2018年5月12日、13日に京都で開催され、つつがなく終了したインディーゲームの一大祭典、BitSummit Volume 6。例年にも勝る盛り上がりで(初の入場者数10000人突破!)、BitSummitというイベントの定着ぶりを改めて実感した記者だったが(今回から運営を担うことになった802メディアワークス チーフプロデューサー、吉田隆司氏の「5年続けているということは、もうひとつのブランドです」という言葉が心にしみるところ)、取材で身を置いた会場は妙に心地よかった。

 そんな記者はBitSummitの取材は3年目になるわけだが、ひときわ楽しみにしているのが関係者へのインタビューだ。インタビューは基本、ステージイベントへの登壇者を対象に、希望メディアを募って行われることになり、海外メディアなども殺到するところから、各々に与えられる時間は15分ほど。海外メディアに対して、「通訳も介して15分なんて、ほとんどひと言ふた言しか聞けないじゃん!」と思うのは、海外取材で似たようなシチュエーションに遭遇しているなら誰もが感じることだと思うが、「だったらせっかくのその貴重な時間、日本のクリエイターに取材する機会の少ない海外メディアに譲ればいいのに」とはならないのは、人の性、いや記者の性というもので……。

 そんなBitSummitのインタビューで記者が気に入っているのは、そのほどよい力の抜け加減。そもそもインタビュールームはひと部屋しか用意されておらず、そのひと部屋に机が4つほど点在。取材陣は、「あっちでは○○さんが、○○さんの取材受けているなあ~」などと、多少集中力を切らしながら、インタビューに臨むことになるわけだ。しかもそのインタビューも、基本は差し迫ったトピックがあるわけでもなく、そのときの講演をネタに興味の赴くままに語り合う……というていになっており、インタビュイーの人となりが知れて楽しい。ときに、インタビューがステージイベント前に組まれたりしていて、「何を聞けばいいのだ?」という感じにもなるが、それはそれでまた愛嬌といったところ。

 しかも、インタビュー対象にはけっこうなビッグネームがいたりするわけだが、この分け隔てないまったりとした雰囲気は、いかにもインディーゲーム流で、まあ悪くない。

 というわけで、BitSummit Volume 6に行ったインタビュー集をお届けしよう。トップバッターは、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏。吉田氏にとって、2015年から4年連続での訪問となるBitSummit。過去記事を紐解くと、BitSummitの会期にあわせてのインタビューは、ファミ通ドットコムでは3年連続となるが、吉田修平氏のお話はいつも刺激的。何よりも、ゲームのことを語る口ぶりがとにかく魅力的で、「おお、遊んでみたい!」と思わせてしまうところからも、ゲーム愛がにじみ出ている。

吉田修平SIE WWSプレジデントに聞く!「プレイステーション VRに対するデベロッパーさんの取り組みは、私の想定以上のペース」_03

おすすめ上手な吉田修平氏が、今回自信を持って推薦するゲームは……?

――まずは、BitSummit Volume 6のご感想をお願いします。

吉田 毎年言っているのですが、今年もまたひとつメジャー感が増しましたね。びっくりしたのですが、会場に入った瞬間の熱気がすごいです。BitSummitも最初は業界内でのインディー開発者どうしの集まりみたいなところからスタートして、少しずつ広がっていったわけですが、今年はメジャー感あふれるブース作りが印象的でしたね。それは、私たちや任天堂さん、マイクロソフトさんといったプラットフォーマーさんもそうですし、インディーゲームをパブリッシュされる会社も増えていて、そこも立派なブースを構えられている。会場全体で、ゲームの発売を前提としたタイトルがほとんどを占めるような感じになってきていますよね。という意味では、インディーゲーム好きな人のためといった、ある意味業界的な集まりから、東京ゲームショウのように一般の方にも楽しんでもらえるイベントに発展したと思います。会場には家族連れやお子さんとかも多いですし。それもこれも、インディーゲームのクオリティーが上がって、粒揃いになったということが大きいですね。

――たしかに、例年に比べて女性や家族連れが多いですね。出展に関しては、メジャー感はありつつも、「おや!?」と思わせるようなタイトルもあったりと、従来からの流れも保ちつつといった感じですね。

吉田 そうですね。平日は別の仕事をしていて、「土日や夜中に趣味で作っています」とか、学生さんがやっているというような、いわゆる従来のインディーゲーム的な一発アイデアで勝負するような流れも残っていますよね。なかでも今回おもしろかったのは、『箱だけのブルース』というタイトルですが、プレイされました?

――いえ、知らなかったです。

吉田 全裸のおじさんが夜遅く、段ボール箱だけで家に帰らないといけないというゲームで、そのインターフェースというか、コントローラーが段ボール箱なんですよ。段ボール箱にセンサーを付けて、実際に上げ下げすることで、ゲームの中のおじさんが一般の人に見られないようにお家に帰るというゲームです。

――なんともユーモラスですね(笑)。

吉田 愛を感じますね(笑)。

吉田修平SIE WWSプレジデントに聞く!「プレイステーション VRに対するデベロッパーさんの取り組みは、私の想定以上のペース」_02

――吉田さんの、そのゲームに対する尽きることない好奇心って、どこからきているんですか?

吉田 本能に忠実なだけです(笑)。

――本能(笑)。で、今回もプレイステーションブースが充実していますけれども、今年のおすすめタイトルは?

吉田 今年もプレイステーション4とプレイステーション VRの両方をプッシュしています。とくに、今年の特徴としては、ここ2、3年の重要なテーマである、“アジア発のゲームを世界に発信する”という取り組みの成果が出てきています。たとえば、当社のアジアチームが“China Hero Project”として、中国にいらっしゃるデベロッパーさんをサポートしているプロジェクトのタイトルが、いよいよ発売になるタイミングに来ていまして、BitSummitでも3、4タイトル出展されています。
 そのうちの1本が、プレイステーション VRの『Animal Force』で、かわいい動物キャラクターが登場する宇宙を舞台にしたタワーディフェンス型のゲームなのですが、ヘッドセットを被っているプレイヤーと被っていないプレイヤーがいっしょに楽しめる“ソーシャルスクリーン”機能をつかったマルチプレイがとても楽しいんですよ。

吉田 もう1本が『サラリーマン脱出』というパズルゲームです。昔、当社でリリースした『I.Q.』を彷彿とさせる、モノクロでだまし絵のようなダンジョンからキャラクターを逃していく……といったゲーム性のタイトルです。サラリーマンが苦しい現実から逃げ出す……みたいなパズルゲームですね。これもVRなのですが、中国でもVR熱が高まっていて、しかもインディーゲームとして世界に発信する際に、VRのタイトルであれば、いまはまだタイトル数も比較的少ないので目立つだろうということもあると思うのですが、ほかにないようなユニークなタイトルが作られていますね。

吉田修平SIE WWSプレジデントに聞く!「プレイステーション VRに対するデベロッパーさんの取り組みは、私の想定以上のペース」_01

――中国でサラリーマンというのもおもしろいですね。

吉田 それから、プレイステーション4用の『Lost Soul Aside』。言ってみれば、『デビル メイ クライ』に『ファイナルファンタジー』のキャラクターを入れて、ゲーム性は『DARK SOULS(ダークソウル)』みたいなタイトルなのですが、これが非常にかっこいい。日本のキャラクターデザインの影響を受けた3Dアクションバトルゲームで、中国で作られているんです。とてもグラフィックスのクオリティーが高いんですね。これが少人数で作られていて、まだ遊べるステージが少ないんですけど、試遊の待機列が途切れない。中国発のイチオシタイトルですね。

――中国発のデベロッパーならではの傾向とかあるのですか?

吉田 絵のテイストですかねえ……。『Lost Soul Aside』は、『ファイナルファンタジー』シリーズのキャラクター造形にインスパイアされていると、デベロッパーさんも公言していますが、それ以外だと、文化的にもパンダのキャラクターがいたりとか、日本ともまた少し違う、アジアっぽい造形や絵の感じ、色使いみたいなものは少し感じることはあります。あと、今回のプレイステーションブースでは出していないのですが、上海で毎年夏に行われるChina Joyなどでは、中国の史実をベースにしたカンフーアクションをテーマにしたものが多いですよね。そういいったテーマですとか、キャラクターの造形に関しては、お国柄が出ていておもしろいなと思います。

――SIEも、いま中国や台湾などのアジア市場に注力されていますよね。

吉田 それは、やはり今後伸びる市場だから、というのも大きいです。ゲーム市場という意味では、中国は現在世界ナンバーワンの規模になっていますよね。それはもちろんPCとモバイル中心なのですが、家庭用ゲーム機には家庭用ゲーム機ならではの楽しさがあります。プレイステーション4も中国ではオフィシャルに販売していますし、将来的に家庭用ゲーム機の市場を伸ばしていきたい。そのときにポイントになるのが、現地のデベロッパーさんが作るコンテンツ。これがものすごく大事になると思っています。コンテンツに関しては、さきほどもご説明しましたが、中国の人ならではの感性というか、異国人にはわからないものがありますよね。しかも、中国で作っているけれども、PlayStation Networkを使って全世界に発信できる。そしてビジネスになる。そういうお互いが“パートナー”としてサポートしあう関係になることが、今後のために大事だと思っています。
 “プレイステーションプラットフォームをより普及させたい”というところで、アジアの市場にはすごく注目しています。それを実現させるためにも、いま開発力が上がってきているアジア在住のデベロッパーのタイトルを、全世界に発信するお手伝いをしたい。今年のBitSummitでは、そんなテーマが端的に出ていますね。

――あと、VRについてお聞きしたいのですが……。

吉田 あ! あともう1本おすすめがあって、私が本当に大好きなゲームなのですが、アメリカのPolyarcというスタジオのプレイステーション VR専用ソフトの『Moss』というタイトルです。これは日本のストアでもすでに配信していて、すごくかわいいネズミのキャラクターが活躍するパズルアクションゲームです。プレイヤー自身が頭を働かせつつ、コントローラーを使ってネズミのキャラクターを操作して、パズルを解いていったり、バトルを勝ち抜いていくというゲームなんですね。これがものすごくよくできていて、かつてBungieで『Destiny』を作っていたベテランのスタッフが、「自分たちの作品を作りたい」といって、独立して手掛けたゲームなんです。キャラクターのアニメーションなどの、出来がメチャクチャいいんです。これは、プレイステーション VRをお持ちの日本のユーザーさんには、みんな遊んでほしい!

――吉田さん、本当に楽しそうにゲームの魅力を語りますね。お笑いタレントの渡部建みたいなプレゼン能力の高さがありますね。

吉田 『渡部の歩き方』みたいなね(笑)。私も好きですよ、あの番組は。

――なんか吉田さんに言われたら、そのゲームを遊びたくなってしまうので……。番組持たれてもいいかもしれませんね(笑)。ということはさておき、プレイステーション VRに対する手応えはいかがですか?

吉田 はい。ですので、BitSummitでもVRに力を入れていますし、いろいろ仕込んでいるタイトルの情報も徐々に明らかになっていくと思います。すでに発表しているタイトルで言えば、いまロンドンスタジオで作っている『Blood & Truth』。これは2016年にリリースした『PlayStation VR WORLDS』に収録されていた、ギャングアクションの『The London Heist(ロンドン ハイスト)』がとても評判がよくて、「フルサイズのゲームにしてほしい」というフィードバックがたくさんあったことから動き始めた企画です。ストーリーや設定は『The London Heist(ロンドン ハイスト)』とは異なるのですが、PS Moveコントローラー2本を駆使してギャングの世界観に浸れるゲームで、いま一生懸命作っています。

吉田 あと、アメリカで作っている『Firewall Zero Hour』。これは、日本でも人気の高い『レインボーシックス シージ』のように、4人で攻めて4人で守るというゲームで、“プレイステーション VR シューティングコントローラー”を使っているんですよね。VRのタクティカルシューター。プレイステーション VRもデバイスが普及するにつれ、「より本作的なゲームや長く遊べるゲームが欲しい」という声をたくさん聞きますが、その要望に応えたタイトルの1本です。毎回どう相手が守って、どう味方が攻めていくかによって展開が変わってくるので、何度でも遊べる。それで遊んでいくと、経験値とかを貯めて、武器などもアップグレードできるという、そういうタイプのゲームなんですね。まだ未発表のタイトルも、『Blood & Truth』や『Firewall Zero Hour』同様に、気合の入ったものになっていますので、今後の新情報に注目してください。

――ソフトウェアに関しては、どんどん充実していっている手応えが?

吉田 ありますね。先日KONAMIさんからリリースされた『実況パワフルプロ野球2018』のVRモードも、ものすごく評判がいいんですよ。VRの別のモードがあるというよりは、ふつうにひとつのコンテンツとして魅力的です。試合自体ももちろんですが、観客席に行って、さながらスタジアムに実際にいるかのような雰囲気で観戦できるモードも楽しめる。非常に手応えがありますね。VRを使ったいろいろな取り組みを各社さんがされていて、それがとてもおもしろいですし、ユーザーさんにも評価していただけているのかなと思いますね。

――当初思い描いていた見取り図からすると、実現度は何%くらいです? まあ、数字にはしづらいかと思いますが……。

吉田 ゲームに関して言うと、プレイステーション VRがローンチした当時は、ベテランのデベロッパーさんでも作ってみないとわからないことがたくさんあるだろうから、「経験値を積んでいくことで、徐々にクオリティーは上がっていくだろう」とは思っていたのですが、まずはプレイステーション VR発売の当初から、『サマーレッスン』や『Rez Infinite』、当社の『THE PLAYROOM VR』、『PlayStation VR WORLDS』など、ユーザーさんから高い評価を受けることができるようなゲームが最初から揃ったというのは、想像を超えてよかったことでした。
 そのあとも、『Farpoint』やベセスダ・ソフトワークスさんの『スカイリム VR』、それからカプコンさんの『バイオハザード7 レジデント イービル』など、たくさんのスタジオさんがVRの使いかたを工夫しながら、どんどん優れたタイトルを出されてきましたよね。さっきおすすめした『Moss』のようなインディータイトルだけど、ものすごくチャーミングなゲームも出てきていて、そういう意味では、VRの技術をうまく使った、デベロッパーさんの取り組みというのは、私の想像していた以上のペースで進んでいると思います。
 ただ、普及という意味では、世の中的には一時期VRブームみたいな感じになっていて、アナリストが高い予想を上げていたので、その予想からすると、「そこまでは普及していないよね」という印象はあるかもしれません。でも、私たちからすると、プレイステーション VRは一時期ぜんぜん供給が追いついていかなかった時期もあったくらいで、私たちが立てたビジネスプランよりは、早いペースで普及しているんですよ。アナリストの推測よりは、全体的に伸びがゆっくりだったという部分でのイメージ的なものはありましたけれども、それはやはり予想が高すぎたと思うんです。端から見てもよくわからないという、VRというメディアの特性もありますが。

――本当に、VRは体験してみないとわからないですよね。

吉田 VRで見ている映像をトレーラーにして、そのままビデオで流しても、実際の体験とは違いますからね。そうやって実際にVRを体験してみて、「こんなすごい世界があるのか!」というユーザーさんからの声、体験した人からの声というのは、プレイステーション VRが発売された時期といまとでまったく変わらないのですが、ひとりひとりに体験していただかないと伝わらないという難しさはいまでもあります。
 ただ、徐々にユーザーさんも増えていますし、プレイステーション VRを購入されるきっかけが、当初は“東京ゲームショウのようなイベントで体験してみて”というものだったのが、少しずつ“自分の友だちが持っていて体験させてもらった”といった、いわゆる口コミベースが増えてきています。それはあります。ですので、そのネットワーク効果でじわじわと今後もユーザーさんは増えていくだろうと思いますし、そうやって時間が経つほど出てくるゲームやアプリケーションのクオリティーは上がっていきますので、そういう意味では想定以上の動きになっていますし、今後もすごく期待しています。