2019年1月25日に『バイオハザード RE:2』(以下、『RE:2』)、2019年3月8日に『デビル メイ クライ 5』(以下、『DMC5』)の発売を控えているほか、『囚われのパルマ』や『BLACK COMMAND(ブラックコマンド)』など、モバイルゲームでも斬新なタイトルを配信しているCS第一開発部。今回は、CS第一開発部を統括している竹内潤氏に気になる疑問をぶつけてみた!

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竹内 潤氏(たけうちじゅん)

カプコンCS第一開発部統括

『バイオRE:2』や『DMC5』などを世に送り出す、カプコンCS第一開発部が目指すものとは? 統括の竹内潤氏へ直撃インタビュー! _01

『RE:2』開発当初、怖いゾンビを作り出すためだけにすべての力を注いだ

――まず最初に、CS第一開発部がどのような部署なのか、簡単にお聞かせください。

竹内 ワールドワイドへ向けた作品作りがメインの部署となっていまして、『バイオハザード』シリーズや『DMC5』が、その筆頭です。しかし、『モンスターハンター:ワールド』の世界市場でのヒットなどを見ていると、ワールドワイド向け作品と国内がメインの作品といった垣根はなくなってきているのかなと感じますね。

――『バイオハザード』シリーズや『DMC5』のほかに、『囚われのパルマ』や『BLACK COMMAND(ブラック コマンド)』もCS第一開発部ですよね。最近はモバイルゲーム方面でもカプコンのメーカー名をよく耳にするようになりました。

竹内 ありがとうございます。

――モバイルゲームについては、どのような経緯で開発が始まったりするのでしょうか?

竹内 僕自身がそうなのですが、CS第一開発部のスタッフはつねに「新しいことをやっていきたい」と考えています。モバイルマーケットにはチャレンジしたことがなかったので、やってみたいという思いはありました。そんなとき、現場からいろいろな企画が挙がってきたんです。『囚われのパルマ』の企画自体は、じつはかなり前から目にしていて、機会があればぜひ実現させたいタイトルのひとつだと思っていました。

――『BLACK COMMAND(ブラック コマンド)』は、国内よりも海外での人気が高いですね。ここもワールドワイドというところを意識していたのですか?

竹内 CS第一開発部には3つの目標があります。ひとつは一見の価値あるゲームを作ること。プレイしてくれた方がほかの人と話をするときに、「あのゲームは一見の価値があるから一度やってみなよ」と紹介してもらえるようなゲームを作りたいんです。『BLACK COMMAND(ブラック コマンド)』は、まさしくその目標から生まれたタイトルですね。

――モバイルゲームは比較的似たジャンル、作風の作品が多い中、カプコンのアプリは独自の信念でやっている印象を受けました。

竹内 狙い通りですね。自分たちがやるのであれば、既存のモバイルマーケットにないジャンルを作ったほうがおもしろいんじゃないかと。

――これからも、モバイルゲームでは斬新なゲーム開発を目指していくのですか?

竹内 大阪弁で言う“けったいなもの”(変わったもの)を作っています(笑)。そのすべてが世に出せるかはわからないですが、「これまでのカプコンにはなかった作品だ!」と言われるものを目指しています。意外性を出せたら、それをおもしろいゲームに仕上げていきます。

――ほかにはない新しいゲームで、ユーザーの心をつかんでいくわけですね。

竹内 心の印象に残るもので言えば、『バイオハザード7』がワールドワイドで注目を集められましたね。少し言葉が悪いかもしれませんが、プレイされた方がトラウマになるようなゲームを作ろうというのが目標でした。「あれは忘れられない!」となってくれれば最高ですね。

――確かに、『バイオハザード7』を初めてプレイしたとき、ものすごく新鮮さを感じました。

竹内 あれはひとつの挑戦でした。シリーズ作品って、どうしても決まりごとができてしまい、その中でどう新しいことをやりくりするかという話になりがちなんです。ですが、『バイオハザード7』ではそういった決まりごとを気にせず自分たちが作りたいものを作ろうと言うのが出発点でした。まず最初に『バイオハザード』はどんなゲームか考えたら、怖いゲームでしょうと。ならば、とことん怖いゲームを作ろうと。「このジャンルでは『バイオハザード』にケンカは売りたくないな」と思われるようなゲームを理想、目標にした作品でした。

――『バイオハザード7』のとき、理想通りの手ごたえを感じられたと思いますが、それから2年近くが経ちます。間もなく『RE:2』の発売ですが、そのあいだにCS第一開発部の体制が変わったりしましたか?

竹内 じつは『バイオハザード7』が開発中の段階で、すでに『RE:2』も『DMC5』も開発が始まっています。この3タイトル、3チームがCS第一開発部の主力ですね。スタッフも少しずつ増えていまして、いずれは大型タイトルを4つほど回していければと考えています。

――新しいスタッフは、カプコン作品に刺激されて来る方が多いのですか?

竹内 新しいスタッフの中で、外国の方の比率がとくに増えているんです。その多くの方が『バイオハザード7』をプレイして、自分もあんなゲームを作りたいと言ってくれていました。そういった意味では、『バイオ7』はいろいろなところでシナジーをもたらせてくれたなと。

――そうなると『RE:2』も発売後の反応が楽しみですね。『バイオハザード7』と『RE:2』では目指しているところが違うと思うのですが、『RE:2』のプロジェクトが始まったときは、どのような方向性にしようと考えていたのでしょう?

竹内 『バイオハザード2』(以下、オリジナル版)のリメイクは、ファンの方からの熱望がすごかったんですよ。海外では、個人や同人でリメイク風のインディーゲームを作った方もいるくらいです。そこまで要望があるならば、というところがプロジェクトの始まりでした。オリジナル版を送り出した側の責任ではないですが、しっかりしたリメイクを出そうと。

 最初のうちはスタッフがオリジナル版にすごくこだわっていたんです。オリジナル版を変えてはいけないという気持ちが強くて。実際にそれで試作版も完成させたのですが、実際にプレイしてみて「これは違うんじゃない?」と感じまして。相応にリメイクしたとはいえ、いまの時代に20年前のゲームを遊ぶとですね……やはり古いんですよ。当時遊んでいた方が想い出込みでプレイすれば喜んでもらえるかもわからないですが、新しいユーザー、現代のゲームファンがプレイしたときに果たしておもしろいと感じてくれるのか? と。ここからが難しかったですね。当時を知っている方には「これは『バイオハザード2』だ!」と感じてもらいつつ、新しい方には「『バイオハザード』ってこんなにおもしろいゲームなんだ」と感じてほしい。このふたつのテーマをどうやってクリアーさせようかと悩みました。

 そういう意味では『バイオハザード7』とは目標がまったく違いましたね。『バイオハザード7』では逆に、『バイオハザード』を知っている人、これまでの『バイオハザード』が好きな人に「これは『バイオ』じゃない」と言われてもかまわないから自分たちの作りたい『バイオハザード』を作ろうというのを目標にしていました。

――その想いから“再:新作”というキャッチコピーが生まれたわけですね。

竹内 そうですね。形になってきたものをプレイして、これは自信をもって新作と言えるものに仕上がる確信が持てたので、新作とつけたいと。でも原作となるゲームは存在するので最新作ではないよねと。そこで、ファンが望んでいたものをもう一度お届けするという意味を込めて“再”という字はすごくピッタリきました。平林(※1)がこの話を持ってきて「どうですか! “再:新作”ですよ! いいでしょ!」と言い寄ってきたので「お、おう」と(笑)。

※1……平林良章氏。『バイオハザード RE:2』プロデューサー。

――その様子が容易に想像できます(笑)。

竹内 でもキャッチの言葉通り、すばらしいゲームになってくれたと思っています。

――『RE:2』ゲームディレクターの門井さん(※2)が、ゾンビの怖さを再認識してもらいたくて調整したとおっしゃっていました。ゾンビを走らせなかったことも、竹内さんが影響しているのでしょうか?

※2……門井一憲氏。『RE:2』のゲームディレクター。

竹内 開発当初、ゾンビにはすごく苦労しましたね。いまどき走らないゾンビっていないじゃないですか。でも走らせたらダメだなと。では、どうやってゾンビを怖くしたらいいんだろうと毎日悩み続けて。でも『RE:2』は、“恐ろしいゾンビ”さえ表現できれば8割勝ったも同然だと考えていました。なので、まずはゾンビに力を割こうと。ゾンビで大事なのは一点だけ。足がもげようが手が取れようがどうなろうが、プレイヤーを喰いにくる。それがゾンビの恐さの核だと。『RE:2』をプレイされたらわかると思いますが、つかまれるとゾンビの顔が画面にクローズアップされるんですよ。その状態で喰われるんです。

――あの演出はメチャメチャ怖いですね。

竹内 ですよね! あれが大事なんですよ。当時それをスタッフに伝えるため、アートディレクターに描いてもらったのが横顔のシルエットでゾンビが口をガッと開けているイメージボードだったんです。これを見せて「こんな感じにしたい」と。このイメージさえ表現できれば『RE:2』は8割成功だと。スタッフはそれを信じてやってくれましたね。

――ゾンビに噛まれたとき、サブウェポンを温存しておきたくても、噛まれたときの演出が怖すぎて反射的にサブウェポンを使ってしまって……。そのくらいの恐怖がありました。

竹内 そう言っていただけると嬉しいですね。これでやっと『RE:2』としてのスタートラインに立てたなと感じました。ゾンビが簡単に倒されてしまうようだと『バイオハザード』として成立しないんですよね。ゾンビに噛まれるのが怖いから逃げたい、倒したいから弾を探したいとなるのが『RE:2』なんです。

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技術の進化もさることながら、いちばん大きいのはスタッフの進化

――つぎは『DMC5』についてお聞きします。こちらは『RE:2』とほぼ同時に開発がスタートしたそうですが、人員配置などで苦労されたことはありましたか?

竹内 人員についての苦労はありませんでした。『バイオ7』でRE ENGINE(※3)という新しいものを作ったので、『RE:2』と『DMC5』でも使っていこうという流れでした。スタッフはお互い分けていたのですが、全員がRE ENGINEの使いかたを学習してくれました。

※3……カプコンが独自開発したゲームエンジン。『バイオ7』で初めて使用された。

――どちらのタイトルも、衣装を作りスキャンしてゲーム内に取り込んでいました。現在は、その流れがベストなのでしょうか?

竹内 品質の向上にもなりますし、嘘がなくなるんです。CGで作るとどうしても嘘が入ってきてしまうので。衣装をスキャンすることで、画面にリアリティや重みが出てくるんですよね。ですが、『バイオ7』のときに比べると、『DMC5』の衣装は全部特注で作っているので、10倍くらいお金がかかっているんです。ディレクターのこだわりがすごくて、僕が「布で作ればいいんじゃないの?」と言ったら「全部革じゃないと嫌だ」と。

――すごいこだわりですね。

竹内 「おいおい、この衣装を一枚革で作るの? すごいな」と(笑)。

――イーカプコンでも、超豪華限定版“ULTRA LIMITED EDITION”というものすごい商品が……。

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竹内 あれは高いですよね。実際に出すなんて、いい意味でバカだなと思いました。

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――でもそちらの商品も素材にこだわっていて、ほとんど儲けがないというお話も聞いて驚きました。

竹内 1点ずつの製作なので価格から見て利益はほとんどない商品ですね。でも、せっかくならファンの方に驚いてもらえるものを作りたいなと。「うわ、すごいなこれだれが買うの? でも見てみたいな」という商品のほうがおもしろいですよね。

――確かに見てみたいです。自分では買えそうにありませんが……(笑)。ところで『バイオ7』の発売から2年ほど経過していますが、RE ENGINEも進化しているというお話を何度かお聞きしました。

竹内 はい、日々進化しています。じつはRE ENGINEと銘打ってはいるのですが、それほど形のあるゲームエンジンではないんです。あまり言うと怒られるので言えませんが。モジュールを組み換えることで、いろいろなものに対応できるようになっているんです。

――それは開発するゲームに合わせて組み換えるということですか?

竹内 はい。基礎の部分は同じですが、ゲームに合わせて柔軟なことができるというイメージです。たとえば『DMC5』のフェイスアニメーションが、『バイオ7』のころに比べてかなり進化しているんですよ。微妙に口角を上げて目を少し細めてフッと笑うシーンがあるのですが、それを見た『バイオ7』のスタッフが「あれをやりたかった!」と悔しがっていましたね。RE ENGINEが進化したこともありますが、スタッフが使いこなしてきているのも大きいと思います。

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――RE ENGINEだけでなく、スタッフも進化しているわけですね。

竹内 ゲーム開発は技術の進化もさることながら、それを使う人の進化がいちばん大きいと感じましたね。

――『RE:2』の発売日が2019年1月25日ですが、オリジナル版の発売日が1998年の1月21日でした。『バイオ7』も2017年1月24日と、すべて1月という時期に発売しています。これは偶然なのでしょうか? それとも何か狙いがあってのことですか?

竹内 いろいろな理由があるのですが、いちばんの理由は皆様にカプコンの大作は1月に発売するよと覚えてもらいたいことですね。もっと正直な気持ちを言えば、ほかのメーカーさんに「その時期のゲームの発売はできるだけ避けてね」というメッセージの意味もあります。

――では、これからも1月には注目して間違いないということですね。

竹内 何作品かの制作を経てCS第1開発部はようやくスムーズに動くようになり、僕たちがのびのびと開発を進められる環境になってきました。これからは毎年何らかの大型タイトルを発表していきたいです。

――CS第一開発部の今後の展望などをお聞きしてもよろしいでしょうか?

竹内 まずは、『RE:2』と『DMC5』を皆様にお届けすることが第一だと思っています。そこからつぎの新しいチャレンジをしていければと。お客様の声はとても大事です。「ここはこうだったらよかった」、「こういうものが欲しい」など、いろいろな声に耳を傾けていきたいですね。今後の『バイオハザード』でも大きくリニューアルするときが訪れると思いますが、それまでには僕たちも理想とするものが作れるような力を溜めていきたいです。また、それとは別に皆様が「こんなの作っているの?」と驚くようなタイトルも現在開発中です。

――それは今後の発表が楽しみです。ところで、竹内さんがカプコンに入られてから30年近く経ちました。これまでのクリエイター人生でいちばん思い出深い出来事はなんでしょうか?

竹内 どれもこれも思い出深くて、どれかひとつは決められないですね。印象深かったのは、『バイオハザード7』が発売したときのことでしょうか。じつは『バイオハザード』シリーズの新作が出たときは、三上さん(※4)が必ず連絡をくれるんですよ。でも最初に別の要件の話をして、最後に『バイオ』のことをさらっと触れる程度で。ですが『バイオハザード7』が出たときには、真っ先に『バイオ7』の話になり「『バイオ7』、プレイしたよ。いいじゃん」と言ってくれたんです。それが初めて『バイオ』シリーズの作品で褒められたときですね。やっと自分たちの『バイオ』にできたと実感した瞬間で、感慨深いものがありました。

※4……三上真司氏。初代『バイオハザード』のディレクターを務めた。

――三上さんの言葉だと重みがありますね。

竹内 これからもCS第一開発部は、皆様に驚いてもらえるような一見の価値あるゲーム作りをしていきます。現状に甘んじることなく挑戦する気持ちで進めていきますので、否定的な意見も遠慮なくお聞かせください。これからも世界で戦えるような新しいゲームを出していきたいと思っているので、ぜひよろしくお願いします。