友情、努力、勝利
週刊少年ジャンプの発行部数が600万部を超えた1995年、いわゆる“少年マンガ黄金期”に、どストライクで少年時代を過ごした自分には、“少年マンガの血”が流れている。多感な時期に『ドラゴンボール』、『北斗の拳』、『聖闘士星矢』、『銀牙 -流れ星 銀-』、『魁!男塾』といった名作少年マンガに一喜一憂しまくったため、すっかり“王道熱血バトル”が身体に染みついてしまったのだ。だから大人になったいまとなっても、マンガやアニメなどで主人公が悪いヤツをドカーンとぶっ飛ばすシーンを目にすると、条件反射でテンションが上がってしまう。そんな自分が、「待ってました!」と喜びの声をあげたくなるゲームが現れた。それが『アスラズ ラース』である。
どんなピンチも“怒”の力で粉砕!
“逆境粉砕アクション怒羅漫(ドラマ)”と銘打たれた『アスラズ ラース』では、主人公のアスラがことあるごとに逆境に追い込まれる。それもただの逆境ではなく、崖っぷちギリギリの特大ピンチ。地球よりもデカい敵が、全長数十キロメートルはありそうな人差し指で突いてきたり、何万キロも伸びる刀で地球ごと串刺しにされたりと、プレイヤーの度肝を抜くような破天荒なシーンのオンパレード! 思わず「ありえねー!」と声に出したくなるほどの絶体絶命の状況に追い込まれたアスラだが、みずからの“怒”を力に変えて、これまた“ありえねー”方法で逆転するのが超アツい。こうした怒濤のように押し寄せる圧倒的なゲーム体験が『アスラズ ラース』の醍醐味だ。本作からは、名作少年マンガと同等のすさまじい“熱量”がビンビン伝わってくる。
思うに、『アスラズ ラース』のアツさの秘訣は、プレイヤーがアスラとシンクロし、いっしょに怒りを爆発させて楽しめるからに違いない。本作では、ゲームを構成するすべての要素が、アスラとプレイヤーの“怒”を際立たせるために用意されている。ここからは、それぞれの要素をチェックしていこう。
まずはストーリー。あらすじを簡単に説明すると、八神将のひとりアスラが、同胞の裏切りによって家族を奪われ、復讐を誓うというものだ。本作におけるアスラの目的は、自分を裏切った7人の神々(七星天)をぶっ飛ばして家族(娘ミスラ)を取り戻すことのみ。余計な装飾をそぎ落としたシンプルな内容の復讐劇なので、物語の筋が頭にスッと入ってくる。また、ストーリーの見せかたとして、テレビで放映されている連続ドラマやアニメのように各話形式を採用しているのもおもしろい。それぞれの話はドラマと同じような構成で、オープニングから始まって、メインのパートでストーリーが展開、ラストは次回予告で締めくくられる。感情描写に特化した話や、ド派手なアクションシーンが炸裂する話など、それぞれの話ごとに役割が異なるので、メリハリのあるストーリー展開を楽しむことができる。さらに、各話のラストは「この後、どうなるんだろう!?」とヒキのあるシーンで終了するのがニクい。とくに、アスラがブチ切れたところで話が終わったりするときは、続きが気になってしかたがない! つぎのエピソードでどんな方法で敵をぶっ飛ばすのかワクワクさせられる。この感覚は、週刊少年マンガを毎週追っているときに似ている感じだ。まぁ、『アスラズ ラース』の場合は、すべての話が収録されているので、続きが見たくてついプレイを続けてしまうのだが……。このように、本作はストーリー主導の作りになっており、プレイヤーは"怒"のドラマにどっぷり浸ることができるというわけだ。
“怒”のストーリーを盛り上げるのが、美しく見応えのあるカットシーン。本作の開発を手掛けたサイバーコネクトツーは、『.hack//』シリーズや『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズなどで披露したすばらしい絵力(=演出力)を、『アスラズ ラース』でもいかんなく発揮している。とくに今回は、特定のカットシーンの絵コンテを、実際にテレビアニメを制作しているスタジオのアニメーターが担当しているのがポイント。第1話では、『機動戦士ガンダム』や『超時空要塞マクロス』などを手掛けた板野一郎氏が絵コンテを描いており、アニメファンのあいだで“板野サーカス”と呼ばれている超高速のバトルシーンを楽しむことができる。(ちなみに、第1話では、板野氏が携わった劇場用アニメ『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』のラストシーンを彷彿とさせる宇宙の一大決戦が描かれ、のっけからクライマックス状態となっている。)
また、一流のアニメーターたちが作り上げたキャラクターに命を吹き込む、実力派声優陣の演技も見どころのひとつ。アニメファンなら思わずニヤっとしてしまいそうな“通好み”の声優たちが出演している。なかでもアスラ役の安元洋貴氏の演技は出色で、まさに鳥肌モノ。ひと口に“怒”と言っても、激しい憤怒の炎を燃やす“怒”や、哀しみから発する“怒”など、さまざまな種類があるが、安元氏が渾身の演技で“違い”を見事に表現している。
ドラマに合わせてアクションが変化
ゲーム部分はドラマの展開に合わせて変化。たとえば、アスラが地上で敵と遭遇したときは格闘攻撃を駆使した“バトルアクション”、敵戦艦との戦いでは“シューティングアクション”、カットシーンでは画面に表示されるボタンを的確に入力する“ボタンアクション”などがシームレスで切り替わっていく。アスラは何と言っても“怒”を原動力に戦う主人公なので、それぞれの技の動作がとにかく豪快! 全体的に、拳を使った攻撃が多めとなっている。やはり“悪いヤツ”を思い切りぶん殴るのは最高にスカッとするものだ。なお、主人公のレベルアップや武器チェンジといった概念は本作には存在しない。本作の制作プロデューサーを務める松山洋氏は、週刊ファミ通のインタビューで「怒っているのにパラメーターをポチポチいじるのはないだろう」と語っているが、メインテーマの“怒”を表現するために、ジャマになる要素をとことん排除した恰好となっている。ドラマ性を押し出すために、アクションゲームが付随しているという印象だ。本作をプレイする前に「カプコンとサイバーコネクトツーが手を組んだだけあって、ふつうのアクションゲームにはならないだろう」とは思っていたが、実際に遊んでみて、あまりの思い切りのよさに驚いた。「アクションゲームというジャンルで、こんな見せかたができるのか」と、ジャンルの新しい可能性を感じることができた。
2012年2月21日、『アスラズ ラース』のダウンロードコンテンツが発表された(【コチラ】)。ゲーム本編のストーリーの裏側が語られる追加シナリオや、『スーパーストリートファイターIV』のリュウとアスラが対決している謎のスクリーンショットなど、盛りだくさんの内容となっている。まだまだ広がりを見せる『アスラズ ラース』の世界から、目が離せない!
■筆者紹介 ヘイ昇平
週刊ファミ通の編集者。30代になっても少年マンガへの愛は変わらず。最近は、週刊ファミ通編集部のマンガ好き連中と「『ONE PIECE(ワンピース)』で誰がいちばん強いか?」を巡って大揉めしている。個人的にはエネル推し。
アスラズ ラース
メーカー | カプコン |
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対応機種 | X360Xbox 360 / PS3プレイステーション3 |
発売日 | 2012年2月23日発売 |
価格 | 各6990円[税込] |
ジャンル | ドラマ/アクション |
備考 | プロデューサー:土屋和弘、制作プロデューサー:松山洋、ディレクター:下田星児、特別演技監督:板野一郎、開発:サイバーコネクトツー |