異例の注力から伺えたVRへの傾倒
米時間の2016年10月6日、アメリカのカリフォルニア州サンノゼでOculus VRが主催する開発者向けカンファレンス“Oculus Connect 3”が行われ、基調講演では親会社であるFacebookのマーク・ザッカーバーグ氏も登壇し、最新デモなどを披露した。Facebookの規模と、イベントのVR業界以外からの注目度を考えれば異例と言ってもいいほど、VRへの傾倒が伺える充実の内容だった。
Facebookが約2000億円という巨額の投資でOculus VRを傘下に収めたのは2014年のこと。いまやSteamVRのValveやPlayStation VRのソニーといったゲーム系のVRヘッドマウントディスプレイが続々と展開され、巨人Googleも(Cardboardプロジェクトを経て)Daydreamで本格的に参戦。
「VRにソーシャルプラットフォームとしての可能性を見出したから」という買収時のふわっとした説明と金額の大きさのギャップに当時納得できる人はそこまで多くなかったと思うが、どうやらこれが単なるビデオゲームの新しい拡張機器というレベルの話ではないというのはなんとなく実感されてきたのではないかと思う(そのレベルであれば2000億円の投資は無茶)。そして今回ザッカーバーグ氏自ら披露した“ソーシャルVR”デモには、同氏が見ている未来の可能性の片鱗が伺えた。
Facebookのようなソーシャルプラットフォームの新たな形
このデモはFacebook本体の開発者向けカンファレンス“F8”で披露されたもののアップデート版で、ザッカーバーグ氏が実際に壇上でOculus RiftとモーションコントローラーのTouchを装着し、リアルタイムに披露された。
基本的にはバーチャル空間でのインタラクティブなチャットプログラムとでも言うべき内容で、各参加者はアバターを通じて表示され、身振り手振りを交えつつ、ボイスチャットで交流できる。アバターはリアルタイムに顔や手を動かし、(恐らく実際には着用者の表情認識や視線追従まではやっていないと思うが)表情を変え、リアクションに合わせて視線なども動くので、デフォルメされた造形なのに、そこに確かに人間を感じる実体感(VR界隈の用語で言うところのプレゼンス)が感じられる。
また参加者は360度写真をアップロードして周囲に展開し、その空間にいるかのように表示できるほか、トランプやチェスをしたり、フェンシングの剣などの3Dオブジェクトを取り出して手に持ったり、さらに空間にペンで落書きして剣を作り出してみせる、なんてこともできる。
ここまではVR空間内だけの交流に留まっているが、さらにVR外からのFacebookメッセンジャーのビデオ通話をVR内で受けたり、それを表示しているバーチャル携帯込みで自撮りをするなんていう、現実と仮想のミックスも可能。
これは要するに、単に「FacebookをVRに対応させる」というよりももっと根本的なコンセプト、現在FacebookなどのソーシャルプラットフォームがWebやアプリを通じてやっているように、より現実を拡張する人々の交流空間としてVRを使うということだ。
Facebookにとって、それが実現可能になるようにOculusを通じて業界を発展させて刺激すること、実現できるようになった時にきっちりビジネスを展開できることそのものが重要なのであって、恐らく究極には、そこで動くのが現在のFacebookと同じネットワークである必要も、利用者が使うヘッドマウントディスプレイをRiftに限定する必要すらもないだろう。
技術改良からコンテンツ開発支援まで幅広く計画
以上を念頭に置くと、残りの発表内容の意図もはっきりしてくる。例えばソーシャルVRデモの前段階としては、“Oculus Avaters”(RiftではTouchローンチ時に対応、Gear VRには2017年に対応)、“Oculus Parties”および“Oculus Rooms”(いずれもGear VRで数週間以内に対応、Riftには2017年に対応)が発表されている。
これはそれぞれ、複数のアプリで横断的に使えるアバター機能、横断的に機能するボイスチャット機能、ミニゲームや映画を楽しめるマルチプレイのロビー機能であり、ソーシャルVRデモを構成するパーツとして必要なものだ。
また、VRはまだいろんな点で機器の敷居が高いと考える人も多いと思う。これまでもサムスンと提携して高品質なモバイルVRHMDの“Gear VR”を開発・発売するといった展開を行ってきたが、Oculus Connect 3ではRift並のクオリティでGear VRにはないポジショントラッキング(プレイヤーの位置移動を検出して反映する)を搭載し、しかも単体動作するスタンドアローン版プロトタイプ“Santa Cruz”を発表。
また現状のRiftについても、既報の通り新技術“Asynchronous Spacewarp”により最低動作環境の引き下げに成功。対応PC“Oculus-Ready PC”には499ドルのものも登場する。Oculus-ReadyなノートPCも登場予定だ。
開発コミュニティへの投資という点では、エピックゲームズのゲームエンジンUnreal Engine 4で開発され、Oculus Storeで配信されるタイトルについて約5億円の売上までOculusがエンジンのロイヤルティ代5%を負担することが発表。開発者コミュニティへはこれまで約260億円を投資してきており、今後もさらに260億円の投資を予定しているという。
コンテンツ開発については、ウォルト・ディズニー・スタジオや映画「ブレードランナー」、そしてNASAなどとのコラボレーションが進行しているほか、“Oculus NextGen”としてUnity、サムスン、AMDなどと共同で大学でワークショップなどの学習支援を提供。そしてマイノリティや社会の多様性を支援するコンテンツ開発のために約10億円規模の出資を行うとのこと。