気になる部分をいろいろ直撃

 いよいよ価格と発売月が発表された、プレイステーション4向けのVRシステムPlayStation VR(PS VR)。バンドルなどを含めた製品展開や、非ゲーム系も含めたコンテンツ提供などはどうなっていくのか? 現在サンフランシスコで開催中のGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)会場で、SCEワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏に話を聞いた。

PlayStation VRについて吉田修平氏にインタビュー。バンドル版の可能性や日本での予約について聞いた【GDC 2016】_02

価格・発売日・予約・バンドル

――ついに価格が発表されました(日本での価格は税抜きで44980円)。調整も大変だったかと思いますが、まずは率直に価格についてどのようにお考えですか。
吉田修平氏(以下、吉田) 大体、目標にしていた価格に収めることができたので、良かったかなと思います。ただ、やはりVRとしては、最初から気持ちのいい体験を届けるのが重要で、価格ありきでスタートしたプロジェクトではないんですよ。さらにコンソール(家庭用ゲーム機)ベースなので、長く使ってもらわなければいけませんから、その時とにかく最先端の技術を使おうということで、今年まで待ったんです。それは120ヘルツ表示ができるOLEDディスプレイですとか、世の中になかったものをPS VR用にカスタムで起こして使うといった部分も含めてですね。
 そうやって「きちんとした素晴らしい体験を届けるために、必要な物はちゃんと入れる」という方針で作ってきて、その上でそれをいかに安く届けられるかという部分で目標としていたのが、大体あれぐらいだったんです。

――発売時期については10月ということで、当初発表より遅れる形になりました。こちらはいかがでしょうか。
吉田 個人的には少し残念な部分もありますが、我々ハードの開発自体は順調に進んでいて、大体去年からの想定通りなんです。けれども、VRへの期待感がすごい盛り上がっているので、そこに対して十分な数を揃えてローンチしようということになって、それで生産する時間が必要になったのが(理由の)ひとつ。
 そのことによって、ローンチタイトルですとか、先ほど話したような、最初からいい体験を届けたいという部分で、いろんなデベロッパーさんとノウハウを共有して、お互いに勉強して高め合いながらやっているので、(発売を10月にすることで)その時間が取れます。
 それとVRは体験してもらわないとわからないというのがあります。今月もGame On(※日本科学未来館で5月30日まで開催中の企画展「GAME ON ~ゲームってなんでおもしろい?~」)などに出展していて、すごくいい反応を頂いているんですね。ですので、そういった活動も夏を通じて全世界でやりたいという、そういったことを総合して、あの結果(10月発売)が一番いいだろうということになりました。

――ちなみに日本での予約というのは……。
吉田 ヨーロッパだけ始まったんですけども、アメリカと日本はまだです。そのうち、SCEJAから発表があると思います。

――また発売月は出ましたが、グローバルな製品の発売では往々にして発売週が地域によって違うこともあります。この辺りはいかがでしょうか?
吉田 できるだけ多くの国・地域でほぼ同時に出せるよう目標にしています。ただ、やはり実際に製造をして割り振りをして、最終的な調整段階にならないとそこまで細かい日程は出せないので、この段階ではそこ(日にち)まで発表しなかった、ということです。基本的にPS4のローンチのようなことはないと思いますよ。

――バンドルなどはいかがでしょう。PS4本体とのセットとか、あるいはローンチパックではソフトがもうちょっとつくとか……。
吉田 可能性はあります。昨日発表したのはあくまで全世界共通のベーシックなセットですので。例えばPlayStation Cameraがなんで付属しないのかと言われることもあるのですが、すでに結構多くの方がお持ちで、配信などに使って頂いていますが、接続端子がひとつしかないので、(仮にPS VRの基本パッケージに同梱することで)そこに2個目があっても使えないんですね。なので基本パックには入れないと。
 PS Moveについても同じです。すでにPS3の頃から全世界で結構売ったもので、部屋のどこかにあったりする。そこに最初から追加で2本同梱してしまうと、人によってはそれは余ってしまったりしますよね。ですので、どちらもすでに持っている人が多いという想定のもと、ダブらないように基本パックには含めないように構成して、その分できるだけ価格を抑えるという考え方です。
 ですが、やはり初めての方、PS4ユーザーでない方もいらっしゃいますので、基本パックとは別にどういうパッケージ、バンドルをやるか各地域で考えましょうという形になっています。

――各リージョンの管轄でプラスαを入れたバンドルもありうるということですね。
吉田 そうです。これまでもPS4やPS Vitaのパッケージは各地域のビジネス担当者が企画している形ですので。日本でも日本向けのものを発表する可能性があります。

PlayStation VRについて吉田修平氏にインタビュー。バンドル版の可能性や日本での予約について聞いた【GDC 2016】_04
▲PSVRの基本パッケージには、使用に必要なPS Cameraなどが含まれていない。ただしあくまで基本セットには含まれないというだけで、各リージョン別に基本構成以外の製品を同梱したパッケージが出るようだ。

シネマティックモードについて

――さて発表会では、PS4のメニュー画面やゲーム・映像などの非VRコンテンツをVR空間内の大スクリーンに映し出して利用できる“シネマティックモード”が発表されて話題を呼びました。
吉田 私もよく使っているんですけども、(VR空間内に映しだされているスクリーンの)周りがとにかく真っ黒で、映画館で照明が落ちたのと同じ状態なので、すごく集中できるんですよ。とくに映像ものは良くて、この前2時間ぐらいの映画を観てみたんですけど、とても集中して楽しめましたね。

――バーチャルな大画面でVRではないゲームや映像を観るというのは、どちらかと言えば旧来のヘッドマウントディスプレイの利用法に近いですが、想像以上の反響がありました。
吉田 日本のユーザーさんからは反響があると思っていました。というのは、去年ぐらいから「これは普通のビデオなども観られるのか」ということをずっと聞かれていたんです。そういうのがわかっていたので、発表できるのを楽しみにしていたんですよ。
 特にあれだけ大きいスクリーン(※225インチのスクリーンが2.5メートル先にあるように見える)というのはなかなか個人の部屋では持てませんし。リモートプレイの使われ方でよくあるんですけども、家族でリビングルームにいて、お子さんがテレビを見ている時に、自分はゲームをするといったことができますよね。シネマティックモードでもそういう使われ方がされるのではないかと思っています。

――ちなみにシネマティックモードでゲームをする時には、解像度は1080Pとかでしょうか?
吉田 元のゲームはそうなんですけども、両眼分の映像をバーチャル空間に浮かんだスクリーンに映し出すという形なので、解像感はシュリンクする(小さくなる)感じになりますね(※編注:もともとPS VRに使用しているパネルの解像度が1920×1080ピクセルなのに対して、そこに両目分の映像を映し出すので、片目分の解像度は960×1080ピクセル。バーチャルスクリーンが表示される領域はさらにその一部なので、大きく見えていても内部のディスプレイパネル上の実際の表示ピクセル数は相応に少ない)。

――ゲームの内部的なレンダリング解像度は同じということでよろしいですか。
吉田 はい、内部的にはまったく一緒です。

PS Plusの活用や、非ゲーム系コンテンツの提供について

――別のVRプラットフォームのメーカーさんと比較して、PS VRの場合はすでにPS Plusという月額サービスを持っているというのが他にない部分だと思います。例えばPS Plusにはフリーゲームなどもあるわけですけども、「今月のフリーVR」といった可能性は?
吉田 まだ何も具体的にお伝えすることはできませんけども、そういった可能性はあります。PS Plusの会員さんはPS4のもっともコアなユーザーさんで、PS VRを最初に買っていただく層ともかなり重なっているのではとも思いますし、PS Plusコミュニティを大事にしたいという考えもありますので、メンバー専用に何かを届けたいとか、例えば最初にβテストをやりたいということもあると思います。

――ちょっとした360度映像が新たに体験できるだけでも嬉しいですもんね。
吉田 そうですね。あるいはTGSでVIPラウンジにご招待するとか、そういうことをやるのもすごく喜ばれますし、なにか考えていくと思います。

――昨日のイベントではヴァイオリンの演奏を収録した360度映像のアプリケーションや、360度写真のビューワーなど、非ゲーム系のVRコンテンツも体験できました。個人的に360度映像のドキュメンタリーを公開しているVRSEの作品が好きだったりもするのですが、ああいったゲーム以外の360度映像系のメーカーと連携してコンテンツを提供してもらう可能性はどうでしょうか?
吉田 すごくありますね。本当にいろんな会社さんと話をしています。昨日はまだ具体的に社名を出せる段階ではなかったというだけで、これから発売までのどこかの段階で、我々がいま話をしている(ゲーム系以外の)パートナー企業さん、PS VRにアプリを出して頂く会社様について説明したり、デモをするタイミングが来ると思います。我々もそこはすごく大事だと思っていますので。
 イベントやスポーツや、その時々で新しいビデオコンテンツが出てきますが。ゲームをする方に買っていただいたとしても、その家族の方にもPS VRを普段から使って頂くという意味も含めて、(非ゲーム系のコンテンツは)すごく大事だと思っています。

吉田 昨日デモを行ったヴァイオリニストのジョシュア・ベルのビデオは、PS VRで(360度の)パノラマビデオのクオリティを追求するとここまで綺麗にできるというショーケースだったのですが、けっこう綺麗に見えましたよね。120ヘルツのトラッキングがあるとすごくスムーズですし、OLEDの表示もすごく綺麗なので。
 それとPS4はメディアプレイヤーとして、USBドライブ経由で個人の写真や映像などを見ることもできますが、PS VRではそれを拡張して、パノラマの360度ビデオや写真を見られるようにします。

――VR空間でモデリングができるOculus Mediumや、ペイントができるグーグルのTilt Brushのような、クリエイティブ系のソフトの可能性はいかがでしょう?
吉田 絶対あると思います。実はHarmonixの『Music VR』というソフトにも、そういう機能が入っているんですよ(※自分の好きな音楽を流しながら360度・立体のVR空間でのペイントが楽しめる)。あとはMedia Moleculeの『Dreams』なんかも楽しく遊んでいます。まだ正式に発表していないですが。

――発表会ではソーシャルVRのデモも面白かったです。簡単なジェスチャーぐらいのやり取りでも、そこに人がいるんだっていう存在感があると違いますね。意味なくハイファイブしてみたり、やっぱりそういった方面のコンテンツの開発も進むといいなぁと思いました。
吉田 VRにはああいうの(ソーシャル要素)もいけますよね。やっぱりあの目の前に人がいる存在感というか。

――あのデモはそういう要素を実証するプロトタイプに過ぎないというのはわかりつつ、たとえば、もっと発展させて『PS Home』のVR版のようなものの可能性はいかがでしょうか。
吉田 (PS VRでのソーシャルなVR空間には)いろいろな可能性があると思います。たとえばPCでは、Altspaceとか、大きなスペースにたくさんの人が入ってコミュニケーションできるようなサービスが出てきていますよね。
 ですから、そういうサービスがPS VR向けに来る可能性もありますし、あるいは7~8人ぐらいの少人数で同じ部屋に入って話をするといったようなサービスもありえるかなと。普通のオンラインゲームでも、ロビーをああいった形にこしらえてあげて、ゲームに入る前にちょっと話をするといった形でも楽しいでしょうし。
 あのデモは我々も大変気に入っているので、今後どういうふうに使うかは我々としても検討していきたいですね。今回とりあえず出してみたので、みなさんのフィードバックを聞きながら考えていこうと思います。

PlayStation VRについて吉田修平氏にインタビュー。バンドル版の可能性や日本での予約について聞いた【GDC 2016】_01
▲発表会に出展されていたソーシャルVRデモ。4人プレイでチャットしながらVR空間で遊ぶことができる。

――個人的には来年のE3あたりとか、もう記者として会場に並んで入るより、みんなでVR空間に集まって発表を見たいですね。
吉田 そうですよね。アメリカでは(VRの)スポーツ中継などをやっているところもありますし、360度のパノラマ映像ではなく180度だけだったりしますけど、みんながステージの方を見るようなものだったら360度である必要はあまりないですし(十分に機能する)。あるいは中継じゃなくて高品質なビデオを録画しておいて配信するとか、そういうのも良さそうですよね。

――PS VRでは、PSNを通じてゲームはもちろん、アプリケーション、映像、さまざまなものを届けることができると思います。PC系のVRとは違って、必ず何らかの形でそこを通るという部分をどう活かしていきますか?
吉田 プレイステーションと同じですね。コンソールプラットフォームはみんなそうですけども、我々が間に入ることでクオリティを担保して、安心して楽しめるものを提供していく。そこは変わらないと思います。