2大格闘ゲーム 奇跡のコラボの背景
6年ぶりのナンバリングタイトルとして登場するコーエーテクモゲームスの『デッド オア アライブ 5』(以下、『DOA5』)。同作には、3D格闘ゲームの祖と言えるセガの『バーチャファイター』(以下『VF』)シリーズ最新作『VF5』とのコラボレーションにより、アキラとサラが参戦することが判明している。ここでは、6月某日、両作のキーパーソンによる対談をお届けしよう。
※本インタビューは、週刊ファミ通7月12日号(2012年6月28日発売)に掲載されているものに、掲載しきれなかった要素を追加したものになります。
Team NINJA
『デッド オア アライブ5』
プロデューサー
早矢仕洋介氏
Yosuke Hayashi
ディレクター
新堀洋平氏
Yohei Shimbori
開発統括本部
第二研究開発本部
スペシャリスト
片桐大智氏
Daichi Katagiri
第二研究開発本部
アシスタントチーム
マネージャー
羽田隆之氏
Takayuki Haneda
『VF』の開発チームを見続けて、その背中を追っていた『DOA』チーム
――まずは、今回のコラボレーションのキッカケからうかがえますか?
早矢仕洋介氏(以下、早矢仕) 昨年、ニンテンドー3DSで『DOA ディメンションズ』を発売しましたが、同作は“格闘ゲーム”というものをもう一度見つめなおしてみようという意図のもと、『DOA』シリーズの総括、というスタンスで制作しました。『DOA5』は、新たなシリーズの始まり、再始動という位置づけです。その新しい『DOA』最新作に何らかのインパクト、もしくは“華”が欲しかったんですね。
――そこで『VF』のとのコラボが浮かんだと。
早矢仕 はい。そもそも『DOA』は『VF』があったからこそ生まれたタイトルで、つねに『VF』シリーズは意識する存在でしたし、目標にしていました。そこで、『DOA5』を制作するにあたって、企画書と実験映像を持って、セガさんに挨拶にうかがって、その場で「もしよければ、(『VF』のキャラクターに)登場してほしいんです」とお願いしたのが最初です。
――それを受けて、片桐さんのほうでは?
片桐大智氏(以下、片桐) まず、最初に今回の『DOA』はエンターテインメント路線を追求するというコンセプトをうかがって、サンプルを拝見していたら、「『VF』のキャラクターをゲストに出したい」という話を突然もらって、びっくりしましたね。
――それはいつごろのお話ですか?
早矢仕 2011年の春くらいでしょうか。
片桐 発売は2012年を予定されているというお話だったので、すぐに話しをまとめないとマズいですよね、と話をした記憶があります(笑)。
――『DOA』チームは『VF』を、一方で『VF』チームは『DOA』をこれまでどう見ていたかをうかがえますか?
早矢仕 私が入社前の話ですが、『DOA』はそもそもセガさんからMODEL2の基板をお借りして制作した歴史があるんです。そのころセガさんのほうでは、その次の世代の基板であるMODEL3基板で『VF3』をリリースされていました。我々が2002年にXboxで『DOA3』を出すころには、セガさんは『VF4』をリリースされて。つねにナンバリングの数字が追いつけなかったんです。
一同 (笑)。
早矢仕 当時稼働していた『VF4』では膝下まで雪が積もったステージがあったんですけれど、『DOA3』では「もっと雪を積もらせよう」と(笑)。
――張り合っていたわけですね(笑)。
早矢仕 はい(笑)。『VF5』のロケテをスタッフたちで見に行ったときは、ルチャ・リブレスタイルのエル・ブレイズを見て、今度は「あのキャラクターを超えよう」と。
一同 (爆笑)。
新堀洋平氏(以下、新堀) そのとき『DOA4』でもすでにルチャ・リブレのキャラクター(ラ・マリポーサ)を作っていたころで、エル・ブレイズを見て「あの動きは本物だ!!」と興奮していたことを覚えています。
早矢仕 要するに『VF』は親で、『DOA』は子という関係だと勝手に思っていました。ナンバリングではつねに『VF』のほうが先行していたんですけど、『5』で初めて並ぶことができ、その『5』どうしでコラボレーションしてもらえるというのは、感慨無量です。
――『VF』側から見た『DOA』はいかがです?
片桐 『DOA』を最初に見たときは、「揺れとるな~」という印象だったんですけど(笑)。プレイしてみると、攻守の切り替えが独特で、デンジャーゾーンというオリジナルの要素もおもしろく、全体的には、“独自の進化を遂げているシリーズ”といった印象です。
羽田隆之氏(以下、羽田) 私は、過去に週刊ファミ通で、恐れ多くもゲームに点数を付ける、などという役割を担当をしておりまして、たいへんご無礼なことをしてしまったかもしれませんが……。
一同 爆笑。
羽田 『VF』と同じく8方向プラス3ボタンという操作系ですが、ホールドという要素で三すくみを成立させているという点は合理的だな、と思って、そのことを文章にした記憶はあります。『DOA』はその後、『DOA エクストリーム ビーチバレーボール』 など、女性キャラクターをフィーチャーした路線などに広がって、『VF』とは方向性が違うもの、といった印象でしたね。
早矢仕 『DOA エクストリーム ビーチバレーボール』もじつは、AM2研さんの『ビーチスパイカーズ』の影響があったんです。
片桐 あ、そうなんですか!?
早矢仕 そういう意味では、我々は『VF』を含め、その開発チームを見続けて、その背中を追っていた、ということも言えると思います。『DOA エクストリーム ビーチバレーボール』も『ビーチスパイカーズ』がなければもしかしたら存在しなかったかもしれないですし。
片桐 そう考えると、開発チームの“色”が出ていてなんだかおもしいですよね。
『デッド オア アライブ』シリーズ ナンバリング作品の歴史
・デッド オア アライブ/1996年10月稼動
・デッド オア アライブ 2/1999年11月稼働
・デッド オア アライブ 3/2002年2月22日発売(Xbox)
・デッド オア アライブ 4/2005年12月29日発売(Xbox 360)
・デッド オア アライブ 5/2012年9月27日発売予定(PS3・Xbox 360)
※『デッド オア アライブ 3』移行は家庭用ゲームでの発売。
『バーチャファイター』シリーズ ナンバリング作品の歴史
・バーチャファイター/1993年12月稼働
・バーチャファイター2/1994年11月稼働
・バーチャファイター3/1996年9月稼働
・バーチャファイター4/2001年8月稼働
・バーチャファイター5/2006年7月稼働(※)
※『バーチャファイター5』の最終形と言える『バーチャファイター5 ファイナルショーダウン』は、現在、PlayStation StoreとXbox LIVEアーケードで配信中。
『VF5』であって『DOA5』といった不思議な感覚
――『VF』からアキラとサラが『DOA5』に参戦することが明らかにされていますが、このふたりをチョイスした理由をうかがえますか?
早矢仕 どのキャラクターに出てもらいたいか開発チーム内で議論すると、本当にさまざまな意見が出ました。ただ、私としては、初代『VF』から登場していて、同シリーズの歴史を背負っているキャラクターに出てほしい、という気持ちがありました。その中で男女それぞれで“"顔”になるキャラクターということで、アキラとサラをリクエストさせていただきました。このチョイスには『VF』ユーザーの方々にも納得していただけるとのではと思っています。
片桐 我々としても、理由をうかがうと「たしかにこのふたりだな」と納得しました。ただ、実際にコラボするとして、どういうふうに制作を進めるのかなという疑問はありました。たとえば、モデルデータをどうするのか。ゲーム性の違いもありますし。最終的には、こちらからいろいろデータをお渡しして、何度かやり取りして、『DOA5』に合うよう落とし込んでもらいました。いろいろチェックしていく中で、修正点を指摘すると、すぐに反映していただき、やり取りはスムーズにできました。
羽田 キャラクターのモデルを作ったデザイナーのこだわりなどをご指摘させていただいたり。
片桐 アキラも構えたときの手の位置や背中の角度などを微調整してもらいました。やはり、最初に目に映る構えたときの見た目が、『VF』と違っていたら、『VF』ユーザーの方に触ってもらえないと思いましたので。
新堀 サラに関しては、輪郭や眉毛、体のシルエットなど、子細にご指摘いただきました。“揺れかた”も含め(笑)。細かいんですけど、それで印象がガラリと変わる部分ばかりでしたので、とてもありがたかったですね。我々としても『DOA』にアレンジされた『VF』キャラを出したいのではなく、『VF』キャラそのものが乱入してきた感じを演出したかったので。効果音も似たものを使っています。
――見た目もそうですが、動きという点でもいろいろご苦労があったかと思うのですが。
羽田 そうですね。技を出す、という部分に関しては、各キャラのフレームデータをお渡しして再現してもらっています。ただ、『VF5』は技単位で分岐や例外処理がけっこうあって特殊なところが多いんです。たとえば、ひとつの技でも、ヒットしたかガードされたかで硬直時間が違ってくるんですけど、それも逐一対応していただいて。ですので、操作は『VF5』と同じ感覚でプレイできると思います。
片桐 無理やり再現すると逆に違和感が出る部分は調整を加えてもらっていますので、そのままの『VF5』のコピーではありませんが、1フレーム単位でのリクエストにも対応していただき、『VF5』ユーザーが違和感を感じないレベルに達していると思います。『VF5』で入るコンボもある程度違和感なく入っていますし、そのうえで、空中コンボには『DOA5』なりの味付けをしていただきました。その味付けも絶妙で、そのあたりのさじ加減はさすがだなと思いましたね。
新堀 『VF』キャラにはホールドのモーションがないので、どうしようかと思ったのですが、キャラが過去に使っていた技でホールドに使えそうな技をアレンジすることにしました。
羽田 たとえば、アキラだと『VF4』の獅子抱月や貼山靠、サラだとフロントスープレックス、フォーリンエンジェルスローなどですね。
――作り手側から、もっとも気を使ったところはどこでしょう?
新堀 『VF5』をプレイしている人が、「これは『VF5』じゃない!」と感じさせないようにするというのがいちばんの目標でした。『DOA5』の世界に『VF5』のキャラが入って、どうなるのか、という部分にこだわっています。
――現状、動いているものに関しては、セガさんからはお墨付きを得ている、と。
片桐 はい。『DOA5』の中で新しいアキラとサラがちゃんとできています。「あ、こういうこともできるんだ」というのは触ってもらって感じていただければ。いつもの感覚で操作できて、新しい発見もある。『VF5』であって、『DOA5』といった不思議な感覚です。やり甲斐もありますし、チェックのためにプレイしていても楽しいですよ、本当に。
――同じ格闘ゲームでもベースとなるものが異なるだけに、たとえば返し技で、この技をガードしたあと反撃ができるできない等の調整も難しいのでは?
新堀 硬直差もそうですけど、投げ抜けがあるかないかという部分が遊びの違いとしてもっとも大きいですね。
――『VF』キャラにも投げ抜けはない、と。
新堀 はい。『DOA』のキャラは『VF』キャラと比べると硬直差が大きいので、『VF』でガードすると投げが簡単に入ってしまうかもしれません。監修していただてようやく形になりましたが、これから最終調整です。ここからがたいへんかなと。アキラは単発技が多いのですが、その分ホールドも取られやすい。ひとつひとつの技を強くしすぎると、強すぎるキャラになります。ゲームとして遊べるレベルには仕上がっているので、もうひと踏ん張りです。
――『DOA5』の中で、『VF5』キャラどうしの対戦も実現するわけですよね?
新堀 E3に出展したとき、『VF5』キャラどうしの対戦を見たのですが、『VF5』っぽい戦いかただけれど、ホールドなどを駆使したシーンなどを見ると、『DOA5』のシステムがハマっているというか、しっくりきていて、『VF5』キャラが入ったことが、すごくいいプラス要素になったと実感がありました。
――ちなみに、『VF』キャラはアキラとサラ以外にも登場するんでしょうか?
早矢仕 それは……まだ秘密ということで(笑)。
――さきほど、『5』で並んだというお話がありましたが『VF6』で突き放す、という予定は?
片桐 どうでしょう(笑)。
羽田 仮に『VF6』というものがあるなら、『6』と呼ぶにふさわしい何かが入っていないと『6』とは呼べないでしょうけどね。
プレイした人の節目として心に残る作品に
――では、最後にこのゲームを期待しているユーザーにひと言ずついただけますか?
羽田 すごくいいものに仕上げていただいたな、と実感しています。どちらの作品のファンであっても満足できるものだと思いますので、安心してお楽しみいただければ。
片桐 『VF5』とは違った、別次元の深い遊びが楽しめると思います。初めての方も、手練れの方もご満足いただけるんじゃないでしょうか。
新堀 『DOA5』と『VF5』のキャラのどちらが強いのか、または『DOA5』と『VF5』のプレイヤーのどちらが強いのか、という単純な対立構造ではないですが、ある意味“異種格闘技戦”という側面を楽しんでいただけると思います。最後まで調整して、いいものに仕上げたいです。
早矢仕 いま冷静に振り返るとムチャなお願いをしたなと思いますが、結果的に物凄い化学反応が起きてくれました。『VF』シリーズを目標にしてきたTeam NINJAにとってもターニングポイントになる作品だと感じます。個人的に格闘ゲームのナンバリング作品は、人生の歴史の中でもすごく印象に残るものだと思うんです。「『2』をやってたころは、自分はああだったな」とか。「あの頃は誰々とよく対戦してたな」とか。『DOA5』もプレイした人の節目として心に残る作品になればうれしいですね。『VF5 ファイナルショーダウン』も配信用ソフトとして発売されたばかりです。『DOA5』と『VF5FS』で格闘ゲーム全体、もりあがっていきましょう!