2018年2月13日にSteam版がリリースされたタイトーの『スペースインベーダーエクストリーム』。同社の看板タイトルでもあり、また『スペースインベーダー』の30周年の記念タイトルだった同作が、ニンテンドーDS版のリリースから10年のときを経て、Steamというプラットフォームで“新生”されることとなる。そこで今回は、具体的にどの部分が新たになったのかを開発スタッフに直撃。開発中の裏話とともに、リファインされさらに磨きがかかった魅力を存分に語っていただいた。
米陀大気氏(写真・左)
タイトー プログラマー
COSIO氏(写真・中央)
ニンテンドーDS版、PSP版のサウンドディレクター・コンポーザー。Steam版のコンポーザー
石川勝久氏(写真・右)
タイトー ZUNTATAリーダー Steam版のサウンドディレクター
「知られてないのがもったいない」意識から復活へ
――まずはSteamでの開発がスタートするまでの経緯をお聞かせいただけますでしょうか。
石川 企画がスタートするまでは、『スペースインベーダーエクストリーム』って社内で眠っていたタイトルだったんです。僕からすると「ちょっとわかりにくいけど触るとすごくおもしろさがわかる」というすごくいいゲームなので、眠らせたままではいかんと、定期的に社内プレゼンをしていたんです。その甲斐あって、プロデューサーの澤田智之から「やりましょう!」という話があって、プロジェクトが動き始めました。
米陀 最初はプラットフォームすら決まっていなかったんですよね。
石川 そうそう。というか、自社でSteamのパブリッシングをするのも今回が初めてです。Steamと言ったら海外では圧倒的に巨大なプラットフォームですし、『スペースインベーダー』を出すならSteamだろうということで決まりました。幸い、米陀はサウンドにも詳しいプログラマーでしたし、ニンテンドーDS版のキーパーソンだったCOSIOに声をかけたら二つ返事でオーケーしてくれたので、動き出しはスムーズでした。
――『スペースインベーダーエクストリーム』のタイトルありきでスタートしたわけですね。
石川 はい。2008年にリリースされたニンテンドーDS/PSP版は、ただのシューティングゲームではなく、ビートにシンクロして遊べるというところが、すごく画期的でした。と同時に「これをもっと多くの人に遊んでほしい」という気持ちもあって。そこで10年経って世代がひとつ変わったいま、『スペースインベーダーエクストリーム』のおもしろさをもう一度伝えたいなという意識でした。形になって本当によかったです。
――COSIOさんは、Steam版をやることが決まったと聞いていかがでしたか?
COSIO ニンテンドーDS版は僕がサウンド周りのシステムを設計したのですが、ハードの仕様上、サウンドデータの容量に気を配らなければならなかったんです。これが結構きびしくて、割当メモリから10KBを超えただけで動作が止まるようなギリギリの状態(笑)。クオリティーと容量の戦いには手こずらされました。それが今回Steamになるというので、まずは「音質をあげたい!」と。
――音屋さんとしてはそうなりますよね。
COSIO それに、いまだから言える話なのですけど、ニンテンドーDS版はゲームプレイとサウンドの同期が取れていない部分がごくわずかに残っていて、そこもぜひ直したいと思っていたので、退社後にもかかわらず声をかけてもらってたいへんうれしいです。アイデアを出したあとはもう、米陀君に「がんばって!」と託して(笑)。
米陀 下っ端の僕に決定権はなかったです(笑)。
一同 (笑)。
石川 このゲームには音楽ゲーム的な側面があるので、その素養と勘がプログラマーにも要求されます。その点、米陀は個人で音楽活動していることもあって、「ここはクオンタイズ(※)で」と言ったら、「ああ、わかりました」と、打てば響く感じ。今回は、開発がかなり楽でしたね。
※音を発するタイミングをビート(拍子)に合わせる処理のこと。
米陀 音楽は以前からずっと好きで自作をしていましたし、入社時はサウンドプログラマー志望だったんです。ゲームと音楽といったらやはり“音ゲー”ですから、ずっと作りたいと思っていたところに今回の話がきたので、がんばって作りました。それに、過去にはスマホ版の『スペースインベーダー』を作っていたのですが、「レーザーとか撃たせたらおもしろいよね」なんて話していたら、すでにあるという話を先輩から聞きまして。まさかその後に、そのタイトルに関わるとは思っていませんでしたけど。
――いろんなタイミングがパチッとハマって今回のプロジェクトになった感じですね。ところで、Steam版はどのように作り上げていったのでしょうか。
石川 最初にやったのは当時の仕様書を倉庫から引っ張り出したことです(笑)。それらを踏まえて元のゲームの楽しさをしっかりと担保しながらも、音やUI、プログラムはゼロから作り直したので、結果“リファイン”と表現するのがいちばんしっくり来るかなと。元のゲームの持つ気持ちよさは引き継ぎながら、続編である『スペースインベーダーエクストリーム2』の要素もちょっと取り入れながら構築し直しています。それに、元タイトーでニンテンドーDS/PSP版をプロデュースした、アオキヒロシさん(現マーベラス)にもご意見をいただいて、いろいろと解釈をすり合わせながら作っていきました。
――そもそも、ニンテンドーDS版は上下2画面ですものね。
米陀 はい(笑)。一画面としてのレイアウトは、PSP版を踏襲しつつ、解像度がアップしたことでの配置の見直しを行っています。
石川 そういった意味では、ニンテンドーDS版とPSP版の“いいところ取り”をしたという捉えかたをしていただけると。
秘密裏に生まれたインタラクティブサウンド
――せっかくなので、ニンテンドーDS/PSP版制作当時のお話も伺いたいのですが、ゲームと音楽を絡ませようというアイデアはどこで生まれたのでしょう?
COSIO 当時社員だった僕は、ニンテンドーDSのタイトルをいくつか担当をしていて、その流れで“インベーダーの新作”も担当することになりました。そのときにアオキさんからもらった企画書には、“スペースインベーダー・イズ・クール&エクストリーム”というキャッチコピーがあったんですね。
――クールですか!
COSIO ええ。開発の初期段階で、映像作家のくろやなぎてっぺい氏に先行してクールな映像を作っていただいたので、こちらもそれに合わせてクールなゲームサウンド、中でも僕の得意なテクノにしようと決めていきました。そうして実際に制作を進めているときに、ふと「効果音とか曲に合わせたらおもしろいんじゃない?」と言ったら、プログラマーがノッてくれて、ふたりで協力して勝手に作っちゃったんです……。アオキさんにナイショで(笑)。
一同 (笑)。
COSIO 曲のビートに効果音を合わせるということは、ボタンを押した瞬間に音が鳴らないということ。いまでも議論になるのですが、それはゲームの常識から言ってありえないことじゃないですか。でも、結果を恐れずにともかくやってみたら、意外と違和感がなかったんです。そこでアオキさんに見せたところ、「これならイケるかも」という言葉を引き出しまして。それでゲームの方向性が決まりました。
――『グルーヴコースター』もそうですけど、ここでもCOSIOさんが企画に深く関わられていたんですね。
COSIO 入社2年目ということもあって、若気の至りだったのかもしれません(笑)。当時僕が書いた仕様書を読み返すと、異常なまでに記述が細かいんです。
――ニンテンドーDS版のサウンドはストリーム再生だったのでしょうか?
COSIO いや、BGMは内蔵音源で鳴らしているんです。ストリームでやったほうがデータの持ちかたや音質的に有利なんですけど、ストリームのチャンネル帯域はムービー再生に取られてしまったんです。
――ああー、なるほど!
COSIO 内蔵音源で鳴らす以上、音色データのすべてをメモリ上に置かなくてはならず、ゲーム本体とのメモリの喰い合いになるんです。お互いに“ここまで使っていい”という取り決めはしていたのですけど、僕が「もうちょっと上げてみようかな」といじると、最初に言ったようにほんの10KBだけ超えたためにゲームが止まると(笑)。
――8bit時代のゲーム作りのような(笑)。
COSIO その後に容量がシビアなゲームを作ることはなかったので、そういった意味ではすごい経験でした。まさに“戦い”でしたね(笑)。
――といった出来事から10年を経てのリファインとなりますが、具体的にはどのような作業を?
COSIO 基本的には音質をすべて原曲と同じにしています。その上で、曲を聴き直すと、やっぱり10年前のテイストなんですね。イマドキのクラブの音って、低音と高音がもっとガツガツ来るのが主流なので、ベースの音を中心に手を入れました。それと、ニンテンドーDS版ではリバーブやディレイといったエフェクトをほとんど切っていたので、それを足しました。
――お化粧をし直したという感じでしょうか。
石川 そうですね。ほかの楽曲も、原曲を担当した方々にリファインしていただいています。
――新曲の3曲についてご説明をお願いします。
石川 COSIO、ZUNTATAの下田 祐が新ステージの曲を、同じくZUNTATAの土屋昇平がエンディング曲を担当しています。
COSIO じつはニンテンドーDS版って、リザルト画面が無音だったので、そこに曲を足しています。当時なぜそうなったのかは、まったく記憶にないのですが、マスターアップ直前に石川さんにお願いして(苦笑)。
石川 ですので、プレスリリースに載っていない(笑)。新曲についてこちらからは、COSIOはもうすべてをわかっているので「じゃあよろしく!」と、下田に関してはこれまでの楽曲を聞いてもらった上でテイストを合わせるようにと。ただ、最終面の曲なので「アゲアゲでよろしく!」というオファーです。土屋の楽曲については、エンディングとは言ってもほんの短いものなのですが、達成感を演出したくて追加しました。
ゲームとサウンドが完全にシンクロ! スコア周りもリファイン
――ゲームを組み上げるにあたって、どんな進めかたをしていったのでしょう。
米陀 最初はニンテンドーDS版の仕様書と現物をプレイしながら、まずはそれを再現していきました。ただ、先程の話にあったようにニンテンドーDSだからできなかった部分を改善したいという意見はサウンドの方々から上がっていたので、BGMが途切れることなくビートを刻み続けています。ニンテンドーDS版ではBGMが変化する際の“待ち時間”があったのですが、それもなくして完全にシームレスに繋げています。幸い僕はメモリの置き場所で揉めるようなシビアな世界ではなかったので。
石川 ニンテンドーDS版では読み込みの時間とかがあったのですが、「今回はステージを始めてからボスを倒すまで一度もビートが途切れないようにしよう」と、この3人で話していたんです。それが実現できたことが、ニンテンドーDS版との最大の違いですね。
COSIO ニンテンドーDS版のときは途切れるのが本当に悔しくて、その後に発売したサウンドトラックでは、全部つなげました。米陀君にも「サントラが正解だから、この通りにして」とお願いしました(笑)。
一同 (笑)。
――まさに進化版というところですね。ところで、『スペースインベーダーエクストリーム』ってコツのいるゲームじゃないですか。これからプレイする人に向けて、ワンポイントアドバイスをいただけますでしょうか。
石川 基本中の基本としては、同色のインベーダーを4体連続で倒すと、パワーアップアイテムが出現するところですね。それがわかってそのシーンに合ったアイテムを出せるようになるといいです。もうひとつは、アイテムを取ったら使いっぱなしにするのではなく“ホールド”ボタンで温存しておいて、つぎのウェーブ(編隊出現)時に一気に使うということです。アイテムの使いかたを覚えると、本作のおもしろさは全然変わってきますから、ぜひ試してみてください。戦略性が全然違います。
COSIO 僕はホールド使ったことないですけどね(笑)。レーザーでなぎ払うのが気持ちいいのですが、バリアインベーダーが倒せないのが難点(笑)。開発メンバーでいちばんうまいのは米陀君だよね。
米陀 テストプレイでのスコアは1500万点ですけど、リリースされたら瞬時にランク外ですよ(苦笑)。スコアに関してだと、Steamのユーザーにはよりマニアックなゲーマーがいると思って、上手な人ほど高いスコアを取れるようリファインしました。具体的には、ニンテンドーDS版はフィーバー中にUFO以外の敵を倒しても固定されたスコアしか入りませんが、Steam版では倒したインベーダーが増えれば増えるほど、指数関数的にスコアが上がっていくようになっています。ですので、一回のフィーバーでどれだけ多くの敵を倒せるかが、スコアアップのキモになっています。
――初のSteamプラットフォームということで苦労した点はありましたか?
石川 社内で初めてのことなので、わからないことだらけで進んでいったところはあります。ですが、今回協力会社としてデジカさんといっしょにやらせていただいているので、Valve社とのやり取りはもちろん、アチーブメント(実績)やトレーディングカードといった部分でご指南いただきました。
米陀 プログラム的には、実績とランキングをSteamのリーダーボード機能を使ってゲーム内に組み込んであります。新機能としては、画面左下にランキングのパネルを用意しました。プレイ中にリアルタイムに自分の順位が上がっていく様子が見られる仕組みになっているのですが、Steamでの開発が未経験だったので苦労しました。
――ランクの上昇をリアルタイムに感じられるのはいいですね。プレイ中にじっくり目をやる余裕はないかもしれませんが(笑)。
米陀 プレイ中にひとりで遊んでいるのではなく、(ネット回線越しに)周りにライバルたちがいるということを感じてもらえるよう実装しました。敵を連続で倒すとレーザーを発射したりと、じつは結構凝ったことをしているので、余裕があったら見てください。
本作が好評ならば新作『3』の可能性も!?
――せっかくなので今後のことをお伺いします。すでに『グルーヴコースター』が次回リリース予定となっていますが、タイトーの今後のSteamでの展開はどうなるのでしょう? さらに言うなら『スペースインベーダーエクストリーム2』も期待しちゃいます。
石川 Steam版『スペースインベーダーエクストリーム』の受け入れられかた次第なのですが、好評であれば『2』の可能性もあると思っているし、むしろ新作の『3』なんかもいけるんじゃ……とは、プロデューサーとは話しています。『2』は人気のあるタイトルですし、メンバーも揃っているのでぜひやりたいですね。初めてのSteamプラットフォームではありますが、海外ではすでに大きなマーケットですし、国内ユーザーも徐々に増えてきています。お客さんがいるところにしっかりとモノを届けたい思いはあります。
COSIO 『2』が出てくれないと“Invader GIRL!”が収録できないですから、ぜひやりましょうよ! どうせだったら、UFO-CO (うほこ)ちゃんをアニメーションさせてもらって(笑)。
――おお、COSIOさんは乗り気だ。では、40周年のアニバーサリーイヤーにリリースできた感想をお聞かせいただいて、まとめとさせていただけたら。
石川 ニンテンドーDS版からどうなるかと思った部分もありましたけど、ちゃんと現代の『スペースインベーダーエクストリーム』にリファインできたので、すごくよかったと思います。このゲームって、触ってみないとわからないおもしろさがあるんです。ショットの発射音や敵の破壊音が、勝手にBGMのビートを刻んで、ゲーム進行によって曲のアレンジも変化していく感覚は、言葉で説明するよりずっと気持ちいいんです。これをきっかけに、プレイしたことがある方はリファインした部分を、プレイしたことがない方は“自分のプレイで音楽を作り上げていく遊び”をぜひ体験してもらえればと思います。リリースから1週間はセールス期間でお安くなっていますので、ぜひいい音が聴ける環境で楽しんでください。
米陀 言い忘れていましたが、今回はボタンを押しっぱなしでもちゃんとビートとショット音がシンクロするようになっています。「ボタンを押す音がうるさい!」というユーザーさんの声にお答えしました(笑)。それ以外にも、ボイスもビートにシンクロするようになるなど、ゲーム全体がより“ノリ”を崩さないようリファインしています。そのシンクロ具合を感じていただけたらと思います。
米陀 ニンテンドーDS版はシューティングが好きな方向けのゲームだったと思うのですが、今回は音楽ゲームが好きなプレイヤーにも楽しんでもらえるようにという意識で作り上げていきました。音への同期や、ノリの部分にはかなり力を入れていますので、音楽ゲーム、音楽そのものが好きな方にも遊んでいただきたいです。
COSIO ニンテンドーDS版とPSP版のいいところ取り、かつイマドキに進化したバージョンです。僕からの要望としては、せっかく海外で通用するタイトルなんですから、海外でもしっかりプロモーション展開をしてほしいです。ライブとかだったら旅費だけ出してくれたら行きますから……海外でぜひ!
一同 (笑)。
――西海岸かドイツでDJプレイをするCOSIOさんの姿が目に浮かびます(笑)。本日はどうもありがとうございました!
最後に、タイトーから特別に提供していただいた、『スペースインベーダーエクストリーム』のプレイ動画を紹介。本作の特徴である“BGM一体型効果音”の一端をご確認あれ。