2017年10月13日、株式会社Gzブレイン 浜村弘一代表取締役社長(ファミ通グループ代表。以下、浜村代表)による講演“ゲーム産業の現状と展望<2017年秋季>”が実施された。

ゲームコンテンツの興行化とプロゲーマーのライセンス制度がカギ──Gzブレイン 浜村弘一社長の講演“ゲーム産業の現状と展望<2017年秋季>”リポート_01
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 本講演は、毎年春・秋の二度にわたって、おもにエンターテインメントの分野を担当しているアナリスト及びマスコミ関係者を対象に行われているもの。今回は、“興行化するゲーム 〜連鎖するゲームビジネスの行方”と題し、2017年度上半期のゲーム機市場の概況や、大きなうねりとなりつつあるeスポーツの動向を解説。IP(知的財産)の興行化によるゲーム産業の拡大について語られた。

ゲームは“売り切り型”から“サービス”へ

 講演冒頭、まずはゲームトレンドの変化について触れられた。ゲームビジネスは“1タイトルで40時間遊ばせて終わり”というような一話完結型からすでに脱却しており、オンラインサービスによる運営やコンテンツの追加などによって“終わらないゲーム”へと移行していると説明。さらには、作品をテーマとしたグッズ展開のほか、イベント、コンサートによるチケット収入、放映収入、協賛スポンサー収入といった興行で収益を上げるなど、“モード”の変化が見られると語った。

 続けて、この5年で起こった急激な変化として、日本ゲーム大賞でのフューチャー部門受賞作品の対応プラットフォームについて言及。このフューチャー部門とは、東京ゲームショウに出展された未発売作品を対象に、一般投票で評価が高かった作品に授与されるもので、一般のゲームユーザーのトレンドを推し量るものとして、ひとつの指標になる。2012年では受賞した11作品中、携帯ゲーム機向けのタイトルが6作品であったのに対し、2017年の受賞作品の中では携帯ゲーム機向けはたったの1作品にとどまった(その1作品も据え置き機とマルチ展開)。また、その受賞作品の中でeスポーツと関連したものが4タイトルあり、このあたりも目立つ変化だという。

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各プラットフォームのおもなトピックス

Nintendo Switch

 Nintendo Switchは、発売から17週目で100万台を突破。この勢いを上回るのは、過去にプレイステーション2とWiiしかないが、Nintendo Switchの発売が年末商戦から外れた3月であったことや、長らく品薄の状態が続いていたことを踏まえると、近年に発売されたゲーム機としてはかなりのハイペースになる。ソフト面では、『スプラトゥーン2』の累計販売本数が120万本を超え(2017年9月24日時点)、ロングランで売れ続けている。もともと任天堂のタイトルは長期的に売れる傾向があったが、eスポーツ的な切り口でコミュ二ティーを活性化し続けたことがヒットの要因だと浜村代表は語る。また、『スプラトゥーン2』は客層まで変えてしまったことにも浜村代表は注目する。これまで、任天堂ハードの客層はファミリー層、低年齢層が中心とされてきたが、『スプラトゥーン2』の大ヒットの影響もあり、Nintendo Switchの客層は10代〜20代が中心。このことは、今後サードパーティによって拡充されるであろうコアなゲームの売れ行きにも大きく影響するというわけだ。ビッグタイトルが立て続けに出たことで、今後のラインアップについて不安視する声もあるが、2017年10月27日には『スーパーマリオ オデッセイ』が発売。また、『ポケットモンスター』シリーズの開発がスタートしたことも発表されている。

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ニンテンドー3DS

 発売から6年が経過したニンテンドー3DS。『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』の累計販売本数が170万本、『モンスターハンターダブルクロス』は167万本(いずれも2017年9月24日時点)と、大ヒットする作品はまだあるものの、ソフトの売上としてはピークアウトを迎えている。しかし、Newニンテンドー2DS LLが非常に好調で、ニンテンドー3DSプラットフォームの販売の中心になっている。また、レベルファイブの『スナックワールド トレジャラーズ』は、累計販売本数が17万本と、同社の『妖怪ウォッチ』シリーズと比べると現在大人しめの数字ではあるが、関連の玩具の販売や多角メディア展開によって相当な収益を得ており、今後大きく伸びる可能性がある。これも、冒頭にあったモードの変化だろう。

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プレイステーション4

 プレイステーション4は、発売から3年4ヵ月で500万台を突破。じつは、このペースはプレイステーション3とほぼ同じだという。ハードでは並んでいるが、ソフトの売れ行きについてはプレイステーション4のほうが好調。ダウンロード販売を加味すれば、その差はさらに広がるだろうと浜村代表。『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』が131万本、『ファイナルファンタジーXV』が100万本を超え、収穫期を迎えたプレイステーション4。『モンスターハンター:ワールド』はワールドワイドで1000万本を狙っているのではないかと浜村代表は語ったほか、eスポーツの波に乗る『みんなのGOLF』にも注目しているという。

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Xbox One X

 2017年11月7日に発売が決まったXbox One Xだが、初回限定版である“Scorpio Edition”の海外での予約数がXbox史上最大、日本国内でも瞬く間に予約分が売り切れてしまうなど、大きな注目を集めている。アップスケールではないネイティブ4KやHDRといった映像表現の強化、そしてPCで人気を集めている『PlayerUnknown's Battlegrounds』のリリースなどで勝負をかける。

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アプリ市場

 社会現象にまでなった『ポケモンGO』だが、徐々にプレイヤーが減っていると囁かれていた。しかし、2017年度上半期の接触時間ポイント(独自の週次調査により、各タイトルのプレイ時間と人数をもとにポイントを算出したもの)を見ると、今年の5月から6月にかけていったん落ち込んでいた数字が、7月に入って再び伸びてきている。これは、レイドバトル(協力プレイ)の実装によるところが大きいと指摘。競技性の強化やコミュニティーの活性化を行い、再び火がついた好例だろう。また、アプリの市場においても、リアルイベントが定着してきていると浜村代表は解説。『パズル&ドラゴンズ』の公式大会や、ミクシィのXFLAGスタジオが開催したLIVEエンターテインメントショー“XFLAG PARK2017”など、eスポーツや興行的なアプローチは、アプリ市場でも盛んだという。

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国内の家庭用ゲーム市場規模

 前年比較で、ハードとソフトともに数字を伸ばしており、じつに5年ぶりの上昇となった。やはり、Nintendo Switchを始めとした据え置き機が好調であることによる影響が大きい。

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日本のeスポーツに大きな動き

 世界のゲーム産業においてeスポーツの分野は年に10%ずつ成長していると言われ、もはや無視することはできない。海外では高額な賞金が獲得できる大会が数多く開催され、先進国の中では日本だけが立ち遅れているのが現状だ。日本では、賞金制の大会を開催しようとした際、刑法賭博罪、景表法、風営法などの法律の問題が立ちはだかっていたが、大きな動きが出ている。

 それは、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)や一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)の協力を得つつ、日本のeスポーツ団体である一般社団法人日本eスポーツ協会(JeSPA)、一般社団法人e‐sports促進機構、一般社団法人日本eスポーツ連盟(JeSF)がひとつに統合されるというものだ。これにより、JOC(日本オリンピック委員会)に加盟する道が拓け、国際大会に選手を派遣できるようになる。また、この新団体がプロライセンスを発行することにより、日本でも賞金制の大規模大会を開催できる可能性が出てくるという。

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 2017年8月の調査によれば、国内で“eスポーツ”という言葉を聞いたことがあると回答したのは14.4%。同年2月の時点では11.8%だったため、半年で2.6ポイント増加している。また、テレビ番組などでeスポーツが取り上げられる機会が増え、日本でも着実に認知が進んでいると浜村代表は語る。eスポーツの進化に必要なのは、プロゲーマーがきちんと“プロ”として収入を得て、生活できること。それにより興行が活性化し、スター選手が生まれれば、テレビなどのメディア露出も始まって大きく広がっていくだろうと見解を示した。

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 この数年、“ゲームのサービス化”について盛んに語られてきたが、それは運営型のゲームやダウンロードコンテンツの追加など、タイトルの長寿化のみを指すことが多かった。しかし、すでにそのスキームは当たり前のものとなり、そこからさらに踏み込んだ“興行化”という、つぎのステージに入っている。この興行化は、IPに対して強く愛情を持っているファンだけでなく、ゲームをプレイしていない人すらも巻き込める点が重要だ。そのカギを握っているのは、やはりeスポーツだろう。法整備の問題もあり、「日本のeスポーツは遅れている」と散々言われてきたが、eスポーツ団体の統合によってようやく光明が見えてきた。日本でもいよいよeスポーツに火がつく。そうした背景で、我々メディアがどのポジションに入るかも大きな課題だ。eスポーツの発展は、業界全体にパライダイムシフトが起こり、この産業がさらに拡大する可能性を十分に持っている。