Xbox Oneの魅力とは?
日本時間の2013年5月22日に、アメリカ・シアトルにてマイクロソフトの新世代機Xbox Oneが発表。イベント直後の会場で、Xbox Oneをテーマにしたパネルディスカッションが行われた。こちらは、取材陣にXbox Oneへの理解をより深めてもらうことを目的に行われたもので、極めて興味深い話を聞くことができた。ここでは、その模様をお届けしよう。まずは、パネルディスカッションの登壇者の紹介から。
〈写真左から〉
■トッド・ホームダール氏
Xboxの事業には1999年から参加する。いまはハードウェアグループを統括している。本体やKinectセンサー、アクセサリーなどを制作。シリコンからマザーボードまで、すべてのデザインを担当している。
■ボイド・ムーテラー氏
13年間Xboxの仕事に従事。Xbox Live、メディア周りの部署を経てXbox Oneの事業に参画。ゲーム以外のソフトウェアはすべてムーテラー氏のチームが担当している。
■ニック・ベイカー氏
ゲームハードの仕事に1993年から関わる。3DO、Ultimate TVなどの事業を経てマイクロソフトに。いまは、アーキテクチャ担当として、チップの中にどんなテクノロジーを取り入れるかを選定している。
■ダン・グリーナウォルト氏
Turn10 Studiosのクリエイティブ・ディレクターとして『Forza Motorsport』シリーズの開発を担当。Xboxとマイクロソフトのゲームには、13年間関わってきたとのこと。『Forza Motorsport』シリーズでは、ファーストパーティータイトルとして、つねにどんな新しいことができるのかに挑戦している。
Q.Xbox Oneはこれまでのハードとはどこが違うのですか?
トッド リビングルームでのエンターテインメントの楽しみかたが、Xbox 360が出たころとは大きく変わったと思います。トレンドとしては、以下の3つが考えられます。
(1)インターネットがフルに活用され、ビデオストリーミング、ダウンロード、ブラウジングなどテレビの使いかたが広がった。
(2)テレビを見ながら、リビングルームでPCや携帯電話などのマルチデバイスを使う機会が増えた。
(3)ボイスとジェスチャーが使われるようになるなど、インターフェイスが変化した。これにより、テレビとの関わりかたも変わった。
これらのトレンドを分析して、すぐれたゲームだけではなくて、開発者がこれらの変化のよさを利用できるようにすることがXbox Oneの目的でした。
ダン ゲームファンもデバイスも、以前よりもずっと“つながって(コネクト)”います。Xbox Oneは非常にパワフルなマシンですが、それだけではなくて、クラウドにも接続している。ソフト開発者の立場からいうと、処理作業をクラウドに負担させることができるんです。パワフルなハードでも手に負えないような物理演算やAI、環境構築なども、クラウドでならば処理できる。これはとても大きな変化だと思っています。
Q.トッドが挙げたエンターテインメントの楽しみかたの3つのトレンドに対応して、Xbox Oneのアーキテクチャに取り入れる技術的な取り組みとしては、どのようなものがあるのですか?
トッド まずは、Xbox Oneはパワフルなマシンにしたかったので、カスタムチップを搭載しました。これにより、GPUの帯域幅がより広くなっています。また、アプリ間の切り替えアクションを瞬時に行えるようにするために、ボイド(ムーテラー氏)のチームと協力して、システムメモリー、フラッシュ、キャッシュメモリーなどを増強しました。ギガビット・イーサネットと広帯域ネットコネクション、ふたつの802.11nラジオを取り入れたのも大きなポイントです。これは、つねに接続していて、準備万端な状態でマルチデバイスの体験ができるようにするためのもので、SmartGlassアプリを使ってネットやほかのデバイスとワイヤレスに繋がれるようになっています。あとは、Kinect。新しいKinectでは、すべてを初めからデザインし直しました。認識やフィールドビュー、オーディオなど、すべてが改善されています。
あと、Xbox Oneでどうしても実現したかったのが、使える電力を段階的に増やしていけるマシンにしたかったということです。あるアプリを動かすのには必要最低限の電力を使い、必要に応じて徐々に使える電力を増やしていく……という設計にしたんです。Kinectでも、必要に応じて消費電力を増やしていけるようにしています。
Q.新しいKinectで改善されたところを教えてください。
トッド 新しいKinectは、フライトテクノロジーを使って最初からデザインし直しました。フィールドビューは60%改善され、いままで最大ふたりだったが認識が、最大4人までできるようになりました。私のように背の高い人でも近づけるので、狭い部屋でも使えるようになりましたよ。奥行きの認識もよくなって、最低オプティックサイズは2.5倍になり、スケルトン認識のクオリティーが上がりました。手や指もよく認識できるので、身振り手振りでの快適さが向上すると思います。また、アクティブIR(赤外線センサー)によって、非常にすぐれたIRイメージが得られて、照明があまりよくないところでもプレイヤーを正確に把握できるようになりました。さらに、顔の表情が把握できるようになっています。こちらはデベロッパーのツールキットの中にも入れているので、クリエイターの皆さんには活用してほしいです。もちろん、データの正確性も格段に上がっています。
Q.Xbox Oneでは、ソフトウェアが瞬時に切り替えられるとのことですが、現行機と比較してのチャレンジングな取り組みだった点は?
トッド まずは、ゲームを楽しめるようにすることがスタート地点ですが、ユーザーがどんな層で、どんな人がゲームを楽しんでいるのかをよく見極め、彼らに合ったハードを作る必要がありました。とくに若い世代のゲームファンは一世代前のゲーマーとは違って、スマートフォンやタブレットのサービスを使いこなし、PCはどこにでもある……という生活を送っています。そんな日常では、複数のデバイスを同時にダイナミックに使っているんです。そういう意味では、新しいハードはそんな新しい世代にアピールするものでなくてならない。アプリやサービスのダイナミックな世界をサポートし、しかも同時にゲームデベロッパーのニーズにも対応しないといけないわけです。
ところが一方で、デベロッパーは変化を好まず、どれだけのRAMやCPU、GPUが提供されるのかを正確に知りたがります。彼らの作ったアセットがどれだけゲームに入れられるか、彼らは知りたいわけです。開発にはお金がかかるので、アートひとつをとっても、ムダがなくきっちり入れられるものを作りたいと思うのは無理もないところです。しかし、アプリ、サービス、デベロッパーのやりたいことがハードの中で出入りしている状態なので、デベロッパーにどれだけのリソースを提供できるかは保証できない。これは大きな問題でした。
そこで、サービスの世界で生まれたテクノロジーを使うというリスクを負うことにしました。まずはHyper-V(マイクロソフトが提供するハイパーバイザベースのx64向け仮想化システム)というバーチャルマシンから出発して、ここから一般目的のもの(ふつうはどんなアプリやOSを使うかが限定されていないので一般化されている)を落としていきました。Xbox Oneでは、ひとつはアプリ、ひとつはゲームと、その構成もはっきりしているので、このふたつに必要な最低限のものを作り、スピードを上げました。これで両方にあてられるリソースがはっきりしたので、サードパーティーはいろいろなものを自由に入れられるようになりました。ゲーム機は、ブーストしたままの状態が続くわけです。いままでのゲーム機では、ゲームを入れたらハード全体がリブートされるので、アプリはひとつずつしか動かせませんでした。今回は、ゲーム用のパーティションに多くのデータを持ったゲームがひとつ入り、隣のパーティションでは多くのアプリが長期的に動きます。映画を見たり、テレビを見たりしながらマッチメイキングセッションができるわけです。ふたつのことが同時にできるということで、これまでのハードで持ち上がっていた、いろいろな問題が一気に解決されました。マッチメイキングは、いつ友だちがオンラインになるかわからないので、難しい課題だったわけですが、Xbox Oneでは、テレビを見たり、ゲームをプレイしたりしているあいだに、行なってくれるんです。
新世代機というのは、多くのトランジスタをローカルのままで置いておくのではなくて、クラウドにするということでもあります。簡単にいうと、新世代機は変化です。レイテンシーの許容度によりますが、クラウドを利用してローカルリソースの負担を少なくできる。これによって、ハードはさらにパワフルになっていくわけです。これはいままでとはまったく違うことで、とてもワクワクします。
Q.まったく新しいハードを作るにあたって、どのようにしてプロジェクトは進行していったのですか?
トッド まずは、ゲームとエンターテイメントでどんな経験を提供して欲しいのか、ユーザーに調査を実施し、ハードやソフトのトレンドで取り入れたいものを検討しました。その過程で、ボイドやダンとはよく話し合いましたね。ハード、ソフト、ゲーム、すべてがマイクロソフトという屋根の下にあるので、話し合いは容易にできました。ユーザーの要望とトレンドを理解し、Kinect、クラウド、SmartGlass、OSなどについても把握した後で、数年前からいろいろなアイデアを出しあっていきました。ハードの開発には非常に多くの時間がかかります。プロトタイプは何度も作り直しましたが、自分たちが気に入り、さらにユーザーにも共鳴してもらえるものができました。エコシステムは、将来に渡ってずっと成長し続けるものであり、いまはそのスタート地点に立っています。将来の変化を想定して、パワフルなハードにしてあるんですよ。
Q.システム的にはどのような感じで進めたのですか?
トッド ふたつの例を挙げてみましょう。ひとつめは、まずは8ギガのRAMです。ゲームのことを考えれば、4または5ギガで足りるはずですが、ふたつのバーチャルワールドを同時に動かしたかったんです。そのためには、どうしても8ギガ必要でした。ふたつを同時に動かして、瞬時に切り替えられるようにできることには、大きな価値があります。
もうひとつはグラフィック。メモリー帯域は非常に重要で、非常に早いES RAMキャッシュをチップに載せることができました。新世代のGPUは、現行機から大きく前進しましたね。チップのアーキテクチャはスーパーコンピューターのようなテクノロジーを使っていて、データフローが重要です。チップを効率よく使うには、正しいキャッシュに正しいデータが、正しい時間に正しい位置で入っているかどうかで、大きな差が生まれます。その点、ニックのチームと協力して、キャッシュがきちんとGPUに提供されるようにしました。
ニック エンターテインメントを瞬時に切り替えるコンセプトを実現するために、テクノロジーをどのように使えばいいのかがわかるまでに、けっこう時間がかかりました。ハードウェア側のテクノロジーはいろいろと検討しましたね。チップが一貫性を持って動くことに関しても、多くの時間を費やしました。
ボイド マイクロソフトはグループ内外に多くの才能溢れる人材が豊富にいて、リソースにも恵まれています。1年半ほど前にWindows NTの開発者であるデビット・カトラーが参加してくれました。彼はOSを発明した人ですが、これほど有能で、かつ人間的に奥深い人といっしょに仕事ができるのはラッキーでした。こういった有能な人材が、Xbox Oneのような、けっして難易度の低いとはいえないプロジェクトを成功させた、大きな理由のひとつだと思います。
ダン Xbox Oneのプロジェクトでは、マイクロソフト内のいろいろなグループが協力して仕事を進めました。Xbox Oneは、リビングルームを時代に合ったものにしようと、大きなステップを踏み出しました。ここ数年間、いろいろなチームといっしょに仕事を進めてきましたが、クリエイターとしてエンターテインメントをどううまく展開するかについて考えます。というのも、一方で、KinectやSmartGlassのようなクールなシステムがあり、一方では、『Call of Duty ELITE』や『Halo waypoint』のようなサービスを使って、ゲームキャリアを管理できる。これらのすばらしい仕組みを使って何ができるんだろう……と思うと、ワクワクしますね。
Q.将来の方向性を示すものとして、とくにXbox Oneで注目している機能は?
ダン まずは、新しいKinectでどんなゲームが実現できるのか、とても楽しみです。プレイヤーは、どんな反応を示してくれるのか……。そのほかにも、SmartGlass、美しい画面、可能性は限りなくあります。なかでも、いちばんワクワクするのはクラウドですね。安定したプラットフォーム(Xbox One)で開発をして、つねに進化しているパワー(クラウド)も使えるというふたつの利点があります。
ボイド クラウドは、現行機との大きな違いでしょうね。現行機では、ハードは固定されていたので、ゲームはハードに見合った最適化だけを追求してきました。Xbox 360にしても、本体発売時に比べたら、ゲームは格段によくなっているわけですが、それはハードに対する理解度が深まったからです。もちろん、Xbox Oneでも同じことは起きますが、それに加えてクラウドのトランジスタ数はどんどん増えるので、さらに大きな進化が可能になる。Xbox Oneの世代では、ゲーム開発で従来から予想される底上げ分を想定しながらも、さらなる成長(クラウドの上積み)を受け入れるというバランスが大事になると思いますよ。
トッド 今後クラウドの使われかたで、リビングルームでの体験も変わるでしょうね。複数のデバイスがエコシステムにどれだけつながるか、インターフェイスの使われかたによっても変わってくると思います。そこにはいろいろな機会も生まれるでしょう。クリエイターは、そういった点に注目しながら商品を作ることになるでしょうね。
ボイド Kinectのソフトウェアテクノロジーは、固定したものではなくて、アルゴリズムにしたがってつねに変化をしています。Kinectのシステムはつねに学習してデータを集めて、アルゴリズムを向上させているからです。静的なプラットフォームではなくて、動的につねに成長しているんですね。
ダン “動的”というのは、ひとつのキーワードですね。ゲームも同じように静的ではなくて成長しています。自分のアクションがほかの人のアクションとインタラクトするのはひとつの例ですが、プレイヤーの履歴を見て、ゲームに再度取り込むことができます。ゲームは時間とともに進化していくんですね。
ボイド Xbox Oneでは、ゲームが出たらそれで終わり……というわけではなくて、ユーザーの動向次第では実績の追加なども可能になると思います。
Q.Xboxシリーズではつねにハードに斬新的な要素を盛り込んできたわけですが、Xbox Oneにおける“新しさ”とは何ですか?
ボイド おっしゃるとおり、Xboxシリーズでは、それぞれの世代で画期的な機能を盛り込んできました。初代Xboxではブロードバンド専用にしたことがとても重要でした。ネットも安定せず、クラウドもなかった時代に、それは英断だったと思います。Xbox 360では、HD対応が新しい取り組みでした。これによりグラフィックに大きな進歩をもたらしたんです。そういう意味では、Xbox Oneは、継続的な変化を受け入れるマシンです。時間とともに変化することが期待される。静的であることは許されないで、いろいろなアプリやサービスが出入りするボックスになります。
トッド 私としては、Xbox OneにKinectを同梱したことは大きな決断だと思っています。初代Xboxではイーサネットポートを搭載することで、デベロッパーは“接続すること”を期待できましたが、Xbox OneではKinectを前提にできることが大きな意味を持ちます。すぐれた認識、音声認識などをゲームの中に取り込み、すばらしい体験を提供できる。Kinectのパワーを魅力に感じる人は増えると思いますね。
ダン Turn10 Studiosは、ファーストパーティーとして、これまでもハードのテクノロジーを見せつけるゲームを開発してきました。初代Xboxでは、ブロードバンドにつながることより生まれるXbox Liveの広がりをお見せできたと思います。『Forza Motorsport 2』では、“ユーザージェネレーテッドコンテンツ(UGC)”として、ユーザーが作ったコンテンツをゲームに取り込み、ペイントカーを交換できるようにしたんです。さらにXbox 360の『Forza Motorsport 4』では、Kinectを使ってクルマの中を見られるようにしました。Xbox Oneでは、手の認識ひとつとっても、そのときとはまったく比べものにならないくらい進化しています。音声認識もすぐれ、暗いところでの操作も可能です。プレイヤーの表情が認識できるのもすごい。これからできることは、いままでとはレベルが違うんです。どんなことができるのか……本当に楽しみです。
Q.最後に、Xbox Oneへの期待をひと言お願いします。
トッド Xbox Oneではまだまだ乗り越えるべきことがたくさんありますが、いまがいちばんワクワクしています。クラウドやほかのデバイスとつながることによって、エンターテインメント体験が大きく変化する。開発陣がどのような驚きをもたらしてくれるのか、楽しみです。
ボイド 私は、古くからのゲームファンで、いまの若者がTwitterをしながらゲームを遊ぶのは、個人的にはとてもせわしなく見えます(笑)。ただ、新世代のゲーマーは映画を見たり、友だちとコミュニケーションを取りながらゲームを遊ぶのがふつうになっているようで、遊びかたが違うんです。もちろん、ほかのエンターテインメントも変化しています。この変化を受け入れられるのが新世代機です。
ニック ゲーム面においても、エンターテインメント面においても、Xbox Oneに関われたことはとてもスリリングでした。これからが楽しみですね。
ダン いままででいちばんワクワクしています。Xbox Oneは、初めてカルチャーの大変化を受け入れてできた、家庭用ハードだと思っています。いまは、電話がコンピューターであることが期待され、コンピューターはタブレットであることが、タブレットはMP3プレーヤーであることが期待される時代です。クルマですらネットにつながりことが期待されているんです。そしてそれらが同時につながることが期待される。Xbox Oneは大きなチャレンジですが、我々は期待に応えなければいけない。おそらく数年後には、Xbox Oneの理想とするエンターテインメントが実現しているのではないかと思います。