インディーゲームはバズったもの勝ち!?  “メディアが語るインディーゲームPR術 「つくって半分、知ってもらって半分」”リポート【CEDEC 2018】_01

 2018年8月22日~24日の3日間、神奈川県・パシフィコ横浜にて開催されたCEDEC 2018。最終日には、個人や小規模チームでゲームを開発・販売するデベロッパーを対象にしたセッション“メディアが語るインディーゲームPR術 「つくって半分、知ってもらって半分」”が行われた。

 ゲーム系メディアが何を目指して記事を書いているのか、そしてどうすれば自前のコンテンツがメディアに取り上げられやすくなるかといった情報が共有された本セッション。VR専門ウェブメディア「PANORA」編集長・広田稔氏をはじめとする、代表的なゲーム系ウェブメディアの中心人物が、それぞれの経験則に基づいた“プロモーションの秘訣”を語った。

 会場は立ち見が出るほどの大盛況。この問題に対する注目度・関心度の高さがうかがえた。

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本セッションの発案者である広田氏は、2014年よりVRエヴァンジェリストとして活動。近年ではバーチャルYouTuberムーブメントの躍進に貢献するなど、さまざまな規模のクリエイターとの接点が多い。
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左より電ファミニコゲーマー編集長の平信一氏、ねとらぼ副編集長の池谷勇人氏、ゲームキャストのライター兼編集長の寺島壽久氏。

広田氏ライトニングトーク

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まずは広田氏が、メディアやプレスリリースに関する基礎的な情報を説明。プレスリリースを作成し公開することは、情報問い合わせの個別対応の手間を省けるとともに、自身のクリエイティブ・キャリアのマイルストンにもなる……と、その必要性を強調した。
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プレスリリースの重要性とともに、それを基にした紹介記事をメディアにいかにして書いてもらうか、といった部分への言及も。メディア側の人間と接点を持ち知り合いになっておく……というハックも紹介された。

各メディアの“記事がバズった事例”紹介

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インディーゲームの文脈にとらわれず幅広いゲーム情報を深く掘り下げる記事が特徴の“電ファミニコゲーマー”の平氏によれば、対談者の座組で勝つ企画や、独自ルートで入手した希少性の高いトピックを取り上げることで、注目度を集めてきたとのこと。
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ゲームに限らず、ネット上ですでにバズっているあらゆる話題を取り上げ、その真相に迫ったり、新たな角度からの見方を提示する“ねとらぼ”。池谷氏は、プレスリリースの価値について「(Twitter上で)バズったゲームの基本情報を参照する際に必要」とコメント。また「コンセプトが明確で、1行でゲーム内容が説明できるゲームのほど記事にしやすく読者の目にも止まりやすい」と、過去の記事を例にして説明した。
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インディー系のスマートフォンアプリ情報を中心に扱う個人ブログ“ゲームキャスト”の寺島氏は、メディアに送りつけたプレスリリースが全文そのままで掲載されたり、SNS上で一時的にバズっただけではプレスリリース成功とはいえない……と指摘。リリースを見て興味を持った人を深みに誘う仕掛けとしての“公式サイトの事前作成”の重要性を唱えた。
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資料のみの特別参加として、ファミ通.com随一のインディーゲーム・インフルエンサー、ミル☆吉村が、編集者・ライター視点からのインディーゲームプロモーションのアドバイスを。また、オンラインプレスキットやトレーラーの作り方に関する有益な情報も共有した。

パネルディスカッション・質疑応答

 「インディーゲームのプロモーションの好例は?」とのテーマに対して、池谷氏、平氏が『どうぶつタワーバトル』を挙げた。池谷氏は、同作のビジュアル面でのネタ度が高いゲーム性に加え、1プレイ遊んだ後にTwitterにスクリーンショットを投稿できる機能が実装されていたことから、ユーザー投稿の体で自然にプロモーションできる点を評価した。実際には、対戦機能を加えたタイミングで、他のメジャータイトルのコミュニティに引っかかったなどの外的要因あっての爆発的ヒット……との側面もあったが、「ゲーム自体が良かった」(池谷氏)ことが、幸いしたようだ。
 寺島氏は『Strange Telephone』の作者・yuta氏が自分のtwitterでファンを集めて独自のコミュニティを作っていったことを高評価。「インディーデベロッパーにとってはメディアも広報の一部。最終的には自分自身でファンを抱えて、そのファンに広めてもらうこと」(寺島氏)が最大のプロモーションになると指摘した。

 「メディアとの良好な関係を築くには?」とのテーマでは、池谷氏は「開発者はtwitterで進捗情報をあげることが第一。目につくスクリーンショットも併せて投稿されていると追いかけやすいです」と、情報をTwitter経由で収集するメディアとしての見解を示した。寺島氏も、Twitterでの情報発信を前提としつつ「記事の感想を(Twitterに)書いてくれるとうれしいですね」と、ライターとしての素直な心境を明かした。
 平氏は「媒体に載ること自体はそこまで意味がない。要は誰が(自分のゲームを)おもしろがってくれるかがキー」とし、それがメディア側の人間だとしても、“この人”という個人とつながりを持つことの重要性を訴えた。そこをどうするかについては「基本的なコミュニケーションの話」とし、やはりTwitter経由でのやりとりや、コミュニティーの飲み会に積極的に参加するなどの活動が実を結ぶのでは、とした。

 パネルディスカッション終了後の来場者質問で寄せられた「Twitterでバズりにくいコアゲーミングを指向するデベロッパーはネットをどのように活用すればいいか」との問いに対し、寺島氏は「コアなゲーマーを擁しているコミュニティーにアクセスするのがよいです」と回答。手前味噌ながら……とゲームキャストや4Gamerなど媒体のライターに相談することを薦めた。
 池谷氏は「コアゲーミングは大喜利的なゲームに比べるとたしかに不利(ネットでバズりにくい)です」と認めた上で、それでもコンセプトさえはっきりしていればバズる要素は十分にあると、『Frostpunk』の例を交えながら補足した。

本セッションの資料スライドは公開されている。興味のある方は確認してみるとよいだろう。

【セッションスライド】

セッションを聴いて……

 本セッションは、インディーゲームの記事を扱う記者のひとりとしても興味深い内容だった。インディーデベロッパーが商業的成功を収める前提条件として、登壇者の意見が“Twitterを介したコミュニケーション”で一致していたことや、プレスリリースが(編集部の流れ作業の一環として)メディアで記事化されることに大した価値がないことをメディア側の人間が自認していることは、参加者によっては驚くべき知見だったに違いない。

 事実、ファミ通.comや週刊ファミ通誌でインディーゲームの記事を担当している記者も、ゲームを掲載させてもらうデベロッパーにたいして「(記事を掲載することが)本当に役に立っているのでしょうか?」と尋ねてしまうことがある。この一連のやりとりは“ただ単におもしろそうだと思ったゲームを紹介したい”というメディア側のエゴを押し通しているだけではないか……という自責の念からだ。

 ストリーマー、インディーパブリッシャー、ローカライザー、一般ゲーマーや「メディアも含めて誰もセールス保証はしない」(ミル☆吉村)状況下で、プロモーションに多くの費用や労力を割けないデベロッパーたちは、自分たちのゲームをどうやって多くの人に知ってもらい、それを商業的成功につなげていくか? この命題に関しては、今後もさまざまな業種・立場の人々の証言や意見をヒアリングしていく必要があると強く感じた。