こんにちは。ファミ通.comのPCオンラインゲーム担当ミス・ユースケです。『ラグナロクオンライン』(以下、RO)の15周年記念サイトにしっとりした文章を寄稿しました。とくに話題にはなりませんでした。
それはさておき、PC用オンラインRPG『RO』は2017年12月1日に正式サービス15周年を迎えた。めでたい。
15周年記念のイベントやキャンペーンも好評だったらしいが、少し引っかかるものがあった。
2017年11月28日発売の『RO』LINEスタンプにラインナップされていた「お兄ちゃんどいて!」と「しょうがないにゃあ・・」だ。
『RO』黎明期(=日本のMMORPG黎明期)に登場し、ネットスラング的に定着した言葉である。僕を含む多くの人が、それ公式がネタにするの? と驚いたことだろう。「しょうがないにゃあ・・」のほうはとくに。
(詳細は説明しにくいので各自で検索してみてください。なお、「しょうがないにゃあ・・」はお色気ネタなので、ご両親に聞くとお茶の間が気まずくなる可能性があります)
果たして、これはどういう場面で使うのが正解なのだろう。詳しい説明を求めて、スタンプを作ったガンホー・オンライン・エンターテイメントにお邪魔した。
冒頭の写真は話を聞く前に撮影。受け付けのお姉さんは怪訝な顔をしていた。
ちゃんと本部長に説明してハンコもらったので大丈夫
この「お兄ちゃんどいて!」スタンプはどういうときに使えばいいんですか?
お兄さんにどいてほしいときですかね。
お兄さんの後ろにいる魔女を警棒で攻撃したいときってあるじゃないですか。
その状況については各自で検索してもらうとして、では「しょうがないにゃあ・・」は?
何かお願いされて、相手がしたいことを察したとき、もったいぶって許可しようと思ったらこれですよ。よくありますよね、そういうの。
僕はいろいろなメーカーを取材するが、「そこはカットで・・・」みたいに頼まれることも少なくない。会社の事情もあるから、ある程度は仕方ない。
正直な話、お色気ネタの「しょうがないにゃあ・・」は話しにくいだろうと思っていた。だが、直接的な表現を避けてはいるものの、はぐらかすつもりはないらしい。
細かい話は後にして率直にお聞きします。どういう意図でネットスラング系のネタを入れたんですか?
ふつうに運営スタッフ内からもほしがる声が多かったんです。「しょうがないにゃあ・・」なんて、いろいろな場所でパロディー的に使われていますしね。
たしかに、ネット界隈ではちょくちょく見ます。その辺を鑑みて、(LINE側の)承認は通ると判断したということですか?
まぁ、そういうことですね。
デスノートの月の“計画通り”みたいな顔。言葉そのものに変な意味はないわけですしね。
『RO』がルーツの言葉なんだから、入れないのもおかしいかなと思ってました。OKとNGの線引きはけっこう調べましたよ。他社さんのスタンプでもネタ寄りのものって多いじゃないですか。
ネタと言うと……『銀河英雄伝説』スタンプのワロタとか? あれも誰かが作ったネタを公式が逆輸入したパターンってことなのかな。
あー、たしかにそうかもです。ネタでコミュニケーションが盛り上がるんだったら振り切ったほうがいい。
『RO』発信のネタは徹底的に取り入れたかったんですよね。当時はそれを楽しんでいた方も多いはずで。時間を超えてまた楽しんでもらいたかったので、だったら攻めるしかないだろう、と。
内部での反対票はゼロ票だったんじゃないですかね。こういうのも15年続けてきた歴史の一部。LINEスタンプはコミュニケーションで使うものですから、『RO』プレイヤーがニヤリとできないと魅力は半減ですよ。
文言にマイナスのイメージがあるのは理解しています。でも、清濁併せ持ってこその思い出。きれいなところだけ見せるのはよくないと思うんですよ。
何だかずるい気もしますしね。運営側にはいいも悪いも受け止める覚悟があった、と。
あとはまあ、こういう名言は『RO』を知らない人にも知られているわけなので、使わないのは損。
これ『RO』が元ネタだったのか、みたいな反応もあったみたいです。
まさに計画通り。販売物を作るわけですから、上長の承認とかが必要になりますよね。「しょうがないにゃあ・・」の元ネタを知ったら、なかなかハンコを押せないと思うんですけど。
そんなことないですよ。当時の『RO』の文化を体現しただけですから。「ああ、懐かしいなあ」と思うくらいですって。
これ以上は聞かないでください。
おい。
ちゃんとひとつひとつに使いかたはありますしね。本部長への説明方法も事前に練ってました。
「かにニッパはチョキの代わりになるんです。お孫さんともじゃんけんできますよ」とか。
説明がほのぼのし過ぎ。
イラストレーター・雄一郎氏のひらめき
40個のスタンプの中には、汎用的に使えるものもあれば、『RO』ファン以外には分からないものもありますよね。
ネタをスタッフみんなで考えたら、とてもじゃないけど40個じゃ収まらなかった。バランスに気を付けて取捨選択しました。
15年の歴史をうまいこと入れたくて。当時楽しんでいた言葉をなるべく残したかったんですよ。
懐かしいなと思ってもらえば、しばらく離れていた人も戻ってきてくれるかもしれませんし、スタンプネタで会話も盛り上がってほしいなあ、と。
いまは「AFK(Away From Keyboad:離席中という意味)」を『RO』で使う人は少ないんじゃないかな。
当時はゲームから出ると(サーバー混雑やトラブルで)入れなくなる恐怖があったから、ログアウトせずにチャットで「AFK」と表示させたまま席を外していました。こういう文化は絶対に押さえないと。
ドッフルギャンガフフフフフフフフも当時を意識したネタですね。ドッペルゲンガーの翻訳ミスがそのままモンスター名になった事件があったりして。
かにニッパも誤訳スタートです。カニのハサミとニッパー。“カニのはさみ”に直したらプレイヤーさんから「戻してくれ」と頼まれたから、かにニッパで通すことにしたみたいな一幕があったりするんですけど。
ドン勝の走りみたいな話だな。その言葉が正しいかどうかは問題じゃなくて、言葉そのものに愛着が生まれてる。
この「なむ」なんて細かいですよ。花を投げてますよね。『RO』には戦闘不能になった人に「なむ」と冥福を祈りながら花の形のアイテムを手向ける文化がありまして。
あー、たしかに昔はそういうのがあったし、『RO』は顕著だった気がします。
ちなみに、「絶対欲しい!」はネットではなく運営発です。
とあるラグ缶(ランダムでアイテムが手に入る課金系のシステム)の発売時に「絶対欲しい」という直球の煽り文句を使ったらいろいろな反応をいただきました。
そりゃそうだ。何でそういうスタンプ作っちゃうの。
自画自賛ですけど、LINEスタンプとしての使い勝手と『RO』っぽさをうまいこと両立できていると思うんですよ。
たとえば教皇様が描かれた「初めて…聞いた…」。クエストで会話するとき、プレイヤーがしてきたことをキーボードで入力するんですけど、何を書いても「初めて聞いた」と返してくる。
誤魔化すときに使いやすいですよ。
じつはこれ、イラストを描き起こしてくれた雄一郎さん(イラストレーター)のアイデアなんです。最初、教皇様のセリフは「ふーん」だったんですけどアドバイスをもらいました。
あと、ダイアログのやつにも雄一郎さんのこだわりが。よく見ると句点がつぎの行に送られてるんです。
「起きて!」も雄一郎さんのセンスですね。ゲーム内だと悲しいシーンなんですけど、すやすや寝てるイラストに。送られたほうは泣くと思います。
ネタのひとつひとつに背景があるので、作っていて楽しかったですね。
「しょうがないにゃあ・・」で描かれているのはハイウィザードというキャラなんですけど、『RO』歴が若い人はアークビショップじゃないの? って言うんです。このネタの再現画像をアークビショップで作った人がいて、それで知ったらしいんですね。
そう。真実の歴史はこちらです。ハイウィザードです。
地味に悩んだのが「お兄ちゃんどいて!」。元ネタのエピソードには3人の登場人物がいて、魔女と呼ばれていた人はアコライトなんですけど、この発言をした人の職業は不明なんです。
関連するWebサイトを読み漁って、雄一郎さんと話し合った結果、「アーチャーがいちばん違和感がないのでは」という結論に至りました。
推理までしてネタ出しを手伝う雄一郎さんって何者?
懐かしいと感じた人に「おかえり」と言いたい
(スタンプの)反響は大きかったですね。
LINEスタンプって販売開始ボタンを押してから実際に買えるようになるまで少し時間がかかるんです。前日のうちにこっそり公開して、翌日ニュースリリースを出せるように準備してたら、すぐに発見されました。
しかも、デイリー売上のランキングで上位になってしまったという。そこまで愛してくださって、本当にありがたいです。
ニコニコ大百科の検索ランキングでも上位になったり。昔からあるネタを入れて最近あまりログインしてない人を誘ってもらったり、懐かしさをコミュニケーションのきっかけにしてほしかったんですよね。
みなさんはもともと『RO』のプレイヤーじゃないですか。一般プレイヤーと同じ目線だから、躊躇なくネットスラング系のネタを放り込めるんだろうなと思います。
自分が入社する前から触れてきた言葉ですから。やっぱり懐かしさは感じます。
(ネットスラングネタを)やれてよかったという気持ちはありますね。
15年も続いているゲームなので、人によっては日常の一部なんですよ。もうね、ずっとあるのが当たり前。プレイヤーさんが懐かしいと思ったときに「おかえり」と言いたいんです。
久しぶりに会う実家のお父さんお母さんだ。
帰省して懐かしい風景を見ると落ち着くじゃないですか。『RO』もそういう記憶のひとつになっていたらうれしい。
懐かしいだけじゃなくて、新しい要素もあります。いつのまにか田舎の駅が自動改札になってたみたいな話ですけど。
『RO』をやってた人って家族みたいなんですよ。心の距離が近い。えっ、きみも『RO』やってたの? ワールド(サーバー)はどこだった? って、すぐに聞いちゃう。
あー、なるほど。じつは小学校が同じだった的な感覚にも近いかも。多感な時期に同じものを吸収して育った仲間なんですね、きっと。
名曲『RO』をLINEスタンプがカバーした
『RO』がスタートした15年前はインターネットにおける文明開化の時代だ。テレホーダイのブームが収束して、ISDNでの常時接続が一般的になって、ADSLの普及が急速に進んでいる頃。まさに江戸時代を生き抜いて明治時代が始まった瞬間である。
長澤さんは「そういうゲームだから勝手な使命感があります。当時のオンラインゲーム文化を大事にしたいし、未来に向けて残したい」と言っていた。その手段として、LINEスタンプという現代のド定番システムを選んだという。
名曲は時代を超えて歌い継がれる、みたいな話だ。若い世代に人気のアーティスト“LINEスタンプ”が、『RO』という名曲をカバーしたとでも言おうか。
ボケの説明をするみたいで取材は野暮かなとも思ったのだけど、最終的にはいい話に落ち着いて満足だ。
インパクトと懐かしさが共存するコンテンツを提供し、それをコミュニケーションのきっかけにしてもらう。ほんのひと言で済む話だが、言葉の奥には深い思いがあった。本部長がハンコを押したことを後悔していませんように。