中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】任天堂Switchの中国販売が決定。これからの可能性は?
2019-12-06 17:00:00
「いよいよ山が動いた!」任天堂Switchの中国販売のことである。テンセントは、上海にて12月4日、「国行Nintendo Switch産品上市発布会(中国国内版Nintendo Switch製品ローンチプレスカンファレンス)」を開催。当日からの予約開始と、同10日からの正式販売を発表した。価格は2099元。現在、PlayStation4 Slimが2050元弱であることを考えると、かなり戦略的な価格設定となっている。ちなみに、中国国内オンラインショッピングサイトで販売されている日本からの輸入版の価格は2199元だ。従って、そのような状況を踏まえても、このような価格帯に抑えられたということが想定できる。では、Nintendo Switchの国内展開はどの程度、勝算があるのか、中国におけるゲーム市場の状況から分析してみた。
中国ゲーム市場は完全復活。だが、家庭用ゲーム機向けソフトのシェアはいまだ0.3%
まず、ゲーム市場の全体像だが、2018年の行政改革にともなう新規ゲームの審査停止という状況から1年たち、市場は活気を取り戻しているということができる。新管轄下となった、国家新聞出版著(国家版権局)による許認可関連業務も、公式ホームページが継続的にアップデートされていることから、安定していると言えるだろう。そしてそれは市場規模の推移にも表れている。
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▲図1 |
図1にもあるとおり、GPC、IDC、CNGの発表によると、2019年における第1四半期から第3四半期までの市場規模は軒並みアップ。このままいくと、若干、円高が進んでいる状況にあっても年間市場規模3兆5000億円突破は現実的になっていると言える。
その一方で、家庭用ゲーム機向けソフトの市場規模は第3四半期において0.3%だ。これはパッケージPCゲームソフトの市場規模と同様で、金額に換算すると275.31億円だ。一見、極めて小さい市場のようにも見えるが、この規模が通年であると想定すると、ソフトの市場としては1000億円強ということになるので、決して事業として少ないというわけではない。これがプレイステーション4とXbox Oneが主に貢献して形成されていると言えばなおさらだろう。
「隋心切換一起趣玩」が示す中国ゲーム市場に存在するエア・ポケット
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▲China Joy 2019の目玉は間違いなくNintendo Switchの展示であった。 |
テンセントが国行版Nintendo Switchで、中国ゲーム市場においてこれまでノータッチだった層に照準を定めているのは明らかだ。これは同社が展開している国行版Nintendo Switchの映像広告や、キャッチコピー「隋心切換一起趣玩」からも確認することができる、このコピーは「意のままに切り替えて(スイッチ)して、一緒に楽しもう」という意味だ。映像においても、家族全員がiPadやスマホをいじっている状況を見ている妻が指を鳴らして、Nintendo Switchを取り出した瞬間、皆が喜々として遊び出すなど、そのキャッチコピーを明確に象徴するシーンを連続してつなぎ合わせている。個人をたのしくつなげるという役割に最大の付加価値が示しているのが分かる。このようなパーティゲーム的な役割を担ったゲームは確かに中国市場ではあまりない(強いて言えば、PCでプレイしたソーシャルゲームがそのような役割を果たした可能性がなかったとは言い切れないが)が、これらは欧米日といった家庭用ゲーム機が存在する市場では開拓されていなかがら、オンラインゲームやスマホゲームが主流の国々ではまだ、未開拓ということができるだろう。
そのような意味で、(もちろんコンテンツ展開の許諾には一定の時間を要するという中国独自の事情もあるが)、初期ローンチ作品は「マリオ」シリーズに絞り込む当戦略は妥当であると言える。さらにまずは『New スーパーマリオブラザーズ U デラックス』をローンチと同時に抑え、その後、『マリオカート8 デラックス』ならびに『スーパーマリオ オデッセイ』を展開するなど、古典的な2Dスクロール型アクションを展開してから、カジュアルレーシング、最新3Dアクションとしている点もコアゲーマーではなくゲームをカジュアルにしてきた、ファミリー層を意識しているということが考えられる。これも、いわゆるガチなゲーマーは既に海外版を入手しているということを前提とした戦略と見てとれる。
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▲現在、家庭用ゲーム機のシェアはわずか0.3%。新規ユーザー層の開拓は必須だ。 |
気になるのは、国行版Nintendo Switchのキラーコンテンツに容易になりうるSwitch版MOBA『王者栄耀』(日本国内ではスマホ版が『伝説対決』としてDeNAから展開されている。以下、『王者』)が全く出てこなかった点だ。というのも、『王者』のグローバル版である『Arena of Valor』は既にSwitch版のダウンロードが全世界で進められているからだ。レビューはMetacriticで79をスコアしており、上の下という評価だが、とりわけ、コントロールに対する評価が高いことから、いかにテンセントがSwitchのインターフェイスを研究し、同作をSwitch向けに最適化を図ってきたのかが分かる。図1のとおり、中国市場のeスポーツ関連は、対象ゲームそのものの売り上げも含め四半期で3500億円強レベル、年間で1兆5000億円に迫る勢いだが、その収益の多くが『王者』から来ている。このような中、Switch版が中国でも展開された場合、いかなる形での展開が行われるのか? 今後の同社による一挙手一投足に注目が集まる。