ロゴジャック広告

『リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー』完成記念インタビュー。魂を少し危険にさらしたかもしれないくらい血と汗と涙を注ぎ込んだ

by古屋陽一

byありみち

更新
『リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー』完成記念インタビュー。魂を少し危険にさらしたかもしれないくらい血と汗と涙を注ぎ込んだ
 本日(2024年5月16日)、コーラス・ワールドワイドよりNintendo Switch、プレイステーション5、Xbox One、PC向けに『リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー』が発売された(Nintendo Switch版とプレイステーション5版は7月4日にパッケージ版が発売予定)。

 本作は、最先端のニューテクノロジーを持つ企業ミネルヴァに所属するエージェントであるES88として、人々の記憶から得た情報を頼りに、相棒の人工生命体ニューロダイバーや用心棒のサイボーグ・ゲイトといっしょに、超能力犯罪が起こした事件を解決していくアドベンチャー。好評を博した前作『2064:リードオンリーメモリーズ』から5年後の物語が描かれる。とはいっても、物語に直接的なつながりはないので、本作からプレイしても楽しめる。

 『リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー』の発売を記念して、開発を手掛けるMidBossクリエイティブディレクターのジョン・ジェームス氏へのインタビューをお届けしよう。
広告
[IMAGE]

John Jamesジョン・ジェームス

MidBoss『リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー』クリエイティブディレクター

このゲームが皆さんの心に残ることを願っています

――2018年からスタートした『リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー』の開発ですが、完成しての率直な感想を聞かせてください。

JJ
 もっと予算があればよかったのですが(笑)。しかし、最初に掲げた野心的なスケジュールを無視すれば、ここまでの時間はよかったと思います。もしその予算があれば、開発の終盤に助っ人を入れて、スケジュールを短くできていたかもしれません。

 とはいえ、
『ニューロダイバー』の出来には満足しています。開発ビルドでテストをしていたとき、機能を確認するために、ただテキストを読み進めるのではなく、気づいたらゲームを楽しんでいました。デモ版の『パイロットメモリー』でも、ゲーム本編でもそうでしたし、自分たちが開発しているゲームを仕事以外の時間でも楽しくプレイできたら、自分たちのやっていることは正しいってことなんじゃないかと思います。

 このゲームには、自分だけではなく、チーム全員の愛情が込められています。
『ニューロダイバー』で提示している多くのテーマやスタイルについては、私たち全員がそれぞれの”マニア”なので、それぞれの視点からゲームに味付けが加えられています。

――6年かかることはジョンさんにとって想定通りだったのでしょうか。それとも想定以外の事態に見舞われたりしたのでしょうか。

JJ
 想定通りではなかったですね。たくさんのことをやるために掛ける時間に対して、ちょっと野心的になり過ぎていました。前作の『2064:リードオンリーメモリーズ』よりもゲームのボリュームとしては短いのですが、アニメーション、アート、ストーリーは、チーム全員が満足できるように、前作より遥かに多くの時間をかけて仕上げました。

[IMAGE]
――開発でいちばん苦労したところを教えてください。
JJ
 最初に思い浮かぶのは、音声収録が必要なセリフをできるだけ早く確定させることでした。リードライターのサム・オルティスとエディターのジョリー・メンゼルにとっては、シーナ・グレイス(短編コミック版の脚本家)から提供されたオリジナルのスクリプトを読んで、それをゲームに使えるようにするのはたいへんな作業でした。サムはさらに、そのスクリプトをボイスディレクターのマヌエラ・マラサーニャのために台本用に変換しなくてはいけなく、これも重要でたいへんな仕事でした。

 その後、2023年に入ってからの大部分は、自分がボイスファイルを管理して、セリフに欠落がないことを確認する作業にほとんどの時間を費やしました。もし欠落している音声があれば、収録済みの音声を編集したり、修正したりしなければならなくて、それは本当にストレスの溜まる作業でした。とはいえ、最終的にボイスの出来はとてもよかったので、いまではその苦労も気にならないくらいです。

――2020年からコロナ禍に見舞われたりと、世界的にたいへんな状況になりましたが、ゲーム開発において意識的に変わった部分などありましたか?

JJ
 私たちのほとんどは、パンデミックが起こる前からすでにリモートワークをしていましたが、だからといって負担がなかったわけではありません。ワクチンが足りなく、ふつうにどこかにいることすらできないという状況に、信じられないくらい疲弊して、ストレスを感じていました。心の中を整理して、気が散らないようにするために、自分はよく喫茶店に行っていましたが、2022年まではそれもほとんどできなかったですし。

 2020年の夏には、北米でたくさんの森林火災が発生し、さらに混沌としていました。空が数日間真紅に染まって、その後の数週間は息をするのも恐ろしいほどでした。どこにも出かけられない上に、窓を開けて新鮮な空気を部屋に入れることもできなかったんです。無気力な状態から抜け出すのには本当に苦労しました。

――ちなみに、コロナ禍などの影響によって、本作の舞台となったサンフランシスコは相当治安が悪くなったと聞きます。そういった現実の状況が世界観設定などにもたらした影響はありますか?

JJ
 実際はそうでもなく、サンフランシスコの治安が悪化しているというニュースは、誇張されていると思っています。2023年も今年も、GDCの期間中にダウンタウンをぶらぶらしてみても、ベイエリアに引っ越して来て以来、いつもと何ら変わっていないように感じました。前作の『2064:リードオンリーメモリーズ』を開発していたころによくぶらついたダウンタウン以外の古いエリアも、営業時間が変わったり、内装のデザインが変わったりした以外は、ほとんど何も変わっていませんでした。

[IMAGE]
――2020年にお答えいただいたインタビューでは、「注力したポイント」や「本作のテーマ」などをうかがっていますが、そこから気持ち的に変わったことはありますか?
JJ
 とくにはないですね。そのころからずっと同じです。スクリプトや登場人物の状況、とくに仕事と生活の関係に入り込んだものとか、追加されたテーマはありますが、過去と現在の物事との関係を形作る記憶や、長引く不安に焦点を当てた物語であることに変わりありません。

――そのときは『パプリカ』と『カイバ』の影響を受けたと語られていてとても印象的だったのですが、それ以降、「こんな作品にもインスパイアされた」といったものはありますか?

JJ
 それからはとくに変わっていないですね。少なくともいまのところは。しかし、ゲームの各章を通して、ES88の夢には彼女の好きな漫画、マジカルコマンダー・ユキノに関連するものが出てくるという、継続的なテーマがあるのですが、このマジカルコマンダーというキャラクターのアイディアを描いていたとき、最初に考えたのは、『スペースコブラ』、『キャプテンハーロック』、『クイーン・エメラルダス』、それに『白眉魎呼』も混ぜてみようということでした。宇宙海賊が好きなんです。

 パンデミックの後半には、PC-8801や9801のゲームをたくさんプレイして、コンパイルのディスクステーションのシリーズにもハマりました。どれも
『ニューロダイバー』には影響を与えませんでしたが、自分が前に進むための励みになりました。とくに『るんるんあっぷるん』と『レディボノ』には感銘を受けました。それ以外では、PC-98の『エキサイティングみるく』や、PCエンジンの『銀河お嬢様伝説ユナ』も大好きです。とてもシンプルなんですが、制御不能な演出と魅力に圧倒された、信じられないようなゲームです。『ニューロダイバー』を完成させないと!と思わせてくれました。

[IMAGE]
――同じく2020年のインタビューでは、『2064:リードオンリーメモリーズ』からのUIの変更についても語っていただいていますが、その方針はそれ以降変わっていない感じですか?
JJ
 そこも変わっていないですね。2020年に予定していたものと比べると、画面下部のボタンの数は減りましたが、ほかはヒントボタンとゲイトのポートレートの更新を除くと、2021年にパイロットメモリーのデモ版を出したときから変わっていません。

――前回のインタビューでは主人公のES88についても伺いました。完成したいま、ES88はどのようなキャラクターになったのでしょうか? 魅力っぷりは目標通りですか?

JJ
 それは目標通りです。彼女に加わった声(英語ですが)は、ES88の個性を見事に表現していると思います。デイジー・ゲバラは、彼女の声でES88に命を吹き込んでくれて、こんなにうれしいことはありません。それに、ES88がキャラクターとして、とくに『ニューロダイバー』の主人公としてのキャラクターになってくれたことはとてもうれしいです。

[IMAGE]
――ニューロダイバーは、イカやアノマロカリスのような見た目ですが、造形に際してこだわったポイントを教えてください。
JJ
 ニューロダイバーのデザインと遺伝子構造は、イカとオウムガイとイルカの中間のようなものです。まず、人をつかむことに重点を置いて、5本の触手を手の形にしました。対象物をつかんだり、物を操作したりできるように。尻尾の先端には小さな吸盤が付いていて、尻尾をエスパーに巻き付けて素肌に吸着できます。ニューロダイバーは、人をガッカリさせるような見た目でも、妙なかわいらしさを持たせたかったのです。

[IMAGE]
――ニューロダイバーとES88との会話は言語として成立しているのですか? それとも思念のようなイメージを送り合っているのでしょうか。
JJ
 ニューロダイバー自身は、リズミカルな、ゴロゴロ鳴くような声で人とコミュニケーションを取れますが(ゲーム中ではその声を聞くことができます)、絆で結ばれたエスパーとのあいだでは、より精神的なつながりを持っています。言語はなくても、純粋な思考によって解釈される感情や意思を、エスパーとやり取りすることができるのです。

――湿った猫のエサが主食、というアイデアがかわいいです。何か意図があれば教えてください。それとも偶然の産物ですか?

JJ
 もともとはキャットフードを使った大きな計画があったのですが、最終的にゲームにはまったく出てこなくなりました(笑)。しかし、キャットフードのアイデアはいまでも好きです。キャットフードは、かわいいけど、少し気持ち悪い感じもあるのがよいのです。ニューロダイバーがウェットなキャットフードを好むようにして、ES88は、フィーリングやそのほかの感覚を通してニューロダイバーと絆を深めているから、ダイブの後遺症として、ウェットなキャットフードの味がES88の口の中に広がって、それを嫌がったりするとか。このディテールはゲーム本編には入らなかったですが(笑)。

――最後に、『ニューロダイバー』を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。

JJ
 私たちは、血と汗と涙を『ニューロダイバー』に注ぎ込んで来ました。魂を少し危険にさらしたかもしれないくらい。このゲームは謙虚で誠実で、自分自身のためのものであると同時に、皆さんのためのものでもあります。そして、過去の日本のアドベンチャーゲームへのラブレターであって、私たちが愛するゲーム以外のメディアにも少し触れています。このゲームをプレイしてくれた皆さんが、私たちが用意したキャラクターや世界を評価してくれて、私たちと同じようにこのゲームが心に残ることを願っています。

      この記事を共有

      本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

      週刊ファミ通
      購入する
      電子版を購入