2017年、ひとりのオンラインゲームプレイヤーのブログが、実写ドラマ化され、大きな話題となった。その名も『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』。10年間毎日ブログ更新を続けているブロガー・マイディーさんによる“光のお父さん計画”をもとにした作品だ。

 最初は「友だちを紹介したらもらえる、ふたり乗りマウントが欲しい!」という思いにより、実のお父さんへプレゼントした『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)。それにより、『FFXIV』を通してお父さんに親孝行をするという企画に発展し、そのおもしろさが、多くの読者を惹きつけた。

 “光のお父さん”がドラマ化を経てさらなる人気を博し、2019年6月21日についに映画化が決定! 主人公のアキオ(マイディー)役を、俳優の坂口健太郎さん、お父さん(インディ)役を吉田綱太郎さんが演じる。

『劇場版ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』“エオルゼアパート”の撮影現場に潜入。会議室には広大なエオルゼアの世界があった!!_12

 本作は、ドラマ版のころから特殊な作りかたをしており、役者が演じる“リアルパート”。役者が演じる際に映し出される“ゲーム画面パート”、そしてゲーム内の世界でアクターがキャラクターを用いて演技をする“エオルゼアパート”がある。その“エオルゼアパート”は単なるゲーム画面ではない。ゲーム内でまさに映画の撮影をしているのだ。

 そんな“エオルゼアパート”は、原作者兼アクターのマイディーさん、そしてドラマ版と同じく、エオルゼアパートの監督を務める山本清史氏の熱い想いがふんだんに込められている。今回は、そのエオルゼアパート撮影現場に潜入できたので、撮影現場のリポート、そしてマイディーさんと山本監督へのインタビューを掲載する。

この空間はまさに映画の撮影現場

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 撮影の現場はとある会社の一室。一見ただの会議室だが、ここでは大きな世界での撮影が行われていた。撮影現場は、エオルゼア内、南ザナラーンの南部にあるサゴリー砂漠だ。そこで、8名の光の戦士たちが、歩く。ただひたすらに歩く。

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 この場面は、カメラマン(監督)に向かって8名が向かってくるという、スタイリッシュなシーンだった。これがどういう状況で、どのように使われるのか詳細がわからないため、ただ歩いているだけにしか見えない。しかし、撮影に掛かった時間は30分ほど。8名が真っすぐ歩けているか、途中で変な方向を向いていないか、他者と歩むスピードが違っていないか。入念に確認され、何度も撮影をし直す。

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 ゲーム内の撮影とはいえ、撮影現場には“光の戦士”を演じる8名のアクター、そして監督、補佐の人もいる。動く方向を示すためにマーカーを置いたり、「●●さん、もう少し左に行って」などの声かけも聞こえてきて、まさに、映画の撮影シーンに立ち会っていたかのよう。思い返すと、自分もあの熱い砂漠にいたような気もする。

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 撮影したカットは、監督の画面を写したモニターでみんなで確認。このようにエオルゼアの世界で撮影する“エオルゼアパート”が作り出されている。今回見学できたのは、ほんの一部のシーンのみ。しかし、その場面に込められたこだわりはひしひしと感じられ、ほかのパートも早く見てみたい! と思えた。

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 ゲーム内でただキャラクターを撮るだけではなく、ゲームのキャラクターを演じるという演出は、ドラマ版でも拝見し、非常に感動した。ふだん自分がプレイしているゲームとは、同じでもあり、少し違う世界だと感じられたのだ。その撮影現場を見れて、さらにこのゲームの奥深さを知れた気がする。そんなおもしろい画作りが詰まったこの映画、楽しみじゃないはずがない!! 原作であるブログ、ドラマでストーリーは知っているが、映画のための映像作りという、また新たな観点でも楽しめそうだ。

マイディーさん、山本監督が作る、映画の中の“エオルゼア”

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インタビュー前に読んでほしい用語補足

リアルパート……坂口さんや吉田さんなど、役者の方が演じる場面。
ゲーム画面パート……リアルパート内で、ゲームをする際に表示されているゲーム画面。
エオルゼアパート……ゲーム内でキャラクターを用いてアクターが演じる場面。イメージとしては、主人公が脳内補完したゲームの中で生活している世界。

――『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』がドラマ版を経て、映画化すると聞いたときの率直な感想をお教えください。

マイディー ドラマ版の撮影では、エオルゼアパートを作るアクターとして課題が残っており、もう少し作り込みたいなという気持ちはあったため、いい機会でした。やはり“銀幕デビュー”なので、気合を入れないとな、と!

山本 ドラマ版の際には、できたこと、できなかったことの両方がありました。ドラマの撮影後に、ゲーム内のアップデートで、前回の撮影時に欲しかった機能が追加されて(笑)。やり直せるならやり直したいと思っていて……。今回はいいチャンスです!

マイディー エモート(※)の数も増えましたしね!

※エモート……『FFXIV』内で、感情を表現できる動作。選択したエモートにより、キャラクターが動いたり、表情を付けたりする。

山本 なんと、被写界深度までいじれる(※) という! もうちょっとまえにやってくれたら……(笑)。

※……ゲーム内のシステム“グループポーズ”には、選択したエモートを何度もくり返せたり、視点を自由に変更したり、ライトアップをできたりと、スクリーンショット撮影に役に立つ機能がある。アップデートにより、被写界深度の調整も可能に。

――それに加え、スクウェア・エニックスさんの協力があり、撮影のために開発サーバーと同等の環境も借りられたとのことで。

山本 本当にありがたいことに、天候や時間を自由に変えられるようになり、撮影時間の短縮につながりました。ただ、天候や時間を変えられるとなると、演出の幅が広がり、欲が出てきてしまって……(笑)。たとえば、曇り空が晴れていく、などの演出だったり、考えるべきことは増えましたね。

――光の加減など、予想以上に入念なロケが必要な気がします。

山本 そうなんですよ。意外と伝わりづらいのですが……(笑)。ロケハンの最中は、違うゲームをしているような気分になります。ドラマ版のときは、一般の公開サーバーで撮影をしていて、天気や時間も成り行きで行っていたのですが、今回は太陽の位置なども入念に計画しています。

――そんな違いがある中で、ドラマ版と意識的に変えている部分、あえて変えていない部分を教えてください。

山本 脚本の段階で変えている部分としては、ドラマ版では、エオルゼアパートでお父さんがくるくる回るシーンがあったんですね。好評をいただいていたのですが、僕の中ではじつはピンと来ていなくて。というのも、エオルゼアパートのように、ゲーム画面のみで見ると、そこでリアルのお父さんに何が起こっているのかが、伝わらないんですね。なので今回は、ゲーム画面を見ているリアルパートを通して表現しています。基本の骨は変わらないのですが、表現の方法を工夫しています。

――非常に細かいこだわりですよね。マイディーさんはいかがですか?

マイディー 基本的には変わっていませんが、エモートの表情が増えているので、その組み合わせはこだわっています。

山本 そもそも、今回の撮影では、エオルゼアパートの撮影も、その場にアクターを集めて、顔を付き合わせながら行っているので、細かい要求は増えましたよね。

マイディー ドラマ版では、チャットで会話して進行しながら、天候待ちがあり、時間に制限もあったのですが、今回、直接しゃべりながら演じられるというのは、非常にやりやすかったです。撮影の同時進行もできますしね。画のグレードは上がっていると思います。

――たいへんな作業だとは思いますが、撮影期間はどのくらいなのですか?

山本 エオルゼアパートだけですと、1日5~6時間の撮影で2週間ほどですね。意外とゲーム画面パートのほうが時間がかかっています。お父さんやアキオの画面があり、UI(ユーザーインターフェース)などもそれに紐づいていて、チャットをしているシーンを撮るだけで長い時間を要しまして……(笑)。

――見学させていただいた、エオルゼアパートの撮影シーンでも随分とリテイクなどがありましたが、いつもリテイクは多いのでしょうか?

山本 今日は、アクターの人数が多かったり、初めて参加される方もいたので、時間がかかりました。いつもは灰皿が飛び交ったりしていますよ! ……冗談です(笑)。

マイディー お菓子を食べながら楽しく撮影しています(笑)。

――ドラマ版ではFC:じょびネッツア(※)の皆さんも撮影に参加されていたとのことですが、今回も?

マイディー 顔を合わせながら行う撮影ですので、一部のメンバーに手伝ってもらっています。ドラマ版でも手伝ってくれていたこともあり、飲み込みも早く、とても助かっています。

※FC:じょびネッツア……FCとは“フリーカンパニー”の略称で、『FFXIV』内におけるギルドのようなもの。 “じょびネッツア”とは、マイディーさんが設立したFC名。

山本 僕は今回、マイディーさんの演技を見て、衝撃を受けましたね。あの“1・2・4”というマクロは何ですか?

マイディー あれは、リップシンクの秒数ですね。『FFXIV』は、チャットを打つとキャラクターがその長さに合せて、口を動かすんです。1秒のマクロ、2秒のマクロ、4秒のマクロと、セリフに合わせて、秒数を調整したマクロを用意しています。監督もできたら、秒数で言ってください! 「ここは2・2・4で」とか!(笑)。

山本 サッカーのフォーメーションか!(笑)。これに加えて、表情にもこだわってますよね。

マイディー そうですね、ただ表情を変えるだけでも、真顔からいきなり怒っている表情にするのではなく、あいだにいぶかしげな表情を挟み、3段階にすることで、より自然な表現ができるんです。話すときも棒立ちにならないように工夫をしたり。エモ―トって、ゲーム内で自分の気持ちを伝えるものですので、ふだんゲームで使う際には、いきなり“怒る”などの表情にしがちなのですが、エオルゼアパートは、主人公の脳内補完された世界なので、人間らしく動くようにしています。ゲーム画面パートでは、逆にゲームっぽさを出すため、棒立ちのまま話したりしています。

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――そういった工夫は、ドラマの撮影などの経験が作り上げてきたものだと思うのですが、経験がより活かされている部分はありますか?

マイディー ストーリーはドラマ版と同じなので、気持ちのうえではバージョン2.0というか(笑)。前の演技をベースにさらにこだわれるので、よりパワーアップしたものをお見せできるんじゃないかなと思っています。さらに、今回は監督の手元で、カメラマン視点で撮影したものが再生できるんです! ドラマ版では、それが見れなかったので、何がいいのか悪いのかもわからなくて……。

――確かに、カメラマンの視点で見るのと、アクターのプレイ画面で見るのとでは、ぜんぜん違う印象でした。実際の映画の撮影現場のようでしたね。皆さん、まさにプロのアクターですが、意見の衝突などはあったりしたのでしょうか?

マイディー これは、監督が柔軟に対応してくれていて。まずは僕らの意見を聞いてくれるんです。直すべきところがあれば「ここだけ直そうか」と。また、アクターが複数人いますので、その人の個性が出たり、いい演技につながっていると思います。

山本 実写と変わらないですね。

――ドラマ版では全7話だったところを、今回2時間程度の映画1本に収めるとのことで、調整が難しかったのではないのでしょうか?

山本 今回初めて映画を見てくださる方、ドラマを見てくださっていた方、マイディーさんのブログの読者の方、すべての人に伝わるよう作らなければならないので、入念に打ち合わせや議論を行いました。関係各所、自分の希望があるので、腹の底を見せ、にこやかに意見をぶつけ合って(笑)。

マイディー 会議室じゃなくて、カラオケボックスでね(笑)。

――その限られた尺の中で、テーマはどこに絞ったのでしょうか。

山本 基本的には、お父さんの成長です。『FFXIV』を始めて、自分の隠していた想いや、伝えきれなかった言葉を表に出せるようになる。この大きなテーマは変えてはいけないと思っています。それにプラスして、アキオの成長も絡めていきたいなと。ふたりがゲームを通して、絆を取り戻しつつ、親子関係を再生し、成長を感じられるストーリーがメインになっています。

――その変わらないテーマの中で、原作やドラマ版にはなかった妹が新たに登場するという展開もあるのですよね。妹はどのように関わってくるのでしょうか?

マイディー 距離があるアキオとお父さんがふたりで話をするより、あいだに妹がいてくれると展開が早くなるという仕掛けですね。

――なるほど。尺に制限がある中で、重要なキャラクターではありますよね。ドラマ版にはなかった要素といえば、エオルゼア内にも、新たなルガディンのキャラクターがいましたよね?

マイディー 彼は……僕らの中では非常にお気に入りなキャラクターですね(笑)。

山本 作中でキャラクターを使う人物の性格や職業に当てはめてクリエイトをしていたのですが、台本の中に「強そうなキャラクターがいい」というセリフがあって……。それで強そうなルガディンになりました(笑)。

マイディー オンラインゲームに興味のない友だちに、いっしょに遊ぼうと誘ったら、思いのほか“ガチ勢”に成長することってありますよね。そういうキャラクターなのかなぁと思っています。

山本 ジョブ(※)も玄人向けな感じですしね。

※ジョブ……『FFXIV』内での職業。ナイトや白魔道士、黒魔道士など、ジョブごとに特色があり、ステータスが異なったり、ジョブ専用のアクションを使用できる。

マイディー お父さんとは違う、もうひとりの初心者さんを出すべく、そのようなキャラクターになりました。

――確かにそういう人いますよね。楽しみです! ドラマ版ではマイディーさんがリアルパートの部屋のレイアウトなども担当されていたとのことですが、今回はいかがですか?

マイディー よくぞ聞いてくれました! じつは僕、10万円分ほど“『FFXIV』ファンフェスティバル関連グッズ”を買ってしまいまして……。昨日届いたのですが、ぜひそれを使ってくださいと現場に持って行きました(笑)。ですので、グッズはほとんど見られていないんです……。部屋を見てプレイヤーの方にも「いいな」と思ってもらえるような、オシャレで理想的な『FFXIV』プレイヤーの部屋をイメージしています。

グッズを10万円購入したと報告する、マイディーさんのブログ
http://sumimarudan.blog7.fc2.com/blog-entry-3754.html

――最後に、本作の見どころをお教えください。

山本 本作を見てくださった方に、実際にゲームのキャラクターを動かして作った映像が、映画やテレビでも十分勝負できるものになる、ということを知ってほしいですね。「映画はこうである」という思い込みをなくして、ゲームというツールを使って映画を作れるんだということが、僕がこの作品を作るモチベーションになっています。「これってCGなの?」と思われるような、作品になるようがんばっているので、ぜひ確認してほしいです。皆さんが思っている画とは違うものになっていると思いますので、お楽しみに!

マイディー 基本的には親子関係のストーリーなのですが、僕がずっと思っているのは、これがオンラインゲームの可能性であり、オンラインゲームプレイヤーのひとつの夢の形であるということ。自分のプレイが映画になるということは、ロマンがありますよね。「あ、僕、坂口健太郎なんや」って(笑)。

――(笑)。

マイディー さっき監督がおっしゃっていたように、CGだと思われたいという部分もありますが、もう1歩踏み込んだところに注目いただきたいんです。演じているキャラクターひとりひとりに命があり、考えて動かされていて、リアルの撮影現場に近い環境があるということを伝えられるように努力しています。

 オンラインゲームなので、“ゲーム”という言葉の通り、敵を倒したりもするのですが、それだけでなく、僕たちのように映画撮影だったり、音楽を奏でてコンサートをする方、バーを経営している方など、文化的な遊びを楽しんでいる方もいらっしゃいます。そういった部分もいまのオンラインゲームだと知ってもらうため、撮影に励んでいます。この作品を観て少しでも「いいな」と思った方は、ぜひ『FFXIV』を遊んでみてください! 本当に楽しいので!

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作品概要

劇場版 ファイナルファンタジーXIV光のお父さん
2019年6月21日全国ロードショー

監督
野口照夫(実写パート)
山本清史(ゲームパート)

脚本
吹原幸太

出演
アキオ:坂口健太郎
アキオの父・暁:吉田鋼太郎
アキオの会社の同僚:佐久間由衣
アキオの妹:山本舞香
アキオの会社の先輩:佐藤隆太
アキオの母親:財前直見

声の出演
マイディー役(アキオのゲームキャラ):南條愛乃
あるちゃん役(ゲーム内フレンド):寿美菜子
きりんちゃん役(ゲーム内フレンド):悠木碧

原作
『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』マイディー

配給
ギャガ