ポケモンたちがモチーフになった“ポケふた”に注目!
ポケモンがデザインされたマンホール蓋“ポケふた”が人気だ。これは、“推しポケモン”を選定し、全国さまざまな地域の魅力とポケモンの魅力を国内外に発信する取り組み、“ポケモンローカルActs”の施策のひとつ。
これまで、鹿児島県の指宿市、岩手県内13市町村への設置が行われたが、2019年8月に横浜・みなとみらいで開催された“ピカチュウ大量発生チュウ!2019”のタイミングで、5枚のピカチュウのポケふたが会場に設置(そのうち4枚は2019年9月1日をもって設置終了)。さらには、2019年9月に入って、香川県内16市町への設置、宮城県内15市町への設置も公表されたばかりだ。
ポケモンをモチーフとしたクオリティの高いデザインが好評を博している“ポケふた”だが、そもそもなぜ、オリジナルのマンホールの蓋を製造・展開するにいたったのか? 株式会社ポケモンの企画チームにその意図とこだわりを聞いてみた。
目指すのは自治体とポケモン、win-winの関係
今村啓太氏(いまむら けいた)
(写真右)
株式会社ポケモン/“ポケふた”プロジェクトの企画担当、ポケモンローカルActs 福島担当
津田明子氏(つだ あきこ)
(写真左)
株式会社ポケモン/ポケモンローカルActs 北海道・宮城担当
――まずお聞きしたいのですが、おふたりは、ポケふたや、ポケモンローカルActsのプロジェクトにはどのように携わられているのでしょうか。
今村私はポケふた企画のメインの担当者として、メーカーとの調整から要件の設定、ポケふたのデザインまで、全体を見ている立場です。
津田ポケモンローカルActsでは現在コラボが発表されている北海道、岩手、宮城、福島、鳥取、香川にそれぞれ担当者がおりまして、今村が福島、私は北海道と宮城を担当しており、ほかの地域も同様に担当者がいます。ポケふたに関しては、今後、北海道にも設置予定ですので、それらのデザインの方向性や展開方法について、今村と相談しながら進めているところです。
――ポケふたの企画は、大枠ではポケモンローカルActsの取り組みがあり、その一部ということだと思うのですが、ポケモンローカルActsについてもご説明いただければと。
今村ポケモンローカルActsは、大きなインバウンド需要が見込まれる2020年に向けて、国内外の多くのポケモンファンに日本中へ足を運んでもらいたいという目的で生まれた企画です。各地域と“推しポケモン”がいっしょになり、そのポケモンの魅力と地域の魅力を発信していくことがおもな活動となります。これによって、地域とポケモンそれぞれのファンが相乗的に増えることを期待しています。
――自治体との関係性は『ポケモンGO』を通しても形成されていると思いますが、そうしたつながりもきっかけに?
今村完全に地続きの企画というわけではありませんが、根底の考えかたは同じだと思っています。我々と自治体が協力することで、ポケモンと各地域どちらのファンも増える、win-winの関係を目指しています。
――なるほど。そうした流れを踏まえた上で、改めてポケふたについて、企画立ち上げの経緯を教えてください。
今村明確にひとつの理由に集約されるわけではないのですが、「街の中を冒険して、ポケモンを探す喜びを体感できる企画が何かないか?」と考えたのがきっかけです。たとえば、岩手県であれば、イシツブテを筆頭に13種類のいわタイプポケモンのイラストを描いたポケふたが設置されており、ポケモンを探して歩くのにぴったりです。一方で、地域側としても長いスパンで集客など、さまざまな効果を見込める施策であると言えます。マンホールは1度設置すれば30~40年は交換の必要がありません。それに加えて、地域を盛り上げるイベントを実施したり、商品を発売したりして、地域に人を呼び込めるというわけです。
――旅をしながらポケモンを探せるというのは、原作のゲームにも通ずるところがあってワクワクしますね。何かの用事で岩手県に訪れたとして、イシツブテのマンホール蓋をひとつ見つけたら、ほかのものも探したくなります。
今村そうした狙いもあります。ポケふたはすべて違うデザインになっていますので、1ヵ所だけ見て終わりではなく、いろいろなポケふたを探してみたくなるように設置場所やデザインを考えていきたいと思っています。
――地域ごとに特徴も出てきそうですね。たとえば、北海道というのは土地がめちゃくちゃ広いですし、札幌周辺ならまだしも全体的に設置されるのであれば、すべてを巡るのはかなり大仕事なのでは……(笑)。
津田そうですね(笑)。よく今村とも話しているのですが、仮に全部のポケふたを訪れようとした場合、北海道はおそらく“ラスボス”のような扱いになるのではと(笑)。訪れるのが目に見えて困難な場所に設置する予定はないのですが、それでも広大な北海道を移動して設置してあるポケふたをコンプリートするのは、相当な時間が掛かると思います。
――ラスボス(笑)
今村季節によっては、積雪でポケふたが埋まってしまう場合も考えられるので……。よく言えば、地域ごとの多様性を楽しめるということです。設置場所やデザインはもちろん、ポケふたの“分布”についても、特徴があっていいのではないかと思っています。
――都道府県によって攻略法が異なると(笑)。
今村1枚1枚の距離が近くて、つぎつぎに見て回れる地域もあれば、北海道のようにすべてを見て回るのはなかなか難度が高い地域もある。地域ごとの難易度のような、特徴があったほうが、巡る側も楽しめるのではないかと考えています。
――それはおもしろいですね(笑)。
津田全部が全部そうではないのですが……たとえば岩手県や宮城県ではポケふたの設置場所を沿岸部に集めているんです。沿岸を巡りながら、観光名所や海の幸を楽しんでいただければ、企画の趣旨にもピッタリ合致しますので。
――それはまさにwin-winの関係ですね。それにしても、オリジナルのマンホールを作って全国に設置するというのは、なかなか奇抜と言いますか、“かたやぶり”な発想ですよね(笑)。企画の実現可否について不安はなかったですか?
今村設置することさえできれば、多くの方々に喜んでいただけるだろうという自信はありました。一方で、実際にマンホールを作って、設置まで漕ぎ着けられるか、実作業の部分は不安でしたね。当然ですが、社内にポケモンをモチーフにマンホールを作って設置したことのある人間は存在しませんので(笑)。
――アニメやゲームなど、なんらかのIPを用いたマンホール蓋を作って全国展開した人は、エンタメ業界を広く探しても稀少なのではないでしょうか(笑)。
今村そうかもしれません(苦笑)。少なくとも自分の周囲にはいませんでしたので、本当にゼロから手探りで進めていくことになりました。自治体やマンホール蓋製造メーカーの方と打ち合わせをする中で、製造や設置に必要な事柄、デザインに関する知識など、学ぶことは非常に多かったです。
――マンホール蓋について知識を深める機会は、ふつうに暮らしているとあまりないですよね(笑)。
0.1ミリ単位の修正を何度もくり返す!? ポケふた製造、驚愕のこだわり
――おそらく大半の読者にとって、マンホール蓋作りというのは未体験だと思うのですが、具体的にはどういう流れになるのでしょうか。
今村もちろん、マンホールそのものを製造する作業はメーカーさんにお任せしています。日之出水道機器さんという福岡県に本社のある企業なのですが、ポケモン以外にもデザインマンホールを作られた実績を数多くお持ちです。今回のポケふた企画では、全国各地にマンホールを設置する必要があるので、全国にネットワークを持つメーカーさんにお願いすることにしました。
――なるほど。確かに全国的に展開する企画ですからね。
今村実際の工程としては、まずこちらでマンホールに描くすべてのデザインを起こし、実際にそれを作ることが可能かどうか、メーカーさんの監修を受けます。マンホール蓋にはいくつかの種類があるのですが、鋳物(いもの)の場合は、溶かした金属を型に流し込んで作るので製造上の制約がいくつかあり、線の細さや隙間の間隔などデザインは0.1ミリ単位で調整する必要があるんです。一方で、デザインが何だかわからない、となるわけにもいきませんから、そこはやりとりを何往復もして、お互いが「これでいこう」というものを作り上げていくと。
――技術とデザイン双方の観点で、実現可能なところを探っていくというわけですね。
今村ええ。ですので、“どんなデザインでも自由自在”というわけにもいかなくて。ポケモンの姿によっては、マンホール蓋に向いているものと、そうでないものもあります。
――形状が複雑なものほど難度が高く?
今村それが、そうとも言い切れなくて。マンホール蓋に色を付けるためには、鉄を流し込んで固めた鋳物の上からアクリル樹脂を流し込むんです。鉄の蓋の上に、チップ状のものが乗っている状態ですね。このアクリル樹脂の面積があまり広くなりすぎると、何かの拍子に剥がれる可能性が高くなってしまうのです。
――ああ、なるほど。あまり引っ掛かりがない形だと、一方向からの力で剥がれやすいんですね。
今村たとえば、イーブイのポケふた(下の写真を参照)は背景に星が描かれていますが、これは装飾の意味合いのほかに、技術的な意味合いとして、着色面の部分の面積を狭くする意味合いもあるんです。
――この星にはそういう意味が!
今村さらに、ポケふたと言ってもあくまでマンホール蓋ですので、その上を人が歩くことを考慮しなければなりません。ある程度、デザインで凹凸を設けないと、雨の日などにスリップしやすくなってしまいます。
――確かに! その発想はなかったです。お聞きする限り、ポケふた作りはかなり手間暇が掛かるように感じます。デザイン決定後の製造はスムーズに行えたのでしょうか。
今村技術面では問題なく進めていただけたと思います。ただ、通常はマンホール蓋でも何でも、鋳物というのは鋳型を作ったら、それを使って同じものを大量に生産するのが常識なのです。ところが、ポケふたは「世界に1枚のマンホール」と謳っており、基本的には鋳型ひとつでマンホール蓋を1枚しか作らない。これに関しては、「本気ですか……!?」と驚きの反応をいただきました(笑)。
――そう聞くとかなり贅沢な話ですね(笑)。何十年も持つものであれば、なおさら。
今村ややマニアックな話なのですが、デザインマンホール蓋は大きく分けて2種類あるのです。ひとつは、ポケふたのように鋳型を作る彫り込み式のもの。もうひとつは、“プレートタイプ”という、受枠に後から印刷したプレートをはめ込むタイプです。プレートタイプでは、線の細さも気にせず、色もほぼ無制限に選べます。はめ込むだけなので、設置も簡単です。そのため、こちらのプレートタイプで作られているデザインマンホールもたくさんあります。
――今回の企画の性質を考えると、プレートタイプのほうが合っている気も……。
今村もちろん検討はしたのですが、長持ちするのはやはり鋳物なんですよ。そしてそれ以上に、鋳物のマンホール蓋は、実物を見たときの迫力がまったく違うんです!
――迫力!(笑)
今村ちなみに、今年8月に横浜みなとみらいで開催した“ピカチュウ大量発生チュウ! 2019 ”の際、会場付近に5枚のポケふたを設置しましたが、じつはそのうち4枚は期間限定の設置ということもあって、プレートタイプを採用しました。現在、みなとみらいには1枚のポケふたが残っていますが、これは鋳物です。
――期間限定だった4枚は、今後どこかで使われる予定はないのでしょうか?
今村そこは未定です。じつは、各ポケふたの所有者は我々ではなく、寄贈させていただいた時点で自治体になるのです。例えばイシツブテのマンホールも、岩手県宮古市に寄贈させていただいていまして、いまは市の所有物ということになります。
――あー! なるほど。確かに自治体のマンホールに蓋を設置するとなると、寄贈する形がよさそうですものね。せっかくなので、ぜひともまたどこかで使ってほしいものです。
30年後までを見据える? ポケふた担当者が胸に抱える覚悟と夢
――岩手県や鹿児島の指宿市、横浜など、ポケふたの設置は少しずつ進んでいますが、設置後の地域住民の反応はいかがですか。
今村インターネット上の反応を見させていただいている限り、多くの方に喜んでいただけているようです。横浜ではポケふたを撮るためだけに行列ができることもあったようで、ありがたい限りですね。
――国内ではもちろん、海外から日本を訪れた方にもかなりウケそうですね。
今村デザインマンホールの文化自体が海外では珍しいものですので、マンホールに絵が描かれている時点で驚かれると思います。横浜のポケふたでは多くの海外の方が写真を撮っていましたし、私が指宿市の様子を見に行った際は、わざわざ香港から夫婦で見に来てくださった方がいました。
――すでに海外から、ポケふたを見に来られている方もいるんですね。自治体からの反応はどうでしょう?
今村やはり喜んでいただけています。指宿市の職員さんは、大雨が降るとわざわざポケふたを掃除してくださっているそうで、かえって恐縮するほどです。ポケふたを訪れたファンの方々も、写真を撮る前に汚れを拭いてくれることがあって、ふつうのマンホール蓋よりも長持ちするのではないかなと(笑)。
――マンホール蓋を一般の方々が掃除しているのは、なかなか見ない光景ですね。ちなみに、蓋自体は壊れなくても、傷がついたり、色が剥げてしまったりすることは考えられるのかなと思うのですが、そうした場合、修繕は可能なのでしょうか?
今村修繕は難しいと思います。新しいものを作り直すことは不可能ではないと思いますが、そうした技術まわりのことは私自身がどこまで詳しくなるべきなのか、少し悩んでいるところでもありますね……(苦笑)。
――ゲーム業界で、マンホールの蓋の案件があれば、今村さんに聞けばどうにかなりそうですね(笑)。
今村でも本当に、今回の企画は初めてのことだらけでして。私にとってはもちろん、全国各地の市町村に特定のコンテンツのマンホール蓋を設置していくのは業界団体の方に聞いても初めてのことだそうなので、貴重な体験ができていると思います。
――観光地や繁華街など、ひとつのエリアに同じ企画のデザインマンホール蓋があることは珍しくないですが、それを全国展開しようというのはスゴイですよね。
今村設置する地域は今後も増えていく予定ですが、コアなファンの方であればすべてを巡ろうとしてくださるのではないかと期待しています。アクセスしやすいところから、しづらいところまで用意していますので、ポケモン図鑑をコンプリートするような感覚で楽しんでいただければと思います。
――『ポケモンGO』とはまた違った、旅行や外出の動機付けになりそうです。
今村ポケふたはポケストップにもなっていく予定ですので、『ポケモンGO』トレーナーの方もすでにたくさん訪れてくださっています。とくに、ポケふたのポケストップから出たギフトは記念品のような受け入れられかたをしていて、「ギフトをもらえてうれしい」という内容のツイートもよく見かけます。
津田フトもそうですし、ポケふたの写真撮影も皆さん楽しんでいただいています。まずはマンホールだけを撮って、つぎは描かれているポケモンのぬいぐるみといっしょに撮って、さらに『ポケモンGO』の“GOスナップショット”機能でポケモンといっしょAR写真を撮って、というように、さまざまな形で楽しんでいただけます。
――確かに、ARモードで撮影したくなりますね。
津田私も、横浜にポケふたが5枚設置されたときに写真を撮ったのですが、これが意外と難しいんですよね(笑)。せっかくなので背景もいっしょに写したいのですが、マンホール蓋は地面にあるのでキレイに撮るにはコツが必要なんですよ。ワンショットだけだとうまく撮れないので、角度を変えて複数ショット撮るのがいいかもしれません。
――マンホール蓋の綺麗な撮りかたなんて、あんまり考えたことがないですからね(笑)。今後の展望についてはいかがですか? どれくらいの数が設置されていくのでしょうか。
今村現状、具体的な数を申し上げることはできないのですが、皆さんが想像しているよりも多くの枚数を各地に設置していく意気込みです。おかげ様で、全国各地の自治体から想定していたよりも多くのお問い合わせが届いております。
――自治体の立場としては、ぜひ置きたいですよね。絶対に人を呼び込めますし、しかも何十年と持続するわけですから。
今村仮に30年ほど持つとして、私がいま29歳なので60歳になってもまだギリギリ置かれているかもしれないんですよ。これはポケふたに対する責任感につながりますし、同時にモチベーションにもなります。
――確かに、長期スパンですよね。
今村企画を進める上で何らかの判断で迷ったとき、「この判断によって30年後のどこかの地域の景色が変化するかも」と考えると背筋が伸びる思いがします。ご協力いただいている自治体には、「30年前に置いてよかったなぁ」と思ってもらえるようにしたいなと。
津田我々のチームとしても、30年後、おじいちゃんおばあちゃんになったメンバーみんなで集まって、全国各地のポケふたを巡る旅をしたらすごく楽しそうだな、なんて(笑)。
――それ最高ですね! ぜひ実現させてほしいです。
今村そのためにも、まずはこの企画をどんどん盛り上げていきたいと思っています。ですので、皆さんぜひ、どこかお近くのポケふたが設置されている場所へ行ってみてください。実物を見ていただいて、生の迫力を感じていただければ、ポケふたの魅力を感じ取ってもらえると思います。そこからさらに、各地のポケふたを巡る旅に出てください(笑)。
津田いまは岩手、横浜(神奈川)、指宿(鹿児島)、香川に設置(2019年9月末時点)されていて、宮城もデザインが発表され、今後も各地に増えていく予定です。ポケふたがきっかけになって、これまで訪れたことのない地域に足を運んでもらえたら本望です。反対に、ポケふたとは関係なく訪れた旅行でも、頭の片隅にポケふたのことを覚えておいていただいて、観光のついででいいので探してもらえるとうれしいです。ポケふたの位置情報は、ポケふたサイト上で詳細が見られるようになりますので、それを活用してもらえればと思います。
今村ローカルActsのポケふたサイトでは、ポケふたの設置に興味がある自治体のご担当者からのお問い合わせを随時お待ちしております。全国の自治体を対象に、マンホール蓋の設置場所を募集するという取り組みは、おそらく史上初のことだと思います。ぜひいろいろな地域の方にお問い合わせいただきたく思いますので、ご不明な点があればお気軽にお問い合わせください。よろしくお願いします。
――ありがとうございました。
ポケモンマンホール設置 問い合わせフォーム ※対象は自治体(市区町村など公官庁)