ゲームライターをしていると、自分からはあまり手に取らないタイプのゲームタイトルに触れる機会が、たびたびやってきます。「このゲームをプレイして、レビューを書いてみませんか?」といった依頼が舞い込んでくるからですね。
「自分が遊びたいわけじゃないゲームをプレイしなきゃいけないなんて、たいへんそうだ」と思う人もいるかもしれません。けれど筆者は、こうした機会があるたびにワクワクします。好みのものだけ選び取っていたら、きっとあり得なかった出会い……あまり遊んでこなかったジャンルへの挑戦……それはときとして、これまでの人生で凝り固まってしまった価値観を解きほぐしてくれます。
そうやって出会ったのが、仕事であることも二の次で夢中になれるゲームであったなら、こんなにうれしいことはなかなかありません。自分にとって、ゲームライターの醍醐味のひとつと言ってもいいでしょう。
なぜこんな話をしたかと言えば、今回レビューするゲーム『キミガシネ -多数決デスゲーム-』(以下『キミガシネ』)が、まさにそんな作品だったから。
本作はniconicoの自作ゲーム投稿サービス“ゲームアツマール”にて2017年に無料配信開始、そして2023年2月21日にSteamでも配信されることが決まったアドベンチャーゲーム。作者は漫画家としても活動しているナンキダイ氏です。
誘拐されて集められた11人の男女が、多数決でもっとも票を獲得した人物が死んでしまう理不尽な“デスゲーム”に参加させられる――そんなストーリーが展開される本作。Steamなどで購入できる個性的なインディーゲームには目がない筆者ですが、ゲームアツマールの作品はまったくのノーマーク。恥ずかしながら、今回初めて名前を知ったタイトルでした。
しかし、いざゲームを遊んでみると、個性豊かなキャラクターたちの魅力と、謎が謎を呼ぶストーリー、“デスゲーム”での一歩も引けない論戦を落とし込んだゲームシステムや、そこで垣間見えるキャラクターたちの意外な一面――これらによる目が離せない展開を、夢中で楽しむことになったのです。
『キミガシネ』は『少年エース』にてマンガ版も連載中(動画はボイスコミック版)
拘束された状態で目覚めた女子高生……命からがら脱出した先で、不条理なデスゲームが始まった
高校2年生のサラは、親友のジョーとともに、見知らぬ部屋で拘束された状態で目覚めます。“最初の試練”と称される謎解きを命からがら切り抜けたふたりは、同じように試練を生き延びた9人の男女と出会うことに。
全員で手分けして施設を探索し始めるサラたち。癖の強い人物もいるものの、誰もが自分たちの日常へと無事に帰りたい11人は協力し合い、いくつかのピンチをくぐり抜ける中で、徐々に絆のようなものも芽生え始めます。
しかし、“フロアマスター”と呼ばれる生きた人形・ホエミーと遭遇し、11人の中の誰かが必ず死ななければならない“デスゲーム”が行われることを告げられると、この絆には大きな亀裂が入ります。
他人の発言に対して、自らが生き残るための嘘かもしれないと、疑心暗鬼になる者。誰かの怪しい行動を、サラに告げ口してくる者。一見、人当たりのよさそうな人物も、何やら決して他人を踏み込ませない“秘密”を抱えていたりして、真意がハッキリするまで油断はできません。
そんな状況だからこそ、サラを助けようと懸命になってくれる人物や、ふとした優しさを見せてくれる人物にグッときて、信頼を寄せたくなるのですが……果たして、心から信じ切ってもいいのかどうか……?
『キミガシネ』をプレイしてすぐに引き込まれたのは、キャラクターたちの魅力が大きかったように思います。主人公のサラは冷静沈着で肝っ玉が座っているものの、高校生らしい等身大なところもあって、誰もが感情移入しやすい人物のはず。ちょっとチャラい雰囲気のジョーも、友人想いのいいヤツで、ちょっとした台詞の端々にサラへの思いやりが感じられます。
ほかのキャラクターでは、サラに信頼を寄せてくれる自称警察官の男・ケイジや、理不尽な状況に絶望しかけている女の子たちを優しく気づかう姉御肌な女性・レコなどが筆者のお気に入りのキャラクター。また、最初のうちはサラやレコにフォローされることの多かったキャラクターたちが覚悟を決めたときの行動にも、ホロリとさせられました。
……そんな誰ひとりとして欠けてほしくない人々が、ひとり、またひとりと減っていくことで生じる、胸にぽっかりと穴が開くような喪失感。その落差は、キャラクターが魅力的に描かれているほど大きくなるもの。つらい……けど結末を見届けたい……そんな相反する感情がゲームをプレイする原動力となって、やめどきを失うおもしろさを生み出しています。
なお、配信日の時点でのSteam版は“アーリーアクセス版”。つまりまだ完成されていない状態でのリリースとなり、ストーリーの完結は、今後のアップデートでのエピソードの追加を待つことになります。
現在、ストーリーが未完結なのは“ゲームアツマール”でプレイできるフリーゲーム版も同様で、完結まで遊べるのはSteam版のほうが先になるとのこと。そしてSteam版限定の要素として、各キャラクターのミニエピソードも楽しめます。フリーゲーム版でプレイを始めた場合も、ストーリーの結末をいち早く見届けたくなった人や、キャラクターの魅力に強く惹かれた人には、Steam版をプレイするのがおすすめです。
謎が謎を呼ぶ“探索パート”に、「負けたら死」の“議論パート”。変化に富み、緊張感が途切れないゲームシステム
ここからは本作のゲームシステムについて書いていきましょう。といっても、本作のゲーム内容を説明するのは少し難しい。ざっくり書くならば、“探索パート”と“議論パート”を行き来してストーリーを進めていくわけですが、プレイヤーに求められることは、状況や展開によってさまざまに変わっていくのですから。
“探索パート”では、脱出ゲームのようにアイテムを集めたり組み合わせて仕掛けを解いていく状況もあれば、“サブゲーム”と呼ばれる、ときとして生死を賭けたチャレンジを強要される状況もあります。
一方で“メインゲーム”と呼ばれるのが、多数決デスゲームが行われる“議論パート”。こちらは議論のフェーズによって、プレイヤーが要求されることは変わっていきます。
基本は、アイテムを突き付けて誰かの発言の矛盾を暴いたり、相反する立場の参加者の発言を戦わせて討論に発展させること。その上で、討論が平行線で決着が付かないときは、一方の発言を支持したり、ときにはサラ自身が“舌戦”を展開して、相手に納得してもらうことが必要な場合も。
“互いの考えかたのすり合わせ”と、“譲れない一線があるときの主張のぶつかり合い”では要求されることが変わってくるあたりが、ヒートアップしていく議論にリアリティをもたらしています。
こうした各種パートにおけるゲームルールの追加や変化は、ストーリー展開と連動して自然に行われていくので、戸惑うことなく慣れていくことができるはず。また、こうしたゲームシステムの流動性やバリエーションの豊かさこそが、本作の体験をユニークかつ緊張感が途切れないもの足らしめていると言えるでしょう。
本作のとくに特徴的な部分である、メインゲームこと多数決デスゲームの展開について詳しく書いていきましょう。作中ゲームとしてのルールは“人狼ゲーム(『汝は人狼なりや?』)”にも近く、多くの参加者が特筆すべき力のない役職である一方、特殊な役職も存在。中には多数決で選ばれてしまうと、選ばれた者以外のほとんどが全滅することになってしまう役職も!
詳細は省きますが、こうした特殊な役職が誰に割り当てられるかは、メインゲームが始まる前、探索パートの時点で定められます。
ゲームが始まると、参加者の中から“死ぬべきひとり”を選ぶための議論をすることに。当然、これまでの行動や言動の協調性や、怪しい面があるかどうかなどが議題に上がるわけですが、選ばれることで生存できる役職“身代”なら、あえて不審がられる行動を取っていた可能性も……。
言いたいことがある人のアイコンには色が付き、彼らの発言を“引き出す”ことで、アイテムを突きつけたり、ほかの人の発言と“討論”をさせて議論を進めていけるようになります。
議論が新たな局面を迎えると、先ほどまで口を閉ざしていた人たちも発言。これをくり返していけば、やがて話題はごく僅かな“犠牲になってもらうに相応しい人たち”へと収束していきます。
投票は2回行われ、予選投票で全参加の中から約半分の人数に絞り、ここから決選投票で“死ぬことになる人物”が選ばれます。ここまで来ると候補者たちも必死。討論が平行線をたどる“均衡”状態や、サラ自身が制限時間内に的確に相手の発言の弱い部分に反論しなければならない“舌戦”の頻度も高くなり、話し合いはヒートアップしていきます。
状況にあわせた演出の緩急や、アップテンポなものに変わっていく音楽も秀逸。キャラクターたちの見たことのない一面に気圧されながらも、どうにか突破口を見つけなければいけないスリルは、大きな高揚感をもたらしてくれます。
そして議論はやがて終結。参加者の誰もが本当は望んでいなくても、デスゲームの犠牲者が選ばれる瞬間はやってきてしまいます。デスゲームを題材とした作品で多くの人が気になるのは、このときのキャラクターたちの“散り際”ではないでしょうか?
本作には直接的に描かれるグロテスクなグラフィック表現はありませんが、それがかえって想像力を掻き立てられる……といった塩梅。誰もが胸を痛めることにはなるかと思いますが、よほど想像力が豊かで繊細な人でなければ、きっとそのつらさも込みで楽しめるのではないかと思います。
メインゲームでの決断次第で、ルート分岐が生じることもある模様。展開に合わせた台詞の変化も細かいところまで用意されているようなので、「あのとき別の決断をしていたら、何が起きていたのだろう?」といったところを改めてチェックしたい気持ちにさせられます。
これからハマる人たちといっしょに、ストーリーの完結を見届けたい
今回、ゲームシステムとして特筆したのはメインゲームの部分ですが、その合間にある探索パートもシチュエーションに合わせてさまざまな要素が登場。これにともなって築かれるキャラクターたちとの新たな関係性や、深まる謎といった部分も興味をそそられます。
これがメインゲームの悲喜こもごもをいっそう味わい深いものにして、『キミガシネ』の魅力を大きく底上げしているというのは、改めて書いておきたいところ。
二度と会えない人たちがいる一方で、デスゲームに新たな人物が参戦したり、新たな“フロアマスター”が現れたりと、とにかく本作は常にプレイヤーを楽しませ(≒悩ませ)続けてくれます。
探索パートでの移動が少し煩わしく感じる局面があったり、常時閲覧できる全キャラクターのプロフィールといったインターフェースがあれば“メインゲーム”での決断がより快適に行えたかも……といったちょっと気になる点はありますが、些細なこと。
デスゲームや人狼を題材にしたゲームタイトルがお好きなら、間違いなくおすすめできる逸品と言えるでしょう。そしてそういったタイトルにふだん触れない方にも、まずは一度試してみていただきたい、夢中になれる可能性を持ったゲームだと思いました。そして夢中になった方は、いっしょにストーリーの完結を待ちわびましょう!