“海外勢”独特のアイデンティティーに注目

 2014年3月7日から9日にかけて開催された、日本のインディーゲームを世界に発信するインディーゲームイベント“Bit Summit 2014”。総勢100を超えるインディーズ開発者の中には、海外からはるばる参加してきた猛者も少なくなく、出展されたゲームの数々はじつに国際色豊か。
 また、大勢いた日本在住の外国人クリエイターも含め、“海外勢”の作品は、やっぱり日本のインディーズとは違ったアイデンティティがあっておもしろい。なかには、製品化待ったなしの力作も多く、ゲームファンなら間違いなく要チェックだ。そんな海外勢の力作を、本稿でまとめてご紹介しちゃおう。
(取材・文/佐藤カフジ)

海外インディーズ勢の本気がスゴい! おもしろタイトルピックアップ(3)【BitSummit 2014】_01
▲シアトルから参加の17-BITが出展する『宇宙戦士 GALAK-Z -The Dimensional-』。うわあ、これは日本アニメのファンですね、わかります。

■『宇宙戦士 GALAK-Z -The Dimensionalー』(17-BIT)
 Steamで配信されたコミカルなSLG『SKULLS of the SHOGUN』が大成功したインディーデベロッパー・17-BITは、はるばるシアトルからの参加だ。出展していた新作はPC版が夏ごろ公開予定だという『宇宙戦士 GALAK-Z -The Dimensional-』。見るからに『機動戦士Zガンダム』っぽいロゴから、海外OTAKU勢特有のケレン味がプンプン漂ってくる!

 本作は、宇宙空間を舞台とする探索型の2Dシューティングゲームで、プレイする度にマップが自動生成される、いわゆる“ローグライク”なシステムを採用していることが特徴だ。ヤマト搭乗員っぽい出で立ちの主人公が操縦するのは期待通り、「コアファイターか、コスモ・ゼロか?!」といった外見の宇宙戦闘機。
 しかし、操作性は洋ゲーテイストだ。方向転換とスラスターによる加速操作が完全に独立していて、宇宙空間らしく動きに強い慣性が掛かっているのがおもしろいところ。いったん加速すれば、どの方向を向いても一直線に進んでいくので、前に進みながら横や後ろに機首を向けて射撃することもできる。狭い小惑星帯や惑星内部を探検する場面では、月面着陸ゲームのようにうまくスラスターを調整して、スピードと方向のバランスを取らないと壁に激突してしまうというテクニカルな側面もある。

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▲自機の挙動は慣性が強く、非常に独特の浮遊感。
▲洞窟のようになった惑星内を探索するステージ。微妙な慣性制御が必要。

 操作には慣れが必要だが、5~10分も遊んでいると独特の浮遊感が気持ちよくなってくる。ステージをクリアーすると使えるようになるアンロック要素もたくさんあるようで、戦闘機の装備を強化しながら、さらに難しい星域に挑戦していく、というくり返して遊ぶ系の内容になるようだ。
 しかしなぜこんな作風に?! タネを明かせば、17-BITの開発者の多くがスクウェア・エニックスやセガ、カプコンといった日本の会社でゲーム開発をしていた経験があるそうで、うち数名は、『機動戦士ガンダム』、『宇宙戦艦ヤマト』、『超時空要塞マクロス』シリーズの大ファン。作品に隠しようのないジャパニーズテイストが漂うのもナットク。ちなみに本作タイトルは、英語版のダジャレだそう。“GALAK-Z”はギャラクジーと読み、ギャラクシー(宇宙)と掛けてあるそうな。ハハハッ!

※『宇宙戦士 GALAK-Z -The Dimensionalー』製品サイト

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▲見るからに高い完成度で、試遊者が後を絶たない。
▲フライヤーには日本語版も用意。ゲームの日本語化はこれから取り組むそうだ。

■『NOVA 111』(Funktronic Labs)
 海外勢に人気のローグライク系インディーズゲームの中でも、本作『NOVA 111』は、ちょっとした傑作になりそう。これはターンベースのオリジナル『Rogue』のテイストにリアルタイム要素を融合させた作品で、じっくり考えてつぎの一手を決めるプレイと、反射と素早い操作で打開するアクションゲーム的なプレイが無理なく融合しているのが特徴だ。

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▲FuncTronic Labsのブース。本作がデビュー作だ。
▲主人公はロボ的な何か。マス目に添って一歩づつ移動する『Rogue』そのものの操作性。

 基本のシステムはターンベース。マス目で区切られたダンジョンを、ロボット的な主人公が一歩づつ進み、探索する。一歩進むたびに1ターンが経過し、主人公に続いて敵キャラクターも行動。敵は攻撃前に1ターンの予備動作があるものが多いので、隣接されたら一歩後退してかわす、再度前進して攻撃する、という行動パターンで、簡単にノーダメージ撃破できる。

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▲敵キャラクターが攻撃の予備動作中。横か後ろに動けば100%回避できる。

 もちろんゲームを進めていくと、そう簡単には終わらない。将棋の香車ライクに1ターンで長距離を突進してくる敵や、自爆して周囲9マスにダメージを与える敵など、さまざまな変わりダネが登場。それでも1ターンづつ丁寧に戦略を立ててプレイすれば、敵の配置や地形を利用して戦略的に打開可能だ。

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▲これがターン制を無視できるタイムストップ・デバイス。必殺技的に要所で使えるぞ。

 しかし安心するなかれ。時折現れる、リアルタイムに動く敵やトラップにご注意。たとえば、天井から落ちてくるつららは、グラグラと揺れ始めるとターン経過を無視して一定時間後に落ちてくる。リアルタイムにダメージを与えてくる敵キャラクターもいて、こればかりはじっくり考えるヒマもなく、急いで回避や攻撃をする必要がある。つまり、急激にターンを進めるハメに。そこにターン制の敵がいると……プレーヤーの高速操作に合わせて敵も高速に迫ってくるわけで、さっきまでは簡単だった敵が突然やっかいになったりするのだ。

 主人公の側にも対応策があり、たとえば一定時間内なら何ターンでも行動できる必殺技“タイムストップ”が強烈だ。タイマー切れまでに移動ボタンを超高速に連打して強敵を0ターンで撃破。しかし勢い余って変なところまで進んでしまい、後でエラい苦労することもあるという、諸刃の剣。本作には、こんなターン制とリアルタイムを融合させることで生まれるおもしろいパズルがいっぱいだ。

 開発者は、オーストラリアからやってきたゲームクリエイター。キュー・ゲームスの元スタッフで、Pixel Junkの新作『nom nom GALAXY』のプロトタイプを作成中に本作のアイデアを思いついたそう。それを独自に製品化すべく、勢いで独立スタジオFunkTronic Labsを設立。現在は京都市内に小さなオフィスを開き、貯金を切り崩しながら本作の開発を進めているそうだ。まずは年内にSteamでの販売を目指すとのこと。本当に丁寧な作りで、天才的なゲームになっているので、全国のスチーマーたちは要注目!

※『NOVA 111』製品サイト

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▲画面デザインも見やすく、丁寧な印象。奇抜なアプローチで“ローグライク”を再定義する作品になるか?!
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▲台湾から参加のQubit Gamesは、新作『QUボット』を展示。

■『QUボット』(Qubit Games)
 台湾のQubit Gamesは、カナダのIT業界に長く務めていた技術者のおじさんたちが、故郷に戻って設立したふたり組のインディーズスタジオだ。出展していたのは、レゴブロックのように立方体を組み合わせて好きな形のロボを作って戦えるRPG『QUボット』。彼らが、昨年iOSプラットフォームで大ヒットを飛ばした『Space Cube』を大幅に発展させた作品だ。

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▲コンポーネントのエディット機能は、2Dドットのレイヤーを複数組み合わせる方式。構造によってスピードと装甲値が決まるようだ。

 前身の『Space Cube』では、ボクセルベースのエディットシステムを使って自由な形の戦闘機を作り、ネットで共有することができた。『QUボット』でもその仕組みを受け継ぐが、作れることができるのは、ロボットの頭、胴体、足、腕といったコンポーネント単位。プレイヤーは作成したコンポーネントを組み合わせて、カッコいいロボットを組み立てることができる。

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▲カクカクしいロボ同士の戦闘! 性能の差が勝敗を分ける?

 エディット機能は2Dのドット絵を複数レイヤー組み合わせる方式で、子どもでも扱えるように工夫されたインターフェイスになっているのが特徴。とはいっても、誰もがエディットに興味をもつわけではないので、作成されたコンポーネントをネットで共有する仕組みを装備。なので、手早く遊びたい人は、誰かが作ったコンポーネントを組み合わせるだけでも、無数のロボットを作れるというわけだ。

 ゲームの骨格はRPG系ということで、戦闘そのものはほぼ自動解決されるシステムになりそうだ。見た目や性能の異なるコンポーネントを上手に組み合わせて、どんなロボットをデザインするかが工夫の見せどころになるハズ。作ったロボットを3Dプリンタで出力してくれるサービスも展開するとのことで、ちょっとほかにない遊びを提供してくれそうな本作。2014年末に、iPhone/Android/Windows Phone向けに配信予定。

※“Qubit Games”公式サイト

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▲作成したバーチャルロボを、リアルに出力してくれるサービスも展開予定。前作『Space Cube』でも実績アリだ。
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▲開場から閉会まで大人気だった『THE MODERN ZOMBIE TAXI DRIVER』のブース。HMDを装着してプレイ!

■『THE MODERN ZOMBIE TAXI DRIVER』(Vitei)
 これまでにないレベルのバーチャルリアリティ体験を堪能できるヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)、“Oculus RIFT”。“BitSummit 2014”の会場でも、和洋を問わず大人気のガジェットで、対応ゲームが1ダース以上は出品されていたが、なかでも最高の完成度に見えたのがこの作品、『THE MODERN ZOMBIE TAXI DRIVER』だ。
※その出来栄えから、“BitSummitアワード”の大賞に相当する“朱色賞”を受賞!

 ゲーム内容はその名の通り、乗客を運ぶドライビングゲーム。ただし、載せるのはゾンビ。急ブレーキで勢い余った乗客がフロントガラスからが飛び出そうが、道端を歩く通行人を轢きまくろうが、「ゾンビだから関係ないぜ!」という『Crazy Taxi』をもっとクレイジーにしたような内容なのだ。

 HMD専用ゲームということで、ドライバー視点固定。とくに秀逸なのは、各種の情報インターフェースを車内のダッシュボードや、バックミラーなど、自然とそこに存在するガジェットだけで表現していることだ。ナビゲーションパネルを見れば目的地がわかるのはもちろん、乗客を送り届けたら料金メーターからシュパシュパとゾンビ紙幣が飛び出してきて車内に散らばるなど、文字情報に頼らず、直感的にわかるのもいい。

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▲いわば車内全体がインターフェース。操作も簡単で直感的。
▲視界をHMDに覆われて、完全にタクシードライバーになりきれる。
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▲急ブレーキやめて! ゾンビが飛び出る!

 物理シミュレーションも効果的に使われている。急カーブや急ブレーキなど、激しい運転をしていると、助手席に座っているゾンビがグラグラ揺れるわ、飛び跳ねて後席に突っ込むは、ガラスを突き破って外に飛び出すはでもう大変。3人載せて出発したつもりが、到着時にひとり減っている、なんてことも日常茶飯事。だけどゾンビだから問題にならないのだ!

 ……といった笑えるゲーム性が、HMDを通した“そこにいる感”によって増幅されて本当におもしろい。助手席や後席の状況を時折確認する必要もあるため、ヘッドトラッキングによる全方位の視界が活かされるという、じつに“Oculus RIFT”向けの内容になっている。単なるドライビングゲーム以上のVR感を出すために、タクシーという題材を選んだのはまさに慧眼。キョロキョロしながら運転すると、10分もかからずにひどいクルマ酔いが始まるのがタマにキズだけど。

 本作はスコットランド出身のゲームクリエイター、クリス・マクローリン氏ら3名のチームによる個人制作。現在は京都市内にあるゲームデベロッパーのViteiに勤務するかたわら、実験的に本作を開発しているそうだ。どういう形でリリースするかはまだ決めていないそうだが、“Oculus RIFT”が正式リリースされたら、何らかの形で皆さんのもとに届けられるようにしたいと語っていた。VRゲームファンは要チェックですぞ!!