中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

  1. ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com>
  2. 企画・連載>
  3. 中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編>
  4. 【ブログ】『Stellar Blade』の高評価から読み解く、新規IPに仕掛けられたシリーズ化への処方箋

【ブログ】『Stellar Blade』の高評価から読み解く、新規IPに仕掛けられたシリーズ化への処方箋

2024-06-18 18:00:00

CAPTITLE

▲イヴの美麗なキャラクターによるナラティブ体験が展開される



 発売初日に購入した『Stellar Blade』)を1か月ほどでクリアした。最近は、シリーズものでもクリアまでプレイを続けることが難しい中、ここまで到達できたのは、結果的に筆者が本作の魅力をおおいに感じたからにほかならない。

 『Stellar Blade』は、韓国デベロッパーSHIFT UPによって開発され、ソニー・インタラクティブエンタテインメントがパブリッシングを担当している。日本国内においてSHIFT UPは、もともとスマホ向けガンアクションRPG『勝利の女神:NIKKE』(以下、『NIKKE』)で既に知られていたが、本作で初めてコンソール機に参入した。ネイティヴ(NA:tive)と呼ばれる不気味な生命体によって事実上支配された地球を追われ宇宙コロニーでの存続を余儀なくされた近未来の人類が地球奪還を図るストーリーで、その組織のひとつ、第7空挺部隊の主人公女性戦闘員、イヴが、地上に降り立ち、ネイティブのせん滅を目指すアクションRPGである。

 本作において最も注目すべきは、アクションゲームとしての完成度を徹底的に高めているという点だろう。「“戦闘美少女”を主人公に据える」「アクション性を前面に押し出すゲームデザイン」といった要素は、前述の『NIKKE』でのこだわりポイントを彷彿させるが、さそれをさらに「より華麗に」作り上げ、かつ「本格的なアクション」に仕立てるゲームデザインの作りこみも行われ、SHIFT UPがコンソール機にも十分対応しうる開発能力があることを示した。

爽快感の極致:韓国デベロッパーが挑む日本的スタイリッシュアクションの進化

 アクションシーケンス(アクションシーン)は、「Devil May Cry」シリーズや「DEAD OR ALIVE」シリーズなどを端緒に、「BAYONETTA (ベヨネッタ)」、シリーズ、「NINJA GAIDEN』(ニンジャガイデン)」シリーズといった数々のシリーズ作品群で発展してきた、スタイリッシュ3Dアクションの系譜を継承する、滑らかさと爽快感を感じられるものになっている。

 SHIFT UPの創業者であり同作のディレクターであるキム・ヒョンテ氏が、『Stellar Blade』にインスピレーションを与えたと認めた「Nier」シリーズも、スタイリッシュ3Dアクションの代表格。こうした作品群、シリーズの魅力を受け継ぐ『Stellar Blade』は、空中攻撃や、ステルスキル、ラッシュ、バースト、変身モード(タキモード)など多様な操作によるダイナミックなプレイが魅力と言える。また、ワンボタン連打といったいわゆる「ガチャプレイ」でも爽快なアクションをある程度楽しむことができ、様々なコンボを繰り出すことでさらに華麗なゲームプレイが可能となっている。とりわけ、「パリイ」から「カウンターアタック」の爽快感は秀逸だ。このメカニクスは、「Nier」シリーズ同様、『Stellar Blade』のインスピレーションの源泉と公認されている『SEKIRO』をはじめとしたフロムソフトウェアのタイトルを彷彿とさせる。

 このような緻密なアクションプレイの積み上げは、「スパイダーマン」シリーズや「STAR WARS ジェダイ」シリーズ、「バットマンアーカム」シリーズなどの海外タイトルにも見られるが、あくまでも「日本のお家芸」だと筆者は思っていた。だが本作は外国産ゲームとしてはそのどれよりも日本的スタイリッシュアクションを組み入れており、コアゲーマーや批評家から、「ボスファイト」「挑戦しがいのあるアクション性」「アクションの多様性」といった要素が高く評価されるに至っている。もちろん、本作に参画した多くのスタッフがMMOアクションゲーム『ブレイドアンドソウル』に携わっていたという事実も、ここまで優れたアクション体験を盛り込むのに大きく貢献していることだろう。

CAP002

▲日本的スタイリッシュアクションを踏襲し、爽快なプレイを楽しめる

キャラクターデザインと物語の深層:批判と称賛の狭間で

 その一方で、SNSで話題にのぼったのは男性プレイヤーに訴求する要素が高いイヴのキャラクターデザインが昨今の潮流に合致しないといった話題である。だが、このような美麗なキャラクターが採用されている理由も物語体験の根源と直結しており、ディレクターが表明したように「単にエンタメだから」というわけではない。本作が目指すナラティブ体験は、人類、ネイティブ、アンドロイド、さらにAIまでを巻き込んだ三つ巴ならぬ四つ巴の壮絶な歴史と戦いであり、ザイオン、アルテス・レボワやアビス・レボワなどの空間にある様々なアーティファクトやリギオン兵の記録から物語の断片をつなぎ合わせることで明らかになってくる。これは、フロムの宮崎英高氏がいうところの「環境ストーリーテリング」をしっかりと踏まえた展開になっている。そのため、オープンフィールドは限られているものの、数百年にも数千年に及ぶこの世界を実感できるつくりとなっている。

 また、「Nier」シリーズはもちろん、「攻殻機動隊」シリーズ、「ブレードランナー」シリーズ、「マトリックス」シリーズなど、サイバーパンクやSFジャンルのアニメ、ゲーム、実写映画のオマージュが多数散りばめられている。その一方で、アルファネイティヴなどのデザインは『グエムル-漢江の怪物』や『OKJA』といった韓国のファンタジー実写映画のモンスターデザインを手掛けたチャン・ヒチョルが担当しているなど、映画界からも著名クリエイターを引き入れている。結果的に、サイバーパンクからホラーまであらゆる要素がシームレスに統合された世界観が紡がれている。

『Stellar Blade』が描く未来の可能性:広がる物語のキャンパス

 このようにゲーム全体のボリュームや主要キャラクター数といった観点では、新規IPであるがゆえの限定的なものになってはいるものの、「環境ストーリーテリング」を実践したことで、今後の展開に様々な可能性を感じられる一作となった。欧米で広く受け入れられている、トランスメディアストーリーテリングの展開が容易に想像できる様々な物語要素に今後の期待感が持てる。まだ本作では探求されていない地域から宇宙空域といった空間軸の広がりのみならず、数百年から場合によっては数千年単位の時間軸まで何らかの物語展開が可能だろう。「Stellar Blade」ユニバースが示したキャンパスは広大で、そこに広がった様々な断片を今後、どのような形で拾っていくかで、IPとしての「Stellar Blade」のポテンシャルが開花されるか否かが決定づけられることだろう。

CAP003

▲イヴの髪型を自在に設定