2022年12月上旬、アクアプラスがCREST(クレスト)の傘下に加わることが発表された。

 なお、CRESTは2023年2月1日からCREST社、QBIST社、SANETTY Produce社の合併に伴い、社名がHIKE(ハイク)に変更となった。本記事ではHIKEで統一する。

 アクアプラスの旧親会社にあたるユメノソラホールディングスのリリースによると、「今後グローバル化が必須となるであろうゲーム業界において、多くのIPと優秀なクリエイターを保持するアクアプラスがさらに大きく羽ばたくための将来性を考慮した結果、海外への展開強化を進めるポールトゥウィンホールディングス株式会社の子会社であるCRESTへの売却が、今後のアクアプラスの事業拡大につながると判断いたしました」とのこと。

 アクアプラスは、『うたわれるもの』シリーズや『WHITE ALUBUM』などのコンシューマゲーム、『うたわれるもの ロストフラグ』などのモバイルゲームの企画製作・運営を行う老舗ゲームメーカー。

 多くの人気IP(知的財産)を保持しているだけに、今後のアクアプラスの動向が気になるファンは多いだろう。

 そこで、アクアプラス開発トップの下川直哉氏とHIKEの代表取締役であり、2023年1月に同社の代表取締役にも就任した三上政高氏にインタビューを実施。アクアプラスがHIKEの傘下に加わることになった経緯やアクアプラスの今後の展望などを伺った。

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三上政高 氏(みかみ まさたか)

HIKE代表取締役、アクアプラス代表取締役(文中は三上)

下川直哉 氏(しもかわ なおや)

アクアプラス/COO(文中は下川)

偶然の出会いから進行したアクアプラスとのM&A

――アクアプラスがHIKEの傘下に加わることになった目的や経緯をお聞きする前に、HIKEの事業内容を教えていただけますでしょうか。HIKEについて、なじみのない読者もいると思うので。

三上HIKEの前身となるCRESTは2018年に設立したのですが、当時はインディーゲームが盛り上がりを見せている時期でした。そのころSteam市場に積極的にインディーゲームをパブリッシングしているパブリッシャーは国内でそこまで多くなかったので、ここをターゲットにチャレンジしてみようというところでスタートしたのが弊社のゲーム事業になります。

 また、ひとつのIPを360度展開していくことも目的のひとつとして会社を設立しましたので、ゲーム事業単独でいくというよりは、最終的にはIPホルダーを目指していく。最初は他社さんのIPを使用させてもらったり、コラボしたりして運用していくところからスタートした会社ではありますが、これからは自社が中心となってオリジナル開発にも注力していきたい、という流れを作っている状態ですね。

――その流れがあった中で、どのような経緯や目的があってアクアプラスがHIKEの傘下に加わることになったのでしょうか?

三上じつははアクアプラスさんが傘下に加わることになったのは、偶然の出会いからなんですよ。最初から「アクアプラスさんと!」と名指しでご相談したわけではなく、M&A(企業買収)の仲介の方に、IP事業強化の一貫でアニメーションの制作会社やゲームのパブリッシング経験がある会社をご紹介いただく中で、アクアプラスさんの名前が出てきたんです。

 さらに私がアクアプラスのゲームを学生時代によくプレイしていたのもありますし、HIKEの親会社にあたるポールトゥウィンホールディングス代表である橘鉄平もアクアプラスさんのゲームをよく知っていまして、グループの役員会で話したときに「アクアプラスさんのような会社を自分たちのグループとしていっしょにやっていくという機会はそうそうないとは思うので、もしご縁があるならぜひごいっしょしたいね」と盛り上がりました。

――もともと接点があるわけではなかったのですね。

三上そうなんですよ。ただ、面談で開発トップの下川さんとお話した際、下川さんの考えがHIKEが掲げているビジョンに非常に近いものであると感じました。1回目の面談を終えた段階から、このご縁をつなぐために社内でも一致団結してM&Aの実現に力を注いでいきましたね。

――ゲーム業界の中でいうとまだ新しい会社のHIKEから見たときに、やっぱりアクアプラスのように複数のIPを持っているメーカーさんは魅力的に映るでしょうし、アクアプラスのIPを多角的に展開できる可能性もあると思います。そういった期待感を持って、今回のお話につながったのではないでしょうか?

三上もちろんその期待感もありますね。アクアプラスさんが30年近く続くIPを産み出したというところに、我々としては非常に価値、可能性を感じてグループにジョインしてもらうことにしました。やはりそこがいちばん大きいですね。

――下川さんが三上さんとお話をされたときの第一印象を教えてください。

下川三上さんは自分よりも若い方なので、やり取りをしていて「感性が若くていいな」というのが魅力的でしたね。自分にはないもの、たとえばいまのゲーム業界のトレンドだったり、技術だったりが会話の中から聞こえてきて、ちゃんと目を向けているんだなっていうのは心強いと思いましたね。

 ポールトゥウィンホールディングス代表の橘さんとお会いさせていただいたときも同じように感じましたし、同世代だったので会話もものすごくしやすかったです。それに、三上さんも橘さんもアクアプラスやうちの作品のことをよく理解してくれていたのもうれしくて。アクアプラスのIPを大切に成長させてくれるんじゃないかという期待感は非常に高いです。

 何ができるかはこれから話し合っていきますが、HIKEさんは僕らとぜんぜん違う強みを持っているので、僕らにはできないことを僕らのIPや開発部隊を使って何かやってくれるんじゃないかなとワクワクもしています。あ、アクアプラスのメンバーはそのままいまの新体制にジョインしているので安心してください。

――ちゃんと開発部隊を持っていて企画からしっかりできるアクアプラスと、それをより拡張させられるHIKEの相乗効果は客観的に見てもいい組み合わせですよね。

下川そうですね。インディーゲームのように小回りのきいた開発は、僕らにとってはなかなか難しいですから。というのも、うちはもう30年近くにわたって、大砲主義みたいなことをやっているので、開発者たちも数名で数ヵ月の期間にゲームを作るやりかたがわからなくなっているんですね。

 これはどちらがいい悪いの話ではなくて、育ちが違うといいますか。そういう意味では、小回りのきく開発技術のノウハウを持った方たちが、僕らをうまくコントロールしてくれたら、おもしろいことが起きるのかなって期待はしていますね。

――いまのおふたりの話を聞いて安心した読者は多いと思います。HIKEはアクアプラスのIPをちゃんとリスペクトしたうえで、ますます発展させてくれそうだなって。

三上うちは若い会社ではありますが、経営陣や事業部長には20年くらいこの業界の一線で活躍してきたメンバーが揃っていますので、IPを産み出したメーカーやクリエイター、原作者をリスペクトし、付き合いかたも心得ています。

 それに、ユーザーの皆様に「ちゃんとわかっているな」と思われるコンテンツ運用や展開をしていかないといけないということは、日ごろから私たち経営陣としても気をつけていますし、スタッフにも徹底するように言っています。

 その上でIPホルダーとして上を目指していく中では、アクアプラスさんの30年近くにわたって培われてきた作品を大切にしながらも、つぎの新しい作品も積極的に生み出していかなければいけないなとは考えています。

下川三上さんはうちの作品を数多くプレイされていますが「このIPでチャレンジしたい」というものってあるんですか?

三上どうしてもいまはまだアクアプラスさんのユーザー目線で考えてしまうのでとても悩ましいのですが、僕がいちばん好きなのは『うたわれるもの』シリーズなんですよ。十数年前、学生時代にずっと遊んでいたので(笑)。

下川それだけ熱心なファンの方と僕らがいっしょに事業を推進していく、というのはユーザーの方も安心すると思います。

三上『うたわれるもの』シリーズは世界観ができ上がっている作品なので、これをどういった形で広げていけるんだろうということは考えてみたいなと思います。ただ、ファンとして非常にリスペクトしている作品なだけに、自分が携わっていいのかなという戸惑いを感じてもいます(苦笑)。

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『うたわれるもの 散りゆく者への子守唄』

HIKEの傘下に加わったことでアクアプラスが抱く今後の展望

――2022年は11月に『モノクロームメビウス 刻ノ代贖』が、12月には『義賊探偵ノスリ』が発売となりました。タイトルのリリースはひと区切りついたタイミングかなと思いますが、今後体制が変わるなかで、下川さんはアクアプラスのゲームをどのようにしていきたいとお考えですか?

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『モノクロームメビウス 刻ノ代贖』
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『義賊探偵ノスリ』

下川根底には「自分たちが開発したゲームをたくさんの人に遊んでもらいたい」という考えが変わらずにありますね。いまの時代、“おもしろいゲームなら必ず売れる”ということはないですが、でも一方で、おもしろくないゲームが爆発的に売れることもないと思うんです。やはり僕たちは、自分たちのノウハウや技術の中でおもしろいゲームを提供していくしかないんですよね。

――それは真理ですよね。

下川あとは、『うたわれるもの ロストフラグ』も大切に運営していきます。いまも何万人ものユーザーが毎日アクセスしてくれていますし、3年間楽しんでくれているユーザーの期待を裏切りたくはないですから。

――そういう意味では、2023年は新しい土台作りの年になりそうですね。

下川そうですね。だから新体制になることで何ができるんだろうっていう期待がものすごく大きいんですよ。HIKEさんにはゲームの感性を持っている人たちが多いので、きちんとゲーム開発の話ができるんです。

 もちろんできないこともありますが、やれる範囲の中で着地点をうまく探せるんじゃないかと思うんですよね。“張るときには張る”……取るべきリスクはきちんと取るという感覚もおそらくお互いに同じところを見ているんじゃないかなって気がしていています。勝負するところは勝負するし、保守のところは保守でいくというところも一致しやすいのではないかなと。こういう感覚が一致していれば動きやすいのかなと考えています。

――下川さんが新体制でチャレンジしてみたいことはありますか?

下川うちのIPと相性がいいかもしれないと思っていることがあるんです。それは過去作品、とくに“ギャルゲー”のリブート。というのは、海外では値段の安さもひとつの要因ではあるようなのですが、シンプルなギャルゲーがSteamで何十万本と売れたりすることがありますよね。

 だから『ToHeart』や『こみっくパーティー』、『WHITE ALBUM』といった作品群を安い価格で現代風にリブートできたら改めてヒットする可能性もあるんじゃないかなと考えていて。

ToHeart2
『トゥハート2 DX PLUS』

――確かに、海外でギャルゲーが人気という状況は、アクアプラスのIPと相性がいいですね。やりようによっては大ヒットになる可能性がありそうです。

下川ただ、僕らはいかんせんIPの活かしかたがHIKEさんよりうまくないですし、社内には基本的に1部隊しかないので、これまではうまくできなかった(苦笑)。

三上下川さんたちが苦手としている分野を僕らがうまくサポートできたらいいなと考えています。アクアプラスさんのIPは長年愛されているので、うまくスポットライトを当てつつグローバル展開できたらいいですね。

 ただ、海外マーケットで戦略的なプロモーションやマーケティングを積極的に仕掛けて、ヒットしているものは多くはない。ヒットした作品をみても、話題になったポイントがあっても、戦略的にマーケティングがうまく成功してヒットしたとは言えないんですね。

 だからこそ、HIKEとしても今後はマーケティングがこれまで以上に重要になると考え、社内でマーケティングのチームを独立させて新たな組織を作りました。国内含めてグローバルで、アクアプラスさんが持つIPのおもしろさや魅力、『ToHeart』や『こみっくパーティー』、『WHITE ALBUM』といったタイトルをどうやって知ってもらうかも非常に重要なポイントになると考えています。

――HIKEの傘下に入ったアクアプラスの今後の展開を楽しみにしています。

三上ありがとうございます。僕もアクアプラスさんのいちファンとして、ファンの期待を裏切らないようなコンテンツやIPの展開をしていきたいと思います。

 そして、学生時代に初めて『うたわれるもの』をプレイして得た感動を、いまの若い世代やまだアクアプラスの作品に触れていないユーザーにも感じてもらえるように、下川さんたちとアクアプラスの作品を届けていきたいと思いますので、引き続き応援をよろしくお願いします!

下川三上さんは学生時代のときからうちのIPを遊んでくれている方なので、ユーザーの立場からアクアプラスのIPをどうするかという意見もしてくれると思います。そういう意味では、ユーザーの期待を裏切ることはないと思うので、今後のアクアプラスの作品にもぜひご期待ください。