これがとにかく“深い”のだ。でも端々の演出が軽妙なため遊びやすく、いつの間にかのめり込んでしまう。発売から1年以上経ったゲームではあるが、あらためて語らせてほしい。
舞台は昭和後期、東京都墨田区、本所。ことの発端は、とあるオカルト雑誌で騒がれていた“蘇りの秘術”と呼ばれる眉唾ものの伝説が実在していたことにあった。
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それは江戸時代より伝わる、呪術を使った殺し合い。誰かを呪い殺すことで溜まる“滓魂”を一定量集めることで、死者を蘇らせることができるというものであった。
儀式の参加者は、特定の時間を“本所七不思議”ゆかりの地で過ごしていた人物から選ばれる。七不思議をモチーフにした呪術を与えられた彼らは“呪主(かしりぬし)”と呼ばれ、それぞれ一定の条件を満たした者を念じるだけで呪い殺せるようになる。
人を呪い殺す力を手に入れた。そして呪い殺し続ければ、好きな人物をひとり蘇らせることができる。
「誰かを犠牲にしてでも蘇らせたい人はいるか」
呪主たちはそんな問いかけに対し、それぞれの答えを持ちながら、蘇りの秘術へと関わっていくことになる。
そこには、誰かの命を犠牲にしてでも大切な息子を蘇らせようとする親の姿があった。
そこには、誰の犠牲も許さない、信念に燃える警察官の姿があった。
そこには、都合のいい夢を見て、友人に起こった“間違い”を正そうとする少女の姿があった。
アドベンチャーゲームとしての演出が優れているという声がある。キャラクターが魅力的だという声がある。ストーリーがおもしろいという声もある。それはきっと正しい。
ではなぜそういった魅力が生まれているかというと、登場人物たちが“生と死”という生物の根幹とも言うべき重いテーマに向き合っているからだ。これは想いが複雑に絡み合う群像劇。物語のジャンルとしてはありふれたものかもしれないが、だからこそ芯に響く。それが『パラノマサイト』であると、筆者は思う。
重いテーマなのにどこか軽い。するりと読める絶妙な緩急
軸となるキャラクターは多くが呪主であり、彼らがどういった思いを抱きながら行動しているのかを、それぞれの視点からダイレクトに味わえる。
各呪主が抱える強い“思い”を特等席で体験できるからこそ、『パラノマサイト』をプレイしていると、ついついキャラクターたちに惹き込まれてしまう。
とくに筆者が強烈にのめり込んでしまったのが、志岐間春恵(しぎま はるえ)だ。
彼女は数年前の誘拐事件で最愛の息子を亡くしている。過去の事件にはいろいろと思うところがあるようで、春恵はこの一件以降ふさぎ込むようになってしまった。これが蘇りの秘術争奪戦へ参加する動機にもつながっており、滓魂を集めることにも積極的な考えを持つ呪主だ。
母親が、亡くなった息子を蘇らせるために行動を起こす。理由は(こう言い切ってしまうのもよろしくかもしれないが)じつにシンプルである。志岐間春恵編の物語をプレイしていると、彼女の心理に少しずつ近づいていくことになる。蘇りの秘術という存在が、どれだけ春恵にとって救いだったのか。
彼女の視点に立ち、軽く周囲を見渡してみる。ただそれだけで、考え方のみならず、生い立ちや家庭内での立ち位置、息子との関係など、画面上に流れるあらゆる情報が志岐間春恵という人物を雄弁に語り出す。
母親だからなんて普遍的な答えではなく、“この人生を歩んできた人間だからこそ、息子を蘇らせることに固執しているのだ”と強く実感させられる。
キャラクターに血が通っている。そんな表現は陳腐だろうか。だが、たしかにその瞬間を感じ取れるようなキャラクター造形の妙が、『パラノマサイト』にはある。
命のやり取りが行われる儀式に、重い理由を主観視点で伝える群像劇&ザッピングというゲームシステム。こう聞くと難しい作品に思えるかもしれないが、実際プレイしてみると、案外そうではない。むしろ全体の流れとしては、すごく読みやすくするすると進んでいくような印象だ。
それはなぜか。各呪主たちと行動をともにするバディたちの存在が大きいのだと思う。バディ、つまり相棒だ。本作ではキャラクターの多くはふたりひと組で行動する。
たとえば先ほどの志岐間春恵でいうと、上の画像の櫂利飛太(かい りひた)がそのバディにあたる。白シャツとパンタロン、パーマをかけた長髪、格闘技の大会で優勝したかのような大きなバックル付きベルト。昭和後期という時代設定を考えるといささかハイカラすぎる人物だ(こういうファッションが流行ったのは昭和40年代頃)。
職業は探偵。志岐間春恵から息子が死亡した誘拐事件の追加捜査を依頼されたという関係だ。
外見からも何となくわかると思うが、彼はかなりコメディ寄りの役割を担当することが多い。明らかに目立つ見た目で尾行したり、公園の遊具で全力で遊んだり、自身のことをプロタン(プロの探偵)と呼んでみたり、とにかく変なやつである。
春恵も春恵で箱入りお嬢様だからか、利飛太の奇行にとくに突っ込むこともなく、すんなりと行動を合わせていたり、観察していたりする。さらには春恵自身の思考からどこか天然っぽい雰囲気が感じられることもあり、ふたりが揃っているときのテキストには、くすりとさせられる部分が多い。
心を許した相手だから張り詰めた空気が和らぐほか、相棒との会話は状況の整理にも有効だ。話が複雑になりすぎると感情移入しにくいが、その問題もスムーズに解消できる。
そんな掛け合いがあることで、雰囲気の重さが中和されるどころか、むしろ軽く読み進められる。筆者が本作をクリアーした際は、ぶっ通し(10時間ほど)でプレイしていたのだが、プレイ中に“読み疲れ”は感じなかった。それだけプレイヤーに負担を与えない表現方法なのだろう。
軽妙な雰囲気があるからこそ、シリアスな展開がより際立つ。作品全体を通して緩急の仕込み方が絶妙で、読み進める手を止めさせてくれない。
ちなみに、おとぼけキャラみたいに紹介した利飛太は、シリアスな場面での決め方がすごく絵になる男だ。探偵としては超がつくほどに有能であり、そのギャップにまたくらりときてしまう。
先ほど「ぶっ通し10時間ほどでクリアーした」という話をした通り、本作のストーリーは少し短め。じっくり遊んで15時間といったところだろうか。とはいえ、1980円[税込]という価格を考えると、十分なボリュームと言えるはず。
ドラマの流れがスピーディーなので妙な引っかかりを感じることはなく、それでいて“生と死”というズシッとしたテーマが根底を支えている。呪主たちの人生に引き込まれ、クリアーとともに開放されたときの充足感はかなりのものだ。
そんな本作は先日の2024年3月9日に発売から1周年を迎えたばかり。この呪い呪われる本所での一件がどういった結末を迎えるのか、ぜひ自分の目でたしかめてほしい。
詳しいことは省くが……本作は絶対に“自分でプレイしたほうがいい”作品であることだけはお伝えさせていただこう。できれば、できれば動画などではなく、自身の体験として味わってほしい……というのが、いちユーザー、いちファンからの願いだ。
開発スタッフ・商品情報
- ディレクター/シナリオ:石山貴也
- 代表作:『スクールガールストライカーズ』『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズなど(※And Joy作品)
- キャラクターデザイン:小林元
- 代表作:『スクールガールストライカーズ』『すばらしきこのせかい』シリーズなど
- サウンドコンポーザー:岩崎 英則(※)
- 代表作:『FINAL FANTASY クリスタルクロニクル』『FRONT MISSION4』など
【商品情報】
- プラットフォーム:Nintendo Switch、Steam、iOS、Android(いずれもダウンロード販売のみ)
- ジャンル:ホラーミステリーアドベンチャー
- プレイ人数:1人
- 発売日:2023年3月9日(木)
- 希望小売価格:1980円[税込]
- iOS、Android版は1900円[税込]
- CERO:D(17才以上対象)