アメリカ・サンフランシスコにて、2018年3月19日より開催中のゲーム開発者向けカンファレンス“GDC 2018”。会期3日目からは、550以上の企業が最新技術や商品を出展する“GDC EXPO”がスタートし、いよいよイベントは本番を迎える。

 そんな3日目のトップを飾ったのが、任天堂の『スプラトゥーン』シリーズにまつわるセッション“'Splatoon' and 'Splatoon 2': How to Invent a Stylish Franchise with Global Appeal”だ。登壇者は、『スプラトゥーン』シリーズのプロデューサーを務める野上恒氏。……なのだが、ステージに目を向けると、あ、あれ、そこにいるのはイカ研究員さん!?

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 「私は、人の姿に変身する不思議なイカを研究している、イカ研究所の研究員です」と挨拶を始めたイカ研究員さん。しかし、その後「このスタイルで長時間話すのは疲れますので、今日はふつうにやらせてもらいます」と、サングラスを外し……な、なんと、イカ研究員さんの正体は野上プロデューサーだったのかー(棒)。

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セッションの冒頭で紹介された、野上氏のプロフィール。野上氏は1994年に任天堂に入社し、在籍して24年。最初はスーパーファミコン用ソフト『ヨッシーアイランド』の開発にアーティスト(デザイナー)として参加し、その後、『どうぶつの森』シリーズの開発に、ディレクター兼リードアーティストとして10年以上携わる。現在は、『どうぶつの森』シリーズと『スプラトゥーン』シリーズのプロデューサー。

 今回のセッションでは、『スプラトゥーン』と『スプラトゥーン2』を、何を考えながらどのように制作したのかが、順を追って説明された。

 始まりは、2013年の初めのこと。既存のゲームにとらわれず、新しいゲームを作ることを目的として、10人のメンバーが集められたという。10人は、毎日のようにディスカッションを行い、半年のあいだに70個の企画を作り、数点の試作を行った。

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 そこで生まれたのが、『スプラトゥーン』のもととなるアイデア。平面的なマップで、直方体のキャラクターを操作し、白黒のインクを塗り合うというゲームだった(この直方体のキャラクターは“豆腐”と呼ばれていた)。この段階で、複数のWii Uを通信でつなぐチームバトル、相手を攻撃して倒すこともできる、塗った面積で勝敗が決まるなどの、『スプラトゥーン』の基本の遊びはできていたという。Wii U GamePadの画面を活かす要素や、インクの中に隠れるという要素も、このころから存在していた。

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“勝つためにインクを塗ると、相手に居場所を知られてしまう”というジレンマが、このゲームがおもしろくなりそうだと感じたポイントだった、と野上氏。
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 このプロトタイプをもとに、Wii Uの特徴であるジャイロ機能を使いつつ、遊びごたえのある表現や操作を作ろう……と、『スプラトゥーン』の骨格が作られていったという。なお、完成した『スプラトゥーン』はシューターとして分類されるものになったが、野上氏らは最初からシューターを作ろうとしていたわけではない(シューターの文法を使った部分もあるが)。任天堂らしいアクションゲームを作ること、新しい遊びの体験を作ることが第一にあって、結果的にこのようなゲームが生まれたのだと野上氏は述べた。

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豆腐からウサギ、そしてイカへ。インクリング誕生までの紆余曲折とは

 続くトピックは、“『スプラトゥーン』の独特のアートは、どのように生まれたか”。ゲームにおけるアートは、遊びに説得力を持たせ、遊びの魅力を増幅させるものであり、ゲームの機能や目的を体現していなくてはならない、と野上氏。

 『スプラトゥーン』を作るうえで、既存のIPを使うという選択肢もあったが、新しい遊びを体現するには、新しいキャラクターが必要だと感じたという。そこで生まれたのが、人型に変身するイカ、“インクリング”だ。

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なお、新しい遊びを作ろうという気風は、つねに任天堂の中にある。『ARMS』やNintendo Laboも、そういった気風から生まれたもの。『ゼルダの伝説』のような既存のIPであっても、その気持ちは忘れていない。

 主人公がイカということは、発表時にはかなり驚かれた。しかし、このインクリングが生まれたことには理由があり、そして紆余曲折があったという。

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 豆腐の後に作ったプロトタイプのキャラクターはウサギだった。毛の色が異なる種類のウサギがいて、チーム分けに適していると考えられたという(ウサギには、ナワバリ意識が強いという性質もあった)。また、インクはカラフルなものにしようと考えていたので、無彩色のウサギとのコントラストが映えるという狙いもあった。

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 しかし、社内からは、「なぜウサギがインクを塗るのか」、「なぜインクの中に潜れるのか?」という疑問の声が上がった。つまり、説得力に欠けていた、と野上氏。

 これは、ゲーム内容を練り切れておらず、見た目とゲーム性がかみ合っていないからと考えた開発チーム。そこで、ディレクターの阪口翼氏が、改めてプレイヤーの性能を整理した。すなわち、“インクの外にいるときは攻撃ができる”、“インクの中にいるときは、回復と素早い移動ができる”という性能だ。これらの性能を、ふたつの形態に切り分け、改めてキャラクターデザインが進められた。

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 当時のキャラクターデザインのアイデアは多数あり、その候補の中にイカもあったが、決定的な理由は見つからなかったという。だが、インクの中を移動することを“泳ぐ”と表現することで、イカを選ぶ強い理由が生まれたそうだ。

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 そして、ふたつのフォームの役割を明確にするために、インクの外の姿は人型に近づけることに。こうして、“人型に変身するイカ”というキャラクターが生まれ、また“ふたつのフォームを切り換えて戦う”という新たなゲームプレイの軸が生まれた。

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 ここで野上氏が公開したのは、E3 2014で『スプラトゥーン』がお披露目されたときのトレーラー。天野裕介ディレクターが編集した80秒の映像で、『スプラトゥーン』のゲーム性、アート、サウンドがすべて詰め込まれている。

 この独特の世界は、最初からすべて計算で作られたわけではない、と野上氏は解説する。ディレクターやアートディレクターが定めたのは、“主人公はイカ”、“現実とは異なる、ちょっとヘンな世界”という大枠のみで、そこから先は、個々のスタッフが「この世界には、こんなものが似合いそう」とアイデアを出しながら、世界を作り上げていった。ブキのデザイン、イカのファッション、街中のグラフィティなどがそれにあたる。

 音楽については、「この世界の若者のあいだで流行っていて、バトル中に流している音楽」という設定を、サウンドチームが考えた。そして架空のバンドを考え、バンドごとに音楽性を変えて作曲していったそうだ。

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 このように、ゲームの内容には直接関係しないことまで考えることが、『スプラトゥーン』の世界に説得力を持たせることにつながった、と野上氏。例えるならば、“大きな器を最初に作って、その後、みんなでボールを放り込んで、コンテンツを膨らませる”という手法が採用されたわけだが、これは任天堂の中では特別なことではなく、任天堂がいろいろなプロジェクトで実施してきた方法論のひとつとのこと。

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