄りのゲームプレイを盛り込んだミドルコアゲームになっている模様。
最後にペリー氏は語る。ひとつだけ言うとしたら、ミドルコアゲームを遊んだプレイヤーが、いつか『キャサリン』や『コール オブ デューティ』に導かれるかもしれない。それこそがミドルコアゲームを作る使命であると。