2001年に第1作が発売された『逆転裁判』は、2021年で20周年。これを記念し、さまざまな特別企画を掲載。『逆転裁判』シリーズのアートディレクターを担当する塗和也氏のインタビューをお届け。

 『逆転裁判』を語るに欠かせない個性的なキャラクターたちがどのように生み出されたのか、キャラクターデザインを担当した布施拓郎氏に当時のお話を訊いた。

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布施拓郎氏(ふせ たくろう)

カプコン/アートディレクター。『逆転検事2』のイベントカットを始め、『逆転裁判5』、『逆転裁判6』のキャラクターデザイン、アートディレクションを担当。影響を受けた作品はマンガ『COBRAコブラ』や『エースをねらえ!』など。(文中は布施)

キャラクターの気持ちを想像

――布施さんは『逆転検事2』から『逆転』シリーズに参加をされたかたちになります。イチからキャラクターを作るのと、シリーズ途中から制作に参加し、すでにあるキャラクターを描くのではどのように違いましたか?

布施既存の人物は設定がブレないように気をつけながら、新たな魅力を引き出せないかと考える楽しさがありますね。岩元(辰郎)さんがデザインした『逆転検事2』の一柳検事や美雲ちゃんは、イベントカットにもよく登場したので、彼らがどう考えて行動したのか想像しながら描きました。

 自分のキャラクターは、ある程度できあがれば勝手に動くというか、迷わず描けるようになります。『逆転裁判6』は舞台に合わせた民族衣装や、『逆転裁判』初期作品の登場人物など時間の経過も考えた場合はたいへんでしたね。

『逆転裁判』布施拓郎氏インタビュー。「『逆転裁判6』は舞台に合わせた民族衣装や、初期作品の登場人物など時間の経過も考えた場合はたいへんでしたね」
成歩堂龍一(『逆転裁判5』)

――成歩堂や御剣はシリーズの途中から年齢を経て改めて登場することになるわけですが、そのデザインは全体的には劇的に変わってはいないのに年齢を重ねたのがよくわかります。

布施成歩堂のギザギザ頭はトレードマークなので変えないけれど、ピチッと髪を固めていた初々しさが抜けて大人の余裕が出るよう、前髪を少し下ろしました。

 御剣のメガネをかける案は、検事局長として険しさに磨きがかかったのもそうですが、父親の御剣信の面影を感じさせたくて、試しにメガネをかけさせてみたんです。するとしっくりきて、「これだ!」と。

『逆転裁判』布施拓郎氏インタビュー。「『逆転裁判6』は舞台に合わせた民族衣装や、初期作品の登場人物など時間の経過も考えた場合はたいへんでしたね」
御剣怜侍(『逆転裁判5』)

――メガネひとつで“親に似てきた感”が(笑)。

布施服装で言うと、成歩堂くんは弁護士に復帰後はスーツ姿になるという前提がありました。模索した結果、三つ揃えでボタンを外し“やり手”感を出しつつ、若さも感じられるようにしました。

――成歩堂はみぬきの立派なパパになりましたが、まだ34歳なんですものね。

布施成歩堂くんを始め、『逆転』シリーズはスーツの人が多いですよね。おかげで男性のスーツ姿を描くのが好きになりました。

 スーツの種類や構造を調べてみると奥が深くて。ちょっとした違いで印象が変わるんです。人物像に合わせて服をデザインするのがより楽しくなりました。

――布施さんの絶妙なさじ加減は『逆転裁判6』の真宵でも発揮されていますね。

布施真宵ちゃんも代表的なキャラクターで、皆さんもイメージがあると思いますので大事にデザインしました。19歳から28歳になり、男性陣と比べて変化が大きかったのが印象深いです。

『逆転裁判』布施拓郎氏インタビュー。「『逆転裁判6』は舞台に合わせた民族衣装や、初期作品の登場人物など時間の経過も考えた場合はたいへんでしたね」
綾里真宵(『逆転裁判6』)

オーダーは“強敵っぽく”

――ゲーム制作中は、ディレクターサイドからどんなリクエストがありましたか?

布施よく覚えているのは、『逆転裁判5』、『逆転裁判6』ともに「ライバル検事は強敵に見えなくてはいけない」というオーダーを受けたことですね。

 でも“強敵っぽく”ってすごく抽象的ですよね(笑)。ベテラン検事ならまだしも、割と若い設定でしたし。

――『逆転裁判5』の夕神迅は28歳。意外と若いですね。

布施そうなんです。そこでデザインでうまく強敵感を出すしかないと、ユガミは囚人なので、手錠で力を抑えられている感じや悪行をしていそうな人相に(笑)。

 『逆転裁判6』のナユタは、神のような強さがコンセプトで、悟ったような半目やフワフワした謎の布をまとわせました。

――謎の布はつい眺めてしまいます(笑)。『逆転裁判5』からは人物が3Dモデルになりました。

布施ええ、“ブレイクモーション”も3Dならではの演出を考えて描いたので楽しかったです。

――ほかに楽しかったお仕事というと?

布施15周年コレクションボックスの全員集合イラストですね。開発終了後から少し時間を置いたことで、キャラクターとじっくり向き合って楽しみながら描けました。

『逆転裁判』布施拓郎氏インタビュー。「『逆転裁判6』は舞台に合わせた民族衣装や、初期作品の登場人物など時間の経過も考えた場合はたいへんでしたね」
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2017年に発売された、限定版『逆転裁判1〜6』のソフト収納ボックス。75人が勢揃いしたイラストは布施氏による描き下ろし。

――ちなみに、これは半分冗談の質問なのですが、『逆転』シリーズには“巧みなシナリオを書く巧舟”を始め、主人公のなるほどくんこと“成歩堂龍一”、金持ちの“コゼニー・メグンダル”など、名前に特徴がある人物が多くいますよね。

布施ええ。

――その論で行くと、“ふせたくろう”さんには、“伏せた苦労”がじつはおありだったりするのでは……?

布施ハッハッハ。なんですかその質問!(笑) 僕は、ないですね、苦労についてはすぐに言って、笑い話にしちゃうので。

――失礼しました(笑)。それでは最後に、布施さんの『逆転』シリーズへの思いをお聞かせください。

布施逆転検事』の開発を機に改めて『逆転裁判』に触れたところ、純粋におもしろくて。キャラクターがシンプルでわかりやすく、少し古くさいところも逆にイイというか。

 もともと僕は格闘ゲームブーム世代なので、自分もそんな流れを汲むデザインに携われたのが楽しかったです。ゲームも移り変わりますが『逆転裁判』らしい作品は続いていってほしいですね。

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