2022年7月28日に日本一ソフトウェアより、Nintendo Switch、プレイステーション4にて発売された『グリムグリモア OnceMore』(開発はヴァニラウェア)。

 本作は2007年4月にプレイステーション2にて発売された『グリムグリモア』のリマスター版。ヴァニラウェアらしい美麗なグラフィックが、さらに綺麗にリマスターされたほか、ゲーム性や遊びやすさも大きくアップ。ファンタジーな世界観の中で、戦略性に溢れるリアルタイムストラテジー(RTS)が楽しめる。

 本記事では、開発を手掛けたヴァニラウェアのスタッフ陣にインタビュー。本作のリマスターについてや、オリジナル版開発当時の開発秘話などをお届けしよう。記事の最後には、掲載許可をいただいたオリジナル版の企画書も公開するので、そちらもお楽しみに!

※インタビューは2022年7月20日に実施しました。

『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!

神谷盛治 氏(かみたにじょうじ)

ヴァニラウェア代表取締役社長。『グリムグリモア』ディレクター。(文中は神谷)

西村芳雄 氏 (にしむらよしお)

ヴァニラウェア所属。『グリムグリモア OnceMore』ディレクター。(文中は西村)

金山晃久 氏(かなやまてるひさ)

ヴァニラウェア所属。プログラマー。(文中は金山)

『グリムグリモア OnceMore』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『グリムグリモア OnceMore』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp)

リマスター理由のひとつはスタッフへのご褒美!?

――『グリムグリモア OnceMore』の企画はヴァニラウェアから日本一ソフトウェアに提案されたとうかがいました。今回、リマスター化しようと思った理由を教えてください。

神谷理由はいくつかあるのですが、『十三機兵防衛圏』(※)のメインプログラマーだった、金山くんが決め手です。金山くんはオリジナル版の『グリムグリモア』があったからヴァニラウェアに入社したというくらいの“グリモア”好きで、『十三機兵防衛圏』でがんばってくれた彼が移植を期待したので、彼への感謝と労いの意味も込めて日本一ソフトウェアさんへリマスター版のお話をさせてもらいました。

※『十三機兵防衛圏』:2019年にアトラスより発売されたアドベンチャーゲーム。ヴァニラウェアが開発を担当している。

――今回新たに蘇る『グリムグリモア』ですが、ヴァニラウェアとしては『グリムグリモア』にどのような想い入れがあるのでしょうか。

神谷それを語るにはぶっちゃける必要があるのですが、このインタビューにGOを出してくれた日本一(ソフトウェア)さんは許可していただけたとみて、ぶっちゃけますね(笑)。プレイステーション2版の『グリムグリモア』は当時としても特殊な状況で開発していました。ヴァニラウェアと日本一さんがタッグを組んだのですが、開発費はすべてヴァニラウェアが持ち、日本一さんは販売と広報を担当するという座組で、『グリムグリモア』のIP(※)権利は、実質日本一さんのものでした。

※ IP:Intellectual Propertyの略。キャラクターなどの知的財産のこと。

 タッグと言いつつも……なんだかヴァニラウェアのリスクばかり高い契約ですが、当時の僕は世間知らずでしたし、好きなものを作って発売できれば、それで満足でした。また、『グリムグリモア』の精神的続編に当たるのが『十三機兵防衛圏』ですし、進化させたものを別のタイトルとして作れる自信があるので、僕自身IP には執着がありません。

 ただ、たとえば僕がダンプにはねられて異世界転生した際、残されたヴァニラウェアの仲間には残せるものがあるべきかなと思いまして。そこで、今回のリマスター化と同時に、日本一さんに「こちらの損でいいのでせめてIP をいただけませんか?」と提案したのです。しかし、ゲーム企業にとってIP を譲渡するというのはかなり難しいようで、残念ながら実現はしませんでした。

 大人の事情はともあれ、 想いとしましては、『グリムグリモア OnceMore』を待ち望まれるお客さんが喜んでくれて、金山くんが笑顔になる。今回はもう、それでいいかなと(笑)。

――オリジナル版とはグラフィック解像度は大幅に違うと思います。元素材などはデータとして残っていたのでしょうか? また、16:9になったことにより、描き足した部分などはありますか?

西村解像度に関しては、オリジナル版のちょうど2倍となっています。元素材はほとんど残っていましたが、弊社はとてもおおらかな管理体制なので、一部は完全に失われていました(笑)。また、16:9の比率に変わったことで、UIは全面的に修正しています。ほかにも、背景を描き足した部分もありますし、会話シーンの背景はアニメーションを修正したり、テクスチャーを整えたりといった対応もしています。

――キャラクターボイスが一新されていますが、何か狙いや意図があるのでしょうか?

神谷オリジナル版のボイスも今回の新ボイスも魅力的なのですが、ボイスの一新についてはかっこいい理由があるわけではなくて(笑)。開発費はヴァニラウェア持ちだったというお話をしましたが、オリジナル版は音楽も音声もヴァニラウェアが費用を負担して制作を進めていたので、2006年の秋ごろに完全に資金が尽きて、ついに借金に頼る状態に陥ってしまったんです。

 本当に資金のない中、サウンド関係を担当していただいたのが、ベイシスケイプさん(※)でした。ベイシスケイプさんに手を尽くしていただいたおかげで、“使用できるのはプレイステーション2版のみ”という限定条件で、費用を抑えて声優さんたちを起用することができたんです。そういった経緯から、今回は新たにボイスを録り直すことになりました。

※ベイシスケイプ:音楽制作会社。サウンドクリエイターの崎元 仁氏が代表を務めている。

 当時ろくな費用も払えなかった僕らに、ベイシスケイプの崎元さんは一級品の音楽を用意してくれたうえに、「神谷さんはここで業界から退場するべきではない」と言って、かなりの額の開発資金も貸してくれました。崎元さんも、当時は決して楽なわけではなかったはずなのに……。こうしてヴァニラウェアは、作品が世に出る前に消えずに済んだのです。

――胸が熱くなるようなお話ですね。

神谷これからまだまだがんばりますよ。崎元さんの期待を裏切るわけにはいかないですから。

『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!

初めてプレイする人も楽しめるように

――新要素である大魔法を追加された理由についてお聞かせください。

金山戦闘でどうしようもない状況になったとき、ほんのちょっとだけ踏ん張れる要素として追加しました。RTSに不慣れな方への救済策という意味合いもありますが、使用回数制限があるため、あくまで補助的な位置づけになっています。

――新たな成長要素としてミッション達成によるスキルツリーを追加された理由も教えてください。

金山オリジナル版では、成長要素がストーリーの進行と結びついていたため、誰がプレイしても攻略方法は基本的に変わりませんでした。今回は人によって違う攻略ができるとおもしろいのではないかと思い、スキルツリーを発案しました。ミッションについてですが、社内のテストプレイでRTS未経験の人にプレイしてもらった際、どうもRTSのセオリーや使い魔の特性がなかなか飲み込めないようでした。そこで、ミッションという形でゲーム攻略に役立つテクニックを学べるようにしたんです。また、やりこみ要素としての面もあります。ストーリー後半になるほどミッション内容が難しいものが多くなり、さらに報酬も多くもらえます。

――新要素の追加によってバトルの難易度にはどのような影響がありますか?

金山基本的にはプレイヤー側の強化要素ではあるため、うまく使えばクリアーしやすくなっています。ただ、正しいものを取捨選択しなければ効果は出ないので、人によって難易度の感じかたに違いが出ると思います。

――早送りや戦闘中セーブなどの便利機能もうれしい追加要素だと思います。

金山自分でオリジナル版をプレイしたときに、ゲームオーバー時のやり直しがたいへんだったので追加しました。長いステージだと攻略するのに1時間くらいかかる場合もありますから……。今回は、早送りや戦闘中のセーブによって時間がない方も気軽にプレイできるようになっていると思います。

――今回の開発でとくに苦労されたポイントはありますか?

金山本作の目標のひとつに“RTS初心者のプレイヤーを、ゲーム性が損なわれないようにサポートする”というものがありました。先ほどお話ししたミッションや大魔法のほか、ゲーム内の攻略本にあたる“ストラテジーノート”なども追加しています。挑戦したことのないジャンルで心配な方も、よければ挑戦してみてください。体験版も配信中なので、まずはそちらを触っていただければと思います。

――改めて、『グリムグリモア OnceMore』の魅力を教えてください。

西村本作の魅力はオリジナル版から変わらない部分ではありますが、ゲーム性とシナリオです。動き回る個性的なキャラクターを眺めるのも楽しいですし、刻一刻と変化する状況の中で自分の考えた戦いかたを試すおもしろさは、ほかのタイトルではなかなか味わえないと思います。また、追加された成長要素により、さらに理想の戦略を追求できるようになっています。そして、表情豊かなキャラクターたちによって語られるシナリオは、ミステリーありサスペンスありの、刺激的な内容となっています。そのシナリオ進行とともに、本作のためにヴァニラウェアのスタッフたちが描き下ろしたイラストが解放されていきます。ぜひご覧になって、『グリムグリモア』の物語をより楽しんでください。

『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!

オリジナル版の開発秘話

――『グリムグリモア』は当初『スタークラフト』(※)を『ハリー・ポッター』風に作るのが発想だったと、以前お聞きしました。そもそも当時、RTSで新作タイトルを作ろうと思った理由を教えてください。

※『スタークラフト』:1998年に発売された、現Activision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)のRTS。人類・エイリアン・宇宙人の3つの陣営が戦う。対戦モードが人気で、世界中で人気を博した。

神谷いやこれはもう『スタークラフト』みたいなの作りたかったから、としか言えませんね(笑)。当時メチャクチャ『スタークラフト』にハマっていて、よく対戦していたんですよ。『スタークラフト』はハードでSFな世界観ですが、ゲーム性も含めて日本のプレイヤーには受け入れにくいのかなと感じていました。ですので、日本で受けしやすいものにしようと、モチーフを“魔法学校”と“魔女っ子”で、さらに『ハリー・ポッター』テイストにすることは決めていました。ちなみに、さらにもうひとつ、企画段階で考えていたことがありました。

 それは『マリーのアトリエ』(※)などで知られる、イラストレーター・桜瀬琥姫さんにキャラクターを描いてもらおうという案です。企画書(記事下部を参照)では、アドベンチャー(ADV)パートに当たるところがアトリエパートなんて書かれています。当初は召喚魔法の開発を『マリーのアトリエ』のアイテム調合っぽくしたADVパートにする案もあって。それなら、イラストは桜瀬さんにお願いしたいなと考えていました。

※『マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士~』:旧ガスト(現コーエーテクモゲームス)が1997年に発売したRPG。独特のゲーム性や個性的なキャラクターたちで人気を博し、現在もシリーズタイトルが発売中

 実際、桜瀬さんにはお声がけしてお話も聞いてもらったりしたのですが……。そのときは、とにかく僕らにお金がありませんでした。外注費を捻出するどころか、ヴァニラスタッフに給与を支払うことすら困難な状態に陥り、泣く泣く断念したという経緯があります。桜瀬さんには、本当に申し訳ないことをしてしまいました。お金どころか、もう時間すらなくて「ヴァニラウェア内製でなんとかやるしかない!」と、絵柄に独特な魅力を持つ前納くん(※前納浩一氏)に、キャラクターデザインをお願いすることになりました。

――そんな経緯があったんですね……。開発の時間がなかったというお話は、『オーディンスフィア』(※)の開発の影響により、『グリムグリモア』の開発期間が半年しかなかったと以前お聞きしましたね。より具体的に当時の開発秘話をお教えください。

※『オーディンスフィア』:2007年5月に発売されたアクションRPG。開発はヴァニラウェア、発売はアトラス。

神谷開発秘話というほどのお話でもないのですが、時間がなさ過ぎて開き直った結果、最小設計で最大効果を意識した企画仕様に挑戦できたのは、失敗した部分を含めて僕にとっては実りある経験でした。シナリオに関しても同様です。

 『プリンセスクラウン』(※1)は途中で小森くん(※2)に手伝ってもらったりしたので、僕にとっては『オーディンスフィア』が初めてイチからすべて書き上げたシナリオになるのですが、『オーディンスフィア』の後、シナリオの方法論とか、そういったものがふんわり見えてきて「あれこれ試したいな」と思っている矢先に書いたのが『グリムグリモア』のシナリオでした。

※1『プリンセスクラウン』:1997年に発売されたRPG。神谷氏がディレクターを務めた。セガとアトラスの共同プロジェクトだった。
※2 小森くん:アトラスに所属する、小森成雄氏のこと。『世界樹の迷宮』シリーズのコアスタッフとして知られる。

 『オーディンスフィア』のストーリー制作には半年以上かかりましたが、『グリムグリモア』では 2ヵ月以内に詰まることなく気持ちよく書き上げることができました。そういう工程も踏まえて、僕が作ったテキストの中ではいまでも好きな部類だったりします。

 シナリオもそんな感じですぐ用意できましたし、グラフィックもプログラムも予定を前倒ししまくって完成し、最後のデバッグをしていた2007年1~2月ごろには、逆にスタッフの余裕がありすぎて暇を持て余していたので「ちょっとプロジェクトを最小化しすぎたか」と不安になったのを覚えています。あ、今回の『グリムグリモア OnceMore』はなんだかんだ開発に10ヵ月掛かっているので、開発期間では半年で作ったオリジナル版を超えちゃってるんだなぁ……(笑)。

ヴァニラウェア、いろいろ始動中!

――日本一ソフトウェアさんとはひさびさのタッグとなりますが、今後も新規タイトルが日本一ソフトウェアさんから発売されることもあるのでしょうか。

神谷昨今の家庭用ゲームは続編やシリーズものばかりになってしまい商業重視に傾く中、新規IPタイトルですとか、新機軸を続々と立ててチャレンジし続ける日本一さんは、ゲーム業界にとっても貴重な会社です。個人的にも、応援したいという気持ちはあります。しかし、いくら低空飛行が得意なヴァニラウェアと言えど、いろいろと難度が高くてなかなか手を取りにくいのが現状です。

――まだ発表はされていませんが、ヴァニラウェアが開発中のタイトルはいくつかあると、以前お聞きしました。その後の進捗はいかがでしょうか。

神谷十三機兵防衛圏 プロローグ』で閲覧できる、謎の新作映像が少しだけありましたよね。現在もアレを鋭意開発中です。あの作品は僕がディレクターではないのですが、ヴァニラウェアの中では最大級の作品となりますので、ぜひご期待ください。

 僕のほうは、新たな会社さんとやっている大きな案件があったりと、なんだかんだ作業が積み上がっており、進みは遅々として相変わらずですが必ず完成させますので、発表まで気を長くしてお待ちいただけると助かります。

 ちなみに今回公開する『グリムグリモア』のオリジナル版企画書は“失敗企画書の例”としてゲームクリエーターズカンファレンスの講義で配ったものと同じです。RTSをRPGと言い張るのは無理スジです。参考になさらぬように(笑)。

『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!

オリジナル版の企画書を大公開!

 最後に、『グリムグリモア』の原型となる企画書を今回特別に掲載。舞台や世界観、RTSを題材にすることなどは踏襲されているが、アドベンチャーパートはより育成要素が当初強かったことなどが見て取れる。ぜひ隅々までチェックしてみてほしい。

『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!
『グリムグリモア OnceMore』開発のヴァニラウェアにインタビュー。当時の赤裸々な開発秘話から、オリジナル版の企画書も特別に大公開!