世界中のゲームファンの心を揺さぶるインタラクティブなアドベンチャー作品を生み出してきたフランスのスタジオQuantic Dream。最新作となる『Detroit: Become Human』(以下、『デトロイト』)の発売を記念して、ファミ通でQuantic Dream特集記事を連続掲載してきた。最終回となる今回は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)のローカライズチームへのインタビューをお届けする。
谷口新菜氏(たにぐち にいな)
SIEのローカライズスペシャリスト。Quantic Dream作品を始め、『アンチャーテッド』シリーズなど数々のローカライズを手掛ける。
石立大介氏(いしだて だいすけ)
『アンチャーテッド』シリーズや、『The Last of Us(ラスト・オブ・アス)』などのローカライズを担当。『デトロイト』では、日本語版のプロデューサーを務める。
ローカライズ体制を変えて、より効率的に
――Quantic Dream作品のローカライズ作業をふたりで分担されるようになったのは『デトロイト』からだとうかがいましたが、作業も進めやすくなったのでしょうか?
石立 まあ、谷口にとってはそうですね(笑)。
谷口 ちょっと!(笑) 確かに、これまでは『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』(以下、『ヘビーレイン』)以降のQuantic Dream作品は、すべて私がひとりでローカライズを担当していたので、今回、石立が入ってくれたことで作業が進めやすくなったことには間違いないですけどね。作業効率が上がったので、品質向上にエネルギーを割けるようになりましたし。
――ひとりだと、とてもたいへんそうな……。
谷口 すごくたいへんでしたよ(笑)。ただ、AAAタイトル(多大な開発費が投じられ、莫大な規模で制作されるタイトル)のローカライズ作業のボリュームが大きくなってきたのは、ここ2、3年なので、当時はひとりでも大丈夫だったんですよ。でも、だんだんとひとりですべてを担当するのは、物量的に難しくなってきて……。
石立 今回は世界同時でのリリースですし、スケジュールもタイトだったので、ローカライズもプロデューサーと翻訳で仕事を分担しました。
――ゲームの制作規模の拡大に合わせて、ローカライズの体制も変えたわけですね。
石立 それでも『デトロイト』はけっこうハードな体制だと思います。弊社がここ数年でリリースしているAAAタイトルは、3~4人体制でローカライズしているのですが、今回は私たちふたりだけで担当しているうえに、台本はすべて谷口がゼロから書き起こしているので。
――そうなんですか! 『デトロイト』はストーリーの分岐も多いですから、翻訳の作業もかなりのボリュームだったかと思います。ひとりで担当されたのはなぜですか?
谷口 翻訳をほかの人に頼むと、私がその翻訳に引っ張られて訳してしまうことがあるからです。Quantic Dream作品の台本はこれまでも私がひとりで担当してきましたし、Quantic Dream作品では言葉のひとつひとつが重要なので、自分の言葉で書きたいと思ったんです。
石立 Quantic Dream作品はドラマを描いてプレイヤーの感情を引っ張っていく作品なので、そのドラマを完全に表現できなければならないんです。だから、ふたりという少人数の手工業的な体制で、ブレを極力減らしました。