マンガみたいな画が動く! 13年前に見た衝撃のビジュアルが蘇る

 本題に入る前に、筆者と『ジェットセットラジオ』(以下『JSR』)の出会いをちょっと聞いてもらいたい。1999年の東京ゲームショウ、ドリームキャストの新作タイトルで賑わうセガブースのスクリーンに、その映像は突如映しだされた。
 「マンガみたく平坦な画だけど、3Dで、少年が街中をスケートで走り回っている」。ほんの十数秒の映像だったが、これまでに見たことのないテイストが与えたインパクトは絶大。しかも事前アナウンスのまったくない“隠し球”であったため、ライター同士で「あの映像見た!?」と興奮しまくっていたのを覚えている。

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▲いまではトゥーンシェードと呼ばれる“マンガディメンション”描画を、いち早く採用。トンガッた世界観と合わせ、ビジュアルだけでワクワクさせられるタイトルとして登場した。

 そんな衝撃的なお披露目から数ヵ月後の2000年6月。実際に手に触れた『JSR』は、初見のワクワク感を裏切らない完成度だった。映像はもちろん、“3Dの街中を自由に走り回れる”ゲーム性はまだまだ目新しく、またスケートやDJといったストリートカルチャー満載な世界観も、それにピタリとハマっていた。発売後のユーザー評価も上々で、ドリームキャストを代表する一作に挙げる人も多い。その人気は、後に北米版をベースとした『デ・ラ・ジェットセットラジオ』までが国内リリースされたことからもわかるだろう。

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▲ラジオのDJのようにミックスして流れるノリノリのBGMに乗って、街中を自在に走り回れる爽快なアクションが楽しめる。当時からして、かなり斬新でハイセンスなゲーム内容だった。

ストリートをラクガキで埋め尽くす爽快アクション

 そんな多くのセガファンの心をトリコにした『JSR』だが、まずは改めてそのゲーム内容を紹介しておこう。
 ゲームの舞台は、架空の巨大都市“トーキョート”。プレイヤーはその街で活動する悪ガキチーム“GG”の一員となって、街中にある赤い矢印の場所にグラフィティ(スプレーを使ったラクガキ)を描いていく。プレイヤーを追跡するケーサツたちを振りきりながら、制限時間内にすべてのポイントにグラフィティを描けばステージクリアーとなり、スタミナゲージがゼロになるか、制限時間がなくなるとゲームオーバーだ。

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▲ステージ中にあるスプレー缶をゲットし、指定されたポイントすべてにグラフィティを描けばステージクリアー。逃げ回る敵の背中にグラフィティを描くミッションも用意されている。
▲プレイヤーのジャマをするのは、ライバルチームやケーサツたち。とくにケーサツは、白バイや催涙弾などは序の口で、ヘリや戦車まで持ち出してきてプレイヤーを付け狙う。

 『JSR』の魅力は、なんといっても広い街中をスケートで自在に走り回れる点にある。広くて立体的なステージ構成である本作だが、スケートシューズを使って素早く動き回れるのはそれだけで気持ちいい。(空中回転やレール滑走といった)トリックを決めるとゲームが有利に運ぶなど、プレイヤーテクニックの見せどころもあり、遊びこむほどに楽しさが増すアクション性を有している。

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▲ガードレールや壁面を走るといったトリックをキメるのが爽快。トリック継続で得点がアップするので、ハイスコアを狙いには欠かせない。
▲能力の異なるキャラクターからひとりを選んでミッションに挑戦。ゲームの進行とともに登場してくる者や、特定条件で出現する隠しキャラクターも複数いる。

 また、ステージ内を探索することも、ゲームの大事な一要素となっている。点在するグラフィティポイントや、そこに到達するまでのルートには、一見「どうやってたどり着くんだ?」という場所もある。つまり、マップの構造を理解して、適切なアクションをすることが攻略のポイントというわけだ。ステージ全体のサイズは、現代のゲームと比べると広大とはいいにくいが、そのぶんち密な“ステージ攻略”が楽しめるようになっている。

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▲“シブヤチョウ”は、バスターミナルやスクランブル交差点など、渋谷駅前を思わせる。
▲海沿いの街“コガネチョウ”。民家が建ち並ぶ地域と工場地帯、地下道で構成される。
▲歌舞伎町にも似た“ベンテンチョウ”。街のあちこちから宣伝アナウンスが聞こえる。
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▲海外版から追加されたステージ“グラインドシティ”も収録されている。電車が高架橋を走るシカゴのような“バンタムストリート”(左)と、摩天楼のあいだを駆け巡る“グラインドスクウェア”の2ステージがある。

 ステージ攻略にアクセントを加えるのが、プレイヤーをジャマする敵の存在。対抗策が用意されている敵もいるが、プレイヤーは基本的に逃げ回るオンリー。ケーカンたちは、プレイヤーの姿を見つけると執拗に追いかけてくるので、ダッシュや回避ポイントを使って、いかにつかまらないよう逃げ回るかが腕の見せどころだ。敵のバリエーションは多く、序盤~中盤ステージに登場するケーサツは、警官、白バイ、さらにはヘリコプター(!)や戦車(!!)までを持ち出してプレイヤーに対抗してくる。さらにゲーム終盤には、黒いスーツの謎の組織までが登場し、狙撃にムチに電気ショックと、過激な攻撃を仕掛けてくるので、十分な注意が必要だ。

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▲プレイヤーにしがみつくケーカン。さらには、ゴム弾や催涙弾といった飛び道具まで使ってくる。
▲攻撃を受けたり高所から落下すると、左上のスタミナゲージが減少。赤いスプレー缶を取って、スタミナを回復しよう。

13年を経て蘇ったHD版の新要素は?

 と、『JSR』の持つゲームそのものの魅力を解説してきたが、ここからは今回のHD版での新規要素を紹介していこう。最大の変更点は当然、HDグラフィックとなった点。1080pのフルHD解像度&ワイド画面化されたトーキョーの世界は、2013年現在でも十分“イケて”いる。もとからのセンスのいい“マンガディメンション”映像は、HD化によってさらにその魅力を増しているように感じる。また、右スティックでカメラ視点が操作できるようになったのは、地味ながらよい改良。ただ、オリジナルではスタートボタン一発で表示されたミッションマップが、メニューからの選択表示方式になっているのには、やや残念さを感じる。

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▲オリジナルでは視点変更に難があったが、HD版では自由なカメラ操作が可能に。ワイド化と相まって、プレイ感覚は良好になっている。
▲ネットワークランキングにも対応。ステージごとのハイスコアに加え、レース形式などの特別なミッションごとも集計される。

 本作の魅力のひとつでもあるサウンド面は相当力が入っていて、初代や海外版、『デ・ラ・ジェットセットラジオ』のBGMがほぼ全部が収録されている。さらに、ゲーム中の音声や文字表記にも、日本のプレイヤーが違和感を持たないように調整されているという、まさに“いいとこ取り”バージョン。初代『JSR』にはなかったサウンドテストも用意されているので、プレイせずとも魅惑のサウンドを堪能できるのはうれしい。

ジェットセットラジオ HD版 収録曲リスト
1.Let Mom Sleep/Hideki Naganuma(長沼英樹)
2.Humming the Bassline/Hideki Naganuma(長沼英樹)
3.That's Enough/Hideki Naganuma(長沼英樹)
4.Sneakman/Hideki Naganuma(長沼英樹)
5.Moody's Shuffle/Hideki Naganuma(長沼英樹)
6.Rock It On/Hideki Naganuma(長沼英樹)
7.Grace and Glory/Hideki Naganuma(長沼英樹)
8.Sweet Soul Brother/Hideki Naganuma(長沼英樹)
9.Magical Girl/Guitar Vader
10.Super Brothers/Guitar Vader
11.Miller Ball Breakers/Deavid Soul
12.On the Bowl (A.Fargus Remix)/Deavid Soul
13.Up-Set Attack/Deavid Soul
14.Everybody Jump Around/Richard Jacques
15.Bout the City/Reps
16.Mischievous Boy/Castle Logical
17.Yellow Bream/F-Fields
18.Electric Tooth Brush/Toronto
19.Funky Radio/B.B. Rights
20.OK House/Idol Taxi
21.Just Got Wicked/Cold ※北米版(Jet Grind Radio)専用追加曲(デ・ラ未使用)
22.Dragula/Rob Zombie ※北米版(Jet Grind Radio)専用追加曲(デ・ラ未使用)
23.Slow/Professional Murder Music ※北米版(Jet Grind Radio)専用追加曲(デ・ラ未使用)
24.Improvise/Jurassic 6 ※デ・ラ・ジェットセットラジオ用追加曲(JGRでも使用)
25.Patrol Knob/Mixmaster Mike ※デ・ラ・ジェットセットラジオ用追加曲(JGRでも使用)
26.Recipe For The Perfect Afro/Feature Cast ※デ・ラ・ジェットセットラジオ用追加曲(JGRでは未使用)
27.Funky Plucker/Semi Detached ※デ・ラ・ジェットセットラジオ用追加曲(JGRでは未使用)
ボーナス曲:ジェットセットラジオフューチャー
1.The Concept of Love/Hideki Naganuma(長沼英樹) ※プラクティスモードをクリアー
2.Fly Like a Butterfly/Hideki Naganuma(長沼英樹) ※ガムとコーンを仲間にする
3.Funky Dealer/Hideki Naganuma(長沼英樹) ※チャプター1をクリアー
4.Shape Da Future/Hideki Naganuma(長沼英樹) ※チャプター2をクリアー
5.Teknopathetic/Hideki Naganuma(長沼英樹) ※チャプター3をクリアー
6.Oldies But Happies/Hideki Naganuma(長沼英樹) ※すべてのキャラクターを仲間にする
7.Like It Like This Like That/Hideki Naganuma(長沼英樹) ※最終ステージをクリアーする

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▲ゲーム中で流れるすべてのBGMを聞くことができるサウンドテストも用意されている。ラジオを模した画面や、曲の切り替え時にノイズが乗る凝った作り。
▲ボーナス特典として続編『ジェットセットラジオフューチャー』の楽曲や、当時の開発スタッフが語る貴重なドキュメンタリー映像までが収録されている。

 PS3、PS Vita、Xbox 360と3機種同時に配信がスタートした本作だが、ゲーム本編以外に少しだけ違いが存在する。PS3版とPS Vita版では、セーブデータの連動が可能で、さらに両方をダウンロードすると、ネット経由で自動で最新のセーブデータに同期する“クロスセーブ”機能が使える。また、PS Vita版は、グラフィティを描く操作をタッチスクリーンで行えたり、カメラで撮影した画像をグラフィティとして使うことが可能。Xbox 360版にはそうした連動機能はないが、実績の数が30個用意され、獲得するごとにゲーマーアイコンがもらえたり、アバターアワードとして専用のシャツとスプレー缶を入手できるようになっている。

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▲カメラ撮影や本体内の画像データをグラフィティとして使えるPS Vita版。筆者が所有するドリームキャストをグラフィティにしてみた。
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▲Xbox 360版には30個の実績が用意されている。PS3やPS Vita版にはない(獲得が難しい)実績も多数あり、プレイヤーの遊びごたえを刺激する。
▲Xbox 360版は、アバターアワードに対応している。

見た目で敬遠するのはもったいないアクションゲーム性!

 発売から13年を経て復刻された『JSR』だが、HD化という改造分を差っ引いても、古めかしさはあまり感じないように思う。その理由は、独自なセンスもだが、前述したように“アクションゲームとしての土台がしっかりしている”からではないだろうか。初めてこのゲームを知った人にとっては、「なんだかスカした雰囲気そう」と思うかもしれないが、中身は硬派で歯ごたえのあるアクションゲームで、そのあたりに“セガのゲームっぽさ”を感じる。現在の重厚長大なゲームと比べるとやや小ぶりな感は否めないが、アクションゲーム好きにとっては、いま遊んでも十分に楽しめるタイトルのハズ。今回のリリースを機会に、ぜひ多くの人にプレイしてみてほしい。

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▲見た目こそゲーマーとは縁遠そうなストリート系だけど、中身は手ごたえのあるアクションゲーム。これが数百円で購入できるなんて、イイ時代になったもんだ!

■著者紹介:馬波レイ
オリジナルの『JSR』が発売されたころは、“ファミ通DC”のライバル誌でゴリゴリ記事を書いてたフリーライター。今年の11月で発売から15年を迎えるドリームキャストといっしょで、すっかりベテランの域なのだけど、いまだに原稿の上がりが遅いと怒られます。大人なのにね。