“ポケモン”と“初音ミク”によるコラボプロジェクト“ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs (ポケミク)”。
2023年8月31日にSNS上でコラボレーションの情報とともに、初音ミクたちのキャラクターデザインを担当したKEI氏(@keigarou)による、初音ミク&カモネギとピカチュウのイラストが公開され、大きな話題を呼んだ。
これまで初音ミクとともに音楽を作り上げてきた楽曲クリエイターらが、『ポケットモンスター』シリーズのBGMやSEを使って楽曲を制作し、初音ミクたちが歌う。そして、『ポケットモンスター』シリーズのキャラクターデザインやアートワークを手掛けてきた方々をはじめとするイラストレーターらが、“初音ミクが◯◯タイプのトレーナーだったら……?”というテーマで、18タイプの初音ミクをデザイン。
ポケモン、初音ミク、そして個性豊かなクリエイターたちが巻き起こす、彩りに溢れたプロジェクトがまさに、“ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs”なのだ。そんな話題の“ポケミク”の企画を立ち上げた株式会社ポケモンとクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の立役者へインタビューを実施。
ファンが知りたかったであろう、どのようにしてこの夢のような企画が立ち上がったのか、という経緯から今後の話までをたっぷりと訊いた。
そして、ポケミクの超特大特集を週刊ファミ通で掲載することも決定! 週刊ファミ通2024年1月25日号(2024年1月11日発売)では、なんと表紙+64ページにもわたりポケミクの魅力をがっつりと紹介。詳細は記事の最後にて。
週刊ファミ通2024年1月25日号(2024年1月11日発売)の購入はこちら的場 昴樹(マトバ タカキ)
株式会社ポケモン
“ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs”立案・制作リーダー
佐々木 渉(ササキ ワタル)
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社
初音ミク生みの親。『初音ミク -Project DIVA』、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』など数々の企画に関わる。
“ポケミク”はポケモン側からのアプローチで実現
――まず、“ポケモン”と“初音ミク”というIPが、世界観なども合わせて本格的にコラボをしたことに非常に驚きました。“ポケミク”の企画立ち上げ経緯をお教えください。
的場ポケモンとクリプトンさんとは、“アローラロコン×SNOW MIKU 2020”(※)でいっしょに北海道を盛り上げる活動をしたというご縁がありました。当時は楽曲の制作などはなかったのですが、その後、弊社内で『ポケットモンスター』シリーズのBGMやSEをきっかけに、ポケモンをより多くの人に知って、楽しんでもらおうという音楽のプロジェクトが発足しました。そのプロジェクトのコラボアーティストとして、ぜひ初音ミクさんにお願いしたいと、私の方で企画を立てて、クリプトンさんにご相談したのが“ポケミク”の発端となります。
※「北海道だいすき発見隊」のアローラロコンと北海道を応援するキャラクターの雪ミクのコラボ企画「北海道だいすき発見隊 アローラロコン」×「SNOW MIKU 2020」が、第71回さっぽろ雪まつりにて実施された。
――クリプトン側としては、お話を受けた印象はいかがでしたか?
佐々木初音ミクとは、奇跡的なバランスで成り立ってきた、自然界のサンゴ礁のような存在だと思っています。彼女を取り巻くクリエイターさんが、創作に対して多様に取り組んでくださったり、自由度を持って楽しんでくださっていて、初音ミクの世界が広がり、成り立っています。そのバランスは、企業のコマーシャルソングなどで商業的な側面を強くしてしまうと、ファンの方々に受け入れていただけなかったりする、繊細なものです。
しかし、ポケモンさんからいただいたお話は、商業的な目的があって活動するわけではなく、純粋にボカロPさんたちが『ポケットモンスター』シリーズを題材にしてそれぞれポケモンの世界へのリスペクトから楽曲を作るというものでした。僕たちからしてみれば、夢のような話です。
――とても人気で大きなIP同士のコラボなので、たしかに一般的に考えると商業面でのことを前提にしそうな気がします。ここまで大がかりなコンテンツを立ち上げなくても、グッズを発売するなどで喜んでもらえるのではないかと。
佐々木そうですよね。企業と企業がいっしょに動くわけですから、予算などの事情がどうしても付きまといます。なので、こんなにも理想的すぎる話は、さすがに成立しないだろうと思っていました。しかし、こちらが思っていた以上にポケモンさんは本気で、コラボにおけるマーケティング面の価値を見出してくれていて、気付けば夢のような企画が実現に向けて動き出していました。
――ここまで大きなコラボは、正直なところ非常にたいへんでハードルが高いと思うのです。的場さんを突き動かしたモチベーションの源は何だったのでしょうか。
的場大前提として、私はポケモンのプロデューサーであると同時に、初音ミクさんや彼女を取り巻く文化が好きな人間でもあります。初音ミクさんがこの世界に現れたときから追い続けていますし、じつは、自分でちょっとした曲を作り、歌っていただいたこともあります。これだけのクリエイターの皆さんとごいっしょしている中なので、非常に恐れ多いのですが(笑)。
そのうえで、私たちのミッションは、長い歴史の中で生まれてきた『ポケットモンスター』シリーズのゲーム音楽たちを、現代のシーンに合わせて楽しんでもらい、その魅力を再発見してもらうことです。やや大雑把な言いかたですが、現代の音楽シーンの主たる舞台のひとつはインターネットだと考えています。その中で誕生からずっと強い輝きを放ち続けている初音ミクさんや、彼女とともにあるクリエイターの皆さんとごいっしょすることができれば、ポケモンやポケモン音楽、そしてそれらを愛してくださるファンの皆さんにとって、すごく楽しいことができるんじゃないか? と考えたのがきっかけです。
――“ポケモン”と“初音ミク”の相性についてはどう分析されていますか?
的場共通点が多く、相性は“ばつぐん”だと思います。たとえば、ポケモンは現在1000種類以上が発見されていますが、初音ミクさんも大勢のクリエイターさんたちが曲を生み出しており、その数はもはや数えきれないほどです。どちらも個性的で多彩な魅力を持っていますよね。ソフトウェアとして始まり、仮想世界と現実世界をつないでいるのも、近しいものを感じます。また、ファンの方の楽しみかたにも親和性があると考えています。
――ファンの楽しみかた、ですか?
的場初音ミクさんであれば、「どのPが好き?」、「どんなジャンルが好き?」、「お気に入りの曲は?」といった会話は絶対あるでしょうし、ポケモンで言えば「好きなポケモンは?」、「どっちのソフトを買った?」、「最初のパートナーはどのポケモンにした?」といった会話があります。人それぞれ違った選択があり、それを尊重しあって楽しめる土壌が共通してあると思っています。それと、これは私個人の感覚なのですが、インターネットで新たなボカロ曲を探して回るのと、草むらでまだ見ぬポケモンを探して回るのは似ていると思うのです。未知との遭遇へのワクワク感と言いますか。
――そこに共通点を見出すのはおもしろい発想だと思います。言われてみれば、そうですね。クリプトン側としては、今回のコラボの手ごたえはいかがでしたか?
佐々木初音ミクには女の子のキャラクターと、音楽的なバーチャルシンガーのふたつの側面があり、どちらを押し出すコンテンツを作ればいいのかを考えてしまうことがあります。それこそ、ポケモンさんとのコラボであれば本来、キャラクターが共生する世界観のビジュアライズ、次いでその世界で奏でられる音楽を押していこうという考えになったと思います。しかし、今回は初音ミクのキャラクターとしてのよさも、音楽としてのよさもどちらも抽出して掛け合わせることができました。初音ミクの魅力を100%引き出すことができたと感じています。
――このプロジェクトを我々側からみると、“18タイプの初音ミクと相棒ポケモン”のイラストが先に目に入り、つぎに音楽が出来上がった、という風にも見えるのですが、楽曲の企画として生まれたということでしょうか?
的場先ほどもご説明しましたが“『ポケットモンスター』シリーズのBGMやSEをきっかけに、ポケモンをより多くの人に楽しんでもらう音楽プロジェクト”が発端です。一方で、18タイプの初音ミクさんと相棒ポケモンのイラストについては、初音ミクさんとのコラボならビジュアル面でのアプローチもたくさんやるべきだ、と考え、楽曲の企画と並行して立案しました。なので、アイデアとしてはほぼ同時に生まれていますね。
ポケモン、初音ミクさん、クリエイターさんたちの多種多様さを表すには、“18”という数が必要だなと思い、それを楽曲とイラストの企画に落とし込んでいった形です。プロジェクトタイトルの“18 Types/Songs”がまさにそれですね。イラストたちを、両方のファンの皆さんの間でとても話題にしていただいたおかげで認知度も上がり、ボカロPさんたちの楽曲に興味を持ってくださる方も増えたので、初音ミクさんらしい相乗効果が生み出せたのではと思います。
佐々木初音ミクたちと、自然界の元素である火水雷土風や、光闇などのエレメンツ的なものとの掛け合わせについては、ファンタジー系のコラボのテーマとして検討したことがありましたが、音楽を主とした“バーチャル・シンガー”ということもあり、あまり積極的には行っていませんでした。ただ、ファンタジックな要素との組み合わせについては需要や可能性も感じていたので、同じように楽しみにしてくださった方々が、いままであまり見られなかった新鮮なミクが見られて、が見られて、喜んでくれているのではないかなと思います。
――今年は初音ミクさんの16年目の記念の年(初音ミクの年齢が16歳)ですが、今回のコラボのタイミングはそれに合わせられたのでしょうか?
的場さまざまな要因はあったのですが、16周年という特別なタイミングにぜひ合わせたいとは考えていました。本企画を発表した2023年8月31日は初音ミクさんの16歳のお誕生日で、たった一度だけの特別な日にごいっしょできてよかったなと思います。
“18タイプの初音ミク&相棒ポケモン”の狙いと反響
――最初に公開されたのは、初音ミクさんとカモネギが大きく描かれたティザービジュアルでした。この組み合わせになった経緯を教えてください。
的場ポケモンと初音ミクさんがコラボをして、「これからおもしろいことがおきるぞ」ということを一発で伝えられる組み合わせを考えた結果です。ポケモン側としてはカモネギが揺るぎない第一候補であったものの、“ネギ”をモチーフにしていいのかとも考えていて。ただ、クリプトンさんに相談した際に、力強く「そこはカモネギでいきましょう」と返していただけて、それで決心がついたのを覚えています。ファンの皆さんにも沸きに沸いていただけて、カモネギも本当によかったなと。Xアカウントのアイコンやヘッダーがこのティザービジュアルなのは、皆さんの反響のおかげです。
佐々木初音ミクと言えばネギというイメージになった一連の流れこそ、初音ミクが“ネット民の方々に育てられた象徴的なエピソード”だと思っています。我々がビジネスとして何かをしたわけではなく、たくさんのファンがいっしょに楽しみながら育ててきたもの。だからこそミクとカモネギとの組み合わせは、ファンの皆さんにただ純粋に楽しんでほしいというメッセージを届けてくれるはずだと思いました。
的場初音ミクさんのキャラクターデザインを生み出されたKEIさんに描いていただいたことにも特別な意味があります。ポケモン側からのリスペクトを感じてもらえるだろうと思いました。結果的にすばらしいスタートを切ることができてよかったです。ピカチュウも見守ってくれているみたいですね。
――その後、ポケモントレーナーの初音ミク&相棒ポケモンを18タイプ分公開するという企画が始まります。SNSでは相棒ポケモンの予想が盛んに行われていたのも印象的でした。
的場各タイプの初音ミクさんがどのポケモンをパートナーに選ぶのかを予想する、という“お祭り”には、絶対に喜んで参加してくれるだろうとポケモンファンの皆さんを信じていました。後に控える楽曲公開に向けて、より多くの人にプロジェクトのことを知ってもらうための施策でもあると同時に、ポケモンたちのことを改めて知ってほしいという願いもありました。このポケモンは音楽と関係があるとか、ポケモン図鑑にこう書いてあるとか。そういう会話と議論をして楽しんでほしかったんです。
――狙い通り、大きな話題になっていました。反響を受けていかがでしたか?
的場チーム全員が自信を持って進めていた企画ではありましたが、「想像以上にすごいことになりましたね」と話したのを覚えています。
佐々木相性は間違いなくいいだろうと考えていましたが、ファンの方々の反応やファンアートなどを見て、ようやく確信に変わりました。当初の反響は、僕自身かなり勇気付けられましたし、何よりやり取りさせていただいていたクリエイターさんたちのボルテージが上がっていくのを感じました。いま公開されているMVの中にも、そうしたネットの反響の刺激を受けて生み出されたものも多いと思っています。
的場ひとえに、キャラクターデザイナーおよびイラストレーターさんたちの力のおかげだと思っています。担当いただいたデザインやイラストだけでなく、“ポケミク”全体のクオリティを数段階引き上げてくださりました。
――ひとつひとつのクオリティがものすごく高いからこそ、これが18タイプ分も公開されるという衝撃が大きかったように感じます。
的場最初のエスパータイプが公開されたときは「これがあと17回も続くってヤバくない!?」といったようなリアクションがたくさん見られましたね。我々は“本気”だぞ、と伝えたかったので、とてもありがたい反応でした。
佐々木実際“ヤバい”ですよね(笑)。あのレベルのイラストが余韻も冷めやらぬうちに連日投稿されるなんて思いもよりませんよ。しかも平日は毎日投稿しているのに数週間も楽しみ続けられるし、タイプごとに雰囲気がガラっと変わるのに、それが違和感なく同居している。当事者でありながら、どこか他人事のように感じてしまうというか、実感がないというか。こんなことできるコラボレーションは、なかなかないと思います。
――最初に公開されたのはエスパータイプの初音ミクさんで、相棒はメロエッタ(ボイスフォルム)でした。順番などはどのように決められたのでしょうか。
的場順番はものすごく議論しました。でもエスパータイプが最初だった理由はシンプルで、相棒がメロエッタだからです。初音ミクさんならどのポケモンを選ぶだろうかと考えていく中で、チーム内の誰からもいちばんに名前が挙がったのがメロエッタでした。それに、最初にメロエッタが出てくれば「音楽にまつわるポケモンがくるんだな」、「幻のポケモンもアリなんだな」というのが一発でわかりますよね。ファンの方にどんな企画かを理解してもらうという意味でも、ベストだったと思っています。
――各タイプのデザインやイラストについて、クリエイターさんに対して指示などはされたのでしょうか。
的場これは後にお話する楽曲やMVについても同じなのですが、できる限り自由にクリエイティブを発揮していただくことが、すばらしいデザインとイラストを生み出すと考えておりましたので、今回の企画においては我々からの具体的なコンセプトやモチーフの指定で始まっているものはありません。
18タイプの初音ミクさんのデザインに関して最初にお伝えしたことは、“担当いただくタイプ”と“初音ミクさんが選んだ相棒”、そして「あなただけの表現をしてください」というメッセージだけです。そこから、すべてのクリエイターさんたちと何度もディスカッションと試行錯誤を重ねて、“あなただけのポケモン feat. 初音ミク”を実現するお手伝いをさせていただきました。
佐々木初音ミクにはクリエイターの自由な発想をぶつけていいという文化的な背景も、いい空気感として、共有できていたんだと思います。企業側から要件が指定されず、自分のピュアなクリエイティブを発揮できるというのも、初音ミクらしさというか。今回参加していただいたイラストレーターさんやデザイナーさんは、ポケモンの世界観を熟知している方ばかりでしたので、その方々が初音ミクを描くとこういうことになるのかと、クリプトンのスタッフたちも楽しんでいました。
的場クリエイターさんたちからも「とても楽しかったです!」というメッセージをいただいておりまして、我々としてもうれしく思っています。佐々木さんがおっしゃっている“ピュアなクリエイティブ”というものをまさにぶつけていただいたわけですが、それをすべて受け止めてなお、どこか“初音ミクさんらしさ”が垣間見えるところに、彼女の“表現者の受け皿”としての器の大きさを感じざるを得ないですね。“ポケモンのタイプ”を、ここまでビジュアルで表現できることにも、やはり相性がいいなと感じさせられます。
――各タイプの相棒ポケモンたちはどのように選ばれたのでしょうか。
的場まずお伝えしておきたいのは、本当にすさまじい議論を重ね、悩みに悩んだ末に選ばれているということです。初音ミクさん自身も、1000種類以上の中から18匹を選ぶのには、きっと悩まれるだろうと思います。
私たちがとくに意識したのは、順番も含めた見せかたや納得感といった部分です。たとえば、くさタイプ、ほのおタイプ、みずタイプは、みっつの異なる地方での、最初のパートナーポケモンで揃えて、“ポケミク版最初の3匹”にしつつ、公開順も連続させる。といったような感じで、気持ちよく受け入れてもらうと同時に、予想するおもしろさが体感できる並びを意識しました。「これはもうアシレーヌでしょ!」と想像ができる感じで。その直後がロトムなのは、翌週以降の予想において、さまざまな可能性を探ってほしかったからですね。
――基本的には音楽がテーマだったのかなと思いますが、ところどころ、初音ミクさんとのシナジーを重視して選ばれていそうなポケモンがいたのもおもしろかったですね。
的場ロトム、ネギガナイト、ミライドンは、初音ミクさんだからこそ選ばれているポケモンたちです。あくまでも“18タイプの初音ミクと、その相棒ポケモン”なので。予想が盛り上がるのを見てありがたく思う一方で、「ファンの皆さんの解釈と一致しますように!」と祈りながら公開していたのですが、幸いにも概ねご納得いただけたのかなとホッとしております。
もちろん、自分が期待したポケモンたちが出てきていないということはあると思います。その気持ちは私も持っていまして、可能なら100匹でも1000匹でもやりたいところなのですが、それはさすがに初音ミクさんやクリエイターの皆さんのご負担が大きすぎますし、組み合わせの妄想をすべて試して、想像の余地を失わせてしまうのも違うと思いますので。
佐々木そうですね(笑)。そうした空想の裾野の広がりは、応援イラストのほうで表現できているかなと思います。
的場応援イラストは、その名の通りファンの皆さんの応援によって生まれたものなんです。もともとの企画には含まれていませんでした。ファンの皆さんからの反響が想像以上に力強いものだったことを受けて、クリプトンさん側からご提案いただいて実現しました。
佐々木今回の企画に対して、ありがたいことにファンアートを投稿してくれる方がたくさんいらっしゃいます。創作の連鎖が産まれるような環境こそが初音ミクを生かし続けている原動力です。クリプトンとしては、創作意欲をかきたてるようなことがしたかった。今回選ばれた18匹以外のポケモンたちも、KAITOやMEIKO、リン、レン、ルカといったミク以外のバーチャル・シンガーだって、“ポケミク”という括りに入れていいんだと知ってほしくて、応援イラストにはそうした要素を入れ込んでもらいました。
的場できる限り多くのポケモンと、できる限り多くのクリエイターさんに登場してもらいたいと思っています。今後もいろいろな“ポケミク”を、いろいろな方が描いてくださいますので、お楽しみに!
現実と別世界との境界に在る、ポケモン音楽と初音ミク
――“『ポケットモンスター』シリーズのBGMやSEを使った企画”を考えることになった経緯をお教えください。
的場『ポケットモンスター』シリーズのサウンドは、ポケモンにとって貴重な財産のひとつだととらえています。私自身も、その大ファンなんです。なので、そこを入り口にポケモンを知ったり、好きになってもらえる方もきっといるはずだと考えた社員が集まったのが、音楽プロジェクトの原点ですね。また少し違うお話ですが、2024年2月27日には『ポケットモンスター ソード・シールド』+『ポケットモンスター ソード・シールド エキスパンションパス』、『Pokémon LEGENDS アルセウス』、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』+『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット ゼロの秘宝』のサウンドトラックが発売されることとなりました。
――サントラは、『ポケットモンスター ソード・シールド』のときから待っていたので、本当にうれしいです。
的場今回のプロジェクトでたくさんの方に『ポケットモンスター』シリーズの音楽に興味を持っていただき、ゲーム自体をプレイしたり、サウンドトラックを聞いていただけるようになったらうれしいです。
――おふたりが思う“ポケモン音楽の魅力”についてお教えください。
的場もちろん数えきれないほどあるのですが、私の個人的な考えとしては、あえて挙げるならふたつあると思っています。ひとつは、音楽を聴くだけで多くの方が“ポケモンらしさ”を感じ取れるところ。ポケモンの世界は、現実世界とは異なるものの、完全なファンタジー世界かと言えば、それも違うと思っています。そんな言葉で説明するのは難しいふしぎな世界を、音楽はわかりやすく、しかし雄弁に語ってくれます。『ポケットモンスター 赤・緑』から、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』にいたるまで、そしてこれからもずっと受け継がれていくであろう“ポケモンらしさ”を秘めたサウンドが、そのまま魅力なのだと思います。共通概念と言いますか。
――たしかに、理由を説明するのは難しいですが、聴けばポケモンの音楽だとすぐに分かりますね。
的場もうひとつは、音がポケモンの世界から届くものの中で、もっとも現実世界の我々に近いところにあるのではないかということです。私たちはさまざまな形でポケモンたちやポケモンが暮らす世界に触れることができますが、音は私たちの耳にダイレクトに届いています。ポケモンたちの鳴き声や、モンスターボールのSEは、ポケモンの世界に暮らすいきものたちと同じものを聞いている気がしますし、一方でどうぐを拾ったときのSEや、街で流れるBGMは、私たちにだけ聞こえているのかもしれません。一部のBGMには、コーラスや掛け声も含まれていますが!
そんな形で、ポケモン世界の音は、現実世界の要素が反映されたものでありながら、間違いなくポケモンの世界を構成する要素のひとつでもある。ゆえに私たちは、現実世界でポケモンのサウンドだけを聴いているときにも、ポケモンたちと紡いだ多様な想い出と冒険の日々を、鮮明に思い起こせるのだと思います。そして、世界と世界の曖昧でゆらぎのある境界線で流れているBGMやSEだからこそ、初音ミクさんのような、別の世界との境界線上にいらっしゃる方とも自然に混ざり合っていくことができたのかなと考えています。
佐々木的場さんがおっしゃっていたポケモンの世界というものが、どうして成立しているのかを考えると、クリエイターもファンも含めてポケモンに関わるすべての人がその世界を大事にしてきたからだと思うんです。ファンが多いコンテンツは、どうしても時々のトレンドに流されがちですし、ブランドイメージを守ることは簡単ではないと、我々も実感してきました。
そんな中で27年の歴史を経て、カタチは変われども、本質は変わらずに存在し続けていること自体が奇跡的で、そこに今回ミクを添えていただいたことを光栄に思います。これからもポケモンの音楽は世界と世界の境界線で流れ続けるのだと思いますので、微力ながら支えの一助になれればうれしいです。
的場“ポケモン音楽の魅力”についてお話したところで、“初音ミクの魅力”についても語らせてください。初音ミクさんの歌声やその存在のすごいところのひとつは、ある種の匿名性・無限の可変性だと思っています。思い切って言わせていただくと、“人間ではない”初音ミクさんにしか歌えないポケモンソングがあるはずだと、企画の構想段階からずっと思っていました。初音ミクさんは唯一無二であると同時に、さまざまなクリエイターさんの内面が投影されることでまったく別の存在にもなれる。だからこそできる表現の幅は計り知れない。
ポケモンも似たところがあって、同じタイトルを遊んでも、“私にとっての冒険とあなたにとっての冒険”は別の体験で楽しみかたも違いますし、“私のピカチュウとあなたのピカチュウ”の魅力は違いますよね。だからこそ、初音ミクさんは人それぞれの冒険や相棒ポケモンを持つポケモントレーナーたちに等しく感動を届けることができるし、ポケモンたちと同じくらい個性的なポケモン音楽、そしてクリエイターさんの個性もすべて受け止めて、“その人だけ”であると同時に、“私と同じ”に昇華してくれる。これは初音ミクさんにしかできないことだと思います。
佐々木参加クリエイターである、ピノキオピーさんの『匿名M』という楽曲に、まさしく「私は人間じゃない」という歌詞があります。ミクは人間じゃないからこそ、今回ポケモンとの相性もよく、独特のポジションから楽曲を歌い、多くの人に喜んでいただくことができました。
僕たちは人間ですが、異端的な意味で人と違うことを恐れることが多いですよね。でも、人間じゃないミクといっしょに、人と違う発想や着眼点で評価されて活躍されているのがボカロPさんたちです。人とは違う、自分だけの世界と向き合っていける人が、クリエイターとして新しい道を切り拓いていくんだということが、垣間見えた気がします。同じように、自分だけの夢の世界に向けて進んでいける人が増えてくれればいいなと思います。
――非常に熱いお話で、おふたりのポケモン音楽、そして初音ミクへの愛や思い入れを感じました。この熱量であれば、今回のコラボ企画も成立するわけだ、と実感しています。ここからは改めて今回のコラボで生み出された楽曲やMVについてお伺いしたいと思います。先ほどクリエイターさんに細かな指定はしていないという話がありましたが、改めて楽曲制作に関してクリエイターさんにお伝えした内容を教えてください。
的場最初にお伝えしたことは、「“ポケモン feat. 初音ミク”をテーマに制作してください」、「『ポケットモンスター』シリーズのBGMやSEを使ってください」、そして「あなたと、あなたの初音ミクにしか歌えないポケモンの歌を作ってください」でした。そこから何度もやりとりをくり返し、ひとつひとつの楽曲が完成しています。
イラストと同様に18タイプを各ボカロPさんに割り当てる路線もありえ、実際にシミュレーションもしていたのですが、そちらは選ばないという決断をしました。各ボカロPさんが“ポケモン feat. 初音ミク”という大きなテーマに対して、ご自身の想う世界観やクリエイティビティを余すことなく発揮いただくことこそが、本当におもしろい楽曲を生み出すために必要なことであり、ボカロPさんとごいっしょする意味だろうなと。むしろ、ボカロPさんたち自身が多彩な“タイプ”のようなもので、ご自身の個性の出し方は誰よりも研究・理解されています。それを我々が18タイプに当てはめるのも違うのかなと考えました。
――ボカロPさんの起用や依頼に際して気を付けていたことを教えていただけますか?
的場まず、我々のミッションからくる“ポケモンのBGMやSEを使う”というお題があり、その多寡や使いかたは自由ですが、何より魅力的に表現いただけるかどうかは重視しています。そして、18ものボカロPが横並びになるという枠組みも大切なポイントです。ポケモンに想い入れを持っていただけているか、はいつも以上に気にしていましたし、できる限り視聴者の方に「18曲いろんな表現があるんだな」と思ってもらえる方々に参加していただいています。
佐々木コラボ楽曲をお願いするにあたって、もっとも気を付けたのはボカロPさんたちの作品の制限とならぬよう、持ち味を最大限活かしてもらうことです。語弊を恐れずに言えば、ポケモンのテーマソングらしさを重視するあまり、そのボカロPさんの持ち味が少しでも失われるようなクリエイティブをさせてしまうことは、絶対にあってはならないと考えていました。もちろん、ここまでのお話を聞いてご理解いただいていると思いますが、ポケモンさんも理解していてくれていたので、実際のところ大きな心配はなかったです。起用に関していうと、DECO*27さんに先陣を切ってもらうことは早い段階で決めていました。
――DECO*27さんにお任せした理由をお聞かせください。
佐々木ボカロシーンの中で常に存在感があり、自由な言葉の使いかた、音楽的なアイディアは、とても刺激的です。テーマに対して、いい意味で破壊と創造と調和を織り交ぜてくれるだろうなと考えました。参加クリエイターの皆さんは独創的な方々ばかりですので、同様に個性を発揮していただけるよう、お話しましたね。
――実際、『ボルテッカー』は間違いなくポケモンのエッセンスが入っていながら、DECO*27さんらしさが詰め込まれた曲だと感じます。
佐々木僕もそう思います。『ボルテッカー』は我々やファンの皆さんだけでなく、ポケミクが大切にしている「自由な発想で作られた楽曲のおもしろさ」を伝えてくださったと思います。
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――初めて楽曲を聴いたときはどんな気持ちでしたか?
的場企画立案者として音楽的な相性のよさにもずっと確信を持ち続けていましたし、今回ご参加いただいているボカロPさんたち全員の楽曲も、もちろんほぼすべて聴かせていただいています。ですので、純粋にどんな曲ができあがるのか、ドキドキワクワクしながらお待ちしていました。
最初に『ボルテッカー』のデモ版を聴いたとき、「私たちがやりたかったことって、こういうことだったんだな」と、ぼんやりあったイメージに輪郭をつけていただいたような感じがしました。『ボルテッカー』のあと、今日にいたるまでにいろいろなデモ版が届いているわけですが、たとえば同じBGMでもボカロPさんによって使いかたがぜんぜん違っていて、表現に関して学ばせていただくところが多いです。
――BGM『ポケモンセンター』はたくさんのクリエイターさんが使われていますが、それぞれ別のニュアンスがあって非常におもしろいですよね。
的場『ポケモンセンター』は、どのシリーズでも必ずと言っていいほど耳にするBGMなので、各ボカロPさんごとに抱くイメージも違っているのかなと。ありがたいことにどのMVのコメント欄でも、ポケモンに関するネタや、BGM・SEがどこにどう使われているかなど、ファンの皆さんによるタイムスタンプ付きの解説を見かけます。それを参考にしつつ、同じBGMを使っているところを聴き比べてみるのもおもしろいと思います。私も楽曲のデモ版やMVの進捗が届くたびに、ポケモンネタをぜんぶチェックしてメモに書き留めています。やっていることは皆さんと同じかもしれませんね(笑)。
――佐々木さんはいかがですか?
佐々木今回お声がけしたボカロPさんたちは、ボカロ文化はもちろん、ポケモンにも思い入れがある方が多いです。世代は違えど、『ポケットモンスター』を遊んだことがあるという共通の体験は、同じ学校に通っていた友人くらいの親近感があるような気がしていて。そうした共感や好きの感情を、音楽の力で増幅するのがボカロPさんたちは得意です。それが僕にとってはある種、眩しくて(笑)。ファーストデモでポケモンに皆さんほど詳しいわけでもない自分が聴くのはおこがましいな、という気持ちが少しあったので、的場さんとは逆に感情移入はせずに、冷静に聞いていました。
的場(笑)。そう仰ってはいますが、佐々木さんも、“ポケミク”の企画を持ちかけてから、どんどんポケモンに詳しくなられていますよね! 最初こそ、知ってはいるけど詳しくはないという感じでしたが、途中からは佐々木さんのほうから「MEIKOの記念日には、やっぱりルージュラだと思うんです」といった、両方のコンテクストを汲み取った意見交換をしてくださるくらい、ありがたいことにポケモントレーナーとして歩んでくださっています(笑)。
同じように、ポケモンファンとボカロファンが互いに知識を共有している場面を見かけることがあります。「来週のボカロPだったらこの曲がオススメ」とか、「このポケモンはこういうところがステキなんだ」とか。そういった交流が生まれるのも、ポケモンとボカロの相性がいいからこそなのかなと思います。ある意味で、私にとって何よりもうれしいことかもしれません。異なる世界が交わるのが“ポケミク”ですから。
――参加されたボカロPさんたちもポケモンが好きな方が多いということでしたが、人選についてはポケモン側からもご提案があったのでしょうか?
的場もちろん、誰にお願いするかという話はポケモン側からもご提案させていただいております。クリプトンさんともやり取りを重ねながら、本当に幸運なことに、すばらしい18のボカロPさんたちが参加してくださいました。あと、これまたファンの皆さんにお伝えしたいのですが、これから「〇〇Pがいないじゃないか!」というのはどうしても出てきてしまうと思います。私も痛感しております。今回は“18 Types/Songs”というテーマに則って、18のボカロPにお願いさせていただいたということを、どうかご理解いただけますと幸いです。
佐々木我々にもっとコネクションやコミュニケーション力、そして時間などが存分にあれば、18のボカロPを超えてもっとお願いしたい方々はたくさんいました。また機会を作れるようにがんばります。
応援の声が大きければ、新たな展開も!?
――当初の想定よりも大きな反響を呼んでいるというポケミクですが、今後さらに展開が広がっていくようなことはあるのでしょうか?
的場現状で何か具体的にお答えできることは残念ながらありません! ……という前置きをしたうえで、我々自身、ポケモンと初音ミクさんのコラボによる可能性はまだまだあると信じていますし、可能なら何らかの展開を探っていきたいと思っています。
皆さんのSNSでの投稿、動画の再生などが積み重なっていけば、何かに繋がるかもしれません。もちろん純粋に、出てきたイラストや楽曲・MVに対して、ワイワイと楽しんでいただけるだけで十分ありがたいです。我々もYouTubeのコメントやXのつぶやきなどは可能な限り拝見して元気をもらっておりまして、私はもはや、ほぼすべてに目を通しているかもしれません。クリエイターの皆さんもそうかもしれませんね。本当にありがたいことに、大きな期待をお寄せいただいていることは重々認識しておりますので、今後応えていけるよう、もっとがんばります。
佐々木皆さんの声援によって、応援イラストの中でピアプロキャラが登場する流れが誕生した、という前例があることは紛れもない事実です。今後も新たな展開が生まれるように、ぜひ声を上げていただければと思います。自分としては裾野が広がるようなことをしたいと願っています。
的場今回のファミ通さんでのインタビューや、年明けの週刊ファミ通さんでの大型特集も、皆さんの応援があったからこそつながったものだと思っています。なので、引き続き“#ポケミク”にて、SNSでご意見・ご感想などをどしどし投稿していただけるとありがたいです。初音ミクさんだけでなく、両方のファンの皆さんの“声”のお力を借りるばかりで恐縮なのですが、反応が多ければ多いほど、つぎに繋がるかもしれませんので……!
――ファミ通からも、本当によろしくお願いいたします。我々ファンの“声”でポケミクの今後の発展につなげましょう!! それでは最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いできますでしょうか。
佐々木ポケミクを通してたくさんの作品やクリエイターに触れていただいたと思います。その中からほんのわずかでも、自分もアイデアを発信してみよう、クリエイターになろうと思ってくれた人がいたらうれしいです。そうした人たちが、つぎの時代のポケモンやミクたちを支えていくのだと信じています。自分の好きなものと、何らかの形で仕事としてかかわりたいと思ってくれる人が増えてくれたらいいなと思います。
的場改めて、ここまでの応援を本当にありがとうございます。「ポケモンと初音ミクがコラボしたらどうなると思う?」という正解のない問いに対して、私たちなりに全力で取り組んでいます。“ポケミク”の中で気に入ったものがひとつでもあったなら、それを何度も見たり、聴いたり、語ったりして、あなたなりにスキを表現していただけるとうれしいです。私たちはどこまでも皆さんを楽しませるために走り続けます。もちろん、自分たちも楽しみながら。
引き続き、すばらしいクリエイターの皆さんが表現する“ポケモン feat. 初音ミク”の世界や可能性の広がりに、お祭り感覚で参加いただけるとありがたいです。ポケモンたちと初音ミクさんたちといっしょに、まだまだいろいろなクリエイティブを、皆さんの期待と想像を超える形でお届けしていきます。引き続き、ボルテージを高めて、お楽しみください‼
週刊ファミ通2024年1月25日号(2024年1月11日発売)でポケミク特集を掲載!
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現在までにポケミクに参加している、ほぼすべてのイラストレーターさんやクリエイターさん約40名による、書き下ろしコメント・描き下ろしイラストコメントや、ボカロPさんによる楽曲の魅力を語るインタビュー、そして『ボルテッカー』を制作したDECO*27さん、『JUVENILE』を制作したじんさん、『ミライどんなだろう』を制作したMitchie Mさん&動画チームへのロングインタビューをお届けする。
完全保存版の1冊となっているので、ファンの方はぜひ手に入れてほしい。続報は1月にお届け予定。
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