『ガンダムNT』パッケージ版……出るぞ!
昨年公開された映画『機動戦士ガンダムNT』は、オリジナルビデオアニメ『機動戦士ガンダムUC』の1年後のエピソードが描かれた作品として大いに話題をさらった。すなわちそれは、ファーストガンダムの歴史の延長線上にある映画版での“宇宙世紀モノ”だったからだ。映画として新たに宇宙世紀が描かれるのは『機動戦士ガンダムF91』以来、約27年ぶりとなる。
本作は、“NT”というタイトルが想起させる通り、『ガンダム』の世界とは切っても切り離せない“ニュータイプ”という概念を、脚本を担当する福井晴敏氏が再定義し、吉沢俊一監督が映像化した作品でもある。今回は本作のパッケージ版発売を機に、インタビューを実施。福井氏と吉沢氏に『ガンダムNT』ができるまでの経緯、福井氏のニュータイプ論、キャラクターに隠されたコンセプト、ぜひ観てほしいオススメのシーンなど、多岐にわたるテーマについて語っていただいた。
「パッケージ版」とは!?
『機動戦士ガンダムNT』をBlu-ray&DVDパッケージ化するにあたり、映画からさらに手を加えて、大幅にグレードアップ。映画に携わったオリジナルスタッフが再び集結し、とくに作画と撮影処理は各担当スタッフの情熱がより注がれ、さらにクオリティーがアップしている。
福井 晴敏(ふくい はるとし)
『亡国のイージス』、『終戦のローレライ』などのヒット作を手掛けた小説家。同氏が月刊誌『ガンダムエース』で執筆した小説『機動戦士ガンダムUC』は後に映像化されることに。直接的な続編とも言える本作でも脚本を担当している。
吉沢 俊一(よしざわ としかず)
『ガンダム』を生み出した富野由悠季氏のもとで数々の映像作品に携わったアニメ監督。『ガンダム Gのレコンギスタ』や『機動戦士ガンダム サンダーボルト』では演出や絵コンテを担当。本作が自身初の映画監督作品となる。
これまで明文化されていなかったものを明文化したのが『ガンダムNT』
――映画の手応えはいかがでしたか?
福井思っていたよりは、お客さんに怒られなかったですね(笑)。
――あはははは(笑)。
吉沢僕は公開後に、あまり『ガンダム』好きでない友だちから連絡が来て、「よかったよ」と言われたのが印象的でした。『ガンダム』を知らない人でも楽しめたんだな、と。
――個人的な感想なのですが、不思議な力がたくさん出てきて……既存のシリーズ作よりもファンタジーテイストが強いような印象を受けました。
福井冷静に考えれば、いままでの作品にもオバケは出ているんですけどね?(笑)。
――確かにそうなんですが(笑)。
福井そういう意味では、『ガンダムNT』というのは、“なぜ『ガンダム』作品にオバケが出てくるのか”を科学的に説明した作品なんです。『逆襲のシャア』でアクシズの地球落下を防いだのは“サイコフレーム”、『Zガンダム』に出てくるオバケは“バイオセンサー”というパーツが起こした現象だ、ということですね。みんな薄々気がついていたことを、あえて今回明文化したというところはあります。
――なるほど。確かに、『Zガンダム』のシーンも劇中に挿入され、そういう意図も見え隠れしていましたね。
福井もちろん、「あえて明文化しなかったものを明文化するのはヤボなんじゃないか」という意見があることも承知です。しかし、一方でニュータイプというものがスペック論的な方向に行きすぎている気がしていて。どうしてもゲームなどでは「ニュータイプ値がいくつあるからこのキャラクターが最強!」みたいになりがちじゃないですか。
――そういう一面はあると思います。
福井これまで劇中では、「人工的なニュータイプである強化人間を作るなんて、人道的にいけないことだ」ということを語ってきたのに、強化人間もそういうスペックでまとめて語られることが多くなってきていて。そこでいま「ニュータイプっていうのは、そういうものではないんだよ」ということを作品として言っておかないといけないな、と思ったんです。だからこそ、明文化することにしました。
――確かにゲームで『ガンダム』を知る世代も増えてきましたからね。
福井そういう世代に「ニュータイプってこんなものでしょ」っていう感じで捉えられるのが嫌だったんです。
――そうですね。ニュータイプというものは本作でしっかり描かれていました。また、サイコフレームも『ガンダムUC』に引き続き、キーアイテムになっていましたね。
福井核兵器並みの恐ろしいものですよ。何しろ、アクシズという巨大な隕石を押し返すほどのパワーを持っていますから。
――でも、以降の作品である『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』や『機動戦士ガンダムF91』には出てきませんよね?
福井そう、不気味なほどなくなっているんです。きっと何かが起こるんですよ。
――そのあたりの構想もすでに考えられているのでしょうか?
福井『ガンダムNT』の話では終わった感じがしないでしょう?(笑) 山ほど宿題が残ったままなので、これから決着を付けなければならないなと思っています。
――期待しています! さて、今回の『ガンダムNT』は、ガンダムシリーズの映画としては『劇場版 機動戦士ガンダム00』以来、宇宙世紀モノとして考えれば『ガンダムF91』からおよそ27年ぶりの完全新作の映画化だったわけですが、企画が動き出すまでの流れについて教えていただけますか。
福井ユニコーンガンダムの立像が立ったころ(2017年9月)、「『ガンダムUC』関連の短編映像作品を作れればいいね」という話が持ち上がったことが原点ですね。でも、俺としては外伝的なアニメを作るよりも、『ガンダムUC』の続編という位置付けの作品を作りたかったんですよ。その折衷案のような形で出てきたのが、すでに世に出ていた小説『不死鳥狩り』をベースにしつつも、そこに大量の新要素を盛り込んで映像化することだったんです。
吉沢その少し前に「『不死鳥狩り』を映像化するかも?」という話はうかがっていて。「これをアニメにするなら」とイメージを膨らませていたんですが……。
福井書き直して、ぜんぜん違う形になっていたという(笑)。
吉沢いやあ、驚きましたね(笑)。とにかく情報量が多かったので、「これを2時間に満たない尺に詰め込むにはどうすればいいんだろう」とかなり悩みました。
福井当時、吉沢さんが懸念していたのは、本作にバナージを筆頭とした『ガンダムUC』のキャラクターが登場するということでしたね。それまでにいくら新キャラクターの話を積み上げたところで、最後にバナージが全部持っていてしまうのが怖い、と。
――ああ、なるほど。
福井だからヨナ、ミシェル、リタの3人は、いつも以上に丁寧に描くことにしたんです。つねに3人のうちの誰かを映しているような状態にして、バナージたちが出てきたとしても、映画として揺らがないくらいに。
――実際に観ると……言いかたとして適切かわかりませんが、バナージの登場はファンサービス程度に留まっていた気がします。ところで、『ガンダムNT』の脚本に関しては、ほぼすべて福井さんによるものと考えていいのですか?
吉沢そうです。ストーリーや登場するキャラクター、「ニュータイプとは何なのか」というテーマの部分に関しては、すべて福井さんです。僕はそこに乗っかって、映像化する作業に全エネルギーを注ぎ込んだという形ですね。
――吉沢さんから福井さんにお願いをしたことはなかったのでしょうか?
福井メインキャラクターであるヨナ、ミシェル、リタを丁寧に描くというのは、吉沢さんからのオーダーがあって俺がそう書いたところですね。
吉沢「1本の作品としてまとめるために3人の物語にしたい」というところが、僕が福井さんにお願いした最大のポイントでした。
どんなコンセプトで主要キャラクターを描いたのか
――キャラクターのお話が出ましたので、主要キャラクターについて教えていただけますか? とくに、ゾルタンやミシェルは『不死鳥狩り』には出てこないオリジナルキャラクターですし。
福井前段として、ガンダムシリーズの場合、やっぱり『機動戦士ガンダム』(以下、ファーストガンダム)世代のファンが多いんです。その方たちに注目してこれまで作品を作ってきたところはあると思うんですが、その結果“宇宙世紀モノ”が高齢化して一度途切れてしまったわけです。それを『ガンダムUC』で復活させたわけですが、そのときにやったことが、少年の視点ではなく、親の視点で描こうということでした。
――なるほど。
福井とは言え、このまま進んでいっても先細りになるだけです。ところが幸いなことに『ガンダムUC』で若い世代のファンも増えてくれました。『ガンダムNT』はそのファン層に向けて作っている作品だったところもあるので、メインキャラクターを現代の20代くらいの子にしているんです。ヨナは完全にイマドキ世代の子で、大きい組織にいるんだけど、その組織で一人前になろうとはせず、あくまで自己実現のために利用しているだけ。
――そうですね。ひとくくりにはできませんが、いまっぽい雰囲気の青年です。
福井ミシェルはその逆で、就職氷河期のなかで総合職を目指して必死でがんばっているOLのようなイメージ。でも、昔の男のことが忘れられず、このままでは婚期を逃してしまいそう……みたいな感じですね。
――あー! 確かに!
福井そしてリタは、ミシェルのような人からするとちょっと憧れもあるけれど、いちばん癇に障るタイプ。そこにいるだけですべてを総取りしてしまう無邪気さを持っている子ですね。
――わかります、わかります。
福井そして敵のゾルタンは……“SNSの権化”みたいなやつですね。
――あはははは(笑)。
福井欲望に忠実で、思ったことや受け取ったことをすべて斜めに返していく。
吉沢でも、ときどき妙に的を射たことを言うんですよね。
福井そうそう。
吉沢本当にゾルタンはいいキャラクターですよね。スペースコロニーの中でゾルタンと連邦軍のモビルスーツ部隊が戦闘になりそうになったとき、連邦軍のイアゴ隊長が「撃つなよ、ここには人がいるんだぞ」って言うシーンがあるじゃないですか。
――はい。
吉沢でも、その直後に「撃っちゃうんだな、これが!」って言って、撃っちゃう(笑)。誰もがやらないようなことを、ぶっ飛んでいるがゆえにやってしまう人って、ちょっと憧れるじゃないですか。だから個人的には「みんなゾルタンのこと好きになっちゃんじゃないかな」って思って作っていましたね。福井さんにいただいた脚本に「撃っちゃうんだな、これが!」って書いてあるのを見た段階からファンですから。もちろん事前に福井さんには「尺の問題もあるので、敵役はぶっ飛んだやつにしてほしいです」とはお願いしていましたが、本当にぶっ飛んでいましたね(笑)。
福井「撃っちゃうんだな、これが!」は、きっと今後ゲーム化されたりしたら、何度も聴けるようになるんじゃないかな(笑)。
――確かに(笑)。ただ、彼の見た目は“シャアの再来”のわりには、シャアっぽい雰囲気ではないですよね?
福井彼は不良品でハジかれた存在ですからね。きっとそれは、彼が片目であることに由来していると思うんですけれど。片方の目を失って、ひねくれて、「左右対称にしてやるよ!」くらいの感じで自傷して……あんな姿になったんだと思うんです。もしもそのまま育っていたら、逆に彼の個は封殺され、シャアのように喋り考える『ガンダムNT』の敵役、フル・フロンタルのような人間になっていたでしょうね。
吉沢物語の終盤に浜辺で眼帯をした“かわいい坊ちゃん”として出てくるのがゾルタンなんですけど、詳細までは描き切れていないんですよ。逆にそこが見ている方の想像をかき立てる、魅力的なキャラクターだと思います。
福井本当は、彼が片目を失ったのは浜辺に出てきた子ども時代よりもっと後なんです。でも、彼の意識の中で「片目をなくしたことで……」という思いが強いから、すべてが取り払われたイメージの世界でも眼帯が外せなくなっているんでしょうね。
福井晴敏的ニュータイプ論とは?
――『ガンダムNT』では、鳥がひとつの象徴のように描かれていることも印象的でした。
福井『不死鳥狩り』を書いたとき、たまたま浜辺をオープニングシーンにしたんです。当然その場には海鳥が飛んでいるわけなのですが……それを書いたのがすべての始まりだった気がしますね。もちろん、フェネクスは不死鳥ですし、そこに縛られていったところはありますけれど。
――ニュータイプと言えばララァ・スン、そして白鳥を思い出したりもするのですが、それはあまり関係ないのでしょうか?
福井ある意味では関係しているかもしれませんね。鳥というのは昔から死の象徴ですから。魚が生の象徴で、命は水から入ってきて空へ還っていくというのが、古来の人の考えかたのひとつなので。一歩“あの世”に近づかないと伝わらない、ニュータイプという“あの感じ”を媒介しているのは、魚でも四つ足の動物でもなく、鳥になるというのは自然なことだったと思います。
吉沢映像的な面で言えば、鳥で始まって鳥で終わる並びにしたかったところはありました。鳥たちが羽ばたくシーンから始まって、最後はフェネクスが飛んでいく、という形ですね。となると、そのあいだに入る絵にも、鳥をモチーフにしたものを使いたくなります。そこでペンダントを鳥モチーフのものにして、コア・ファイターも鳥っぽくしたんです。
福井コア・ファイターの“カモメ感”はスゴイですよね。
吉沢浜辺のシーンも、人が立っている陸が生者の世界、海は死者の世界、そして鳥だけがそのふたつの世界を行き来できるわけです。そして、その鳥がフェネクスである……というイメージでした。
――ちなみにモビルスーツ関連のデザインについては、吉沢さんから提案する形だったのでしょうか?
福井最初に“着せかえ”というコンセプトを打ち出されたんですよね。
吉沢はい。そしてナラティブガンダムのデザインは「“やせっぽちのガンダム”にしたいんです」というお話をさせていただきました。
福井過去のシリーズ作のガンダムパイロットと比べると、主人公のヨナはふつうだし、ひ弱なイメージもあるキャラクターですからね。「ガンダムの見た目もひょろっとさせたいのですが、どうでしょう?」という提案を受けて。俺はすごくいいなと思ったんです。先行公開された冒頭23分のタイトルが“やせっぽちのガンダム”でもいいくらいだと思いましたね。
吉沢じつは、途中まで“やせっぽちのG”っていうサブタイトルもありましたからね。
福井ですので、最初はゴツい姿で登場するんですけれど、装備を剥ぎ取っていったら……なよっとしているという。
――ギミックとしては『機動戦士ガンダム0083』的な?
福井いや、あれはどんどん着ていくんだけど、今回は脱いでいくほうですね。
――そして、観た人の多くが気になると思われるフェネクスですが、あの仕組みというのはどういうことなのでしょう?
福井順を追っていくとわかると思うのですが、要するにサイコフレームというのは、近くで死んだ人の魂を吸収してしまうものなんです。
――あああ!
福井より深くお話するために説明すると、人の体と魂というのは、言わばパソコンとWi-Fiの関係に近いものだと思うんです。パソコンが人の身体で、Wi-Fiが魂。Wi-Fiが飛んでいるからパソコンがネットに繋がって情報を見たりできるけれど、Wi-Fiが途切れるとパソコンはネットに接続できないですよね。それが死んだ状態なんです。そしてふつうの人というのは、身体と魂はあるけれど自分がネットにつながっていることを知らない状態。せいぜいが第六感で、気持ち悪いことがわかるくらいなものなんですよ。ところが、ニュータイプというのはWi-Fiに常時つながっていられるパソコンのようなもの。ネット……天界とも言える場所にある膨大な情報を自由に自分に引き寄せて、過去も未来もわかるから、敵の弾も避けられちゃうんです。
――腑に落ちました。
福井人間が宇宙に行くと、生きるために細心の注意を払わなければならなくなるので、周囲に対して感覚が開かれ、研ぎ澄まされていきます。それがつまり、自分がWi-Fiにつながっていることを感知できるようになるということ。人間が宇宙に上がるとニュータイプになるというのは、きっとそういう仕組みなんです。
――理にかなっていますね。
福井そしてサイコフレームというのは、言わばモデムのようなもので、物質でありながら人間ともつながっているし、天界ともつながっている。例えばユニコーンガンダムの1号機の場合、最初にバナージのお父さんの意思がサイコフレームの中にガッツリ入っている。だからバナージの意思ではないところで動くんです。それを感じたのか、要所でバナージは「お父さん!」って叫んだりしますからね。
――確かにそうですね。
福井以降は近くで死んでいった親しい人たちも中に入って。だから機体に力をかけようとすると、そういう人たちのオバケが見えたりするんです。
――なるほどなぁ……。
福井そしてフェネクスも同じ素材でできた機体です。中にはリタが入っているし、天界から力を得ているから勝手に動いちゃう。IIネオ・ジオングも同様なんですけどね。それらの機体はいまの世の中には行きすぎた力で、言わばオーパーツなんですよ。ある意味、天界の力が吹き出してしまった特異点のようなもの。それがこの世界に残り続けるというのはとても都合が悪いので、イレギュラーなんだけど……極端な言いかたをすると、あの世からの補正がかかっているんです(笑)。
――あはははは(笑)。
福井サイコフレームをこの世に残したままにすることでいちばん怖いのは、人が天界に行ってしまって、そこからサイコフレームの力で現実に働きかけること。それが究極のニュータイプなんじゃないかと勘違いした人間がいたら、ヘタをすれば人類補完計画のようなことが起こりかねないわけです。それを防ぐために、フェネクスの介入があったんですね。
――神の手のような?
福井神の手というよりは、人間の集合意識ですね。だからけっきょくは人間がやっていることなんです。
――ああ! だからこそ、「命が始めたことは、命が終わらせるしかない」というメッセージなのですね。
福井そうです。究極的な選択は、命がやらなければならない。
吉沢福井さんがいまおっしゃったことを踏まえてもう一度観ていただくと、「このことを言っているのか!」というセリフが随所にあると気付いていただけると思います。
福井だからパッケージ版を買って何度も見直してほしいですね(笑)。
おふたりのオススメシーンはここ!
――おふたりにお気に入りのシーンをうかがいたいのですが。
吉沢いろいろあるんですが……あえて選ぶなら、浜辺の回想シーン全般ですね。『ガンダムNT』はメインキャラクター3人の物語ですが、ちょっと曇った空のなか、3人が青春の精算みたいなものをしていくわけです。全体的にやや回想が多かった気もしますが、要所で浜辺が足がかりになって3人の物語が進んでいきます。浜辺から始まった映画が、最後も浜辺へ帰結していく形になるわけで、そこを軸にした作品を作れたのは自分ではよかったな、と思います。
福井「浜辺の回想シーンの天気はどうする?」なんて打ち合わせは一切していなかったんですけれど、ズバリでしたね。彼岸っていうイメージを共有していたところはあるかもしれないですね。
吉沢浜辺ですけれど、三途の川ですよね。
――なるほど! では、福井さんはどのシーンがお気に入りでしょう?
福井俺も浜辺は好きですね。そのなかでもいちばんうまくできたと思うのは中盤。コロニーの中で大乱戦が起きるんですけれど、フェネクスがヨナと向き合った瞬間に過去の浜辺のシーンに引き戻されるじゃないですか。
――ありましたね。
福井直後、殺気を感じて後ろを振り返ると、ミシェルがいて。彼女が手を上げたら、何かが飛んでいってナラティブガンダムの隠された機能が発動する。その一連のシーンの絵並びは、まさに俺の思い描いていた通りで、とてもうまくいったと思っています。
吉沢よかったです(笑)。
福井俺ぐらいの年齢ってある種の端境みたいなところがあって。俺がガンダムシリーズを観ている最大年度くらいなんですね。だから、ちょっと上の方と仕事をすると意外に共有できていない部分があって、「そのつもりで書いていないんだけどな」ということが頻発したりする。でも吉沢さんくらいの世代は、観てきたものがほぼ同じなので、内容を的確に汲み取ってくれるんですよ。
――ガンダムシリーズはもちろん、そこから生まれたフォロワー的作品も知っていますしね。
福井そうそう。吸収しているものが近いんです。
吉沢確かに、イメージの共有はすんなりいきましたね.劇中でフェネクスがビーム・サーベルを抜くと、リタとミシェルの姿が出てくるシーンがあるんです。そこも「ああ、これは『Zガンダム』のイメージだな」ってすぐにわかりましたし。モノ作りをするうえではちょっとズルいのかもしれないですけれど、どうやっても出てきちゃうところではありますね。
福井それはやらないと意味がないところなんですよ。とくに、いま吉沢さんの挙げたシーンっていうのは、旧作からの流れを汲んでいることだから、そのままでいいんです。だって「『Zガンダム』のときと同じ現象が起きている!」っていうことですからね。突飛なシーンであればあるほど、逆に勝手なことはできないんですよ。言うなれば我々は“富野スペース”の中でモノ作りをしているだけなので。例えば今回『伝説巨神イデオン』の効果音を使っているシーンもありますけれど、それはつまり「『イデオン』的なアレですよ」というだけのことで。
――ああ、どおりで聴いたことがあると思ったら……。
福井『ガンダムUC』や『ガンダムNT』を入口にしてくれるような若い子たちは、何の抵抗もなく観てくれるんでしょうけれどね。逆に年を重ねて多くのガンダムシリーズを観ているほど、「どういうことなんだろう!?」とひっかかる部分も多い映画だと思うんです。それを少しでもなだらかにするために「コレですコレ!」っていうモノを随所に入れていますね。
――例えばですが、機体の破損具合なんていうのはラストシューティングっぽいな、と思ったのですが……。
吉沢あー! あれか(笑)。言われてみればそうなんですけど、機体が壊れていく演出をすると、どうしてもああなっちゃうところはありますね。
――勘ぐり過ぎでしたか。
福井頭が吹き飛ぶっていうのは、最初の『ガンダム』でも驚くシーンだったじゃないですか。それまでロボットをキャラクターのように見ていたから、頭が取れるというのは死を意味するように感じて。結果的には、たかがメインカメラなんですけれど。
吉沢確かに、あの視点は衝撃的でしたからね。そういう意味ではオマージュと言うよりも、“最後の一線を越えてしまった象徴”として描いたところはあります。
福井ある意味、ファーストガンダム以来の刷り込みですよね。『ガンダム』シリーズに限らずですが、“ロボットアニメで頭がなくなる=最終決戦”という図式が埋め込まれていますからね。
吉沢確かに、刷り込みと言われればそうかもしれません。
――演出的な部分での見どころも吉沢さんにうかがいたいのですが。
吉沢『ガンダムNT』はガンダムシリーズですし、それを捨てたらガンダムではなくなってしまうので……富野さんのところで学んだ経験を活かして、フィルムのタッチとしては『逆襲のシャア』に近い雰囲気になるように作らせてもらいました。当時の『ガンダム』感を出せるように、カットインをガンガン入れたり、手前と奥の空間を作ったりして。
福井『ガンダムUC』では、あえてカットインは入れなかったんですよ。
吉沢そうですね。じつはやってなかったんですけれど、今回は徹底的に“富野エッセンス”と言えるものを注ぎ込んでいます。ですので、昔を知っている方にとっては懐かしく感じるところがあるかもしれません。
――なるほど。ストーリー的にも演出的にも『逆襲のシャア』を観てから『ガンダムNT』を観るというのもおもしろそうですね。
福井ああ、いいですね。『ガンダムUC』を通して観ちゃうと丸1日潰れちゃうから、2本立てくらいの感じで観てもらえるといいかもしれません。
パッケージ版ならではの“推し”要素
福井ところで、“声を小さく大にして言いたいこと”があるんですけれど……。
――それは……どういう意味でしょう?
福井劇場で観られた方の中には「前半に比べると、後半はちょっと粗いな」なんて思われた方もいたと思うんです。そのあたりはパッケージ版でキチンとお色直しをしています。
――おお! 確かに“声を小さく大にして言いたいこと”ですね。
福井パッケージ版の発売から1週間くらいのあいだ、もう一度劇場上映をする予定なのですが……それはお色直し済みのものですので、そちらを観ていただくというのもいいかもしれません。先に映画を見ていただいた方だと、印象も少し変わるかもしれませんし。
吉沢本当に大きな声で言えないですし、申し訳ないところなのですが、じつは映画ではメカ関連の最後の工程が済んでいなかったところがありまして……。パッケージ化に際しては「本来はこうなるつもりでした」というお色直しをしたものになっていますので。
<上映名称>
『機動戦士ガンダムNT』パッケージ版特別上映
<上映劇場、上映期間>
[愛知]ミッドランドスクエアシネマ 5月17日(金)~5月23日(木)
[東京]新宿ピカデリー 5月24日(金)~5月30日(木)
[大阪]なんばパークスシネマ 5月24日(金)~5月30日(木)
※上映は一日一回となります。
詳細な上映スケジュールは各劇場の公式サイトをご確認ください。
<料金>¥1,800(税込)
丸の内ピカデリーにて舞台挨拶開催決定!
【日時】 5月25日(土) 18:30上映、終了後舞台挨拶
【会場】 丸の内ピカデリー 東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン9F
※丸の内ピカデリーでの「パッケージ版特別上映」は本舞台挨拶回のみでの上映となります。
【料金】 ¥ 2,000(税込)
【登壇者】 榎木淳弥(ヨナ・バシュタ役)、村中知(ミシェル・ルオ役)、松浦愛弓(リタ・ベルナル役)、梅原裕一郎(ゾルタン・アッカネン役)
吉沢俊一(監督)、福井晴敏(脚本)、小形尚弘(プロデューサー)
※登壇者は都合により、予告なく変更となる場合がございます。
福井一時停止してじっくり観る甲斐があるものになっていますね。
――パッケージ版にはオーディオコメンタリーも付くということですが、すでに収録は終えられているのでしょうか?
吉沢はい、終わっています。
福井メインキャスト全員と我々と小形さん(小形尚弘氏。本作のプロデューサー)で録りましたね。
吉沢楽しんで、好き勝手やっていた印象なんですけれど(笑)。小形さんが「勝負のときは赤いパンツだよね?」なんて謎のパンツトークを始めたり……脱線に次ぐ脱線でしたね。
福井格調高いトークは期待されないほうがいいかもしれません(笑)。
――制作現場のダベリ、といった感じでしょうか?
福井そうですね。現場の雰囲気はよく出ていると思います。
吉沢でも、村中さん(村中 知さん。ミシェル・ルオ役)が「声を出すときにこういうところに注意している」という話をされていたりとか、興味深いトークも随所にあります。本編を観た後に楽しめるものにはなっていますので、期待していただきたいですね。
――あとは完全設定資料集も気になります。
吉沢それはまだ僕も見ていないんですよね……。
福井そういえば、その設定資料集用に主要キャラクターの誕生日を決めましたよ。ゾルタンの誕生日なんかが決まっていると、とくに女の子のファンの皆さんが集まってお祝いができたりするから。
吉沢なるほどなあ。喜んでいただけるならいいですね。
福井余談ですが、ファーストガンダムでもそれをやろうとしたけど、紛糾して宙に浮いたらしいです(笑)。
――あはははは(笑)。
福井そうそう、Blu-ray特装限定版とBlu-ray豪華版には、オマケとしては豪華過ぎるドラマCDも付いていることも忘れないでほしいですね。
――ああ! そうでした!
福井ドラマCDは『ガンダムNT』本編には登場しなかった『ガンダムUC』のキャラクター、リディ・マーセナスのお話なんですけれど、彼のその後がすべてわかるものになっているんです。また、カイ・シデンなども登場しますし……ちょっと上乗せしたら買えますので、オススメですね。
――カイも出るんですか! ファーストガンダム世代にはうれしいですね。
福井カイって、言いかたは悪いかもしれないですが、すごく便利なキャラクターなんですよ。キャラクターを横断して物事を知っていてもおかしくない人物なので。
吉沢ジャーナリストですもんね。全部説明してくれますし、それにみんな好きですし(笑)。
福井時間も短いし物語がブレてしまうので『ガンダムNT』には旧作のキャラクターはほぼ出てこないのですが、その代わりにコロニー落としであったり、ダカールの演説の話であったり、ニューホンコンのエピソードなどといった過去の出来事を3人の成長とともに追っていくという仕組みにしていますから。まだ観ていない旧作のファンの方は、そういったシーンがあることも知っておいてほしいですね。
――わかりました! では……福井さんにはいろいろな部分を推していただきましたので、最後に吉沢さん、パッケージ版の推しコメントをいただけますか。
吉沢先にも述べましたが、鳥をモチーフにした演出や福井さんの考えかたが乗ったセリフ回しのほかにも、何度も観ていると「これはこういうことか!」と気付くところが出てくるような作品だと思っています。ですので……止めたり戻したり、分解するように観て自由に解釈していただくと、楽しく観られるのではないかと思います。
機動戦士ガンダムNT Blu-ray&DVD
【Blu-ray特装限定版】 BCXA-1432/¥9,800(税抜)
“Blu-ray特装限定版“は豪華特典満載!ドラマCD、本編原画集、完全設定資料集、メインキャスト・スタッフが出演した「公開目前イベント」や「初日舞台挨拶」の各種イベント映像などを収録。
さらに、通販サイト「ガンダムファンクラブ」「A-on STORE」「プレミアムバンダイ」にて、数量限定で販売となる“ Blu-ray豪華版“の発売が決定。 “ Blu-ray豪華版“には、 “Blu-ray特装限定版“の特典に加え、「4K ULTRA HD Blu-ray(本編のみ)」が同梱。そして、独自の立体表現と複数の素材を活かした精密なディテールで立体化する食玩フィギュアシリーズ『FW GUNDAM CONVERGE』から、劇中に登場した「ナラティブガンダム B装備」の限定カラーを付属!
カラー/(予)173分[本編BD:約95分(本編約89分+映像特典約6分)+特典BD:約78分]
本編BD:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・DTS(ステレオ)・一部リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD50G/16:9<1080p High Definition>/
日本語・英語音声収録/日本語・英語・仏語・韓国語・タイ語・中国語繁体字(台湾・香港)・中国語簡体字字幕付(ON・OFF可能)
特典BD:リニアPCM(ステレオ・一部モノラル)/AVC/BD25G/16:9<1080i High Definition>・一部16:9<1080p High Definition>
【Blu-ray豪華版(4K ULTRA HD Blu-ray同梱)】 BCXM-1433/¥12,800(税抜)
※通販サイト「ガンダムファンクラブ」「A-on STORE」「プレミアムバンダイ」にて限定販売
カラー/(予)262分[本編BD:約95分(本編約89分+映像特典6分)+本編UHD BD:約89分+特典BD:約78分]
本編BD:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・DTS(ステレオ)・一部リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD50G/16:9<1080p High Definition>/
日本語・英語音声収録/日本語・英語・仏語・韓国語・タイ語・中国語繁体字(台湾・香港)・中国語簡体字字幕付(ON・OFF可能)
本編UHD BD:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・DTS(ステレオ)/HEVC/66G/16:9<2160p Ultra High Definition>/
日本語・英語音声収録/日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)
特典BD:リニアPCM(ステレオ・一部モノラル)/AVC/BD25G/16:9<1080i High Definition>・一部16:9<1080p High Definition>
【Blu-ray通常版】 BCXA-1431/¥7,800(税抜)
カラー/(予)95分[本編約89分+映像特典約6分]/DTS-HD Master Audio(5.1ch)・DTS(ステレオ)・一部リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD50G
16:9<1080p High Definition>/日本語・英語音声収録/日本語・英語・仏語・韓国語・タイ語・中国語繁体字(台湾・香港)・中国語簡体字字幕付(ON・OFF可能)
【DVD】 BCBA-4948/¥6,800(税抜)
カラー/ (予)95分[本編約89分+映像特典約6分]/ドルビーデジタル(5.1ch・ステレオ)/片面2層/16:9(スクイーズ)/ビスタサイズ/
日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)