第1回:シェードに見るスマホアプリの作りかた
急速に普及台数を伸ばしているスマートフォンは、ゲームにとってもっとも熱い市場だ。いま、グリーもスマートフォンアプリに注力し、期待作を続々と生みだしている。開発陣のスマートフォンアプリにかける熱い想いを、月イチ連載でお届けする。(全4回)
今回は、『デストロイ・ガンナーズ Z』の開発などで知られるシェードの代表取締役社長・横田幸次氏と、グリーでサードパーティーをサポートする屋島新平氏と平将貴氏による座談会の模様をお届けしよう。シェードは、1995年の設立以降、家庭用ゲーム機向けソフトの受託開発を行なってきた実力派ソフトメーカー。『デストロイ・ガンナーズ』シリーズがスマートフォンアプリ参入第一弾にあたる。スマホアプリ開発で見えたものは? (座談会は週刊ファミ通3月8日号[2月23日発売]掲載分の完全版となります)
代表取締役社長
横田幸次氏(左)
グリー
マーケティング事業本部
ジャパンディベロッパーリレーションズ3グループ
グループリーダー/コンテンツディレクター
屋島新平氏(中央)
グリー
マーケティング事業本部
ジャパンディベロッパーリレーションズ 2部
平将貴氏(右)
これからは、ゲームデベロッパーのスキルを活かせる時代が来る
屋島 『デストロイ・ガンナーズ Z』が大人気ですね。いままでシェードさんは家庭用ゲーム機向けのソフトを開発してきたわけですが、どのような経緯でソーシャルゲームを手掛けることになったのですか?
横田 数年前からソーシャルゲームに勢いがあるということは実感していたんです。たとえば、親しくしていた潰れそうな会社が、ソーシャルゲームに乗り換えた途端、景気がよくなったりとか(笑)。ただ、私たちの得意分野である3Dを展開するには、当時の携帯電話ではパワーが足りなかった。それで参入をためらっていたところ、Android2.0あたりから「行けそうだ」ということになった。それが2010年末くらいですね。そこに平さんから「グリーでやりませんか?」という連絡が来たんです。
平 グリーがスマートフォンアプリに本腰を入れて取り組むことになって、「これからはゲームデベロッパー様のスキルを活かせる時代が来る!」という思いがありました。それで、家庭用ゲーム機向けにソフトを開発している3Dに強いデベロッパーさんにお声がけさせていただいていたんですね。個人的に3Dをゴリゴリやるのが好きだというのもあるのですが(笑)。それで、シェードさんとお付き合いすることになったんです。
屋島 それにしても、スマートフォンアプリで3Dアクション・シューティングという、最初から難度の高い開発を選択されましたね。
横田 我々の得意分野であるぶん、逆に難度は低かったんですよ。それに、むしろ制約があったほうがコンシューマー系の開発者は燃えるんです(笑)。制約がある中で、なんとか表現を最大限に引き出そうというのは、我々の得意とするところです。それに、初代プレイステーションなどと比較すると、トータルで見ればいまのスマートフォンのほうが作りやすいですからね。
屋島 いままでのノウハウが活かされた部分が多かったんですね?
横田 そうですね。それで、開発サイドでも、「期限を決めて早めにリリースしないとまずかろう」ということで出したのが無料版『デストロイ・ガンナーズ』ですね。当時はロボットが1機で、ステージもシンプルにふたつしかなかったんです。
平 無料版『デストロイ・ガンナーズ』の配信まではめちゃくちゃ早かったですね。開発開始から3ヵ月という短期間でリリースされていましたから。
屋島 そのスピード感はコンシューマー系とは違うと思いますが、そこは平の脅しに屈して?
横田 違いますよ(笑)。それ以上にキツいコンシューマーの仕事もありましたし(笑)。
屋島 手掛けてみていかがでした?
横田 スマートフォンのプロジェクトは基本少人数なので、ひとりひとりが複数の仕事をこなさないといけない。それが若手には新鮮だったようで、そういったダイレクト感がいろいろと勉強になったようです。私のような、古くからゲーム業界にいるスタッフにとっては、なつかしい感じがしました(笑)。
屋島 それはわかります。いまでこそグリーの内製チームもある程度人数が増えてきたのですが、『釣り★スタ!』などは、企画、デザイナー、エンジニアを含め4~5人で回していた時期もありました。少人数がプロジェクト全体を掌握して作るというのは、やはりおもしろ味が感じられるようですね。遊んでくれるお客さんとの距離感も縮まるようです。で、『デストロイ・ガンナーズ』に話を戻しますが、無料版のあとは有料版を出しましたよね?
横田 はい。2011年7月に有料版の『デストロイ・ガンナーズSP』を配信しました。カスタマイズ要素などを加味して、やり込み要素を強化したんです。あとは、ミッションのスタイルを明確にして、ミッションに対するモチベーションを高めた感じですね。そのつぎに、いよいよソーシャル要素を加えた『デストロイ・ガンナーズ Z』の開発に着手しました。
平 有料版の『デストロイ・ガンナーズ SP』がグローバルでも評価されて、やはりソーシャル要素を加えたいという思いがあったんです。それで横田さんには『デストロイ・ガンナーズ SP』配信後からご相談をしました。
屋島 あのころ平は社内でひたすら、唸っていたね(笑)。私たちにとっても、ユーザーの満足やクオリティーの高さを維持することに尽力しつつもいかにマネタイズするかが、大きな悩みどころでした。グリーとしても大きな挑戦だったのは、RPG要素のある3Dアクション・シューティングということで、それまでマネタイズに成功しているタイトルが世界的に存在しなかったことです。平はつねに、「何を参考にしたらいいかわからない」とぼやいていました。
平 先行モデルがないぶん、これまで成功したタイトルの要素を分解して、どう組み込んだらいいのか試行錯誤しましたね。それで、さんざん悩んだのですが、『探検ドリランド』でイベントの中でクエストを発生させるというシステムがあることを聞いて、「これだ!」と思いついたんです。それで、『デストロイ・ガンナーズ Z』に、複数のプレイヤーで戦わないと勝てないデビルマシンを登場させることにしたんです。
屋島 あのころは、開発中の『デストロイ・ガンナーズ Z』の新しいバージョンが手元に届くたびに、「屋島さん、これやばいですよ!」って、平が興奮していたね。どれだけ楽しみにしているんだ?という感じでした(笑)。あと、『デストロイズ・ガンナーズ Z』で非常に画期的だったのは、ガチャの演出ですね。あれには、グリーのスタッフ一同のけぞりました(笑)。
平 ロボットが箱を壊すことで、アイテムを入手できるという。「これぶっ壊しているけど、アイテムはどうなっているの?」みたいな話になりましたね(笑)。
屋島 『デストロイ・ガンナーズ Z』はバランス調整も秀逸だと思うのですが、初めてソーシャルゲームを作る上でのご苦労などありました?
横田 そのへんは、プログラマーとデバッグ担当が密に連携をとってチューニングしていきました。「この部分は難しいほうが楽しいんだけど、ここまでやるとユーザーがついてこない」というのは、うまく手加減しています。あとはタイミングですね。どのくらいにするとやり足りない部分が出てくるとか。
屋島 そのへんのバランス調整は、コンシューマーで作るときと、ソーシャルゲーム向けとではぜんぜん違うのですか?
横田 スマートフォンという小さな画面でゲームを遊ぶことを考えると、通常のコンシューマーゲームとは違う体感はありますよね。ずっとスマートフォンの画面を見ていると疲れてしまうので、キリのいい時間というのは、我々も模索しました。平さんとも相談して、「これは重要課題として考えましょう」ということで詰めていきました。
平 ワンプレイで60秒~90秒に落ち着けようということになりました。うまい人が遊ぶとだいだい90秒くらいになるように調整しています。
横田 あと、「敵がものすごく強くてクリアーできない」というよりも、「時間が足りなくてクリアーできなかった」というほうが、モチベーションが湧くんじゃないか?という話はしましたね。
グリーとパートナーの関係は編集とマンガ家の関係に似ている
屋島 実際に『デストロイ・ガンナーズ Z』を配信されるときは、不安なところも多かったと思うのですが、いかがでした?
横田 たとえば、コンシューマーだと「発売日が決まりました!」となると、それに向けてCMなり雑誌展開なりを畳み掛けていくのですが、ソーシャルゲームの場合はまず配信してユーザーさんの動きを見てから「こういう企画をやりましょう」という施策を考えていく。コンシューマーの場合は決められたものしか出せないのですが、そのへんの柔軟さがよさなのかなと。逆に配信するときは「こんなんでいいの?」というのはありましたけど(笑)。「もっとアピールしなくてもいいのだろか?」という不安感はありました(笑)。まあ、我々はソーシャルゲーム初挑戦なので、やはり相当不安でしたね。そこは平さんの「大丈夫だから!」という言葉に後押しされて、これで大丈夫なのかなと(笑)。
平 ゲームとしてクオリティーがすごく高かったので、そこは絶対に大丈夫だという思いはありました。まあ、根拠のない自信ですね(笑)。直感的に「おもしろい!」という。やれ離脱率がどうの、継続率がどうのといっても、直感的におもしろいかどうかというのがまず重要だったので。ソーシャルゲームの話となると、ともすればマネタイズ云々というところに話題がフォーカスしがちになるのですが、儲かる儲からないの前に、楽しい、楽しくないで語られるべきだと思うんです。直感的におもしろいと思ったからこそ、『デストロイ・ガンナーズ』へのサポートは力が入りました。
屋島 『デストロイ・ガンナーズ Z』をリリースされてみて、どのような点に気づかれましたか?
横田 感じたのは、ユーザーさんのレスポンスの圧倒的な早さですね。何かあったら「これはいい」、「これはダメ」というのははっきりとおっしゃってきます。しかも、2文字、3文字で言ってくる(笑)。いままでだとアンケートハガキだったり、ユーザーサポートを介してのご意見だったりしたのが、直接メールだったりするので、ダイレクト感が違いました。
屋島 肯定的な意見を直接聞くと、ユーザーさんとの距離感の近さで、ゲーム作りのモチベーションの高さにつながるという部分はありますね。
横田 思ってもみなかった反応というものあったりしましたね。たとえばアイテム。体力快復が売れるのは最初からわかっていたのですが、機体強化ガチャが意外とよく売れたんですよ。機体は10種類用意していたのですが、いちばん弱い機体を限界まで引き上げるユーザーさんもけっこういました。レベルが高い機体を買えるハズなのですが、古くから持っている機体に愛着を感じられているみたいですね。機体を強化することによって積み重ねられる、プラスの数字がユーザーさんにとってはステータスになるみたいですね。
屋島 プラスの数値が自慢になるという、そこはまさにソーシャルゲーム的ですね。
平 そのへんの気づきは、いま開発中のタイトルに仕込んでいるところです。
屋島 なるほど。いまだからあえてお聞きしますが(笑)、実際のところ、グリーのサポート体制はどうでした?
横田 やはりGREE developer Centerの存在が、私たちにとってはすごく大きかったです。我々のやっていることは他社さんとは違うので、先人がいないぶん学ぶものがない。平さんを始めグリーのスタッフの皆さんに親身になっていろいろとサポートしていただて、すごく助かりました。
屋島 読者の皆さんのために補足しておくと、GREE developer Centerというのは、弊社のプラットフォーム向けにタイトルを開発してくださっている方に向けて、情報や開発ツールの提供をおこなっている部署なんですね。技術サポートも行なっています。社内のノウハウを、「こんなことまで話してしまっていいの?」というくらい惜しげもなく提供しているのですが、そういうサポートも積極的に行なっているのがグリーらしいところではあります。グリーはモノ作りの会社なので、モノ作りに対してサポートするところは手を惜しまずに、というのはいいところだと思っています。横田さんにそこを評価していただいたのは、僕らもうれしいです。
平 夏のあいだうんうん唸った甲斐もありそうです(笑)。
屋島 考えてみると、パートナーさんとグリーというのはマンガ家さんと編集者の関係に近いですよね。マンガの連載とソーシャルゲームというのは似ているところがあって、ユーザーさんのダイレクトな意見を聞きながら、マンガ家と編集者が共同で作品をおもしろいものに作り上げていくという。
横田 締め切りがないと燃えなのも、マンガ家といっしょかも(笑)。
屋島 (笑)。それでは最後に、シェードさんの今後の展望などをお教えください。
横田 ガチャのシステムのつぎを模索したいというのはありますね。グリーさんは世界戦略を打ち出しているわけですが、「グローバルで展開するには何が有効なのか?」というのを模索していきたいと思っています。ビジネスモデルのポイントを開拓できればうれしいですね。
屋島 新タイトルや新ジャンルなども?
横田 そこもまさに進めているところでして、平さんにつつかれながら切磋琢磨しているところです(笑)。ひとつやりたいと思っているのがアプリ間連携です。こっちのアプリとあっちのアプリで世界観はつながっているけど別の作品、といった世界観の連携をユーザーさんに楽しんでいただく感じですかね。
屋島 それでは最後に、“マンガ家”としてフロントランナーとして走っていらっしゃるシェードさんから、先駆者としてのソーシャルゲーム開発に向けてのメッセージをお願いします。
横田 自分たちが作りたいこととユーザーさんのニーズをしっかりと分析した上で、バランスの取れたゲーム作りを心がけることでしょうか。単純に「皆さんの要望に応えました!」というだけのものを出してもけっきょくは空振りするだけですし。自分たちが得意なものをコンテンツに注ぎ込むのがいいのかな……と思っています。いまのスマートフォンは、非常にやりがいのあるプラットフォームなので、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか?
屋島、平 今日はどうもありがとうございました!
『デストロイ・ガンナーズ Z』
武装されたロボットを操作してミッションに挑む3Dアクション・シューティング。ガチャなどで入手したパーツで機体を強化していく。ハイクオリティーなグラフィックが話題を集め、ユーザーレビューでの平均評価が4.4と高評価を得ている。
■対応端末:Android、iPhone
■デベロッパー:シェード
■ジャンル:アクション・シューティング
■価格:無料(アイテム課金)
※Android以外の端末をお使いの方は、App Storeから直接ダウンロードしてください。
GREE Platform セミナー情報:成功の第一歩はココだ!
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■近日開催予定のセミナー(会場:六本木ヒルズ グリー本社)
2012年3月9日(金) Smart Phone ネイティブ/ブラウザアプリセミナー
午後2時30分受付/午後3時開始
2012年3月19日(月) Smart Phone ネイティブ/ブラウザアプリセミナー
午後1時30分受付/午後2時開始
2012年3月29日(木) Feature Phone/ブラウザアプリセミナー
午後2時30分受付/午後3時開始
■GREE developer Centerとは?
GREE developer Centerとは、GREEが提供している情報すべてを閲覧できるデベロッパー向けの情報ソースのこと。ここでアプリの開発や申請、運用管理などを見ることができる。ここに登録すれば、セミナーの案内を受けることも可能だ。さらに、ソーシャルゲーム用の独自の開発技術の支援も用意されている。新規参入パートナーにも担当者が付き、公開前から公開後の運用までサポートがあるのも魅力と言える。
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