2023年5月25日にシティコネクションから、Nintendo Switch、プレイステーション4、Xbox One、Steamにて発売される『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』。

 本作は、1993年にアーケードでリリースされた縦スクロールシューティングゲーム『BATSUGUN』の、その3年後に発売されたセガサターン版を、画面UIなどあらゆる面から“Boosted”して現代に蘇らせたタイトルとなっている。

 『BATSUGUN』は、そのシューティングとは思えないくらいにさわやかであったりする、各面ごとに独特なBGMもまた、ファンのあいだでいまなお人気が高い一作だ。そんな本作の全曲を、今回のトリビュートでは5人の有名コンポーザーが新規アレンジ。さらにこのアレンジ版BGMを、オプション設定からゲーム内のBGMとして選択できることが発表された。

 その発表とともに、公式サイトでは順次試聴版が公開されるとともに、シティコネクションの公式チャンネルにて、5人のコンポーザーによる座談会がライブ配信された。今回は、そんな5人のコンポーザーにインタビューを敢行。『BATSUGUN』サウンドのアレンジを通じて、さまざまなお話を伺ってきた。

●アレンジコンポーザー各位 プロフィール

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

細江慎治氏(写真左から3人目)

ナムコ、アリカを経て、現在はスーパースィープ代表取締役であり第一線のコンポーザー。代表作は『ドラゴンスピリット』(ナムコ/1987年) 、『リッジレーサー』シリーズ(ナムコ)、『鋳薔薇』(ケイブ/2005年)など。今回のアレンジでは、5面のステージ曲とボス曲を担当。

安井洋介氏(写真右からふたり目)

スーパースィープの初期からのメンバーを経て、現在はflaggs所属。代表作は『Prodigy Racing』(へろ~りどっとこむ/2000年)、『まもるクンは呪われてしまった!』(グレフ/2008年)、『エスカトス』(キュート/2011年)など。今回のアレンジでは、自機セレクト画面の曲と、2面のステージ曲とボス曲を担当。

はがね氏(写真左からふたり目)

“STEEL_PLUS”の別名義も持つ、フリーコンポーザー。代表作は『Maiden & Spell』(mino_dev LLC/2020年)、『One Step From Eden』(Humble Bundle、Maple Whispering Limited/2020年)、『SOUND VOLTEX』シリーズ(KONAMI)楽曲提供など。今回のアレンジでは、3面のステージ曲とボス曲、ならびにエンディング曲を担当。

松本大輔氏(写真右端)

ケイブを経て、現在はシティコネクション所属。代表作は『ピンクスゥイーツ ~鋳薔薇それから~』(ケイブ/2006年)、『むちむちポーク!』(ケイブ/2007年)、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』(ケイブ/2015年)など。今回のアレンジでは、1面のステージ曲とボス曲を担当。

WASi303氏(写真左端)

サクセスを経て、現在はシティコネクション所属。代表作は『サイヴァリア』シリーズ(サクセス)、『DODONPACHI MAXIMUM』(ケイブ/2012年)、『アカとブルー』(タノシマス/2017年)など。今回のアレンジでは、ステージクリアー時の曲、4面のステージ曲とボス曲、ネームエントリー画面の曲、コンティニュー画面の曲、ゲームオーバー時の曲を担当。

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30年前の『BATSUGUN』、その印象について

――まずはお名前といっしょに、意気込みのひと言をいただけますか。

松本シティコネクション所属の、松本大輔と申します。がんばります!

安井flaggsサウンドディレクター、安井と申します。しばらくは情シス(情報システム)などを兼ねてやっていたのですが、最近は情シスが専門の手に戻りまして、これからはサウンドも一生懸命やっていこうと思っております。

細江スーパースィープの細江です。同社ではつねにサウンドを作っておりますが、人手が足りません(笑)。よろしくお願いします。

はがね無所属のはがねです。しがないフリーの作曲家をやっております、よろしくお願いします。

WASi303シティコネクションのパブリッシングチーム所属、佐藤と申します。曲を作る際にはWASi303という名前でやらせていただいています。

――ではまず、この5人が集められた経緯について教えていただけますか。

WASi303僕のほうからオファーを出させていただきました。シティコネクションでは2021年から『サターントリビュート』シリーズという、セガサターンのタイトルを移植するシリーズで何本か発表しておりまして。

――『アイドル雀士スーチーパイ』や『メタルブラック』など、幅広いジャンルで展開していますね。

WASi303このシリーズについて、機能や追加要素によってアップデート、“Boosted”されたタイトルを出すことで、シリーズが進化していると示せれば、という話になりました。そのなかでBGMのアレンジを加え、新たな層の皆さんに知っていただけるという形のアップデートを目指して、企画を進めました。

――アレンジ版のアルバムCDを特典にするということですね。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

WASi303今回はそれだけに留まらず、技術的にゲーム内の楽曲をアレンジ版に差し替えることが可能になったため、それも踏まえて人選を行なわせていただきました。

――その人選の理由についても伺えますか。

WASi303『BATSUGUN』は1993年発売のタイトルですので、FM音源(※)などがまだ残っている時代の作品です。その時代を知っている皆さんに、「曲はいまっぽいけど、あのころの雰囲気が残っている」と感じてもらえるようなテイストのアレンジを目指しました。そのうえで、社外の誰にお願いするかとなったときに、このお三方になりました。

※FM音源:1980年代に幅広く使われた、音の波形の発生と変調を複数の合成器で行なう機械音源。それ以前のアナログ音源と比べ、音色を劇的に変化させることが可能となった。メモリー使用量も少ないことでゲームでも多用され、豊かで金属的な独特のサウンドから当時を象徴する音源となった。

――素人意見で恐縮ですが、ふだんは曲調などがかなり異なるお三方にも思えました。

WASi303たしかにそうですが、根底を流れるところにいっしょのものを感じたんです。そこに“FM音源”というキーワードが加われば、みなさん音源の使いかたもお上手ですし……って、細江さんにお上手とかいうのは恐れ多いのですが(笑)。

――(笑)。

WASi303今回のレジェンド級の皆さんがFM音源というテーマで作っていただければ、いまの人たちが聞いてもカッコイイと思ってもらえて、昔からのファンの皆さんにも「こんな感じだったよね」と思ってもらえるという、『BATSUGUN』の曲がアップデートされたものに進化するのではと考えました。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

――さきほどおっしゃられたとおり、『BATSUGUN』はアーケード版が30年前、サターン版も27年前の作品です。そんな昔のタイトルのアレンジ依頼が来たということで、最初はどのように思われましたか。

はがねシューティングゲームが好きと公言はしていましたが、初めてお話をいただいたときにはシンプルに驚きました。自分でいいのかな、と。というのも、当時の雰囲気を直接は知らない世代なので。

――一応お聞きしたいのですが、『BATSUGUN』発売当時にはもうお生まれに……?

はがね1993年生まれです。

WASi303おお、『BATSUGUN』と同い年! それは知らなかった。

安井お母さんのお腹の中で、『BATSUGUN』の曲を聴いていたのかもしれない。

――どんな胎教でしょうね(笑)。

はがねただ、自分はもとからFM音源を使用して作曲していたので、『BATSUGUN』のオリジナル曲をいただいた時点でFM音源はアレンジのうえで外せないと思いました。原曲の中でとくにFMのよさが表れているところは絶対残してアレンジしたいと、作らせていただきました。

――なるほど。では続いて、細江さんはいかがでしたか。

細江僕はもうWASiさんから来たご依頼だったので、絶対やるという感じで引き受けさせていただきました。別の仕事が詰まっていたのでギリギリまでいただいた原曲を聴いていなくて、当時聞いていたにしても覚えていなくて、フタを開けたらあらビックリと衝撃を受けました。

――細江さんへのご依頼は、5面のステージとボス曲ですね。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

細江すごいのが来たと思いました。その分、おもしろいお仕事をさせていただいたと思います。

WASi303これは細江さんじゃないと、とは考えていましたね。

――どのようにすごかったのかはあとで伺うとしまして、安井さんは『BATSUGUN』の話がきたときの最初の印象はいかがでしたか。

安井WASiさんからご連絡いただいた時期が、ちょうどWASiさんがシティコネクションさんに転職を発表された直後(2022年12月ごろ)だったので驚きもありましたし、お話もしたかったのでミーティングをさせていただきました。

――ちょうどそのころからアレンジ企画が始動していたんですね。

安井題材を聞いたときには、当時『BATSUGUN』はまったくプレイしていなかったのですが名前は知っていて、WASiさんからいただいた依頼ならぜひやってみたいと考えました。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

――そもそも『BATSUGUN』の楽曲は当時から個性的で、驚かされたプレイヤーも多かったかと思いますが、アレンジにあたり原曲に触れ、どのように感じられたか教えていただけますか。

松本東亜プランのゲーム自体はあまりプレイ経験がなかったのですが、『BATSUGUN』については当時ヘタながらも1面でじたばたしながら遊んでいた記憶があります。ただ、曲についてはゲームセンターでプレイしていたので、あまり大きな音では聴こえていなかったんです。

――いまよりもさらに、昔のゲームセンターは音が混然としていましたからね。

松本そのあとサターンに移植されたのを遊んだときに、こういう曲だったんだと気付かされました。もっと速いテンポかと思っていたのですが、ゆっくりめの曲でステージが進むにつれてさらにゆっくりになっていくんですよ。

――全体的に、不思議な雰囲気ですよね。

松本そこでいっそ逆に速くしてみたらどうなるかなと、アレンジしてみたのが今回の曲になります。

――さわやかさが格段に増していますよね。では、安井さんのほうではいかがでしたか。

安井さきほど触れた通り当時のゲームについては知らなくて、ゲームの評価について調べつつ、今回改めて原曲を聴かせていただきました。当時の縦スクロールシューティングゲームとしては洗練された時期だけど報われなかった、という背景も初めて知りました。

――そうですねぇ。時代の寵児(※)ではあったのですが。

※『BATSUGUN』は後年の、派手な演出が光る弾幕シューティングによる一時代の先駆けとも言われていたが、これからというところで発売翌年に東亜プランが倒産。同作は同社最後のシューティングゲームとなった。

安井たしかにグラフィックの描き込みやアニメーションがすごいなぁと思いまして、音楽についてもいろいろなタイプのシューティングの楽曲はあるかと思いますが、わりと明るい曲が多いという印象でした。僕の中では、『ドラゴンスピリット』(ナムコ/1987年、楽曲担当は細江氏)の3面の曲に近いかなという印象もありました。

――たしかに、すごくさわやかでテンポ感も近いですね。

安井アレンジするときにはその印象も生かしつつ、今風といいますか、よりパワーアップするようなイメージで作業させていただきました。

――なるほど。ではつぎに、細江さんのほうではいかがでしたか。

細江僕がやらせていただいた部分では、曲の中身をそぎ落としていって主体だけを使っていければと考えたのですが、そぎ落としすぎて8小節になっちゃったんですよ。

――それはもはや、別物では……。

細江ここからどう組み立てようかというところから始まって、核の部分から直接尾ひれやはひれがブワーッと出ているかのような不思議な作りになっていきまして。この原曲の作者はどのように考えてこの曲を作ったのかと、逆に聞いてみたい気持ちが湧きました。ぜひお話を聞いてみたいです。

――原曲を作ったのは坂井義達さんですが、正直なところ、本作とその後『アクウギャレット』(バンプレスト/1996年)の曲を手掛けたこと以外はほぼ知られていないんですよね。

WASi303今回も連絡を試みたのですが、関係者の皆さんでもどうにもならなかったみたいです。すぐに業界を去られてしまったとのことで、もしご連絡先をご存じの方がいらっしゃれば、ぜひこちらにお願いいたします。

――連絡が取れるといいのですが……。改めて、はがねさんのご印象をお願いします。

はがねすでにさきのお三方がおっしゃられていましたが、「明るいな」という印象を受けました。それともうひとつ、ステージごとにぜんぜん毛色が違うという印象もありました。たとえば2面のようにメインメロティーが頭にこびりつくような曲もあれば、自分が担当した3面のようにずっとギターソロ、シンセソロが続いて終わるような曲もあるという感じです。

――はがねさんは今回3面の曲と、エンディング曲のアレンジをご担当されたんですよね。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

はがねそれらの全曲で、雰囲気は若干異なるようになっているかと思います。そこはこだわらせていただいた点ですね。

――では最後に、WASiさんはどのような印象を持たれましたか。

WASi303当時は大学生でしたが、別のゲームにハマっていた時期だったので『BATSUGUN』はぜんぜんやっていなかったんですよ。いま改めて曲を聴かせていただくと、皆さんがおっしゃったように明るいという印象はもちろんありましたが、めちゃくちゃ“素材”だな、と思いました。

――めちゃくちゃ素材、とはいったい?

WASi303アレンジをするうえで、いい素材という印象です。曲が明るいのもあるし、ミニマル・ミュージック(※)っぽいとも、アンビエント(環境音楽)っぽいとも感じたんですよ。

※ミニマル・ミュージック:音の動きを最小限に抑え、一定の音型を反復するなどしてパターン化しつつ、その微細な違いをフィーチャーしていく現代音楽形式。日本でも久石譲氏や伊福部昭氏を始めとした著名な作曲家の一部楽曲に、この形式や概念に通じるものがあった。

 こちらでの想像になってしまいますが、原曲を作られた方はいろいろな曲を作りたいという欲求があり、それを爆発させたのが『BATSUGUN』の楽曲だったのでは、と感じました。その想いを僕たちで引き継いで昇華するというのが、今回のアレンジで目指すべきところなのではと考えました。

――その印象やコンセプトは、今回の人選にも影響したのでしょうか。

WASi303明るい、という点はお三方を選ぶうえで重要なワードになったかと思います。また、安井さんが先ほど触れた『ドラスピ』だったり、あとは『アンダーディフィート』(グレフ/2005年、細江氏が原曲、安井氏がアレンジ楽曲を担当)などに通じるものも感じたので、このメンバーならこの楽曲をよりよいものにしてくれると思いました。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

安井そういえば、細江さんは以前『BATSUGUN』のアレンジをされていませんでしたか?

――『ゲーム必勝ガイド』誌面の井上淳哉先生によるコミカライズ版が2017年に単行本化した際に、巻末にアレンジ曲などを収録したCDが付いていまして、そこでご担当されていますね。

WASi303それは初めて知りました。

細江いや、こちらでもほとんど覚えていなかったですよ。

――ご担当曲が違ったのもあるかもですが、これまでのお話からして、まったく別のタイトルの話みたいに感じてもおかしくはないですよね。

個性的な『BATSUGUN』サウンドにどう向き合ったか

――あとは『BATSUGUN』の特徴としまして、各ステージが非常に短いという点もあったかと思うのですが、そのあたりは意識されたのでしょうか。

松本僕は意識して、アレンジに加えましたね。必ず1曲がステージ内でループするようにやってやろうと思いました。

安井僕もゲームの尺進行になるべく曲を合わせたいということもあり、シティコネクションさんから配信されていた今作の動画を拝見して、尺の間隔を調べさせていただきました。

――なるほど、それなら緻密に合わせられますね。

安井結果、原曲よりもテンポを速めようとしたうえで、ステージ中の展開やボスの出現に合わせて、おいしいところが損なわれないように調整しました。また、曲の短さもありますが、使える素材のどこを使うか、どのフレーズを生かすかも大事にしました。

――たしかに、原曲をサントラなどで聞くと、実際のゲーム中には半分も流れていない曲があったりもするんですよね。

松本1面のボスの曲はその最たるものですね。ボス戦があっという間に終わってしまうから、重要な部分をなるべく前のほうに持っていこうと努めました。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

はがね自分が担当したボス戦の曲については、逆に破壊可能弾で長く稼ぎプレイをする人がいることも考えて、ふつうに戦ったら原曲のメロディーだけで終わるところを、稼いでいると新しいメロディーにさしかかるように作ってみました。

――なるほど、それはおもしろい。

松本1面ボスでも、その点はけっこう悩んだんですよね。ただ、参考にさせていただいたプレイ動画はハイスコア狙いのプレイのものがほとんどで、1面ボスについてはだいたい最初のイントロのところで終わっていたので。

――あの1面ボスは、稼ぎに使われることはほぼないですからね。

WASi303僕の担当した4面ボスは、その中では珍しく巨大戦艦面で、ずっとスクロールしつつ続いていくんですよね。ある程度一定で元の曲がワンフレーズしかなくて、それは使うけどあとは自分で作って、上物が足されながら最後まで行く形になりました。

――たしかに、長いボス戦だけどワンフレーズでした。改めて聴いてみると、やはり元の楽曲はステージごとに大きく異なっていたんですね。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

WASi303その分、見ているとこうしたいなと、自分がアレンジしたらこういう形で盛り上げられそうだな、と思う部分が大きいと思いました。自分もDAW(※)に映像を貼って尺を見ながら曲を作っていくタイプなので、そうなると印象的なシーンには何かを入れたいと考えるんですよね。

※DAW:Digital Audio Workstationの略。パソコン上などで打ち込みやオーディオファイルを用いて音楽を作る、音楽ソフトウェア群のこと。

――ゲーム内の展開に合わせて、曲の展開も変わるわけですね。今回も中ボスの出現シーンなどで、その手法を取っている方がいらっしゃいました。

WASi303それもありますが、ゲームプレイがうまい人の攻略法を聞くと、曲のこのタイミングでこう動く、みたいなことを解説でおっしゃることがあるんです。そういった部分も、アレンジ曲でもしっかり出したいと考えました。

――ちなみに、この楽曲はこの人にお願いするというディレクションはWASiさんのほうで、どういった基準で決められたのでしょうか。

WASi303原曲を聴いた印象で決めました。この曲だったらこの人はこうしてくれるんじゃないかなと、ニヤニヤしながらお願いしました。たとえば細江さんなら、5面のボス曲はガバ(※)にしてくれるんじゃないかなと思ったら、しっかりガバにしてくださったりとか。

※ガバ:ハードコアテクノの中でも、曲のテンポの速さや激しい破壊感を伴うサウンドなどが特徴となるジャンル。年代により大きくふたつに傾向が分かれるほか、スピードコアやドゥームコアなど、のちのハードコアテクノのさまざまな新ジャンルの礎となった。

――オファーの際には、その辺は事前にお伝えしたのでしょうか。

WASi303基本的には簡単なワードで「ノリはこういった感じです」とお伝えしつつも、好きに作ってくださいとお願いしていますが、僕の中ではこういう風に作ってくれるとうれしいな、と思うところがあるんですよね。それがうまく合致してくれることが多くて、今回もいただいた曲を世界最速で聞きながらニヤニヤしちゃいました。

――大きくテーマから外れないようにワードである程度伝えつつ、といった感じですか。挑戦状みたいにもとらえられそうですね。

安井たしかに。僕は『エスカトス』(キュート/2011年)の1面の曲みたいな、というワードをいただきまして、この曲はマイナーのロックみたいな曲なのですが、今回の担当曲はめっちゃ明るいメジャーなんです。

――めちゃくちゃ挑戦されているじゃないですか。

安井そうですね。持っていきたいところはわかるのですが、さてどうしようかなと。

WASi303リードの感じとかを踏襲してほしいと思ったんですよね。あまり細かく言ってしまうと、変な風にとらえられてしまうのでは、とも思いました。

――細江さんは、オファーについてはどのようにとらえられましたか。

細江曲の主題になるところがそんなに長くはないので、依頼で書かれたことと自分の思ったことと主題、この3つを混ぜればそうなるかな、という最適解が出てくる感じでした。深く考えず、自然体で作れたのがよかったのではないかと思っています。

――ガチガチに指定されてしまうと、そういう作りかたはできなさそうですね。

WASi303そうしてしまうと「この曲はそうはならないよ」と返されて、また新たにガチガチの指示をお送りするという無限ループになってしまいかねないので、それだけは絶対避けたいんです。

安井そこはもう、WASiさんご自身がこれまでお仕事をされたり発注したりしてきたからこその匙加減ですよね。

WASi303前の会社では、ずっとパチンコ筐体の仕事で発注ばかりをしていまして、落とし込みについては体に染みついている感はあります。中にはどうしてもガチガチに指定してほしいという方も出てきますので、そこでどう悩むかも体感していましたし。

――はがねさんも、オファーについては思うところはありましたか。

はがね僕のほうには、以前に曲を書いた『BLUE REVOLVER: DOUBLE ACTION』(Stellar Circle/ゲームは現在開発中)の曲のようにというオーダーをいただきました。

――サウンドトラックは、ゲームに先行して公開されていましたね。

はがねこちらの曲はギターごりごりの曲だったのですが、ステージ曲にギターごりごりは重すぎるかなと思いまして、ギターはバッキング(主旋律の裏に入れる伴奏)に抑えました。一方で音のギラついた感じについてはいっしょにしてみたことで、うまくはまってくれたかなと思っています。

WASi303はがねさんには、自分がサクセスに所属していたころに『コットン ロックンロール』(サクセス/2021年)で曲をお願いしていまして、当時まだはがねさんのことを失礼ながら存じていなかったときに曲を聴かせていただいたら、すごくよかったという印象があり、いつかいっしょにお仕事ができればと思ったんです。

――それはもう、シティコネクションさんでこの仕事が来たら頼まざるを得ませんね。

WASi303それから間もなく、シティコネクション入社3日目くらいで『BATSUGUN』のこの仕事をやりなさいと言われて、じゃあさっそく頼みに行こうという感じでした(笑)。本当にこの人って若い人なのか、おじさんホイホイっぷりがあまりにハンパなくて、じつは50代の手練れの方なのでは、とも思っていましたが。

――(笑)。たしかに、実際の曲を聴かせていただくとそう思わないこともないですが……。

はがね僕のほうでは、昔からWASiさんのことを存じておりまして。昔ケイブのゲームがiPod touchでたくさん出ていたころに、これらをプレイするためにiPod touchを購入したんですよ。『DODONPACHI MAXIMUM』(ケイブ/2012年)とか、すこしあとに『アカとブルー』(タノシマス/2017年)とか。

――タッチパネル操作シューティングの代表格ばかりですね。

はがねサイヴァリア』(サクセス/2000年、WASi303氏を始めとする4名が楽曲を担当)は実際にはプレイしてはいなかったのですが、ネットでも話題になるぐるぐる回ってレベルを上げていくあの様子などは知っていました。

――ああー、あの雷がピシャーン、ピシャーンって出続ける光景ですね。

はがねですので、初めて依頼をいただいたときには依頼者のお名前で目を疑いました。あれ、WASiさん? って。本当にうれしかったですね。

WASi303いえいえ、こちらこそいっしょにお仕事ができてうれしかったです。ほかにも細江さんや安井さんとも、長くお付き合いさせていただいているのに前の会社ではごいっしょにお仕事はできなくて、今回やっと実現できました。今後ともぜひお願いしたいですね。

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――ちなみに、お三方(細江氏、安井氏、はがね氏)についてはお願いする形になりましたけど、WASiさんと松本さんについては社内ということで、また違ったやり取りになったのでしょうか。

WASi303オフィスでは松本君の席の対面に僕の席がありますので、こうパソコンのディスプレイの上から顔をガッと出して、「松本君。変拍子! 重いヤツな!」と言ったりしていました。

――きついオーダーとかも遠慮なく飛んできそうですね。

松本いやもう、こちらはそれに対してただただ「了解です!」と(笑)。

WASi303休みの日にふたりでTD(トラックダウン。楽曲をマスターデータにまとめる作業)をやったりしていましたが、ゲラゲラ笑いながらやっていましたね。発進シーンに合わせた曲が作りたい、とやってみたらバッチリ合ってしまって、あまりの合いっぷりに笑いが止まらなくなったりとか。

松本最初のド頭は、イントロがなくて曲から入る感じだったんですよ。それをちょっとゆっくりにしてみたり、ギターがああでもないこうでもないとか話しながらやっていたら、だんだんおもしろくなってきてしまって。

WASi303そのうち「なんだこの変拍子は!」って言いながら、変拍子がギターで弾けなくて困り出したりとか。変拍子にしろと言ったのは僕だったのに(笑)。

松本こちらはもう、「5拍です!」って言うばかりで(笑)。

――そんな間柄ではありますが、1面の曲を松本さんに割り当てたのも適性を考えてのことだったのでしょうか。

WASi303そうですね。『BATSUGUN』の1面は、僕の中ではコードの感じなどがアメリカン・ロックなんです。松本君はロックが得意なので、外国人が仁王立ちでリフ(ロックにおけるメインフレーズ)を弾いているみたいなイメージで。

――楽しそうな開発現場でなによりです。

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このメンバーならではの、アレンジの苦労を聞く

――今回のアレンジで、苦労した点などがあれば伺いたいのですが。

はがねゲーム自体とは関係ないのですが、依頼をいただいたときにほかのアレンジャーの皆さんのお名前も書いてあって、それがいちばんの苦労でした。

――たしかに、いまやレジェンド級のメンバーが揃っていますからね。

はがねプレッシャーはもちろんあるのですが、ゲーム内でアレンジ版に曲を変えるとなると、通しで全曲聴くことになりますよね。そのとき、プレイヤーさんに「はがねって人が作っているところだけ微妙」とか言われたら、もう悲しくなっちゃいますから。

WASi303いや、それはないと思いますけどね(笑)。

はがねなんでしたらほかのアレンジャーさんの既存曲をいろいろと聴き直して、クオリティーを合わせないと、と気合いを入れて臨みました。実際にアレンジ全曲を聴かせていただくと、全曲通して音の感じがまとまっているように感じられたので本当によかったです。

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――非常に真面目でいらっしゃる。

WASi303アレンジ曲を提出していただいたのは、はがねさんがいちばん早かったんですよ。その曲を社長に聞かせたら、「勝った。これ勝った、これイケるよ!」って言っていましたからね(笑)。

――何に勝ったんでしょうね(笑)。

WASi303Boosted』と銘打った第1弾のタイトルですから、生半可なものは出せないじゃないですか。それをこれからもシリーズで続けていくにあたり、これなら続けられるという確信が得られたという感じですね。

――ユーザー側としても、いまから期待が持てそうですね。試聴版がすでに公開されていますし。

WASi303試聴版はループするかしないかのところまで、ほぼ公開させていただきました。僕自身が、ちょっとだけ聴かせるというのは頭にくるんですよ(笑)。おいしいところだけを聴かせるのではなくて、そこまでの助走があるからそこがおいしいわけで、曲の印象が変わってしまうと思うんです。

――ちょっと売り上げとかに心配はありますが……。

WASi303少なくとも僕の経験上では、それで売り上げが下がったという実感はいままでなかったです。買う人は変わらず買ってくださるので。

安井たしかに、いまどきはほぼ全部早めに出すのもスタンダードですからね。

WASi303なんならもう、サターン版を持っている人はこの曲を流しながらプレイしてみてくれと。

――セルフでそれをやったら相当な猛者ですね(笑)。苦労話に戻しますが、松本さんのほうでは1面の曲ということでプレッシャーなどもあったのでは?

松本それはもう、プレッシャーはありましたね。原曲はゆっくりで、1ループするかしないかのところでフェードが入って切れるという感じだったのですが、まずそこは短くしてステージ内で曲を1周はさせたい、というところからスタートして、あれよこれよとなんとかできあがった感じです。

――そこに変拍子という声が対面から飛んできたと。

松本そうですね。イントロにギターが入ったほうがいいとオファーをいただきまして、マスター直前の休日に会社で「5拍子!?」と(笑)。さらには途中でドラムが表裏切り替わったりと、ややこしいことになりました。

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――話を戻しますが、ほかにご苦労なさった点などは皆さんのほうでありましたか。

WASi303ネームエントリーの曲なども担当させていただきましたが、曲の入りについては毎度ながら、シンセを出してガチャガチャやりつつ何時間も悩まされました。

安井入りのどういうところで悩まれたんですか?

WASi303原曲がわかるところまで、どのように運んでいけばいいのかとか、今回の場合は冒頭で雲が流れていくシーンもあるからどうするかとか、そういったところですね。

――そう聞かれるということは、安井さんは入りで悩まなかったのですかね。

安井いえ、むしろめちゃくちゃ悩みました。サウンドの仕事自体も久々だったので、まずは感覚を取り戻さないといけませんでしたし。ミックスってどうやるんだっけとか、リバーブってどうやるんだっけとか。

松本マジですか。それであのクオリティーですか。

安井入りについては構成よりも、音色が決まるまでが長くかかりましたね。ですので、どういうところでWASiさんが悩まれていたのか、気になったんです。

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――細江さんのほうでは、苦労された点などはありましたか。

細江こちらではさきほど触れたようにそぎ落としていったので、その点はちょっと悩みました。ステージ後半ではソロっぽいものが入っていたり、メロに入るまでのコードがいっしょだったりと、あれこれいらないなと思って作っていったら、もうこれ誰の曲かわからないな、と(笑)。原曲へのリスペクトをどう残すのか、という点ですね。

――元の曲の要素を、いかに残すかということですね。

細江あまりやりすぎてしまうと、アレンジではなく創作、作曲になってしまいますからね。その申し訳なさが出たり出なかったり。曲を作ったご本人は、オリジナルがいちばんだと考えていることが多いかと思いますしね。

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――なるほど、アレンジ作業自体かなり苦労が多いようですね。

安井実際、難しいです。原曲があって、原作の思い出やよさもあると、原曲が好きになるのは当然でしょうし。そこから音楽だけを切り取って、気に入ってもらえるというのはなかなか難しいです。

――たしかに、好きなゲーム体験が紐づいているとそういう感覚もありますね。

安井実際にアレンジの仕事をさせていただく際には「やるからには全部ぶっ壊そう」と思ったり、原曲をより生かしたりと、やることはまちまちになります。

細江迷うんだよね、どちらにするか。どちらかに振ってしまって戻れなくなって、最終的にはディレクターに判断を任せることもあります。

安井昔のテクノのリミックスとかで、原曲の要素がどこにあるのかというレベルでぶっ壊したアレンジなどもあって「これもアリなのか」と思ったりしたこともあったのですが、原作ゲームファンが多い作品ですと、しっかりとよさを残したくなったりします。年齢を重ねてくると、原作好きの人に向けて作ろうという想いのほうが大きくなってきましたね。

細江今回はとくに、ゲーム内に実装されるということもありましたので、変な方向に持っていくということは考えなかったです。

安井レイフォース』(タイトー/1994年)や『レイストーム』(タイトー/1996年)も、家庭用ゲーム機版だと3種類くらいから楽曲を選べましたよね。アレンジ版で好きなものとなると、PCエンジンの『イース』(日本ファルコム/1987年)や『英雄伝説』(日本ファルコム/1989年)などが挙げられます。

WASi303自分はサターン版の『バトルガレッガ』(エイティング/1996年)ですね。原曲も好きでしたが、実際に買ってみたらなんかすごくカッコいい曲が入っている! と喜びました。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う

当時のFM音源に思いを馳せつつ、発売を待て!

WASi303アレンジの話をしたあとではありますが、正直なところ80年代当時のアレンジというのは好みではなくて、なぜかというとFM音源じゃないんですよ。ふつうのシンセサイザーなどで弾いている音が何か違うかなという感じで、曲が嫌いというわけではないのですが。

――とはいえ、後年になってくるとPCM音源などでゲームにリアルな音が入ってきますよね。

WASi303そういったリアルな音の原曲に慣れてくると、アレンジもそういう音で作られても受け入れられるようになってきました。そうなると、サターン時代のアレンジもよりいいものに感じられてきましたね。

はがねFM音源は、当時のアーケード版シューティングゲームの遺伝子のひとつだと思うんです。それが“らしさ”たるゆえんみたいなところがありますので、そこが入るとアレンジ曲でもニヤッとできるというか、あのころを思い出せるという感じです。

WASi303年代ごとに聴いてきた音や音楽も違うと思いますので、そこにずれたものが入ると違和感になってしまうんでしょうね。

安井ゲームをいろいろとやってきたことで、今回のメンバーはその辺の感覚は共有していたんでしょうね。ゲームに載せるという側面もありましたが、自然とうまくまとまっていたかと思います。

――逆に、若い世代に対してはどういう感覚を意識しますか。

安井若者でシューティングゲームを遊んでいる人というのが、どういう人なのかというのがこちらでは測りかねるところはありますね。ゲームセンターに行って昔のシューティングゲームをプレイしているという人なら、いまの音ではなくて昔の音でいい、と思われるんでしょうけど。

――若い世代と言えばそもそも気になっていたのですが、はがねさんはその若さでなぜここまでFM音源の本質を理解できていらっしゃるのでしょうか。

はがねシューティングゲームが好きで、ずっとプレイしているということもありますが、ドット絵なのにリッチなストリングスなどが流れているというのに違和感があって、ちょっとざらついた音があったほうが「音もドットだな」と感じられます。

――音もドット。名言ですね。

はがね基板から音が出ている感じがとても好きなんです。ゲーム全体を通して、音もゲームも体験もすべてがまとまっていると感じられるのが、FM音源が好きな理由かもしれません。

――ますます本当にお若いのか、わからなくなってきたかも……。

はがね梅本竜さんの曲もめちゃくちゃ好きで、担当された『赤い刀』(ケイブ/2010年)の曲も大好きなんですよ。そういった部分も、好みに影響しているかも知れません。

WASi303生まれた世代は、その辺に大きく影響しそうですね。僕の世代だと単音からストリームまで、ゲームをやりながら変化をすべて体験できたので、いい世代だったなあと思います。とはいえ、それを追体験する人たちがこうして現代に現れるとは思っていませんでしたから、単に時代だけのものではないんだとも思いますね。

安井アート面でも、ドット絵が好きでいまでも若くして作品を作り続けている人も多くいらっしゃいますしね。

WASi303ドット絵=古い、という感覚ではないんでしょうね。娘が僕の名刺のドット絵を見たときには、「パパが『マインクラフト』になっている」と言っていました。

――たしかに、古いからドットというよりは、いまやひとつの表現方法なんでしょうね。

WASi303FM音源も、いまやそういうものになりつつあるのではと思います。ゲームボーイのソフトとか、意味のわからない「どうやって作っているの!?」といった印象の曲を書く人がたくさんいて、それをいまどきの人が音源に使ったりもしていますし。

――昔のマシンパワーだと、いまではめったに聞かない「打ち込みが多くて曲のデータ量が重い」なんて話も出ていましたね。FM音源の場合、決められた長さの音符しか置けなかったかとは思いますが。

WASi303そう言われてデチューンして、データ量を軽くしたりしたこともたしかにありましたね。

細江当時の好き嫌いでは、MIDI(※)で作られたゲームの曲は個人的に苦手でしたね。リズムがかっちりと固められた曲のほうが好きでした。

※MIDI:電子楽器の共通規格。この規格により、楽器による生演奏を直接データ化しソフトに入力できるようになり、音楽の打ち込みの幅が大きく広がった。

WASi303リッジレーサー』(ナムコ/1993年)の機械による打ち込み音楽とか、自分も好きでした。すごく機械的に、カチカチに固められていて、当時もっと自由に音を流せるシステムもほかにはあったのに、システム基板の制限かなにかでああいう音作りしかできなくて、その制限の中でループを入れたりと、アイデアを盛り込んで作られたのかなと。

安井その当時だとセガのMODEL1基板(1992年)かMODEL2基板(1993年)でMIDI規格を搭載していましたね。

細江そのあたりでサウンドチームのガブリンサウンドさんが、メサイヤさんのゲームなどでひとりひとつずつMIDIのシーケンサーのチャンネルを担当して、楽器での一発演奏で曲を作っていたのに驚かされた記憶があります。打ち込みは一切しないんです。

安井メサイヤさんで当時ですと、『改造町人シュビビンマン』(1989年)とか『モトローダー』(1989年)とかですか。

細江楽器をうまく弾ける方々だったからこそですが、生っぽいタイミングで音が入ってくるのがとてもかっこよかったんですよ。

――かなりマニアックなお話になってきたところですが、そろそろまとめに入らせていただきます。お互いのアレンジ曲を聴いてみた際の、率直な感想なども伺えたらうれしいです。

細江前後のお仕事が詰まっていたので、いただいたファイルをちょっとずつ聴かせていただいた程度なので恐縮ですが、それぞれの「うん、この人がやったんだな」という部分がしっかり出ていたとは感じました。

安井同じゲームのアレンジを、複数人でやるというのは難しいと思うのですが、今回は破綻することもなくすごくきれいにまとまっていた感がありますね。

――松本さんはプレッシャーを感じておられたようですが、ディレクションをしていたWASiさんにもプレッシャーはあったのですか?

WASi303それは当然ありましたよ! はがねさんがおっしゃっていたように、「4面だけへこんでいる」とか言われたらどうしようとか思っていました。

――それははがねさん同様、言われないと思います(笑)。では最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。

松本すばらしい皆さんといっしょに楽曲を作れて、本当にうれしく思います。さらに皆さんにも楽しくプレイしていただければよりうれしいですので、よろしくお願いいたします!

安井ぜひ皆さんにも、アレンジバージョンで遊んでみていただければうれしいです。オリジナル版のほうも違った見えかた、聞こえかたがしてくるかと思いますので、ぜひお試しください。

細江自分のできることしかできなかったかと思いますが、皆さんにそれが気に入っていただけるものと信じております。ぜひ多くの皆さんに遊んでいただきたいと思っております。

はがねがんばってアレンジさせていただきましたので、ぜひゲームをアレンジ版楽曲でプレイみてください。さらにSNS共有機能などでプレイ動画をアップロードしたりしていただけると、なおうれしいです。

WASi303サウンドディレクターとして、僕がやりたいと思える『BATSUGUN』が完成したと自信を持って言えるものができあがりました。皆さんにはぜひ楽しんでいただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

『BATSUGUN サターントリビュート Boosted』アレンジ担当コンポーザーに聞く。30年前の『BATSUGUN』を通じ、世代を超えた5人の作曲家がFM音源に向き合う
「『BATSUGUN』らしいポーズを取ってください」とのカメラマンの無茶振りに、気さくに応じてくださるサービス精神旺盛な皆さん。チームワークのよさもほの見えたり。