どこかで体験する機会があったら絶対に試そう!
あなたはOculus Riftをご存知だろうか? 3Dヘッドマウントディスプレイにモーションセンサーをくっつけたこのマシンは、頭の動きにゲーム画面のカメラを追従させることで、3D立体視+画面追従というかつてない没入感を与える。
これは画期的な体験だ。初めてレースゲームを遊んだ際にコーナリング時に体ごと動かしちゃったような経験は少なからずあると思うが、記者は去年の夏にテキサスでRiftを体験した際、あの感覚が完全にフラッシュバックした。しかも今度は体が動いても動いたのは自分だけなんてことがなく、ゲーム世界がちゃんと動くのだ!
それから約半年。Riftはサンフランシスコで行われたGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2013でも注目のデバイスとなっており、Riftが出展されていたほか、Valveが開催したRiftをはじめとするVRゲーミングについての連続講演には長蛇の列ができていた。
講演を行ったのはValveのMichael Abrash氏とJoe Ludwig氏。Abrash氏がVRゲームが必然的に抱えている現状の課題を、Ludwig氏がValveの『チームフォートレス2』をRiftに対応させた際にわかった問題点などを解説した。
Abrash氏は、Riftで『チームフォートレス2』を初めて体験した時に、その圧倒的な没入感に圧倒されたという。しかし一方で、それでもまだこの分野は初期段階であり、完全なVR世界を体験するには数年から10年単位の時間がかかるであろうと予測する。
中でも現状の課題として挙げたのが、トラッキング(頭の動きの追従)、レイテンシー(表示遅延)、そして現実に近い知覚刺激を行うという3つだ。VR世界ではプレイヤーの頭の動き(とても速い)に合わせてオブジェクトの相対位置を正しく高速に描き直し、あたかも現実世界が見えているかのように見せかけなければならない。
中でもAbrash氏が説明に時間をかけていたのが、ヘッドマウントディスプレイの構造上起こる表示遅延(ブレ)の問題だ。
表示遅延についてはフレームレートの問題などが想像つくが、完全な没入感という点ではRGB表示が同時ではなく順番に行われていることも問題で、頭の高速な動きを考えると色が意図したとおりにぴったり重ならない。これが脳には違和感として感じられてしまうのだという。いわく、人間が普通に頭を回転させれば、簡単に数百度/秒の速度が出るわけで、こういった動きが1フレームに2度あるような場合は、ずれがはっきりとカクカクした映像として知覚されるそう。
そこで重要なカギとして提示していたのが、1フレームあたりのピクセルを光らせる長さ(パーシスタンス)だ。通常は1フレーム中ずっと光らせるものだが、近年は調整が可能になってきているそうで、ハーフパーシスタンス(1/2フレームだけ点灯させる)、ゼロパーシスタンス(一瞬だけ点灯させる)ではそれなりにカクカク感を低減できるという。
「1/1000フレーム、1/2000フレームで制御できれば自然に見えるかもしれない」とAbrash氏が語ると会場からは笑いが起こったが、同氏は「それでも大丈夫かわからない」と続けた。ちなみに、現在の研究ではゼロパーシスタンスでは目が追っているオブジェクトについてはかなりの改善を見せたものの、眼球に対して相対的に移動していくものについては改善が見られなかったという。
一方、Ludwig氏の講演は、ゲーム画面の視野角を実際に近づけるべきとか、画面を覆うようなエフェクトは調整しないと混乱するとか、武器モデルが大きすぎて体の映り込みが発生すると(画面比率上)体が部分的に表示されてしまうので注意すべきといった、かなり実践に沿った内容。
ユーザーインターフェースを3D画面上でどういう奥行きに置くかというのは3D立体視でも重要な問題だが、VRゲーミングの場合は頭の動きもくわわるため、さらに見やすいように考慮する必要がある。ちなみに『チームフォートレス2』での現在の対応は、プレイヤーの視界の中央、10m先に描画しているとのこと。
また、プレイヤーのコントローラー入力も独自の配慮が必要だ。というのは、ゲームでは通常、視界変更をコントローラー入力で行うものだから。頭の動きとコントローラー操作をどう連動させるか/させないかというのが課題で、プレイヤーが期待したとおりに動かないと“VR酔い”を誘発することになる。
Ludwig氏の研究結果では頭を動かしてエイミングするのはキツいとのことだったが、実際、記者がQuakeConでRiftを使って『Doom 3』をプレイした際、コントローラーで視界変更+頭の動きでエイミング調整というのはちょっとキツかった。
そう、現状のVRは最初ちょっと酔う。FPS酔いや3D立体視酔いがあるんだから、それにヘッドトラッキングがついたら酔わないわけはない。
このVR酔いの観点では、ゲーム世界の水平を常に守ることと指摘していた。例えば頭を吹っ飛ばされた時、頭が転がっているのを示すために視界が回転するような描写があるが、あれはすさまじい酔いになるそう。『ポータル』だととんでもないことになりそうな気がするが……。
酔いやすい動き、酔いにくい動きというのもあるそうで、カメラの横移動は前移動に比べて酔うとか、ジャンプ中に下を見るとキツいとか、スカウト(『チームフォートレス2』のキャラクター)の速度で走ると酔うとか、階段を登ると酔うといったことがわかっているとのこと。
そのほかにも、FPS以外、たとえばクォータービューのゲームやTPSでどういう描写が適しているかも今後の課題だそうだ。
「じゃあ全然ダメじゃん」って思うかもしれないが、それでも記者はVRゲーミングをどこかで体験できたら絶対に体験してみるのをオススメしたい。VRゲーミングが広まるかどうかなんてことは抜きにして、ゲームを初めて触った時のような魔法のような感覚を取り戻し、『バイオショック インフィニット』(スカイフックのシーンは酔って吐くかもしれないが)の夢の様な空中都市を体験したり、『Dear Esther』の超然とした空間を歩けるとしたら、それ自体に次世代のゲーム体験にふさわしい価値があるのだから。