鯉沼新社長が描くコーエーテクモゲームスの未来図
3月23日、コーエーテクモホールディングスは、4月1日付けで、同グループの主要な事業会社であるコーエーテクモゲームスおよびコーエーテクモウェーブの組織変更と人事体制の変更を発表した。今回の人事異動では、新たにコーエーテクモゲームスの代表取締役社長(COO)に、『戦国無双』シリーズなどのプロデューサーで、数々のコラボレーションタイトルも手掛けている鯉沼久史氏が就任。また、小笠原賢一氏や早矢仕洋介氏ら、現役のゲームクリエイターが昇進・昇格しているのも見逃せないポイントだ。そこで、今回の人事の持つ意味や、コーエーテクモゲームスの将来像について、鯉沼新社長に聞いた。
(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)
※この記事は、週刊ファミ通5月21日増刊号(2015年4月30日発売)に掲載されたものと同内容です。
社長としても、クリエイターとしても コーエーテクモゲームスを引っ張る
──今回のインタビューでは、鯉沼さんの社長就任に加え今期のコーエーテクモゲームスの方針など、多岐に渡るお話をうかがえればと思います。まず、2013年4月にコーエーテクモゲームスの副社長に就任され、そして今回代表取締役社長に就任されましたね。
鯉沼久史氏(以下、鯉沼) はい。改めて振り返ると、副社長になって以降、今回の社長就任に向けての準備といいますか、襟川(陽一氏。新代表取締役会長)から、開発まわりを中心に、少しずつ権限を託されてきました。
──その時点から、将来的な人事の話があったわけですか?
鯉沼 いえ。とくに具体的な話があったわけではありませんが、将来的にはいずれ自分が「(社長に)なるのかもしれないな」という予感のようなものはありました。と言うのは、たとえば、社内のゲームソフトのバージョン管理、いわゆるα版やβ版の承認の判断が、副社長になった時点から私のほうに移ってきました。また、基本的には襟川と私の会社に対する考えかたや方向性が同じだったので、襟川から「まかせるよ」といった感じで、この2年のあいだに少しずつ私に権限が委譲されてきました。
──では、突然社長になったのではなく、2年かけて襟川さんがやってきたことを少しずつバトンタッチしながら、なるべくしてこのタイミングで就任した、という感じですか?
鯉沼 そうですね。ただ今回の人事異動で、襟川は最高経営責任者である代表取締役会長(CEO)になったので、自分は実行責任者である代表取締役社長( COO )として、今後も時間をかけて、襟川から仕事を引き継いでいくことになると思います。
<POINT>
鯉沼久史氏が新社長に就任 小笠原氏も常務執行役員に
今回発表されたおもな人事異動は以下の通り。鯉沼氏の代表取締役社長(COO)就任にともない、代表取締役会長の襟川恵子氏が取締役名誉会長に、代表取締役社長 メディア・ライツ事業部長の襟川陽一氏が、代表取締役会長(CEO) メディア事業部長に就任することになった。
おもな人事異動(4月1日付け・敬称略)
新役職名/氏名/旧役職名
取締役名誉会長/襟川恵子/代表取締役会長
代表取締役会長(CEO)メディア事業部長/襟川陽一/代表取締役社長 メディア・ライツ事業部長
代表取締役社長(COO)ソフトウェア事業部長兼ソフトウェア開発本部長/鯉沼久史/取締役副社長 ソフトウェア事業部長 兼 ソフトウェア開発本部長
常務執行役員 ソフトウェア事業部副事業部長 兼 ソフトウェア3部長/小笠原賢一/執行役員 ソフトウェア事業部 ソフトウェア3部長
執行役員 ソフトウェア事業部 市ヶ谷開発1部長/早矢仕洋介/ソフトウェア事業部 市ヶ谷開発1部長
ソフトウェア事業部 市ヶ谷開発2部長 兼 ガスト長野開発部担当部長/菊地啓介/ソフトウェア事業部 市ヶ谷開発2部長
今後もゲームクリエイターと社長業を両立していく
──コーエーテクモゲームスというと歴史が長く、ゲーム業界の老舗でもありますよね。その会社の社長というのは、プレッシャーや重責を感じるものですか?
鯉沼 これまでは、ゲームクリエイターとして、ひたすらがむしゃらにゲームを作り続けてきました。少なくとも自分が入社した当時よりも会社の規模は大きくなっていますから、今回の人事で社長になったということで、社員やその家族に対しての責任の重さというのは当然感じています。ただ、老舗メーカーの社長だからというより、これからもお客様に喜ばれるゲームをきちんと作り続けなければいかなければいけないという重みのほうが強いです。そういう意味では、じつは社長業のプレッシャーというのは、あまり感じていないのかもしれませんね(笑)。
──(笑)。我々としても、鯉沼さんはゲームクリエイターとしてのイメージが強いです。今後、業務内容に変化はあるのですか?
鯉沼 これまでも会社の経営に関する業務には携わってきました。社長になったということで、ますます会社経営業務の比率は高くなっていくとは思います。ただ、以前、取材で浜村(弘一。現KADOKAWA・DWANGO取締役)さんに「偉くなっても、ずっとゲームは作り続けてください」と言われたことがあって、いまでもその言葉がとても印象に残っているんです。社長業の比率は高くなると思いますが、今後もゲームの開発には直接関わり続けたいですね。私はゲームの開発をしてここまで育ってきたので、きちんとゲームを作って、それで会社の存在感を出すことができればうれしいです。
──ゲームファンとしても、それはとてもうれしい発言ですね。
鯉沼 ただ副社長時代の2年間でも、かなりパワーが落ちたと自分で感じていました(笑)。また、次第に開発現場と距離が離れていく感覚もあって、正直寂しい思いもあります。そういった部分は折り合いをつけながら、ゲームの開発をするときは集中してやるし、社長業は社長業でしっかりやる、ということですね。そうして続けていけば、何かしらの答えが見えてくるのかなと思っています。いまはまだ社長になりたての新人なので、右も左もわからない状態ですから。
──今回の人事では、小笠原(賢一)さんや早矢仕(洋介)さんなど、ゲームクリエイターの方々の昇進も目立ちます。
鯉沼 もともと弊社には、開発プロデューサーが部長としての権限を持つという伝統があります。会社としても、新経営体制への移行を進めていかないと、変化の激しいこれからのゲーム業界についていけなくなってしまいます。小笠原は、『無双』シリーズや『討鬼伝』、そして『ドラゴンクエストヒーローズ 闇竜と世界樹の城』(以下、『DQヒーローズ』)を成功させましたし、Team NINJAの早矢仕は、『デッド オア アライブ』シリーズのほかにも、『ゼルダ無双』の開発に携わり、現在ではアーケード用ゲームの『ディシディア ファイナルファンタジー』を開発しています。それから、ガスト長野開発部も、若きリーダーを台頭させたいということで、今回の人事で菊地(啓介氏)が担当することになりました。彼らには期待もしていますし、我々としては順当な人事だと考えています。
──順調に人材が育っているという手ごたえを感じている、と。
鯉沼 はい。2008年にコーエーとテクモが統合契約書を締結し、2010年の4月にコーエーテクモゲームスができたわけですが、その経営統合後、一時期業績が悪くなった時期がありました。その後、とくに襟川が社長に復帰してからは、順調に人材も会社も育ってきた印象がありますね。私は、襟川とも「IP(知的財産)を軸とした経営をしたほうが成長できる」という話をしました。その方針のもと、実際に会社が成長することができましたし、この4、5年でその考えかたは会社全体にも根付いた感じがします。ただ、これからさらに躍進するためには、我々の世代のがんばりが言うまでもなく不可欠です。
──鯉沼さんが信頼できる方々が集まっている印象を受けました。
鯉沼 私の希望で集めたわけではありませんが、確かに自分が仕事をしやすい人間が昇格してほしいという思いはありますね。