2022年11月24日、新潟県の開志専門職大学にて、橋本真司氏による講演“ゲーム産業とともに歩んで”が開催された。

 橋本真司氏と言えば、かつてはバンダイ(現バンダイナムコエンターテインメント)にて“橋本名人”の名で、ファミリーコンピュータブームを牽引。のちにスクウェア・エニックス専務取締役スクウェア・エニックス・ホールディングス理事を歴任し、『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズ・ブランドマネージャーや『キングダム ハーツ』シリーズのブランドマネージャーを務めた。

 現在はスクウェア・エニックスを離れ、ソニー・ミュージックエンタテインメントのシニアアドバイザー、フォワードワークス取締役会長を兼任。さらに、開志専門職大学の客員教授も務めている。ちなみに、橋本氏は、小学生のころに新潟に住んでいた時期があるという。

 本記事では講演の内容をリポート。講演では、橋本氏のこれまでから、昨今の流行やオンラインゲームに関することなど、さまざまな内容が語られた。

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析

橋本氏の来歴

 本講演はゲームクリエイターを目指す、学生向けの内容。まずは改めて、橋本氏の来歴が語られた。橋本氏はバンダイ入社前に徳間書店のアニメージュ編集部で、大学に行きながら編集アルバイトを担当。初代『機動戦士ガンダム』の放送時期に、それを追いかけながら記事を執筆していたという。

 その関係で、旧バンダイの仕事も手伝っていたことから、1983年に旧バンダイへ入社。『機動戦士ガンダム』などの仕事ができるのかと思っていたら、入ってみるとゲームの営業マンとして活動することになったという。

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析

 MSXやファミリーコンピュータのゲームの開発担当をする最中、『キン肉マン マッスルタッグマッチ』などの宣伝担当をしているうちに、ファミコン名人ブームのひとり“橋本名人”として活動することに。平日は通常の仕事、休日はイベントに行くという激務だったとか。

 のちにコブラチームとして独立したのち、会社ごと旧スクウェア(現スクウェア・エニックス)に移籍。大きなタイトルだと『FFVII』より『FF』シリーズに関わり、『FFVIII』や『FFXV』などのプロデューサーを担当。また、『キングダム ハーツ』シリーズなど、数多くのタイトルのプロデューサーを担当してきた。

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析

 現在は、ソニー・ミュージックエンタテインメントでさまざまな分野においてアドバイザーとして活躍しているほか、スマートフォン向けゲームで知られるフォワードワークスでは「新たなタイトルを出せたらいいな、と思って動いています」と、何かしらの新規プロジェクトに着手していることを明かしていた。

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析

これからは“一芸”

 多数のゲームを手掛けてきた橋本氏。ただこれからのゲーム業界というのは、橋本氏がこれまでやってきたように続けているだけではダメだという。橋本氏は「歳を取るとどうしても守りに入ってしまうんですよ」とコメントしつつ、変化・進化をし続ける必要があるという。

 60歳を超えて、まだまだ進化したい気持ちを持つ橋本氏。これからは日本人ならではの得意な分野を伸ばすべきだと分析しているそうだ。

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析

 日本人から見ると分かりにくいが、海外から見ると日本の“モノづくり”というのは、非常に評価が高いという。たとえば、サッカーの世界大会“FIFAワールドカップ2022”では、会場の日本人サポーターたちが、試合後に会場を掃除していたことが話題になった。日本人の感覚としては当たり前なことだが、一部海外の人にとっては驚かれる要素。その感覚に似ていると、橋本氏は語った。

 つまりは、日本人の作るモノは、こだわりの強さやクオリティーの高さが評価されており、それを今後も伸ばすべき“一芸を磨く”方向に進むべきだと、橋本氏は分析しているという。また、かつては東京中心にクリエイターが集まっていたが、いまはリモートワークが進み、場所も関係なく優秀な人材が集まりやすくなったので、より場所を選ばなくなっているのも要因なのだとか。

 なお、かつての企業というのは、1度定年を迎えるまで会社が面倒を見てくれる、というシステムをうたっていたが「それはもうあり得ないです」と橋本氏。ゲーム業界ではスタッフの転職は珍しくないが、世の中自体がそうなっているそうだ。「だっていま、CMとか転職サイトとかばかりでしょ?」と橋本氏が言うと、受講者たちも大きく頷いていた。

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析

“メタバース”に物申す

 昨今流行っている、“ブロックチェーン”や“メタバース”などの単語も、橋本氏は分析。それぞれ知っていて損はないものの「これをやっていれば儲かる、この先安泰」みたいなものではないので、あくまで情報や新しい考えかたとして吸収すべきだという。とくに講義の中では、“メタバース”について言及。

 ちょくちょく“メタバース”の相談も受けるという橋本氏。言葉が先行しており、とりあえずメタバース空間を作ったものの、何がやりたいのかが抜けていて、失敗しているところも多いという。「ウチはメタバースをやっています。儲かります。って言うんですけど、どうやって儲けるの? って思うんですよ」と橋本氏。

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
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 バーチャル空間をロビーとして用意した先に、利益を出したいのか、宣伝に使いたいのかの目的はどうであれ、けっきょくのところ“飽きさせない”ことが重要だという。たとえばバーチャルの街を作って1時間散歩できました、いろいろな広告が見られました、ではユーザーはその1回の体験で飽きてしまう。

 ゲームの場合はそこが異なり、オンラインロビーの先にアクション、育成、冒険などのエンターテインメントが待っている。あくまでロビーはコミュニケーションなどの場に過ぎず、その先にあるコンテンツがメインだからこそ、収益性が成り立っている。昨今の“メタバース”はそこが欠けていると橋本氏は指摘していた。

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
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 いずれにせよ、とくに重要なのは“サーバー”の管理だという。ゲームやバーチャル空間は24時間オンラインで繋げられるのが当たり前ゆえに、24時間体制を敷くのが基本。サーバーを管理するシステムエンジニアが優秀じゃないと、ラグは発生するし接続障害などが起きやすくなってしまう。

 もちろんひとりのスタッフが24時間体制で見るわけにはいかないので、交代制の勤務、時間や勤務日数といった勤務形態を労働基準監督署に提出し、それでサーバーを維持しているそうだ。そういったサーバーに対する観点も大事なのだと、橋本氏は語った。

 なおゲームでいうと、シェア率は日本よりも欧米のほうが圧倒的に多い。ワールドワイド展開をすれば当然儲かるので、やるのならば、そのぶん英語対応も必要だという。コンテンツ内のテキストローカライズはもちろんのこと、各スタッフのやり取りやサポートなども多言語対応が必要とのこと

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析

 講演の終盤では、グローバル展開の重要性を橋本氏が語る。家庭用ゲームの場合、世界的シェアは日本・アジアだけでわずか15%。ただし海外のほうが税金などがより掛かるので、ひとつあたりの利益は下がっていくという。今後はさらにゲームの多言語リリースが重要だという。

 そんな最中、映画もゲームも日本発のゲームが大ヒットを飛ばしている。日本のモノづくりのクオリティーが高いという証拠だとして、講演を聞いていた学生たちに「とにかく学生時代の時間は本当に大事です」とアドバイスを送りつつ、講演は終了となった。

橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
ちなみに、海外展開の参考として、海外イベントを回った橋本氏の所感なども語られた。
橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
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橋本真司氏が、新潟の専門職大学にて講演。クリエイターを目指す若者向けに、これまでの経験を語りつつ、今後の業界を分析
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