監督が語る『おおかみこどもの雨と雪』
『時をかける少女』や『サマーウォーズ』などを手掛けた細田守監督の劇場アニメ最新作『おおかみこどもの雨と雪』。国内外の映画賞を席巻し、世界中から注目を集める細田監督の最新作は、“ひとりの女性が、恋愛・結婚・出産・子育てを通じて成長する姿”と“その子供たちが、誕生から自分の生きる道を見つけて自立する過程”の13年間を描いた作品となっている。監督がどのような思いで、このテーマを掲げたのか、ファミ通.comではインタビューを敢行。作品の内容について語ってもらった。また、ファミ通.comらしく、ゲームの話も伺ったので、ぜひチェックしてほしい。
■おおかみこどもの雨と雪
2012年7月21日より全国ロードショー
“子育て”というテーマ
――今回、『おおかみこどもの雨と雪』では、13年間という月日を1本の映画の中で描かれていて、人生が凝縮されていてすごいな、と感じました。
細田守氏(以下、細田) あまりないですよね(笑)。映画としては、珍しい形ではないかと思います。たとえば、僕が前に作品を作らせてもらったときは、だいたい1週間ぐらいの話でした。『時をかける少女』は1週間ぐらいの期間を行ったり来たりして、『サマーウォーズ』はだいたい3日ぐらい。それが、今回13年ですからね。最初は“子育て”の話を作ろうと思ったんです。僕自身には子どもはいないんですけれど、子育てっておもしろいんじゃないかと思って。それでテーマを子育てにしてみたはいいものの、子育ての終わりっていつだろうということにぶち当たりまして。子育てのお話を“最初から最後まで”描こうと考えると、高校を出るまで? 大学を出るまで? 就職するまで? 結婚するまで? って、人によって違うんですよね(笑)。そういう区切りを考えると、長い期間の話になるだろうな、と思いました。そのうちに、親離れ、独立まで含めてというのが子育てなんじゃないかな、と考えまして。その結果、こんな長い映画を作ることになったんです(笑)。
――そもそもテーマを“子育て”にしようと思ったきっかけというのは?
細田 いままで僕は子育てにまったく興味がなかったんです。心のどこかで、「これだけ人口がいるんだから、子どもが生まれるなんて簡単な話なんじゃないかな」と思っていたところがあって。「じゃなきゃ、こんなに人口いないよ」と思っていたんです。ところがね、僕自身、結婚したあとに気づいたんです。結婚しただけじゃ子どもってできないんだなって。“結婚しただけじゃ”って変ですけど(笑)。いま、東京などの都会で子どもを育てている方々、とくにお母さん方のたいへんな話をよく聞くと、仕事をしたいけど預けるところがない。でも、仕事しないと食べていけない。子育てをしながら仕事ができる環境が整っていないとかね。そういうたいへんな問題がある中で、それでもがんばって子育てをしている人がすごくかっこいいなと感じたんですよ。そのかっこよさを映画にできないかなって。
――なるほど。それこそ、生活保護などといった話にもつながることですよね。
細田 たとえば、公的保護みたいな………………なんかこんな固い話でいいんですかね?(笑) 社会問題的な(笑)。
――ちょっとゲーム情報サイトっぽくなかったですね(笑)。
細田 もっと育成ゲームと絡めてしゃべったほうがいいですかね?(笑)
――いやいや(笑)。お気遣いなく。
細田 (笑)。今回映画を作るに当たって取材をしたのですが、公的な支援というか、子どもを育てるために安心できる制度というものが不足していたり、なかなかたいへんな状況であるということが改めてわかりました。でも、都会で子どもが育てづらいというけれど、じゃあ田舎だったら育てやすいのかというと、田舎の夫婦は田舎の夫婦で、いろんな問題を抱えているわけです。高齢化の影響で周囲に若い夫婦の友だちがぜんぜんいなかったりするから、実家で暮らせばいいものを、わざわざ引っ越して小さいアパートを借りていたりするんですって。そうしないと、お母さんどうしの情報共有ができないんです。だから、どこもたいへんなんだなって。ただ、どこでも共通して言えるのは、お友だちだったり、近所の方々だったり、周囲の人たちの助けがあって子育てってできているんだなって。それは、自然にこの映画の中に入っていると思いますね。
――なるほど。今回映画を観させていただいて感じたのが、“おおかみこども”というのは、いわゆるファンタジーじゃないですか。お話としては。なのにすごく日常らしさに説得力があるな、と。
細田 ありがとうございます。
――それは、リアルな親子の関係というものが描かれているからなのかな、と。
細田 僕らはファミコンをやってきた世代ですよね。ファミコンをやってきた世代が、そろそろ子どもを作って、リアル育成ゲームをやるっていうか……(笑)。……いま、ふと思いついて、ゲームに関連付けてしゃべっているんですけれど(笑)。
――ありがとうございます(笑)。
細田 そのリアル育成ゲームを始めなきゃなという年齢になってきた。僕らは、“人生”をファミコンなどで学んできたわけですよ。古くは『ドラクエV』の、父と子、みたいなところから始まってね(笑)。そうしてアニメやゲームで人生を学んできた世代が、いよいよ実際にリアル育成をしなきゃいけないっていうときに、「自分はやっていけるんだろうか」と、なんとなく考えていたと思うんですよ。とくに20代ぐらいから。子どものころにファミコンをやって親に怒られていたけれど、自分は子どもを怒れる立場になれるんだろうか、みたいなね(笑)。攻略本はないですからね。
――最近だとよく聞くのが、子どもといっしょにゲームをやりますとか。アニメを観ますとか。親子の関係というのが変わってきて、子どもとの距離がすごく近くなった印象がありますよね。
細田 たしかにそうですよね。そういう意味で僕らが子どものときの親の態度と明らかに違いますよね。同じ楽しみを共有できる存在になってきていると思います。昔は、親というのは権力の象徴だったりしたと思うんです。親や学校から飛び出なきゃみたいな、そういう話とは違ってきていますよね。もっと親がリベラルというか、すごく理解があるようになってきた気がする。ただ、立場的には親は親なんですよ。友だちのように接していても、最終的には友だちにはなれない。いずれ、その子が友だちを作ってコミュニティーを広げていくと、親がついていけないような道に旅立っていくわけです。では、そういうときに親はどういう態度を取るべきなんだろうか、と。そういうところも作品の中で描いています。
音楽、そして配役へのこだわり
――今回、音楽とアニメーションの連動性も目を見張るものがありました。
細田 あまり聴き慣れない音楽だったでしょう。
――音楽に合わせて演技をしているというか、ピッタリ合わさっていて。まずどうやって作られているのかな、と不思議に思いました。
細田 今回、音楽に合わせて絵を作ったわけではなくて、すでに絵があるところに音楽を重ねてみたら、すごくピッタリ乗っかったんですよ。13年の時間を2時間弱で描くわけですから、もともとテンポよく進めなきゃいけないという課題があって。それが音楽と合わせるとものすごく軽やかになるというか、音楽を担当していただいた高木正勝さんが合わせてくださったのだと思います。そのおかげで、すごく気持ちよく、テンポの合う感じになったのではないか、と。それにしても、音楽の高木さんは、長編の映画音楽は今回が初めてだったのですが、初めてとは思えないこの堂々っぷりがすごいですよね(笑)。
――(笑)。今回、監督がエンディングテーマの作詞もされているんですよね。
細田 作詞というほどのことでもないです(笑)。一般的に、映画音楽と主題歌というものは、別にお願いすることが多いんですけれども、今回は映画の中のテーマ音楽がそのまま主題歌になってもいいんじゃないかな、ということを最初から言っていました。実際、音楽の打ち合わせをしている中で、誰ひとりとして、「エンディングテーマはどうしましょう?」ということを言い出さなかったんです。みんな、うっすら映画音楽のテーマ曲がそのまま主題歌になったらいいな、と思っていたようで。それで、テーマ曲にあわせてそのまま映画のプロットを縮めたようなものを乗っけてみたら意外に合うぞ、と。これもまたひとつ、最近ではひょっとしたら珍しいことかもしれませんよね。映画主題歌はすごく有名なミュージシャンの方が担当されることが多いですし、僕も『サマーウォーズ』で山下達郎さんにお願いしていますから。あのときは、「達郎さんがアニメ映画の音楽を!?」って興奮したんですけれど(笑)。今回は、もう少しテーマに深く寄り添ったものにしたくて、テーマ曲のメロディーがそのまま主題歌になるといいな、と。ただ、歌詞は本当にプロットそのままという感じなので、歌詞と言えるようなものではないです(笑)。
――いや、でもあのエンディング曲はホントに心を揺さぶられましたよ(笑)。
細田 あれは、アン・サリーさんの歌がすごいんですよ。
――それはたしかにありますね。ひと言めが来た瞬間に「うわ、これやばいな」って(笑)。
細田 それまでは(宮崎 ※“崎”は旧字)あおいさんの花というキャラクターの声があって、あおいさんの声というのは映画の主人公としての、母親の声になるわけです。そして、最後のスタッフロールになってアン・サリーさんの声が流れると、もっと普遍的な、いろんな人にとっての母の声のように聴こえてきますよね。それが恐ろしい説得力を持っているんですよ。
――いままさにお名前が出た宮崎あおいさんもそうなんですけれど、キャストの方へのこだわりというのは?
細田 今回、メインのほぼ全キャラクターをオーディションから始めたんですけれど、オーディションをやればやるほど、花という役はものすごく難しいんだ、と感じました。オーディションをした中で素敵な方が何人かいらっしゃったんですけれど、なかなか「この人だ!」と決めるまでには至らなくて。なんと言っても19歳から始まって、33歳までの13年間を演じるわけですから、19歳のほうに合わせればいいのか。33歳のほうに合わせるのか、しかも、物語の中で母親として成長していく……。すごく難しい役なんですよね。なかなかオーディションでこの人だと思える役者さんを見つけられない中で僕が考えたのは、20代後半ぐらいで子どもを育てたことがない人がいいな、ということでした。この映画の中でいっしょに子育てをして成長していってほしかったんです。すでに子育てを経験している状態から演じるのではなくてね。そう考えたときに、20代後半から30代前半の声優さん、女優さん、舞台俳優さんなど、あらゆる方の中で、この難しい役を演じられる実力のある方を検討してみたところ、数人に絞られたんです。そこからさらに、花というキャラクターは、むちゃくちゃ明るい元気印な人ではない、ということまで考慮したとき、あおいさんしかいないんじゃないかという考えになりました。
――オーディションでたくさんの方の演技を実際に見られて、その後に熟考したうえで、宮崎さんだったと。
細田 熟考しましたね。だから、キャストの並びだけ見ると、有名な方ばっかりという感じになっちゃったんですけれども、必ずしもそうではないんです。役の難しさと、映画の内容に応えてくださる方を考えていくと結果的に限られた人になっていきました。アニメの役でとくに20代後半から30代ぐらいの主人公ってほとんどいないと思うんですよね。せいぜい『攻殻機動隊』とかそれぐらいな気がする(笑)。だいたい主人公って10代でしょ? だから、10代を演じられる役者さんってすごく層が厚いんです。オーディションで探せば、誰も知らないおもしろい人材がたくさんいるんですよ。たとえば、かつての仲里衣紗みたいに。でも、20代後半から30代前半っていうと、なかなか未曾有の新人なんてのはいないわけで。しかも、ちゃんとその年齢感も出せて、アニメーションの業界の中でも珍しいポジションで役を演じられるという方は、ホントに限られたごくわずかの実力ある方のみということになります。だから、かえって選択肢がなかったぐらいですね。ほかに誰がいるんだ、と言いたいぐらいでした。
――ほかにも大沢たかおさんだったり、菅原文太さんだったりと、すごいメンバーが揃っていますよね。
細田 大沢さんや文太さんなんて、生半可なものには出ないようなイメージがありますからね(笑)。とくに文太さんなんか、この役をオファーした直後に俳優引退を表明されたので、「あ、お願いしたのに、もうやらないのか!」と思っていたら、なんとオーケーの返事をいただきまして(笑)。ひょっとしたら数ある作品の中から選ばれたのかなと思って、ちょっとうれしかったです。
――個人的には、子どもの演技とアニメーションの演技がすごくピッタリ合っていたなと感じました。とくに雪の幼いころなどは、すごく印象に残りました。
細田 これはねぇ、小さいころの雪役は大野百花さんというんですが、オーディションのときからハチャメチャにうまかったんですよ。オーディションでは、雪の子どものころといったらものすごく激戦で。もちろん、大きくなってからも激戦だったんですけれど。下は4歳ぐらいから、上は30歳ぐらいまで、さまざまな役者さんが雪の小さいときのオーディションにチャレンジしてくださったんですが、その中でも大野さんは、飛び抜けて雪にハマッているすごい役者さんだったんですよ。だいたいみんなかわいい美少女風に演じていたんですけれど、大野さんはちょっと違っていて。我々としても、バイタリティーというか、子どもの力強さみたいなものが欲しかったんですね。足とか腕とかガッと太くて、ダーッと裸足で駆けていくような力強さ、生命感みたいなものがある俳優さんがいいなと思っていたんです。ふたを開けてみれば、彼女がそれを存分にオーディションから発揮していて。アフレコのときも迫力がすごいんですよ(笑)。ホントに。作画もものすごく弾けたというか、ものすごくバイタリティーのある画面になっているんですけれど、ぜんぜんそれに負けない力強い演技をしてくれて、……幸運でしたね。彼女がオーディションに来てくれて本当によかったです(笑)。
――まさに逸材という感じですね。
細田 そうですね。いや、すごいです。
――過去の2作、『時をかける少女』、『サマーウォーズ』と比べたときの本作の見どころがありましたら。
細田 『時をかける少女』はある青春のひとコマというか、“青春のとある瞬間”について描いたものだったと思います。『サマーウォーズ』というのは自分の体験もあって、“結婚して親戚が増えるとどうなるか”を描いていて。その流れというわけではないんですけれど、その先に何が待っているのかというと、やっぱり子育てじゃないか、と。じつは、僕らのこれからの人生に待っているものは、意外とおもしろいものが多いんじゃないかってことを描ければと思いました。結婚にしても、子育てにしても。僕は映画を作るまでは、結婚ってなんかめんどくさいなーとか、厄介そうだなとか、子どもを育てるってものすごくしんどそうだなってホントに思っていたんです。自由を奪われるし、お金もかかるしね(笑)。でも、実際育てている人たちのお話を聞くと、すごく楽しそうで、充実しているようなところがあって。ひょっとしたら世の中っていうのは捨てたものじゃないんじゃないかって。いろいろおもしろいことがいっぱい待ってるんじゃないか。世界は自分が思っている以上にもっと広いというか、マップがもっと広いというか。裏世界があったりしてね(笑)。
――裏世界(笑)。
細田 そういうのがあるんじゃないかなって。僕らはついひとつの大陸の中だけでおもしろいものを捜しているんだけれど、じつは、もっとおもしろいステージがいっぱいあるんじゃないかと思うんですよね。めんどくさくて近寄ろうとしなかったことに、何かのきっかけで挑戦してみるとすごく楽しいと感じるかもしれない。そう考えると、これからワクワクするなぁって。ただ、そういうのを“リア充”と言うのかもしれないですけれど、リア充と言われるほど、子育てって甘いものじゃないんですよね(笑)。でも、一方で甘いものじゃない分、その先に本当の充実みたいなものがあるんだろうな、という憧れもあります。なので、ぜひ皆さんもこの映画で、マップの広さを感じていただいて(笑)、その先のおもしろさを感じていただければなと。
――ひとつ、同僚からどうしても聞いて欲しいと言われた質問があるんですけれど、『おおかみこどもの雨と雪』に出てくるオオカミは、絶滅したとされているニホンオオカミじゃないですか。これは同じく絶滅したというニホンカワウソではダメだったんですか? と(笑)。
細田 あっはっはっは(笑)。あ、でもね、ヤマネコで考えたことありましたよ、電車の中で(笑)。ヤマネコだったらどういう話になるのかなって考えたんですけれど、お父さんがヤマネコだったら、苦労を全部お母さんに押し付けられるんじゃないかって(笑)。
――ぜんぜん家に寄り付かないみたいな(笑)。
細田 絶対にお母さんが「くそぅ!」って思いながら子育てをするんじゃないかって。「あのネコぉ!」みたいな(笑)。それでは話にならんな、と。一方のオオカミは、群れを大切にするんですよね。オオカミって集団で行動するんです。リーダーとなるアルファというのがいて、アルファがちゃんと仕切って集団を統率する姿が、家族みたいだと思ったんですね。よく一匹狼という言葉がありますけど、一匹狼なんてことはありえないんですよね。
――つねにグループで行動する。
細田 そう。それが家族らしいし、その中のルールを守って、全体のことを考えながら生きていると思うと、すごく律儀な動物なのかなと思うんですね。
――そうすると、作品のテーマと合致した動物ということで、オオカミを選ばれた?
細田 そうですね。ホントにほかの動物だと合わないんです(笑)。
細田守監督とゲーム
――いまいろいろとお話を聞いていて、監督は相当ゲームがお好きなんだなと感じました。
細田 (笑)。中1のときぐらいかな? 友だちの家でマイコンで遊んだりしていましたね。高校ぐらいのときに従兄弟の家で朝までファミコンをやってたりとか。『ファミスタ』(※『プロ野球ファミリースタジアム』)とかね。もちろん、『ドラクエ』なんかもプレイしました。『ドラクエ』は『III』からやってますね。その後も『バイオ』(※『バイオハザード』)とかいろいろやってきたんですけれど、おそらくいちばんハマッて、いちばんお金を使ったのが『バーチャファイター』です。
――へぇー、意外ですね。最近『ファイナルショーダウン』という新作が配信されましたが、最近のものはプレイされているんですか?
細田 最近のはちょっとやれていないんですけれど、初代の『バーチャ』が好きだったんですよ。『バーチャ2』ぐらいまではとくにガッツリやっていたんですけれど、最初の『バーチャ』がすごい衝撃でしたね。
――それは3Dポリゴンのキャラクターという映像表現の部分で?
細田 そうですね。『バーチャレーシング』とか、ポリゴンのゲームが出始めたころから、「こりゃすげぇな」と感じていたんです。「すげぇ時代が来たぞ」みたいな。とくに僕らはアニメーターをやっていたので、『バーチャ』が出たときに、「これ、俺らはもうおまんま食い上げだ」と思ったんですよ。ものすごくリアルというか、実感のある動きをしていて、すごく自然で。ホントにうまいアニメーターの人が苦労して描いたようなものがリアルタイムで動いて、それでゲームができるわけでしょ。それを目撃した瞬間に「これは敵わないな」と思って、そこからハマり出して。延々ゲームやってました。ゲームの空いた時間に仕事をしていたようなもので(笑)。ずーっとゲーセンにいて、ゲーセンの閉店までいるんです。それでスタジオに戻ってくると、ずっと攻略本を片手に技の練習ですよ(笑)。それがひとしきり終わったあとの短い時間で仕事をするっていう。だから、仕事の手が早くなっちゃって(笑)。
――『バーチャ』をやるために(笑)。
細田 時間を確保するために(笑)。ヤバいですよね、ホントにね。
――当時はどのキャラクターを使われていたんですか。
細田 サラでしたね。なかなかほかのキャラクターは技が難しくて。
――アキラとか難しかったですもんね。
細田 アキラはすっごい難しい、ホントに。あと、ジャイアントスイングの……ウルフとか。それに比べて、サラはサマーソルトが出しやすくて。だから、技の入力がしやすいキャラになっちゃっていましたね。
――ジャッキー、サラあたりは比較的使いやすいですからね。
細田 そうなんですよね。ホントにずっとやっていましたね。多いときにはひと晩で、1万~2万使ってましたからね。貧乏なくせして(笑)。
――『サマーウォーズ』では、ニンテンドーDSのような端末が出てきたりとかもしていますよね。あの辺のゲームはやられているんですか?
細田 さすがに演出を担当するようになってからは、ゲームで遊び続けていたらアニメが完成しなくなってしまうのであまりやらなくなってしまいましたね(笑)、ただウチの奥さんがゲームをやっているのを横で見ています。『どうぶつの森』とか『トモダチコレクション』とか。『トモダチコレクション』では、僕のMiiがレディー・ガガと仲よくなっていましたね(笑)。だから、『サマーウォーズ』なんかは自分の『バーチャ』体験がじつはものすごく反映されています。そういえば『サマーウォーズ』の取材のときに、そういう話をほとんどしなかったような……。“監督にとって親戚とは?”みたいな話ばっかり聞かれて(笑)。
――任天堂の宮本茂さんが大学の先輩で、みたいなお話はどこかで見た記憶がありますね。
細田 じつはそうなんですよ。最初から宮本さんの作る世界というか、とくに任天堂のゲームが僕は好きなんです。小さい子と大人がいっしょに楽しめるんですよね。しかも、大人がかなりやり込められちゃうじゃないですか(笑)。『ファミスタ』とかぜんぜん勝てなくて。そういう、ものすごく幅の広い世界を楽しませる力がすごいな、と感じます。Wiiが出てきたときもそうでしたね。考えかたが、ゲーム業界とかそういうのではなくて、人生を包括するようなエンターテイメントの考えかたなんですよね。設計思想が違うというか。個々のゲームでは、『バイオ』とか『バーチャ』とかにガッツリはまっているくせに、思想としては任天堂の思想がやっぱりすごいと思って、憧れます。大きな思想を持ってエンターテイメントを作っているという部分にとても憧れますね。だから、すごくゲームから影響を受けていると思います。あまりそういう話は聞かれないですけどね。大学の先輩という以上に、宮本さんからは大きな影響を受けていると思います。何度か対談というか、お話をさせていただいたことがあるんですけれど、めちゃめちゃフレンドリーですもんね(笑)。歴史に残るような人物が、どうしてこんなに気軽に話しかけてくれるんだろう、みたいな。すでに生きる伝説みたいな方ですからね。
――任天堂のゲームは、ゲームをプレイしている人も、プレイしていない人も同じ土俵で楽しめるというのがすごいですよね。
細田 そこがおもしろいですよね。僕はニンテンドーDSを持っていないのに横で奥さんが遊んでいるのを見ているだけですごく楽しいっていう。昔からそうでしたよね。横で見ていても楽しいっていう。
――そうですよね。『スーパーマリオブラザーズ』をプレイしている人の横で見てるだけでも、いっしょに盛り上がれるみたいな。
細田 うんうん。あれはすごいな、と思いますね。マニアックな独自世界に突き進んだものにある、やってるものどうしの連帯みたいなものとは別の意味でね、任天堂というか、宮本さんの作っている世界はすごく巨大なものだな、と思いますよ。
――監督にとって、ゲームというのは、どんなものだとお考えですか?
細田 うーん。たぶん、自分はゲームからインスパイアされたものを映画にしている節はあるんですよ。だいたい僕、いちばん最初の監督作が『デジモンアドベンチャー』でしたから。あれはまさに簡易育成ゲームみたいなものでしたしね。そもそもゲームそのものが、ゲーム単独ではないと思うんですよ。さっきの映画の話ではないですけれど、世の中で体験するおもしろいことを無駄なく楽しめるものだと思うんです。たとえばゴルフをやるのに段取りってたいへんじゃないですか。まず、そこまで収入を持っていかなくちゃいけない(笑)。
――そこから(笑)。
細田 ゴルフバッグをふたつ入れられるクルマを買わなくちゃいけないとかね。たいへんでしょ(笑)。でも、ゲームってそこを飛ばして、おもしろいところだけを楽しめるでしょう。だから、ゲームはゲーム単体ではなくて、世の中のおもしろいものをエッセンスだけ無駄なく楽しめる世界だと思います。たとえばゴルフゲームなんかをやっていると、ゴルフ中継がすごく楽しく見られますよね。
――ああ、なるほど。たしかにそうですよね。自分のゲームでの体験も含めて、実際の競技などを楽しめるようになるところはあります。
細田 自分だったらこの風向きのときは、このクラブで打つな、とか(笑)。皆さんそうだと思うんですよね。自分自身の“広がり”になるというか。よく世間ではゲームをやっていると、「ゲームばっかやって」とか、狭い世界に生きているような言われかたをするけど、じつは世の中の広いことについて、ものすごく簡単に楽しめるものなんじゃないかと思います。それと同じ考えかたというと変ですけれど、自分の役割としては、世の中のおもしろいことを映画という形で表現したいな、と。でもその中にゲームのおもしろさを入れるというか。『サマーウォーズ』のときも、最後は花札勝負でしたけど、トランプや花札っていうのは、ゲームの究極というか、先祖返りというか。わりとプリミティブなところで勝敗をつけたいな、と思ったんですよね。任天堂がそもそも花札の会社だったりしますしね(笑)。
――監督の中でのゲームへのこだわりが、映画の作中にも如実に反映されているわけですね(笑)。まだまだ、ゲームの話をお伺いしたかったのですが、そろそろお時間ということで。最後にひと言読者の皆さんにメッセージをいただければ。
細田 この作品は、ジャンルで言えば、恋愛シミュレーションを経て、育成ゲームになったところです(笑)。この作品で、世の中にあるおもしろいことをみんなといっしょに共有して、楽しめればいいな、と思っています。『おおかみこどもの雨と雪』でポイントがあるとすれば、映画館に行かれるときに、男性でしたら誰か女の子を誘って、女性でしたら女性どうしで行くもよし、誰か気になる相手を誘って行かれると、ひょっとしたら映画が終わったあとご飯を食べているときに、何かいいことがあるかもしれないですね。これは断言しておきましょう(笑)。
――断言しちゃうんですね(笑)。
細田 断言しておきましょう!(笑) きっとね、ふたりで1800円×2だから3600円じゃないですか。3600円以上の価値があるんじゃないかと思います。だから、ぜひどなたか、誰もいなかったら妹とかでもいいんで。……でも、妹っていうのもいいかもしれませんね。兄弟・姉妹で観てもらうのもいいと思う。いっしょに観に行った人と仲よくなれると思います。親と行けば、親と仲よくなれるでしょうし。恋人どうしなら、もっと仲よくなれるでしょうし。そういう種類の映画のような気がするので、ぜひどなたかといっしょに観に行っていただけるといいかと思います。ゲーム仲間でもいいですよ!(笑) ぜひぜひ、お願いいたします。
■おおかみこどもの雨と雪
【スタッフ】
監督・脚本・原作:細田 守
脚本:奥寺佐渡子
キャラクターデザイン:貞本義行
音楽:高木正勝
主題歌:「おかあさんの唄」アン・サリー 高木正勝
企画・制作:スタジオ地図
【キャスト】
花:宮崎あおい
彼(おおかみおとこ):大沢たかお
雪(少女期):黒木 華
雨(少年期):西井幸人
雪(幼年期):大野百花
雨(幼年期):加部亜門
草平の母:林原めぐみ
細川:中村 正
山岡:大木民夫
韮崎のおばさん:片岡富枝
草平:平岡拓真
田辺先生:染谷将太
土肥の奥さん:谷村美月
堀田の奥さん:麻生久美子
韮崎:菅原文太