3DCGは“会社にノウハウを貯める手段”に

“黒川塾 (二十九) ” 3DCGアニメの未来とは? 『アスラズ ラース』の制作秘話も披露されたトークをお届け_01
▲黒川文雄氏。

 おなじみ黒川文雄氏による“黒川塾 (二十九) ”が、デジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパスにて2015年10月27日に開催された。

 黒川塾とは、“すべてのエンターテインメントの原点を見つめ直し、来るべき未来へのエンターテインメントのあるべき姿をポジティブに考える”というテーマのもと、各界の著名人を招いてトークを行う会だ。今回のテーマは“3DCGアニメーション制作のミライ”となり、最新の3DCGにまつわる事情や、最新のアニメ制作現場に迫る内容となった。

 以下より、登壇者によるトークの模様をお届けしよう。

【ゲスト】
阿尾直樹氏(グラフィニカ)
板野一郎氏(アニメーション監督)
神山健治氏(アニメーション監督)
土屋和弘氏(カプコン)
森口博史氏(グラフィニカ)

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▲左から、黒川文雄氏、阿尾直樹氏、板野一郎氏、神山健治氏、土屋和弘氏、森口博史氏。

なぜ3DCGを使うのか

 なぜアニメ制作現場で3DCCGを使うようになったのかという疑問に対して、板野一郎氏は理由のひとつに“コストパフォーマンスがよいこと”を挙げた。また、板野氏によると、新人アニメーターが一人前になるには通常5年ほどの時間がかかるが、3DCGを用いた劇場アニメ作品『楽園追放 -Expelled from Paradise-』の制作現場においては、4月に入社した新人が3ヵ月ほどで使いものになるほど、技術の習得が早かったのだという。板野氏は「3DCGには大変なことも多いですが、やりかたを覚えて分業にしていけば、かなりいいスケジール配分ができます」と語った。

 神山健治氏は、アニメーターの給料が低いということが世間一般に流布していること、現実にも食べていくことが難しいという問題について語った。神山氏が新人アニメーターであったころは、制作現場にクーラーがなく、設備はビデオデッキが2台、給料は手取りで6万あればいいほうだったそうだ。現在はその20年前よりも、さらにアニメーターが食べられないことが現実化しているという。
 さらに、アニメーターは5年ほどの修行期間も必要になるため、神山氏は「若者が“ものにならない”仕事をだんだん選ばないようになってきています」と危惧しているそうだ。3DCGの導入によりアニメ制作現場へ参入するハードルを下げることで、才能がある人を取りこぼさずに採用できる、より広くアニメ業界への参入者を求められると、神山氏は期待しているとのことだ。

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 アニメとゲームの両方の制作現場を知っている森口博史氏は、3DCGは会社にノウハウを貯めることができる手段であるとも語った。フリーランスの2Dアニメーターの技術はその個人でしか培えないが、デジタルの3DCGは歩きのモーションなどをライブラリ化していき、新人アニメーターもそのライブラリを支えることで、会社として技術を貯蓄できるのだという。

 神山氏は、アニメーターは経営側をコントロールすることはできないが、制作現場で新しい手法をフローしていくことができると主張した。たとえば、ベテランのアニメーターにもタブレット端末での作画をしてもらい、3DCGを作品の中に取り込むことで、作業を楽にできるだけでなく、インフラとしてつぎの作品に使っていけるようになるのだという。

3DCG、デジタル作業はいいことばかりではない?

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 神山氏は、3DCGの利点と欠点についても語った。
 2Dアニメでは、コスト削減と時間の短縮化が課題となり、昔の制作現場では作画が必要な舞台を限定するなどで解決を図ってきたそうだ。たとえば、『マジンガーZ』では戦いの場所を、なるべく主人公の住んでいる場所に設定していたのだという。いまでは手描きのアニメでノウハウが貯まっていったことで、ロードムービーなど新しい舞台が出てくる作品も積極的に作れるようになったそうだ。2Dアニメには、そうした柔軟性があるのだという。

 3DCGアニメでは、コスト削減と時間の短縮化ができるものの、基盤となるモデルを作る必要がある以上、新しい舞台をすぐに作ることができないという欠点があるそうだ。そのため、企画・脚本執筆の段階から制作にかかるコストを計算していく必要に迫られてしまうのだという。

 黒川氏からは「タブレットの作画にすると、アニメ独特のタッチが失われたり、ベテランのアニメーターにとっては作業がしにくくなるのではないか」という疑問が挙がった。神山氏はこれに「タブレットで作業をすると紙の作業との誤差ができてしまいますし、いまのアニメーターにはその誤差を埋めていくストレスが多いですね。絵がうまい人ほどタブレットに抵抗があるようですし、“ちゃんと歩けるのに、松葉杖を使わなければいけない”という感覚があるそうです」と答えた。なお、アニメーターには、タブレットペンの先の素材を工夫をすることで、その問題を解消する方もいるのだという。

 また神山氏は、現在は“Storyboard Pro”というソフトウェアがあり、簡単にデジタルのムービーコンテを作るだけでなく、すぐに自分で声を当てることもできるようになっているとも語った。このソフトウェアの導入のおかげで、打ち合わせのその場ですぐに共有モニターで演出を映し出すこともでき、トライアンドエラーの作業が従来よりも格段に楽になったのだという。
 やはり、便利なデジタルツールは、アニメ現場で積極的に用いていく傾向にあるようだ。

『アスラズ ラース』が目指したのは“日本人にしか作れないもの”

 土屋和弘氏は、2012年に発売された『ASURA’S WRATH (アスラズ ラース)』がアニメとゲームが融合した内容となったことについて、その理由を語った。

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 土屋氏は、現在の据え置き機のパッケージソフトの開発費が、場合によっては数十億になるという現状があるため、グローバルで展開してソフトを売っていくことが大前提になっていると語った。そこで、開発を担当したサイバーコネクトツーと話しあった結果、“日本人にしか作れないものを作り、チャレンジャブルにやっていこう”と考えたとのだという。そこで、アニメの演出を取り入れたうえで、主人公が逆境に立ち向かいつつ怒りの感情を覆していくという言葉や文化が関係ない熱い要素を入れ、なおかつ王道のゲームの作りかたとは正反対のものにするというコンセプトが固まっていったのだそうだ。
 また、ユーザーに疲れることなく楽しんでもらうために、土屋氏は少年マンガや2クールのテレビアニメのような“区切り”についても考慮したのだという。“短い時間でスカッとしてもらい、明日またプレイしてスカっとしてもらう”という遊びを期待していたとのことだ。

 また、土屋氏はサイバーコネクトツーという会社と組んだのは“自分たちにできないことをできる人たちと組んで、化学変化を楽しんだほうがよい”という考えが理由であると語った。そうした異なる技術を持つスタッフとともに仕事をすることで、自分たちもさらにレベルを上げることができるのだそうだ。