『シルバー事件』、『killer7』、『ノーモア★ヒーローズ』といった独創的なゲームを世に送り出してきたグラスホッパー・マニファクチュア。2021年5月末より、中国の大手ゲーム会社NetEase Gamesの傘下に入っており、“10年で3作品のリリース”を目標に鋭意開発中だ。

 そんなグラスホッパー・マニファクチュアは、2023年3月30日で創立25周年を迎えた。この記念すべき節目を機に、ファミ通.comでは代表取締役社長の須田剛一氏にインタビューを実施。グラスホッパー・マニファクチュアのこれまでの歩み、この先の展望、そして開発中の新作第1弾などについてお話をうかがった。

 また、記事の最後には2022年に完成したグラスホッパー・マニファクチュアの新オフィスの様子も掲載しているので、ぜひ最後まで目を通してほしい。

須田剛一(すだ ごういち)

グラスホッパー・マニファクチュア代表取締役社長であると同時に、同社開発タイトルの多くでディレクターとしてゲームデザインや脚本を手掛ける。文中は敬称略。

三球三振でもOK!? NetEase Gamesから送られた熱烈なラブコール

――コロナ禍になってからお会いしていなかったので、ファミ通としては須田さんにお話を聞くのはかなり久々となります。その間、グラスホッパー・マニファクチュアには大きな出来事がありました。あらためて、NetEase Gamesの傘下になった経緯からお聞かせください。

須田接点の始まりとしては、本当にある日突然、NetEase Gamesから「会いたい」とコンタクトがあったんですね。まだコロナが蔓延する前で、中国から直接来てくださって。話を聞いてみると、本当にウチのことを応援したいという気持ちが伝わってきました。

 1本や2本のタイトルを支援するという話ではなく、もっと長期的なお付き合いをしたい、グラスホッパー・マニファクチュアをもっと魅力的なスタジオにするお手伝いがしたい、と熱弁されました。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

 お話を受けた当初はあまり実感がわかなかったんですけど、コロナが本格化してから、僕自身がグラスホッパーというスタジオをこの先どうしていきたいのか考える時間が増えました。その際に浮かび上がったのがNetEase Gamesさんからの提案で、思い切ってグループ傘下に入ろうと決断したわけです。

――NetEase Gamesは国内のメーカーではないということもあり、実態はなかなかつかめていなかったと思います。実際にNetEase Gamesとコミュニケーションをとってみての印象はいかがでしたか?

須田2018年頃に中国の上海に出張に行き、そこでいろいろと案内を受けて情報をインプットしたことがあります。その過程で、NetEase Gamesはクリエイティブをとても大事にしている、というイメージは持っていました。もともとデベロッパー出身の会社で、徐々にゲーム会社として大きくなったと聞いていたので、お話を受ける前からずっといい印象はありましたね。

 その後、NetEase Gamesのいろいろな人とお会いして話を聞きましたが、誰と話しても最初の交渉時に言われた信念にブレがなかったのを覚えています。僕らをだまそうとしている気配など一切感じませんでした。

 皆さんが今回の投資案件を積極的に進めてくれて、グラスホッパーのタイトルが本当に好きだというのがわかるいい人たちなんですよ。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

 ほかの方々も好印象の人たちばかりでしたし、若い方が多いなとも感じました。話を聞くほどに中国の若い方たちのエネルギーの波が僕のなかにズワッと入ってきて、こういう人たちがNetEase Gamesを引っ張っているのだと感じさせられました。

――妙な下心などはなく、グラスホッパー・マニファクチュアを支援したいというピュアな思いが届いたと。

須田はい。資金援助を受けているわけですが、それにも関わらず(制作するタイトルに関して)三球三振でもいい、ぐらいのことまで言われました。

――そんなことありえます?(笑)

須田普通そう思いますよね(笑)。でも、NetEase Gamesは極論売れなくてもおもしろいゲームさえ作ってくれればいい、と。企画書を見てマーケティング的に売れるゲームにするには、といった提案や議論はまったくなく、純粋に僕らが作りたいものを一生懸命ていねいに作れるサポートをしたいと伝えられました。なので、売り上げ目標とかは立てるんですけど、それが大きなノルマになっているわけではありません。

――では、NetEase Gamesの中核の方々と密なやり取りを経たうえで、一緒にやっていきたいという決断に至ったのですね。

須田そうです。それで、関係各所の皆さんに筋を通し、NetEase Games傘下に入ったというのが大まかな経緯となります。

単なる資金援助を受ける関係ではなく、互いに成長していく関係

――2021年5月末にNetEase Games傘下に入ったとのことですが、もともとグラスホッパー・マニファクチュアに在籍していたメンバーは現在どれくらい残っているのでしょうか?

須田グラスホッパー・マニファクチュアは2018年に分社化したのですが、それから一緒に働いているメンバーはいまもほぼ全員残っています。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

――現在のグラスホッパー・マニファクチュアのスタッフ数は何人くらいですか?

須田分社化したタイミングでは20人ちょっとでしたが、いまは50人ほどとなります。だいたい倍の人数になっていて、この春の新卒採用でさらに増える予定です。生え抜きの社員を育てたい気持ちがあるので、ウチはけっこう新卒採用に積極的ですよ。

――グループ傘下に入って実際に仕事をしてみて、これまでとゲーム制作の進めかたの面で変わったことなどありますか?

須田これがですね、気持ち悪いぐらい何も変わっていません。いままでコンシューマ作品を作ってきた経験があるので、開発に関しては完全にウチにお任せ状態です。僕ら側でマイルストーン(プロジェクトにおける中間目標)を定めていて、それをベースにしたチェックは発生しますけど、大きな改善を要求されたり指示をされたりといったことはないです。

――NetEase Gamesからのサポートというのは資金面だけでなく、技術やシステム的な部分にも及んでいるのでしょうか?

須田大いにあります。NetEase GamesにはADC(Art Design Center)という数千人規模を抱える巨大な部署がありまして、そこがいわゆるアート関連のサポートを行ってくれています。

――具体的にはどういったサポートを?

須田いろいろ多岐にわたっていて、例えば本社にはモーションキャプチャー用の巨大なスタジオがあります。新作のカットシーンには、このモーションキャプチャーを使わせてもらうかなと。

 ちなみに、最近NetEase Gamesには山口雄大(※1)監督が入社していて、新たなカットシーンチームを形成してウチの新プロジェクトともやり取りをしているんです。自分にとって友人のような方が仲間になって、とてもやりやすいですね。

※1:山口監督は『ロリポップチェーンソー』や『KILLER IS DEAD』などの須田氏がかかわる作品でカットシーンを担当している。

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 ほかにも新しいフェイシャル技術やMetaHuman技術(※2)のサポート、本社とグラスホッパーの人間による技術交流会などもあります。GUXチームなどもADCと連携して動いています。今後継続的に協力していくことでお互いに高め合っていきたいと思います。

※2:写実的な人物モデルを作成する技術のこと。

――はた目には日本の開発スタジオが中国企業から援助を受けてゲームを作っているだけ……と映りがちですが、実際には相互効果によってNetEase Gamesがより成長するような関係にもなっているのですね。

須田ADC側の皆さんも貪欲に仕事を求めているので、僕らとしてはうれしい限りです。マーケティング、QA、翻訳など基本的なチームはほぼ存在していて、さまざまな部署から日々声がかかります。

 おかげさまで、いまはゲーム開発により集中できる環境になっていて、この点は本当にNetEase Gamesの力を感じますね。NetEase Gamesは独自の管理システムを持っていて、社内専用SNSもあってそれに翻訳機能も搭載されています。

 そのため僕らとのコミュニケーションも問題なしと、とにかく設備環境の充実ぶりがものすごいです。グラスホッパーが子会社化する際にはたくさんの部署を見てきましたし、企業としての規模のデカさを痛感しました。

――グループ傘下に入ったあと「今後10年間でグラスホッパー・マニファクチュアらしいタイトルを3作開発する」と発表されましたが、そのタイトルは1作ずつ作っていくのですよね?

須田そうなります。ただ、途中でリメイクやリマスターのような作品が出るかもしれません。それは計算外で考えていただければと。

コロナを経験して考案した開放的な新オフィス!

――インタビュー前に新オフィスを巡らせていただきましたが、とても開放的な作りですね! それでいてグラスホッパー・マニファクチュアらしさが散りばめられているというか。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

須田ありがとうございます! コロナ禍になったときに、社員全員が出社して仕事をする光景というのは今後特別な日になってくるんだろうなと実感しました。ウチはコロナ期間は出社とリモートのハイブリッド形式で仕事していて、だからこそみんなが顔を合わせてコミュニケーションをとれる日を大事な時間にしたいと思い、そういう場所が欲しいと感じるようになりました。

 ただ、それは“会議室”という形にはしないほうがいいなと。会議室にするとどうしても堅苦しくなるので、もっと海外のスタジオのような自由な雰囲気を出したかった。ミーティング中もみんな自由な体勢でくつろいでいたり、お菓子や飲み物を口にしながら話し合ったりするような空気ですね。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ
須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

 そんな思いから、新オフィスにはまず中央にどかんと大きなフリースペースを設けました。コンセプトとしては、“代官山とかにあるようなムダな空間がたくさんある美容院”です(笑)。謎の植物や噴水があったり、髪をカットする前に聞いたことのないようなハーブティーが出てきたり……みたいな。

――たしかにリラックスはできそうです(笑)。全体会議のようなものをするときは、このオープンスペースに皆さんが集まって行うのですか?

須田そうですね。月に1回、プロジェクターで『逆シャア』(機動戦士ガンダム 逆襲のシャア)上映会をしたり……それは冗談ですが、お弁当食べながらの作戦会議といった感じですね。

――先ほど新卒採用の話があり、スタッフの人数は順調に増えているようですが、この先も増やしていくのでしょうか?

須田今後も増やしていきますが、最大で80人ぐらいを上限にしようと考えています。かつては130人ぐらいの社員を抱えていたのですが、僕の経験上、80人を超えると顔と名前がわからなくなるんですよ。トイレで会ったときに「この人、ウチのスタッフだっけ……?」と思う瞬間がしばしばありまして。

 これはよくないなと当時思ったので、自分のなかで80人というラインを決めました。80人までだったらみんなの顔も覚えられますし、スタジオの空気感というかみんなのコンディションやチームの雰囲気なども嗅ぎ取れますから。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

――いまは50人ほどということなので、あと30人ぐらいは受け入る予定なのですね。

須田はい。あ、でも88人までは頑張るかもしれません。縁起がいいので(笑)。

――ちなみに、グラスホッパー・マニファクチュアではどういう人材を求めているのですか?

須田うーん、ウチのチームの調和にスッと溶け込めるような人ですかね。僕が言うのもなんですが、ウチのスタッフってみんないい人たちなんですよ。

 海外から見ると、グラスホッパー・マニファクチュアのスタッフは全員タトゥーやピアスをして毎日ドラッグをキメているイメージのようですが、当然そんなことはありません(笑)。

 本当にみんな真面目で穏やかで、このムードは大事にしたいと思っているので、我々の輪に自然と入れそうな人を採用では重視しています。

新作第1弾は完全新規アクション! 世界観の構築のために専用ジオラマも作製

――さて、まだお話いただけることはほぼないだろうとは思いつつ、新生グラスホッパー・マニファクチュアの第1弾タイトルについて切り込ませてください。

須田完全オリジナルの新規IPで、ジャンルはRPGではないとだけお伝えしておきます。

――須田さんにRPGのイメージはゼロですから(笑)。

須田まあ、ぶっちゃけアクションゲームです。企画は固まっていて、もうじきプロトタイプが出来上がる頃合いです。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

――新作の開発が本格的に動き出したのはいつ頃ですか?

須田企画自体はNetEase Gamesグループに入ってすぐに決めて、正式に動き始めたのは2022年の1月頃でしょうか。それまでは『ノーモア★ヒーローズ3』の開発がまだ残っていましたから。NetEase Games側には企画を3本ほどプレゼンしたのですが、「どれでもいいですよ。須田さんはどれやりたいんですか?」とあまりに軽いノリで返されたので、こっちで自由に選ばせてもらいました(笑)。

――今回の新タイトルにおける須田さんの立ち位置というのは?

須田『ノーモア★ヒーローズ3』とほぼ一緒で、ディレクターとして携わっています。ディレクション業務も僕と山崎廉氏(※崎はたつさき)のふたりで担当しています。ただ、ディレクターではありますが、プロデューサー的なこともしていくかなと。脚本は僕ひとりでは書き切れないので、何人かで分担しています。

――複数ある企画のなかから、現在開発しているものを選んだ決め手は何だったのでしょうか? まったく新しいチャレンジがしたい、これまではやり切れなかったことを実現させたいなど、いろいろ理由があったと思いますが。

須田林さんのおっしゃったことの後者ですね。我々が実現したくてもできなかったことを存分にやり切りたい、アクションにおいてもチューニングを重ねてもっといいものにしたいという目標があります。これまではどうしてもスケジュールと予算を守りながらの制作環境でしたが、一方でいけるところまで作りきってみたいという思いは常に存在しました。

 分社化したあとのグラスホッパーとしては『Travis Strikes Again: No More Heroes』『ノーモア★ヒーローズ3』に続いてつぎの作品で3作目であり、これまで作ったアクションゲームの積み上げをより強化したい考えから、前2作の方向性を受け継ぎつつも、スケールが異なる、完全オリジナルのアクションゲームを作ろうと決めました。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ
特別に公開してもらった新作の素材。ゲーム内の武器(?)になるのだろうか。
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特別に公開してもらった新作の素材。謎のキャラクターが描かれている。キャラクターは全身に武装しているようだが、なかでも両肩と右手のチェンソーが目を引く!

――従来の作品以上にスケールが大きくなりそうですが、開発期間も相当な長さになるのでは……?

須田開発が長くなるのは覚悟しています。でも、時間をかけてでもしっかりいいものを作り上げたいですね。ゲーマーの皆さんからのフィードバックもあって、ウチのタイトルの強みと弱みは把握していますので、強みはよりパワーアップさせ、弱みはちゃんと補強する方向で制作しています。

――グラスホッパー・マニファクチュア作品の強みと弱みとは、具体的にどんな部分でしょうか?

須田常に新しい発明を入れて、よそには作れないアクションゲームを生み出している点は強みだと自負しています。アクションの爽快感やカタルシスの気持ちよさについては、グラスホッパーのスタイルが確立されていると思いますし、チーム内でも自覚しているところかと。

 逆に弱みは、『ノーモア★ヒーローズ3』でも表れていましたが、すぐに大きなマップに手を出してしまうクセでしょうか。その結果、密度を詰め切れていないと毎回指摘されています。ウチは背景が弱いので、ADCや外部のスタジオと連携しながらクオリティの高い背景を作っていくのが今後の課題です。

――新オフィスには何やら巨大なジオラマが置かれていましたが、あれは新作に関係するものですか?

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ
オフィス内のジオラマ。残念ながらモザイク付きでの掲載となるが、かなり巨大なサイズで細部まで作り込まれていた。さまざまなシチュエーションが生まれるであろうことが想像できた。いつかモザイクなしで公開したい!

須田まさにそのとおりで、新作の舞台となる街をジオラマで作ったものです。これまでウチが弱かった背景を強化するためにも、まず目に見える形で完成図を作りたかったんです。それをオープンスペースの目立つ場所に置いて、毎日スタッフ間で共有したかった。もちろん、全てをジオラマのとおりに作るわけではありませんが、これがあるおかげで認識の大きなブレは生まれなくなります。

――マップのイメージを作るだけなら3DCGなどで作成することもできたと思いますが、あえて現物のジオラマにした理由とは?

須田ワールドの大きさをはじめ、この舞台のなかにどれだけの密度を詰められるかの指標を立てやすいからですね。ちょうど、イベントの種類によってジオラマ内に旗を立てていて、実際にプレイしていて遭遇するイベントを数値化して把握するという目的もあります。あと、ただジオラマを作ったわけではなく、3Dスキャンによってゲーム素材に取り込めるという利点もあるんです。

 会議で話し合うときも、すぐにジオラマを見に行って全体図を確認しつつ検討ができるので、認識の共有には大いに助かっています。あのジオラマを見たいろんな方々から「ウチも真似したい」と言われたので、やってよかったなと思っています。

ノンシナリオ・ノンテキストのゲームも構想中!?

――もうじき新作のプロトタイプが出来上がるとのことですが、現段階での手応えはいかがですか?

須田ボスバトルまでのひととおりの流れは作っていて、アクションゲームとしての組み込みの部分はかなり安定感があるかなと。ここに関しては特に問題なく、これからのブラッシュアップでどんどんおもしろくなっていくと思います。あとは、メインアクション以外の部分をいかにおもしろく詰め込んでいくかですね。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

――“今後10年で3作”のうちの残り2作はすでに構想があるのでしょうか? それとも、いま作っているものをつなげていくような形ですか?

須田いまのところ新規IPを3本連続で作っていく予定です。もしかしたら作品間で薄い接点くらいはあるかもしれませんが、基本的にはまったく違うものを作っていきたいです。例えばですけど、個人的にはノンテキストのゲームとか作りたいんですよ。

――おお! テキストなしのゲームですか。

須田ウチのゲームはストーリードリブンで、キャラがベラベラしゃべるじゃないですか(笑)。そういうのを排除したノンシナリオ・ノンテキストで悪夢の様なゲームを作りたいなあと思っていて。

――それを仮に作るならジャンルは何に?

須田たぶんアクションアドベンチャーですかね。コレはずっと温めている企画があるので、ぜひ作ってみたいです。

――ユーザーとしても、須田さんが作るそんなゲームを見てみたいですね! なかなか通りにくい企画ではありそうですが、いまならそれが実現できる環境にありますよね。

須田そうなんですよ。その企画ってじつはヒューマン在籍時代から考えていて、30年近く温めているものだったりするので、そろそろ陽の目を見せてあげたいです。ただ、今は1本目の新作に集中する時期ですし、制作ラインを複数にするわけにもいかないので悩ましいですね。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

 もし制作を並行させるなら、僕ではなく若手に作らせてあげたいという気持ちもあります。僕個人はゲームデザイナーとして20代で5本ほどゲームをディレクションしてマスターアップを経験して、30歳で会社を立ち上げましたが、このサイクルっていまはなかなか作れないじゃないですか。

――現代ではまず見られない流れですね。

須田だからこそ、若い子たちにとにかく1本任せて自由に作らせてみたいです。作ったものが成功しようが失敗しようがかまわないので。武者修行じゃないですけど、それぐらいしてでも若い子にチャンスをあげないといけないなと最近感じています。少数チームで制作するインディー規模でもいいので、なるべくグラスホッパーのなかでそういう場を提供していきたいです。

 じつはこの話はチームのみんなにもしていて、そしたらチラホラと「こんな企画があるので見てもらえませんか」という相談を受けるようになりました。若手がこういう風に動けるのが本来の健全な姿ですし、会社が大事にするべき流れですよね。

ひたすら走り続けた25年。“選ばれしものの恍惚と不安”はいまも胸中にあり

――この記事が掲載される3月30日は、グラスホッパー・マニファクチュア設立25周年でもあります。言葉にするのは難しいかと思いますが、須田さんにとってこの25年はどんな月日でしたか?

須田もう四半世紀なんですね。あらためて振り返ると、やっぱり「生き残った」という言葉がひとつ浮かびます。会社立ち上げ時はもちろん大きな不安と期待があり、「日本で起業したなかで3年後に残っているのは80%、10年後に残っているのは20%……」みたいな数字が常に頭をよぎっていました。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

 そんななかグラスホッパー・マニファクチュアを立ち上げ、とにかく走り続けていたら気づけば25年経っていました。10年の節目のときは「今回もよく乗り越えたな」と振り返るのですが、今回の25周年は四半世紀という響きがやはりのしかかりますね。これまで生き残れたこと、そしてグラスホッパー・マニファクチュアという屋号を持ち続けられたことを実感しますし、ゲーム業界のみなさんに守られたという感覚も強いです。

 もちろん、ファンの方々が日本だけでなく世界中にいるという安心感も支えになっています。ゲーマーの皆さんがいるからこそ、僕らは仕事ができるしゲームを作れているので。応援してくれるファンの方々は、ひとりでも多くていねいに増やしていきたいなと思います。

――グラスホッパー・マニファクチュア10周年のパーティーにおいても、須田さんは「業界の皆さんに守られている」と話されていましたね。

須田あ、言っていましたっけ? すみません、全然記憶になくて(笑)。でも、その感覚はたしかに昔もいまも変わってないかな。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

――ゲームデザイナー・須田剛一としてやりたいことと、経営者・須田剛一として決断しなければならないことの二律背反に悩むシチュエーションはこれまでありましたか?

須田いろいろありました。会社を作ったときに自分のなかで覚悟したのが、“毎月ちゃんとみんなに給料を払う”というごく当たり前のことでした。みんなの生活――人生を背負っているわけですから、それは僕の責任です。

 誰が助けてくれるわけでもないので、僕自身が契約を取ってランニングコンストを作り出して月々を突破して給料を払う意識はありました。その延長で、いまがあるわけですけど。

 25年の経営のなかで会社が超絶ピンチの時期もありましたが、そんな苦境のときにも手を差し伸べてくれた方が何人かいらして、本当にいまも感謝してもしきれないです。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

――YouTubeのインタビュー動画で須田さんは「選ばれしものの恍惚と不安 ふたつ我にあり」という前田日明さんの名言を引用していましたが、あの言葉が表す不安や緊張感はいまも持ち続けているのでしょうか?

須田剛一氏のインタビュー | グラスホッパー・マニファクチュア | NetEase Games

須田それはありますね。ゲーム業界のど真ん中に立ち続けるには、もっともっといいゲームを作っていかないといけませんから。日本のクリエイターの皆さんが世界で活躍する姿を見ると刺激になりますし、ウチもあの場所に立たないといけないなという気持ちにもなります。まさに“選ばれしものの恍惚と不安”という言葉がピッタリで、言語化できない感情がいつもグルグル回っている心境です。

――ぜひ、これまで以上にセンセーショナルな作品を作ってくれることを期待しています。言い方が難しいのですが、きっと“お行儀がいいグラスホッパー・マニファクチュア”はみんな望んでいないと思うので(笑)。

須田わかりました! では、1.4事変の橋本真也VS小川直也の様な掟破りなことをしていかないとですね(笑)。ゲーム業界に関わらず、クリエイティブに携わる人たちにとんでもない刺激をもたらすものは作ってみたいです。その気持ちが、僕にとってのゲーム開発における原動力でもあるので。

目指すは“生涯現役”と“100年企業”

――この25年を振り返ってみて、ターニングポイントとなった作品や忘れられない作品を挙げるとしたら何になりますか?

須田3本ほど挙げるとしたら、やっぱりデビュー作の『シルバー事件』は外せないですね。ヒューマン時代はシリーズ作ばかり手掛けていて、ようやく自分が作りたいオリジナルゲームとなったのが『シルバー事件』でしたから。大ヒットはしませんでしたが、いまでもゆるやかに利益を出している息の長い作品でもあります。

 つぎに、世界デビューという言葉がピッタリくる『killer7』でしょうか。2003年ぐらいに初めてE3(Electronic Entertainment Expoの略。世界最大のゲーム関連イベント)に行ったのですが、このときに自分がこの場所に立てていない実感を突きつけられました。頑張ってゲームの本場たるE3で注目されるような作品を作らなければならないのだと決意を新たにしつつも、はたして、グラスホッパーの作品がこの舞台に並ぶ日が来るのだろうかと。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

 そんな閉塞感をぶち破って世界への扉をポーンと開けてくれたのが、当時カプコンのプロデューサーで『killer7』を作らせてくれた三上(真司氏)さんだったんです。本当に急に世界デビューを達成した感じでした。海外で発売後、ジワジワと評判が日本の僕らにも届くようになって、すごいゲームを作れたんじゃないかという実感もわきました。あの作品をきっかけに海外のファンも増えてきたので、振り返ってみても大きな意味を持つタイトルでしたね。カプコンさんのブランド力の凄味を体感しました。

 そして、最後に『ノーモア★ヒーローズ』です。『killer7』が好評だったおかげで無名だった僕らにも肩書が生まれて、「あの『killer7』を作ったクリエイターの新作!」と最初から注目してもらえました。ヨーロッパツアーでもすごく歓迎されて、皆さんに期待されているのを肌で感じ、「『ノーモア★ヒーローズ』って売れるんじゃないか!?」という漠然とした予感もしていたり。結果、『ノーモア★ヒーローズ』はスマッシュヒットを記録し、そこでグラスホッパー・マニファクチュアのスタイルがひとつ確立したかなと。

 『ノーモア★ヒーローズ』は本当に愛されたタイトルで、なによりトラヴィスというキャラクターが独り立ちして人気を得たのが大きかったです。『ノーモア★ヒーローズ3』で完結はしましたけど、トラヴィスのキャラクター性を考えたらいつでも復活はできると思います。もしかしたら、いつか爺さんになったトラヴィスとかが出てくるかもしれませんし。

――『ノーモア★ヒーローズ』の次回作をいつかまた……という思いはありますか?

須田たまに冗談で「10年後にまた『ノーモア★ヒーローズ』作れたらいいね」とスタッフと話したりするんですけど、そのときにはメインスタッフが軒並み50代で僕は60代になっているんですよ。その年齢で『ノーモア★ヒーローズ』を作るってどうなんだろうと(笑)。このあたりを冷静に考えるとちょっと急いだほうがいいのかなとも思うのですが、まあトラヴィスの気が向いたら、ですかね。

――トラヴィスが須田さんに「また新作に出たい」と言ってくる日を待っています(笑)。

須田そのときは彼とふたりで相談します。「つぎはボス100人だけどいける?」って(笑)。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

――25周年という大きな節目を迎えましたが、これからのグラスホッパー・マニファクチュアはどういう成長をしてほしいと考えていますか?

須田僕は当初から「会社作るなら100年企業にしたい」という目標を掲げていました。当時は遠い未来のことだと思っていましたが、25周年を迎えて100年企業を本気で目指してみたいという気持ちが出てきました。ただ、100年続くということは僕が死んだあともスタジオが存続するという意味なので、僕のあとに続くクリエイターをきちんと育てないといけません。

 そのためにも、ウチの若いクリエイターにどんどんチャンスをあげたいというのは意識しています。僕は死ぬまでゲームを作りたいと思っていますが、いざいなくなるときには新しいグラスホッパーのエースがいてほしいですね。

 それはひとりじゃなくてもいいし、極端な話、海外の若手インディークリエイターをスカウトして任せてみてもいい。そういう発想も含めて、いろいろなクリエイターがグラスホッパーという場でゲームを作れる環境を目指したいです。“自由なクリエイティブ”“風通しのよさ”みたいなところは、これからのグラスホッパーで大事にしていくべきかと。

――須田さんは年齢を重ねてもクリエイターとしての引退は考えていないのですね。

須田ないと思います。やっぱり現場は好きですし、いまはスタジオに来るのが楽しくてしかたないので。若い子もガンガン意見を言ってくれるし、ふとした雑談のなかからアイディアが生まれたりして、それがまたおもしろいです。この生き方はジジイになっても続けたいですが、もし会社に僕の席がなくなったら、オフィスの下にあるカフェでシナリオ書いて、毎日プレゼンして邪魔しようかなと(笑)。

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

――この先も須田さんがゲームを作り続けたいと思ってくれていることはとてもうれしいです。一方でグラスホッパー・マニファクチュアの顔が須田剛一であり続ける必要はないとも考えているのでしょうか?

須田しばらくは僕が自由にリラックスしてグラスホッパーを引っ張ろうと思っています。一緒に作りたいと言ってくれるスタッフがいる限りは、僕が先頭に立って作ります。これがベテランスタッフとの約束でもありますので。

 ちょっと話の時期は戻るのですが、もう一度自分でディレクションをしようかどうか迷ったときに、ベテランスタッフの何人かが「須田さんと一緒に仕事をしたいからまた須田さんのゲームを作ってください」と熱めのエールをくれたんですよ。それがとてもうれしくて、そこからNintendo Switchの発表会でのトラヴィスの復活宣言と、ストーリーがつながっていったんです。

 思えばあの瞬間が、新生グラスホッパーの誕生のひとつだったような気がします。あのときみたいにスタッフから求められている間は、グラスホッパーを率いてゲームを作り続けたいです。

――たくさんの深いお話をありがとうございます。締めとして、ファンの皆さんにメッセージをお願いできればと。

須田ゲーマーの皆さんが新たなグラスホッパーの作品を体験できるよう、虎視眈々と開発を進めています。エンターテインメントがあふれる後楽園という磁場でゲームを作っており、スタッフのパワーが乗り移った新作はおもしろいものになると確信しています。皆さんにお届けできるのはまだ先になりますが、ぜひ期待していただきたいです!

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ

グラスホッパー・マニファクチュアのオシャレ過ぎる新オフィスを公開!

 最後に、グラスホッパー・マニファクチュアの新オフィス内部を公開。須田氏のセンスが詰まりまくった、オシャレで開放的な仕事場をご覧いただきたい!

須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ
こちらがロビー。とてもゲーム会社とは思えない、何かのアトラクションの入口のようだが、れっきとしたロビーである。
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会議室の壁には大胆なアートが! ちなみに、会議室の名称は“三軒茶屋”“新高円寺”など歴代のオフィスがあった地名になっている。
オフィス内のフリースペース。とても開放感があり、植物の癒し効果も味わえる。大人数での会議は、このフリースペースで行われるという。
須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ
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フリースペースには卓球台も。ガラス張りの壁からのぞく風景も圧巻!
須田剛一氏が創立25周年を迎えたグラスホッパー・マニファクチュアの“これまで”と“これから”を語る。“らしさ”全開で開発中の新作の情報もチラ見せ
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ワークスペースも広々としていて見渡しやすい。ここで、最大80人近くのスタッフが働けるようだ。