2021年8月24日~26日の3日間、オンラインにて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けのカンファレンス、“CEDEC2021”。本稿では、会期2日目の8月25日に行われたセッション“3D美少女キャラのモーションキャプチャによる“かわいい”動きへのこだわり ~ダンス編~”の内容をリポートする。
本セッションでは、サイバーエージェント“ebi tec labo”の海老沼宏之氏、エルアンドエル・ビクターエンタテインメントの能登有沙さん、宮崎あゆみさんが登壇。モーションキャプチャーのダンスを3D美少女キャラに落とし込む際に、どのような工夫をしているかについて、QualiArtsより配信中のスマホアプリ『IDOLY PRIDE』を例に、数多くの作品の振り付けを担当しているという能登さん、宮崎さんによる実演を交えながら紹介された。
セッションではまず、ダンス制作時におけるモーションキャプチャ収録までの基本的な流れが、海老沼氏より説明。キャラクターモデルや楽曲の制作後、振り付けの依頼をし、モーションキャプチャの収録が行われる。実際はもう少し細かい過程があるそうだが、大まかには以下の流れとなっているそう。
モーションキャプチャ収録後のカメラやライブ演出も大切だが、「かわいいダンスを作るには、ダンスのベースとなる振り付けが重要」と語る海老沼氏。そこで、本セッションでは振り付けに着目し、3D美少女のダンスを魅力的にするためのディレクションのポイントが解説された。
まずは、アイドルのダンスと3D美少女のダンスそれぞれの特徴について説明。アイドルのダンスでは、ダンスと歌詞がバランスよくリンクしていることがもっとも特徴的。たとえば、歌詞に合わせて手で花やハートなどを表現する動きなどが挙げられる。
また、簡単で真似しやすいキャッチーな振り付けも特徴のひとつで、ライブで観客といっしょに振り付けで盛り上がれるという魅力にも繋がっている。
3D美少女のダンスではどうかというと、修正が可能であることが特徴。頭の角度や首のポージングなどの細かなポーズの修正ができ、別のテイクを繋ぐ、複数人で同じ動きをさせることなどが容易に行える。一方で、キャラクターどうしの接触や衣装の干渉など、動きに制約が発生することもある。
これらを踏まえて、振付師に依頼して振り付けを作る際に必要な要素が紹介。その内容については、以下のとおり。
・曲(歌詞)
できるだけ変更がない、完成されている状態が望ましい。仮歌でも可。
・衣装
動きの制限に関わるため、衣装の情報が重要。
・キャラクター情報
性格やキャラクターたちの関係性がダンスに関わってくる。
・歌割(複数で歌唱する場合)
フォーメーションダンスの振り付けを考えるときに必要。
・ステージ
階段や花道があると、ダンスで表現できることが変わる。
・プロップ
マイクや扇子などの小物の有無。持ち替えが可能か否かの情報も重要。
・テーマ、イメージ
だれの曲であるか、ということや、かっこいい、かわいいなどの曲の方向性。
・動きの制約リスト
しゃがまないでほしい、といった制限のリストがあると、振り付けの戻しも少なくなる。
続いて、能登さん、宮崎さんによる実践や動画を交えて、かわいい振り付けにおける10のポイントが解説された。
1つ目は、全体の構成がテンションつけされているか。ここでのテンションとは、振り付けやダンスの激しさを指す。サビではいちばんテンションを上げて盛り上がれるように、ダンスのメリハリをつけることが重要となる。
2つ目は、歌詞どりのバランスは良いか。アイドルのダンスは、歌詞に合わせたダンスを取り入れることが特徴だが、振り付け師は歌詞のない曲に振り付けを行うことも多いとのことから、どれだけ歌詞に合わせたダンスを取り入れるか、しっかりとディレクターがバランス感を見てあげる必要があるとのこと。
ここでは、能登さんが実際に、題材として挙げられた歌詞を用いた即興の振り付けを披露。すべての歌詞の要素を動きに取り入れることもできるが、“幕の内弁当”のように、要素が詰め込まれすぎな印象となってしまうとのこと。こちらの歌詞はAメロとして使われているため、少し動きを緩やかにして、おとなしめにすることで、サビとのメリハリがつけられるそうだ。
3つ目は、キャッチーな動き、ポーズが入っているか。ダンスができない人でも真似しやすい振り付けが入っていることで、見る人に対して強く印象づけることができるため、このような振り付けも重要であるという。
4つ目は、視線誘導がされているか。画面上に複数人いるときに、歌う人が決まっている場合、周りのキャラクターが引き立てるような振り付けをして、視線誘導が行えているかが重要。
ここで大事になってくるのが歌割りで、歌う人とそうでない人で動きを変えて、歌っていない人は頭や体、手の動きで歌っている人に視線を誘導する必要がある。
ほかにも、歌っている人は前で、そうでない人は後ろでダンスを行うなど、フォーメーションの変要も有効であるそうだ。
5つ目は、衣装を活かした振りが入っているか。スカートや振り袖、マントなど、衣装に揺れやすいそうなものがあると、振付師はダンスに取り入れやすいという。衣装を活かした振り付けを入れることで表現の幅が広がり、魅力も増すそうだ。
6つ目は、本当に歌えるようになっているか。CGの場合は呼吸をする必要がないため、気をつけるべきポイントのひとつであるという。ダンスの中に息継ぎのタイミングが入っていないと、ロボットのように感じられてしまい、一気に嘘くさくなってしまう。
たとえば、ロングトーンのときに細かな振り付けが入っていると歌いにくそうに見えたり、スタンドマイクなのにターンをしてしまうと、リアリティが損なわれる。そのため、ロングトーンの際には、手振りによって歌いやすくするなど、実際に歌いながら踊れるように振り付けを行うことが大切だと語られた。
7つ目は、繰り返しのバランス感が良いか。同じ動きの繰り返しは覚えやすく、観客も真似しやすいため、アイドルのダンスでは効果的。反面、同じ振り付けが繰り返されてしまうと単調に感じてしまうため、そのバランス感が重要とのこと。
ここで上映された参考映像では、4回同じ歌詞が登場するが、そのうち3回は同じ振り付けで、最後の1回だけはアレンジが加わった振り付けとなっていた。そうすることで、ダンスが飽きないように工夫されているそうだ。
8つ目は、カメラワークを意識しているか。これは、パフォーマンスの中で、カメラによってアップされる場面を想像したときに、なるべく顔の近くに手に置くことで、表情はもちろん、手の動きが追加されるので、画面が映えるというもの。キャラクターを魅力的に見せるために欠かせない要素だ。
9つ目は、キャラらしさが入っているか。振り付けの中でキャラクターの個性が演出されていると、ダンスの魅力が増すとのことで、実際のゲーム内の映像とともに、各キャラクターに合わせた振り付けが行えている様子が紹介された。
最後のポイントは、動きが3Dキャラ映えしているか。具体的には、動きにメリハリがきいているか、身体を3Dに使って末端の角度が曲線か、という2点が重要であるそう。
メリハリは、ダンスに緩急、強弱がついて感情表現がついているか、ということ。身体を3Dに使うとは、ダンスが正面向きばかりだと固い印象となるので、身体を斜めにしたり、手足に角度をつけてあげることで、女性らしさが表現できる、ということ。
また、空間が生まれるので立体的に見せられる利点もあるとのことで、能登さんより、3Dキャラ映えするためのコツが実演された。
セッションの最後には、モーションキャプチャの収録がうまくいくためのアドバイスとして、リハーサルを行うこと、意見を述べる代表者を決めることが重要であると説明。また、現場で発生する細かな問題点は、3DCGゆえ後から修正できることもあるため、まずは円滑に収録を進めることが大事だとまとめたところで、セッションは終了となった。