VRゲーム『ALTDEUS: Beyond Chronos(アルトデウス: ビヨンドクロノス)』(以下、『アルトデウス: BC』)のクラウドファンディングが2020年8月30日に終了。1650人の支援者により、2000万円の支援金を集めた。同クラウドファンディングで掲げられたのは“日本中でVRムーブメントを巻き起こす”という目標だ。この言葉にはどんな想いが込められているのか? MyDearest代表取締役社長、岸上健人氏にお話をうかがった。

岸上健人氏(きしがみ けんと)

徳島県出身。物語のあるVRゲームを主軸としたゲーム会社MyDearestを立ち上げる。最新作の『アルトデウス: BC』では、前作『東京クロノス』に引き続き、総合プロデューサーを務める。(文中は岸上)

川野優希氏(かわの ゆうき)

『アルトデウス: BC』宣伝プロデューサー。

“日本中でVRムーブメントを巻き起こす”とゲーム業界はいったいどうなるのか……?

――まずは“VRムーブメントを巻き起こす”という理念を掲げたきっかけからうかがえれば。

岸上ひと言で言うと日本をVR先進国にしたかったんです。現在は悔しいことに、VRは欧米が中心となっています。VRゲームもほとんど欧米から出ているんですよね。欧米のVRゲームもおもしろい作品がたくさんあるのですが、日本からももっとおもしろいVRゲームが出てほしいという想いが強くありました。また、日本の人はVRが絶対好きだと思うんですよ。

――それはどんな理由で?

岸上いろいろなVR作品があるということもありますが、『.hack//』や『ソードアート・オンライン』、『攻殻機動隊』など、ゲームやアニメなどでも、VRを取り扱った作品がたくさんあるんですよね。Facebookのスタッフからも、日本で本格的にマーケティングを開始する前からOculusがめちゃくちゃ売れていてビックリしたという話を聞いていますので、数字の面でも実際に日本の人のVRへの注目度は高かったのだと思います。

――そんな話があったんですね(笑)。岸上さんは、VRムーブメントを実際に巻き起こすには、何が必要になってくると思われていますか?

岸上いちばんわかりやすいのは、日本の大手ゲームメーカーの参入です。プレイステーション VR発売当時は、いくつか大手メーカーも参入してソフトをリリースしていました。そういったメーカーにもう一度タイトルを作ってもらえる土壌を作ることが目標になります。

 そのためには、まず僕らみたいなインディーメーカーがヒットを出さないといけないと。もちろん、プラットフォームやハードウェアも重要ですが、そこはOculus Quest 2の登場でクリアーしているのかなと。そもそもOculus Quest 2自体がすぐれたハードですし、日本での展開も、テレビCMの放送や家電量販店などを中心とした店舗でも買える施策、日本専用のストアまで作っていたりと、かなり力が入っているんですね。土壌はできているので、あとは大ヒットと言える作品と大手の参入がカギになるかと。

――大手がまずは動いて、ほかが追従するみたいな流れが多いのではないかと思うのですが、逆なんですね。

岸上VRって2016年に“VR元年”と謳われて、「VRの時代が来る」と言われていましたが、結局そんなブームにはならなかったじゃないですか。その傷跡もあるので、大手が入りにくくなっているのではないかと。一度積極的にやって、思っていたラインにまでいかなかったということで。

――盛り上がりはしたけど、つぎにはつながらなかったと。

岸上そういうことだと思います。ちなみにVRは、現在予算じゃないところで勝負ができる市場なんです。いまPS5のゲームを作ろうとするととんでもない予算が必要ですが、VRは1億円前後でタイトルが作れちゃう世界なんです。そういう意味でもインディーが戦いやすい土壌だとは思います。

MyDearest岸上健人氏が掲げる“日本中でVRムーブメントを巻き起こす”という言葉に込められた想いとは?

――なるほど。さきほど日本展開についてのお話もありましたが、Oculus Quest 2の発売は、VR業界の流れを変えるきっかけになっていると思われますか?

岸上明らかに流れは変わっています。これまでVRデバイスを買おうと思わなかった人が、“迷う”ところまできているんですよね。いままでは迷うことすらしなかったですから。

 当社の『東京クロノス』もOculus Quest 2の発売初日に、これまでの10倍くらい一気に売れたんです。数字のうえでも新規のユーザーが増えたことを実感できましたね。それに『東京クロノス』というタイトルはちゃんと黒字のゲームなんです。“VRは先行投資”といった言われかたをしていますが、すでに収益化できています。

 世界でも200万本を超えたVRゲームが2本、100万本となると4本ありますから、ゲームファンにとってはいまがちょうどおいしい時期だと思いますね。今回、日本展開でOculusがいろいろなデベロッパーに声をかけて、どんどん新たなタイトルを作り始めているという話も聞いていますから、いいタイミングではないかと。

Oculus Quest 2の発売で盛り上がるVR業界

 10月13日にはOculus Quest 2が発売。PCなどに接続する必要のない完全ワイヤレスのオールインワンVRヘッドセットとして注目を集めている。また、同VRデバイスは64GBモデルが37180円[税込]と、これまでのVRデバイスに比べて価格が安く設定されているほか、日本の家電量販店などでの販売も開始され、国内で買いやすくなったことも特徴と言える。

MyDearest岸上健人氏が掲げる“日本中でVRムーブメントを巻き起こす”という言葉に込められた想いとは?
Oculus Quest 2(64GB)(Amazon.co.jpで購入) Oculus Quest 2(256GB)(Amazon.co.jpで購入)

――日本でVRムーブメントを起こして、世界を狙うということになると思うのですが、そのためのタイトルが、フォトリアルなタイプの作品ではないということに違和感を感じるゲームユーザーもいると思います。そのあたりはどのように考えられていますか?

岸上じつはそれはすごく大事な質問でして、Oculusのスタッフからも、聞かれることがあるんですよ。でも、インディーでそこまで作り込めるかという問題と、もうひとつ理由がありまして。そもそもVRデバイスはまだそこまでスペックが高くないんです。だから前提としてフォトリアルなゲームがやりづらいというのがあります。だから、ゲームデザインで勝負ができる、いまがチャンスだと思っています。

 それにいまのうちにそういう市場を作ってしまえば、フォトリアルなゲーム以外の選択肢が作れると思うので、まずはそういった選択肢を増やすという意味でも、フォトリアルなものではないゲームを作ろうと思っています。

――ちなみに岸上さんは、VRのゲームを作るにあたって、いちばん重要視しているところはどんなところなんですか?

岸上僕らの場合は、欧米を中心したVRの考えかたと反対の考えになるのですが、ストーリー性をものすごく大切にしていますね。体感的なものやアクション性の部分は欧米がめちゃくちゃやっているので、そこで勝負をしても勝算が高くはない。だから、VRの魅せかたでストーリーを思いっきり体感してもらう、ということを大事にしています。

 とはいえ、最新作の『アルトデウス: BC』では、VRらしさを大幅に増やして400メートル級のメカを操作したり、手を使う探索要素などをたくさん盛り込んでいます。ストーリーの体感という意味でも、『東京クロノス』のときよりもさらに深く掘っていく形になっていて、ゲーム性の部分はグッと横に広がってたくさんの人がプレイしたくなる作品になっています。

――VRならではの魅せかたという意味では、『東京クロノス』は本当に驚きました。VRってその世界に入り込む、自分が介入するという印象だったのですが、『東京クロノス』のあるシーンで、一斉に複数のキャラクターから見つめられるシーンがあって。その瞬間、本当にドキっとしたんですよ。ゲームの中のキャラクターたちがこっち側(現実)に干渉してくるという感覚を味わったシーンでした。

岸上あのシーンは、プレイした方々から、よく話題に挙げていただけていますね。この独特な体感はVRならではの強みだと思います。

――最後に、実際にVRムーブメントをここで起こしたとして、その先に何が起こるのでしょうか?

岸上日本のゲームが世界のゲーム市場を築いていった時代に戻せると思います。日本でみんなが思いっきりVRゲームを買えば、市場が世界一になる可能性すらある。すると市場規模が大きいので、世界中のメーカーが日本に注目し始め、日本の市場が有利になるようなゲームがたくさん出てくる。

 こういう状況が作れれば、日本の大手メーカーがRPGを作るかもしれないし、そういう未来をゲームファンの手で作れるかもしれないんです。また、VRゲームなら開発費を抑えられるので、シリーズ作やIP関連タイトルではなく、いままでに見たことのないゲームがたくさん出てくる可能性もあります。いままでにないゲームなんてワクワクするじゃないですか。僕もいままでに見たことがないゲームを見たいんです!(笑)。日本でVRムーブメントを起こすことで、そういう時代が来ると思っています。

MyDearestが手掛ける最新作が12月4日に発売!!

 『東京クロノス』の300年後の世界を描く『アルトデウス: BC』が、ついに発売される。巨大ロボットに搭乗する感覚を味わえるアドベンチャーゲームとなっており、前作と比べると“物を手でつかむ”といったVR的なゲーム要素も増えているとのこと。

 今回、インタビュー終了後に宣伝プロデューサーの川野優希氏も交えて『アルトデウス: BC』について語っていただいた内容を、誌面のスペースの都合で掲載できなかったので、こちらでお届けする。

MyDearest岸上健人氏が掲げる“日本中でVRムーブメントを巻き起こす”という言葉に込められた想いとは?

――『アルトデウス: BC』の開発も大詰めかと思いますが、手応えはいかがですか?

川野本作はマルチエンディングなので、けっこうシナリオが分かれるんですが、そのうちのひとつのエンディングまで先日プレイしまして。その際にめっちゃ鳥肌が立ったんですよ。少なくとも僕はシナリオを全部知っているのに。

 そこで「このゲームやべえな」って感じました。ゲームで鳥肌が立つなんて、人生でゲームを何百本もやっていますが、数えてもそれほど多くはないので、そのうちのひとつをVRで体験できたというのは、すごいことだと思います。僕が言うと説得力ないですけどね(苦笑)。

――“宣伝プロデューサー”ですからね(笑)。でも、それくらいの感動があるということなんですね。

川野400メートル級のロボットが戦う世界をVRで体験できるので、ぜひ味わってほしいです。あと、キャスティングがめちゃくちゃハマっていて。

岸上僕もシナリオを全部読んでいるので、すべて知っているのですが、やっぱり声優さんの演技が入るとぜんぜん違うんですよね。感情がものすごく揺さぶられます。

川野ゲームファンはもちろん、アニメファンにもぜひ注目してもらいたいです。アニメとも4DXとも違う体験ができるんじゃないかと。

岸上『東京クロノス』のときに予算やスケジュールの都合でやりたくてもできなかったことを、全部入れ込んでしまおうという感じで今回作っているので、かなりVRらしくなっていると思います。……まあ、たいへんすぎて後悔はしたんですけど(苦笑)。『アルトデウス: BC』では探索で手を使う場面も多く用意されているので、ぜひこの世界に触れていただければ。

ALTDEUS: Beyond Chronos(アルトデウス: ビヨンドクロノス)

発売日:2020年12月4日発売予定
価格:価格未定
備考:VR専用(Oculus Quest 2/Quest/Riftほか)、ディレクター:柏倉晴樹、キャラクターデザイン:LAM、シナリオ:小山恭平/カミツキレイニー/高島雄哉、メカニックデザイン:I-IV、サウンド:郡 陽介、総合プロデューサー:岸上健人