世界をアツくした『DMC5』ゲームデザインの秘密とは?

 2019年3月30日、大阪国際会議場にてゲーム開発者向け技術交流会“ゲームクリエイターズカンファレンス2019”(以下、GCC2019)が開催された。この記事では当カンファレンスで行われた『デビル メイ クライ5』(以下、『DMC5』)についてのセッションの様子をリポートする。

 今回のセッションに登壇したのは、『DMC5』のプロデューサーである岡部眞輝氏とマシュー・ウォーカー氏、そしてディレクターである伊津野英昭氏の3人だ。今回の講演ではメインの進行は伊津野ディレクターによって行われた。

 セッションタイトルは「感情からリバースエンジニアリングするゲームデザイン」。マシュープロデューサーのハイテンションなマイクパフォーマンスで大いに盛り上がった中で、講演が始まった。

『デビル メイ クライ5』のクライマックスを生んだのは“ロボットアニメの感動体験”!? 伊津野Dの講演をリポート【GCC2019】_04
岡部眞輝プロデューサー(左)、伊津野英昭ディレクター(右)

※この記事には『DMC5』のクライマックスに関わる重大なネタバレが含まれています。ご注意ください。

ユーザーの感情から逆算するゲームデザイン

 まず最初に語られたのは、伊津野氏が考えるゲームデザインの基本。伊津野氏はゲームをデザインする際、始めに、ユーザーに感じてほしい感情を考えるという。ユーザーに“こうなってもらいたい”という気持ち・感情を考えて、どうすればユーザーがその感情になってもらえるかを逆算していくのだ。

 そして、このような感情から逆算するゲームデザインを行うには、ゲームデザイナー自身が“感情のライブラリー”を豊富に持っていることが重要だ、と伊津野氏。

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 感情の引き出しを増やすために、伊津野氏が自身で行ったり、プロジェクトメンバーに勧めているのは、多様な経験をして、よかった感情を覚えておくこと。またその際に、経験する前に自分が体験するであろう感情を“想像”しておくことも必要だ、と伊津野氏は語る。それは、実際に経験した感情と自分が想像した感情を比べ、感情の差分を検証することが、感情のライブラリーを増やすのに有用だからだ。

 ここで伊津野氏は、ゲームを買うことを例に説明してみせた。いわく、私たちはゲームを買うとき、値段以上の楽しみが味わえると思うからこそゲームを買う。つまりゲームを買う段階で、ユーザーはゲームの内容やプレイして味わう感情を“想像”している。

 だが、「おもしろそうなゲームだ」と想像したのに、フタを開けてみればそうではなかった、というケースは往々にして存在する。そんなとき、自分が想像していたゲームと実際に遊んだゲームのおもしろさ・感情の差分はゲームデザイナーの財産になる、と伊津野氏。「“クソゲー”という言葉はあまり好きではありませんが、ゲームデザイナーは、ちゃんと分析できるならクソゲーを買ったほうが伸びると思います」。

幼少期の伊津野ディレクターをふるわせた体験

 また伊津野氏は、自分が過去に激しく感情を揺さぶられた経験を振り返ることの重要性も、具体的な例を挙げながら述べてみせた。

 伊津野氏が幼少期に激しくショックを受けたのは、テレビアニメ『マジンガーZ』の最終回。強くてカッコよかったあのマジンガーZが、なんと最終回で敵のロボット軍団に惨敗する。

 全身がボロボロに傷ついたマジンガーZ、もはやなす術はないのかと思ったそのとき、突如現れた初登場のロボットグレートマジンガーが、これまで苦戦していたロボット軍団をあっという間に倒してしまう。

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 「年上の層では、この展開に疑問を感じていた人もいたらしいですが、4歳の自分は激しく感動しました」と伊津野氏。

 また、同じような事例としてスーパー戦隊シリーズの劇場版についても解説。3体のロボットが力を合わせて戦っても勝てなかった強敵を、いきなり現れた4体目のロボットと3体のロボットが合体して巨大ロボに変形し、苦戦していた敵を一歩も動かずに撃破してしまう。この展開に、当時32歳の伊津野氏は「ボロボロに泣いた」そう。

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 伊津野氏は、このように過去に感情が大きく動いたことを思い出したら、そこで考えを止めずに、その感情を引き起こした原因を分析することが必要だと語った。

 ただし伊津野氏は、感情を分析する際は、“感情を呼び起こした原因”と“感情を増幅させた要素”を取り違えないよう注意すべきだと警告する。

 「自分はキャラクターに感動したのか? セリフに感動したのか? この要素がなければ自分は感動していたか? これらを、対照実験を行うように一個一個シュミレートすることが役に立つと思います」(伊津野氏)

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『デビル メイ クライ5』に生かされた伊津野氏の感動

 そして伊津野氏は『DMC5』のテーマが“挫折と覚醒”であったことを明らかにした。じつはこのテーマには、伊津野氏の感情の分析の結果が大いに反映されている(※伊津野氏の説明によると、発売前のプロモーションでは、本作のテーマは“フォトリアル”だと公表されていたが、それは真のテーマを隠すためのダミーだったのだそうだ)。

 本作の最終ミッションでは、ダンテとラスボスの最終決戦に、覚醒したネロが乱入する場面が存在し、このシーンがプレイヤーに大きな衝撃とカタルシスをもたらす。

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通常のアクションゲームでは、主人公が最強の状態になるのは最終局面の少し手前なことが多い。しかし『DMC5』では、最後の最後で最強状態になる。

 また、ダンテとVについても、同じようにそれぞれの“挫折と覚醒”がある。ダンテはユリゼンに1度敗北する挫折の末、覚醒し、ユリゼンに圧倒的な実力差で勝利する。Vはもまた、肉体が崩壊寸前であるという強烈な挫折を背負っている中で、最終的には衝撃的な復活を果たすのだ。

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ユーザーに「YES!」という感情になってもらうには?

 また伊津野氏は、ストーリー面だけではなく、アクション面をデザインする際にも、感情からゲームデザインを考える手法は有用だと語る。

 アクションゲームは、難しい面や敵に、苦労しながらも勝利したときの「やった!」「YES!」という感情が核である、というのが伊津野氏の考えだ。

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 伊津野氏いわく、ユーザーに「YES!」という感情になってもらうには、ユーザーが自分自身の力で難所を越える必要がある。そのためには、リスクとリターンのバランスをセオリー通りに設定し、敵の動きのパターンを見抜いたことを、ユーザー自身が自分の手柄だと感じてもらえるよう演出することが重要だという。

 たとえば『DMC5』では、敵の弱点をユーザーに見抜いてもらいやすいよう、敵のデザインからある程度攻撃のパターンが予想できるようにデザインしているのだそうだ。

 具体例として挙げられたのが、本作に登場するライアットという敵。このモンスターを作成した際は、6パターンのデザイン案が出たが、その中から採用されたのは、ひと目見るだけで転がって攻撃してくるのがわかる背びれ付きの案と、赤色かつ二足歩行で堂々と歩くいかにも強者の風格を醸すフューリーの案だ(ちなみにフューリーはこの名前がつく前までは"レッドアリーマー"と呼ばれていたのだそう)。

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 また、ユーザーにテクニックを磨く練習をしてもらいやすいよう、段階的にテクニックを習得できるレベルデザインを心がけている、と伊津野氏。ここで挙げられた例は、攻撃した直後にボタンを押すと、イクシードのゲージが一瞬で溜まるというネロのスキル。

 このスキルは『デビル メイ クライ4』にも登場しているが、伊津野氏は今回このスキルの成功判定を、小成功・中成功・大成功に分け、それぞれに報酬(イクシードのゲージ上昇)を設定した。

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 この設定によってユーザーは、イクシードのチャージを大成功させられなくても、ほんの少し溜まったゲージを見て、「いまのは惜しかったな」と成果がわかる。するとユーザーは、諦めずに練習を続けてくれるというわけだ。

失敗を“ゲームのせいにさせない”コンティニューシステム

 最後に伊津野氏が語ったのは、『DMC5』のコンティニューシステムについての話。

 『DMC5』では、コンティニューの際、一定額のレッドオーブを支払えばその場でコンティニューが可能なのだが、レッドオーブの支払額は3段階に分かれている。そして少額でのコンティニューだと少ないHPからのスタートとなるが、高額のレッドオーブでコンティニューをすると、体力が全快し、かつ敵の体力が半分からスタートするという大きなメリットが得られる。

 この3段階から選べるコンティニューシステムは、伊津野氏によれば、“ユーザーが自分にベット(賭け)するシステム”なのだという。

 「このシステムなら、低い体力でコンティニューしてまた負けてしまっても、少ない体力で勝てると思った自分のせいだな、と思ってユーザーが納得してくれます」(伊津野氏)。

 ゲームオーバー時はどうしてもユーザーがストレスを感じやすい場面。しかし、ユーザーがミスを自分自身の責任だと感じてもらえるようにデザインすることで、不満を溜まりづらくして、プレイを継続してもらえるように促しているわけだ。

 最後に軽い質疑応答を挟んだ後、セッションは幕を閉じた。発売からわずかな期間で、世界販売本数200万本を突破するヒットとなった『DMC5』の裏側には、ユーザーの感情を想定した緻密なゲームデザインがなされていた。感情から逆算する伊津野氏のノウハウは、ゲームデザインのみならずさまざまな分野でのクリエイティブに応用できそうに思える。興味のある方は、まずは"体験する感情を想像する"ところからはじめてみてはいかがだろうか。

■脳間 寺院(のうま・じいん) ゲーム・動画ジャンルが専門のライター。京都生まれポケモン育ち、ボンクラオタクがだいたい友達。Twitterでも面白い動画やゲームについて情報を発信中。
Twitter:@noomagame