2018年9月11日、『ダンガンロンパ』シリーズで知られる小高和剛氏や、『ZERO ESCAPE』シリーズの打越鋼太郎氏などによる、新たなゲーム制作会社“Too Kyo Games(トゥーキョーゲームス)”の設立が発表された。設立メンバーには、名作アドベンチャーを中心に、数々のタイトルを世に送り出してきたゲームクリエイター7名が集結。
そのメンバーもさることながら、すでに4つもの新プロジェクトが進行中ということで、大きな驚きを与える発表となっている。彼らが新会社を立ち上げ、目指すものとは? 設立の中心メンバーである小高和剛氏、高田雅史氏、打越鋼太郎氏の3名に、設立の経緯から今後のビジョンまで、新会社についてうかがった。
打越鋼太郎氏(うちこし こうたろう)
ディレクター / シナリオライター。『Ever17』や『ZERO ESCAPE』(『極限脱出』)シリーズなど、数々のアドベンチャーゲームのディレクター、シナリオライターを担当。現在は『AI:ソムニウム ファイル』などの新プロジェクトの制作にも携わっている。
小高和剛氏(こだか かずたか)
ディレクター / シナリオライター。『ダンガンロンパ』シリーズの生みの親として、企画・シナリオを中心に、作中のトリックなどあらゆる部分を手掛けた。ゲームのみならず、小説やマンガの原作、テレビアニメの監修など、多岐にわたって活躍している。
高田雅史氏(たかだ まさふみ)
コンポーザー / アレンジャー。ヒューマンやグラスホッパー・マニファクチュアに在籍後、独立。ゲームのほか、アニメなど多彩な作品に楽曲を手掛ける。代表作は『ダンガンロンパ』シリーズや、『夢王国と眠れる100人の王子様』などがある。
日本ならではのクレイジーなゲームを東京から世界へ
――いろいろと驚きの情報が盛りだくさんですが、会社設立の経緯から教えてください。
小高 テレビアニメの『ダンガンロンパ3』とゲームの『ニューダンガンロンパV3』が終わったときに、つぎに何をやろうかと考え始めたんです。そこで打越といろいろと話す中で、「新しいことをするためには、新たな会社が必要だ」と思って、自分から会社の設立を切り出しました。
――新しいことというのは?
小高 トゥーキョーゲームスとしてやりたいことはふたつあって。ひとつがワールドワイドで通用する新規IP(知的財産)の制作、もうひとつが自分たちでインディーゲームを作るということ。もともと、小松崎(類氏。『ダンガンロンパ』シリーズのキャラクターデザインを担当)とも同じ話をしていたので、ほとんど面識がなかった打越と小松崎を引き合わせて、それでいっしょに会社を作ろう、という話になったんです。
高田 当時、小高たち3人の飲み会に僕も呼ばれたとき、会社を作ろうという雰囲気があったので、独立するんだなと思っていました。でも、みんなの話を聞いていると、何かをやりたいという熱量だけで、会社の運営などの具体的な話がなかったので、「これは2、3年経っても何もできなそうだな……」と感じて(苦笑)。
――部活動のような雰囲気ですね(笑)。
小高 まさにその通りで、実際に設立した後も、ビジネスというよりも部活動感覚なんですよ(笑)。それで、高田を頼って。
高田 僕は自分で会社を作っていましたし、いろいろな会社の立ち上げに関わったりと、会社に関するノウハウを持っていたので、とりあえず僕が会社を立ち上げて。ですから、じつは会社を設立したのは1年ほど前で、その会社にみんなが後から合流してくるという流れだったんです。
――そのほかのメンバーは、どのように加わったのでしょうか?
小高 4人が固まった後に、新規IPを作るため、そして、複数のプロジェクトを同時に進行させるために必要なメンバーを集めようと考えて、信頼できる人たちに声をかけました。小泉(小泉陽一朗氏。小説の執筆や、マンガのシナリオを担当)は『ダンガンロンパ』でいっしょにやっていましたし、中澤(中澤工氏。『infinity』シリーズのディレクターを務める)は『Ever17』などで打越と長年組んできた実績があって、しまどりる(イラストレーター。小松崎氏とともに『ダンガンロンパ』シリーズのイラストや『Fate Grand Order』などを手掛ける)も『絶対絶望少女』から小松崎といっしょにやってきましたので。そのほかにも、いつも高田を手伝ってくださっている福田さん(福田淳氏。かつてグラスホッパー・マニファクチュアに在籍し、以降も高田氏とともにゲームサウンドを手掛ける)を巻き込んだりして、社員は7人ですが、外部の人も含めると10人くらいになります。
――それにしても、先鋭揃いのメンバーですね。
小高 最初に、打越と「会社を作ろう」と話していたときは、シナリオ執筆を請け負う会社という考えかたもあったんですが、僕はシナリオ執筆だけを続けていくのは嫌でしたし、そもそも依頼を受けて書くのがあまり好きではなかったので、それほど熱意が湧かなかったんですね。でも、会社を設立するという話に小松崎が乗ってくれて、「このメンバーなら、シナリオ以外にもいろいろできるな」となって。これだけのメンバーが集まったのに、挑戦しないのはもったいないと思ったんです。
――そして設立されたトゥーキョーゲームスですが、社名はどのように決まったのでしょうか?
打越 社名についてはみんなでいろいろな案を出し合って考えましたが、トゥーキョーゲームスは小高の案ですね。小高がフランスに行ったときに、外国の方に「この名前どうかな?」と聞いたら「それ、超イイね」と言われたので採用になりました(笑)。
小高 そのひとりの意見で決まった(笑)。
高田 でも、その前から私たちも小高の案に納得していたので、ほぼ決定した状況でした。
――なぜ、トゥーキョーゲームスという社名にしようと考えたのでしょうか?
小高 東京から日本らしいゲームを発信して世界と戦うという意味を込めています。Kyoはクレイジーの“狂”で、“クレイジーすぎる”という意味で“Too”にして。あと、いまはアニメのプロジェクトなども進めていますが、何をメインとしている会社なのか伝えるためにも、“Games”を入れました。ちなみに、よく「トーキョー」と読み間違われるのですが、正しくは“トゥーキョーゲームス”です(笑)。
打越 オシャレな名前も考えたんですが、記憶に残りづらくて。ひと味違うメンバーが集まっていることもアピールしたかったし、インパクトがあって覚えやすい名前にしたかったんです。
高田 でも、よく間違えられるよね(笑)。
小高 字面だけならすごく覚えやすいと思うんですけどね。読み間違えられるのは構わないんですが、略すと“TKG”で卵かけご飯と同じになってしまうのが唯一の心残りです(笑)。
設立発表時からすでに過密なスケジュール
――高田さんが会社を設立されたとのことでしたが、いまの代表はどなたなのでしょうか。
高田 設立時は私が代表だったんですけど、いまは小高が代表です。
小高 代表と言っても、トゥーキョーゲームスは合同会社なので、会社としての決定は僕と高田、打越、小松崎の4人で相談します。
打越 だから、最初は押し付け合いみたいになって、僕が代表になりかけた時期もあります(笑)。でも、お互いに代表という感じではなかったので、誰か代表をやってくれる人を探そうとしていたこともあったのですが、けっきょく小高が引き受けることになりました。
小高 さっき言ったように部活動のような感覚なので、それこそ“キャプテンを決める”程度のことだったんですよ。ただ、IPを新しく作るときは、クリエイターが代表だったほうがいいだろうなとも考えていました。お金のことでモメたり、会社を大きくしようとするあまり目的を見失ってしまうのはやめよう、という意思の統一はできていたので、そういう意味でも、誰が代表になっても同じでした。
――今後、外の会社からの依頼を受けたりすることはありますか?
小高 やっぱりIPを作るということを重要視しているので、基本的にはオリジナルでしかやりたくないですね。メンバーの個々としては、どうしてもやりたい仕事だったら受けてもオーケーという感じです。ただ、僕はいまのところ、シナリオ単品の仕事などを受けるつもりはありません。
――メンバーの方が、フリーランスのような立場で外部の仕事を受けることはあるかもしれないというイメージですね。
小高 そうですね。ただ、当然ながらトゥーキョーゲームスの作業を最優先にしてもらいますし、いまは各々が担当しているプロジェクトのスケジュール的に、誰もほかの仕事は受けられないと思います(苦笑)。
――会社設立発表のタイミングで、すでに4つのプロジェクトが進行しているというのはかなり驚いたのですが、各プロジェクトについてお聞きできますか?
小高 はい。まずひとつ目が、トゥーキョーゲームスのメンバー全員が携わっているゲームですね。僕と打越が共同でシナリオを担当しています。
――トゥーキョーゲームスのメンバーが揃い踏みとは豪華ですね。小高さんと打越さんが共同でシナリオを執筆されるときはどのような感じで作業を分担されるのですか?
小高 いまやっている作業だと、僕が書いたプロットをもとに、打越が作品の世界を広げていく、という感じです。
打越 すごくダメ出しされるんですよ(笑)。小高が考えている世界観に合わせて僕がいろいろと案を出して、相談しながら物語を磨き上げています。
――どんなシナリオになるのか気になりますね。
小高 このプロジェクトは、まだまだ言えることが少ないので、続報をお待ちください。ふたつ目のプロジェクトはstudioぴえろさんとのアニメ企画で、僕が原作で小松崎がキャラクターデザインという立場で関わっています。テレビアニメ『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』などの田口智久さんが監督で、シナリオではテレビアニメ『ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園-』でお世話になった海法紀光さんにも協力していただいています。
――こちらも豪華な布陣ですね。アニメのみでの展開ですか?
小高 先の展開はまだわかりませんが、現状はそう考えています。プロデューサーが『おそ松さん』などを担当した富永禎彦さんで、彼は僕の大学の同期なんですね。彼といっしょに、売れるかどうかは考えずに作りたいものを作っていて、内容は『パルプフィクション』や『レオン』などの、1990年代のクライムアクション映画っぽいものになっています。
――3つ目の作品についても教えてください。
小高 3つ目は、海外のファンドから投資を受けて設立されたイザナギゲームズという会社とともに、プロジェクト自体にも同じく海外からの投資を受けて制作しているゲームです。内容は、小学生たちがデスゲームをくり広げるというもので、竹さん(イラストレーター。『戯言』シリーズの挿絵などを手掛ける)にキャラクターデザインを担当していただいています。
――小学生のデスゲームは衝撃ですね……。トゥーキョーゲームの皆さんはどのような立場で関わっているのですか?
小高 開発会社は別にお願いしていて、僕は総監督で、打越がシナリオ、中澤がディレクターとして関わっています。
――ちなみに、ジャンルは何でしょうか?
小高 アドベンチャー要素の強いアクションです。『グーニーズ』や『IT』を見て、小学生どうしのやり取りっていいなと感じて、小学生たちをじっくりを描きたくなったんです。
スパイク・チュンソフトと共同で制作している作品も
――残りのひとつのプロジェクトについても教えてください。
小高 4つ目はスパイク・チュンソフトと共同で、新たなアドベンチャーゲームを作ろうとしています。辞めたとは言っても円満退職で、関係が切れたわけではありませんから。この企画は、僕がスパイク・チュンソフトを辞める前に考えていたもので、小松崎がキャラクターデザイン、しまどりるが背景デザイン、高田がサウンドを担当する予定です。
――スパイク・チュンソフトとそのメンバーということは、『ダンガンロンパ』の後継的な作品になるのしょうか?
小高 いえ、デザイン的には『ダンガンロンパ』とはまったく違います。イメージとしては、ティム・バートンのようなダークファンタジーっぽい世界観の推理ものをやりたいと思っています。『ニューダンガンロンパV3』でトリックを考えてくださった北山(北山猛邦氏)さんも、制作に参加してもらっていますよ。
――まったく新規のタイトルということですね、続報が楽しみです。とはいえ、ファンとしては『ダンガンロンパ』が今後どうなるのかということも気になると思うのですが。
小高 ひと区切りはつきましたが、僕の人生を懸けた大事な作品でもあるので、逃げ道としては使うことはありません。いまやっていることを成功させたうえで、ファンの皆さんに喜んでいただける形で、あえて『ダンガンロンパ』という古巣に戻るのはアリかなと思っています。
高田 私にとっても『ダンガンロンパ』はいろいろなことのスタート地点だったと思うので、機会があればぜひ作りたいですね。
――スパイク・チュンソフトと言えば、打越さんがディレクター兼シナリオライターを務める『AI: ソムニウム ファイル』が7月に発表されましたが、こちらはトゥーキョーゲームスの作業とは別に進んでいるのでしょうか?
打越 そうですね。スパイク・チュンソフトを退社する前から動いているプロジェクトなので、そのまま継続して担当していきます。
――会社設立のタイミングでの発表にしては、4本のプロジェクトはかなり多いですよね。
小高 ふつうは、会社の設立を発表して新しい仕事を募集するタイミングだと思うんですが、いまはどんなにおいしい話があっても受けられないくらい忙しい状態です。会社設立の発表会をする意味もわからないくらいで(苦笑)。でも、会社の設立自体は1年前くらいで、早く発表しないと、“詳しいことは言えないけど、じつはスパイク・チュンソフトにいない”というあやふやな立場になってしまったり、先に情報が漏れてしまって、スパイク・チュンソフトと険悪なんじゃないかと誤った情報が先行してしまう危険性があったので、ようやく発表できてよかったです。
――なるほど。4つのプロジェクトの作業が終わった後の展開は何か考えていますか?
打越 小高が冒頭に言っていましたが、トゥーキョーゲームスのメンバー7人が中心となって、インディーゲームを作りたいですね。
−−皆さんで作るインディーゲームでは、トゥーキョーゲームスがパブリッシャーになるのでしょうか?
高田 いまはsteamなどもあって、パブリッシャーとデベロッパーの垣根が曖昧になっていますよね。ですから、まずは作ることがいちばんで、その先の展開として、コミケなどで手売りをするのもおもしろいかな、と考えたりもしています。
小高 トゥーキョーゲームス全員で作るインディーゲームは、ちょっと道楽的なところがあって、みんなで挑戦をする一発勝負という気持ちもあります。どこまでできるかわかりませんが、でも、やってみないと始まりませんから、とにかくやってみようと。ただ、まずは4本のプロジェクトで僕たちを支えてくれている人たちを幸せにしつつ、ユーザーさんを幸せにした先に、大きな目標としてのインディーゲームがあるというイメージですね。
――今回発表した4本とは別ということですね。
打越 時期としては現在抱えている作業が終わった後の展開になりますが、そんなに先にはならない予定です。
小高 ゲーム内容としてはシナリオが中心で、制作期間は1年くらいで終われるようなものという構想を練っています。
――本当に盛りだくさんですね。
小高 『ダンガンロンパ3』と『ニューダンガンロンパV3』を並行して作っていたときは、本当にたいへんだったんですが、あそこで感覚がおかしくなったんでしょうね。自分としては、チャレンジしないと燃えない性分なので、これからも世界に向かって自分たちがやりたいことに挑戦していきたいと思います。