カリフォルニア州サンフランシスコ周辺のいわゆる“ベイエリア”には、さまざまなゲームスタジオやIT企業などがオフィスを連ねている。
超大型タイトルから、ほとんど個人製作のインディーゲームまでひしめくこの地域で働いている人は、どんなことを考えているのだろうか? 某月某日、現地で働く5人のクリエイターが中華料理屋に集まるというので、同席して話を聞いた。
なお、このインタビューシリーズの前作(なのか?)にあたる記事“海外で働く日本人クリエイターに聞く:欧米ゲーム開発シーンの変化って、実際どう感じますか?”同様、あくまで皆さんに個人的な考えを話してもらったものであり、所属するスタジオなどとは関係がないし、当地で一般的な考えとも限らないので、そこら辺はあしからず。
職人的ライティングの未来はどっちだ
菊地 どうやって専門的なライティングアーティストとしてスタジオに入ったんですか? ゲームデザイナーにはQA(※1)とか割とオーソドックスな入り口がありますけど、珍しいですよね。
瀬尾 日本人としてライティングだけというのは、今でも珍しいほうでしょうね。入った2004年頃は、映像業界からの人材をいっぱい入れて、もっとフォトリアリズム(※2)にグラフィックを向上させよう、次世代を目指してパイプライン(制作・処理の流れ)を構築してクオリティーの高いものを作ろうという風土があったんです。
そういった中でライティングも、より専門職として確立されていた映像業界から取ろうという流れがあって、僕が入る頃にはライティングのチームがもうできていました。僕は映像畑から入って、ゲームのライティングの方に立候補して加わることができたんですが、他だったら当時そんなポジション(役職)はほとんどありませんでしたね。
小保田 日本だと、ライティングは背景屋さんが背景の仕事が終わってから取り掛かるみたいな所がありましたけど。
菊地 ツールもそれほど優遇されてないケースが結構あったり。
瀬尾 日本はオールマイティにやれる方がたくさんいるので。今なら、KONAMIさんとかスクウェア・エニックスさんにライティングの専門職がいらっしゃいますね。
次世代機のためにはやっぱり、ライティングに対する知識をちゃんと持っている人がやらないと、いい物は作れないんじゃないかと思います。作業量も増えるので、他と兼ねていては、仕事量としてはもう扱いきれなくなるんじゃないですかね。僕の個人的な観点としては、ライティングの知識をちゃんと持った専門的なアーティストがもっと増えていくんじゃないかなと思いますし、もっと出てきて欲しいですね。
小島 新しいハードが出てマシンパワーが上がるたびに、ライティングのクオリティーも求められるようになっていく感じはありますね。
小保田 グローバルイルミネーション(※3)みたいな方法が出てきてますけど、どうですか?
瀬尾 物理ベースライティングが入ってくると、野外のシーンなんかでは、サンライト(太陽光源)をポンと入れるだけでそれなりによく見えたりするんですよね。遠目にはそれで十分綺麗に見えるし、近くに寄ってもパッと見はいいんですけど、それでも細部を見ていくとアーティファクトとか(不自然に見える部分)が出てたりするし、光量が足りないといったことも起こる。物理的に正しいからといってそのシーンがリアルにカッコよく見えるかというと、違う。
グローバルイルミネーションでいいシーンもあるんですけど、やっぱりそこでアーティストによるライティングを付け加えて、よりダイナミックに見せるとか、感情を引き出すような演出を行う、アーティストの目線からのライティングという観点は必要なんじゃないかと思います。
小保田 あぁ、映画とかでもライティングを強調したりしますからね。ただ自然に撮るということはなくて。
瀬尾 そう。でもライティングが前面に出てしまうというのもよくなくて、ライティングは綺麗に見えて当たり前だけど、プレイ中に気にならないぐらいがいいですね。なにも言及されないと悲しいこともありますけど、「ゲーム面白かったね、グラフィックも印象的だったし」と後で言われるような存在でいいのかなと。すごいいい映画を見た時にあとで「ああ、ここCGでやってたんだ」って思われるような。
※1 QA: 品証。いわゆるテスターの人。
※2 フォトリアリズム: 写実的な美しさ、描写の細かさ。
※3 グローバルイルミネーション: 拡散光をちゃんと扱い、自然な影や反射が表現できるライティング。大域照明と訳したりする。直後に出てくる物理ベースライティングは、物理的な理論に基づいたライティング・レンダリングのこと。
ここでは、以前はそれっぽく見せるためにライティングアーティストがライトを配置して調整していたことなどを踏まえ、グローバルイルミネーションによりライティングアーティストの仕事はどう変わるのか(職人的なライティング作業がいらなくなるのではないか)という質問がされている。ちなみに専門のミドルウェア“Enlighten”もあり、さまざまなゲームで使われている。
アニメーションと転職文化
瀬尾 アニメーション(モーション)もそういうところがあると思うんですけど、どうですか? 人間の目はごまかせない所があったりしますよね。
小島 Uncanny Valley(不気味の谷)になっちゃったりっていうのはありますね。人間は人間の動きにはすごい目が肥えてて、ちょっとでも変だとすぐに「変だねぇ」って言われちゃう。それにアニメーションの場合はライティングとは違って遊びに直接関わっちゃうから、自由度がそんなにないんです。リアルに作り込みたいんだけど、それで操作が悪くなるのもよくないので、そのバランスをつねに研究してます。
格闘ゲームを作っていた頃とかだと、秒間60フレームの6フレームでヒットしなければいけないとダメとか、そういうモーションをやってきましたから、限られたルール内でいかによく見せるかというところに職人技が必要だと思いますね。6フレームの中にパンチの前の動作とか、下から動きが伝わってくる様子も入れて、パンチの決めポーズがあってから30フレームぐらいかけて構えに戻るとか。そこに情報を凝縮していくのが求められる職人の技術なのかな、と。
菊地 それはすごいデザイナーフレンドリーな(ゲームデザイナーに優しい)アニメーターでうらやましい(笑)。俺が初めて北米に来てゲームデザイナーとして関わった時に、とにかくアニメーションが長くて使えなかった。何回「ここ(モーションの一部)切って」とか言っても聞かないんだよね、「こっちの方がカッコイイじゃん」とか言われて。「これいらねぇよ」って言っても「ここだけは動かせない」とか言われて。
小保田 自己主張しないと生き残れないからね。
菊地 そうそう、それもあるからね。理由を聞くと結構そんな感じで、アニメーター同士でレビュー(評価)する時に「これはクオリティー低いね」とか言われることがあるから譲らないというのを後から知ったんですけど。
小島 あとはアメリカ人て、デモリール(※4)命なんですよ。転職文化で、プロジェクトが終わった後に切られるなんてことはよくあるから。再就職する時に、デモリールが良かったから雇われる率っていうのがすごい高いんですね。ゲーム的には短いほうがよくっても、デモリールで短いパキッパキッとしてアニメーションを見せちゃうと、それはアニメーター的にはレベル低いって言われちゃう。そういうのもあるから、自己主張を頑張るんですよね。
菊地 日本は操作命っていうのがあって、左に入れたら次のフレームで左に向かないといけないっていうのが常識だった会社で働いていたから、「まず目が動いて、腰が回って、肩が向いてから首が動くだろ」とか言われると、こっちとしては「それ何フレかかるの」って(笑)。
※4 デモリール: 自分が手掛けたパートや作品などを紹介するデモ映像。映画業界やゲーム業界のCGに関わるクリエイターや専門スタジオの名刺のようなもの。サンプルは『The Last of Us』などのアニメーションで活躍するダニー・ガーネット氏のデモリール。
“遊ぶアニメーション”から“見るアニメーション”の登場
小島 でもアメリカで6年間働いてきた間に、ちょっとだけアニメーションの流れが変わってきているんですよ、昔だったら遊びがメインだったじゃないですか。でも今のブームとしては経験が命。そうなると操作性ももちろん大切なんですけど、何を見たか、自分のキャラクターを動かした時のビリーバビリティ(※5)、リアル感を求めるようになってきた。この数年で求められるものが大分変わってきたなって感じがしますね。
例えば『アサシン クリード』シリーズってコンバットシステムからガラッと変えて、今までだったらボタン連射してコンボ出してればいいような所から、アクションボタンを押したら対応するアクションを3秒間だだ流しみたいな所に行ってる。これは結構新しいムーブメントだなと思ってたんです。遊ぶアニメーションから見るアニメーションになってきていて、アニメーションの世界も考え方が変わってきているなと。
菊地 それでいいようなゲームが主流になってきている感じがありますよね。『バットマン アーカム・アサイラム』とかがそうだったと思うんですけど、なんかボタンを押していれば場面に合わせたカッコいい動きが出る。
瀬尾 あれはやってる方も気持ちがいいですよね。
菊地 アニメーション技術の進化で遊びが変わったな、と思いました。例えばさっき話にだした時間のかかるリアルな振り向きをしても、その途中でプレイヤーの入力にあわせてなめらかにアニメーションがつながれば問題ない。振り向きながら銃を構えながらしゃがむとかね。昔はそれに膨大な手間がかかってほぼ不可能だったけど、今ならプログラムによる補完でだいぶ自然につながるので、バットマンのように複雑な動きを見せつつプレイヤーの入力もちゃんと反映してるゲームが実現したな、と。
※5 ビリーバビリティ: 真実味、それらしさ。現実という意味での“リアルさ”とは違う。バットマンがカウンターで複雑な関節技を決めるのは“リアル”ではないが、その世界でのそれらしさが出ていれば“ビリーバビリティがあるアクション”になる。
流動性も含めた技術の蓄積
菊地 ハード側ではどうですか?
松田 エンジニアリングの視点から行くと、北米・ヨーロッパは技術の蓄積がすごいというか、同じ事をずっとやってきた中で、やっと最近ハードウェアの性能が追いついてきたっていう感じ。CGのレンダリングも、昔はフライトシミュレーターは本当にショボい三角形を出して、「これはどこがおもしろいのか?」というようなのが20年ぐらい前だったけど、それが変わってきて、ようやくこちらのエンジニアリングが目指していた境地に通じてきたという感じがしますし。
あとはエンジニアの層が厚い。日本の会社のトップレベルのエンジニアを集めてチームが作れるというぐらい層が厚いのがこっちの会社の強みだと思いますね。シリコンバレーだからというのもありますし、シアトルの辺りも多い。ゲーム会社が集まるところにはやっぱりいいエンジニアが集まっている。流動性も高いですし。ヨーロッパでもストックホルムとかあのへんにはいい人が多いですね。
小保田 EA DICEがFrostbite(※6)をガンガン作っているのもその辺りのバックグラウンドが効いてるんですかね。
流動性っていうのはいいですよね。私は同じ会社にしかいないですけど、違うことをやるたびに自分に厚みが出てくるようなところはあるので、違う職場に行って違うやり方を見て……というやり方でしか上がって行かないような部分がある気もします。もちろんウィル・ライト(『シムシティ』などで知られるクリエイター)のように自分だけで研究して行く人もいるかもしれないけど。
菊地 デザイナーとして、プログラマーは違うなと思ったのは、人のソースをちゃんと読みますよね。日本にいた頃は前の人のを引き継がないで、「その方が早い」って作り直すのが当たり前だったんですけど。こっち来たらちゃんとソース読んで前の人のを流用しようとするのがまず当たり前ですよね。その上で作り直すという決定をすることもあるけど。
小保田 確かにね。こっちに来て他人のソースを見る機会・触る機会が多くなった。
菊地 流動性が高いからこそなのかもしれないけど。重要な役割を担っていた人がいなくなっちゃうことって結構あるじゃないですか。「大事な時期だけど、そんな大手に行くなら仕方ないか」とか思いながら引き継ぐ(笑)。
松田 その流動性が高いからというのもありますし、ゲームエンジン自体の規模がでかくなってきたので、自分一人でなんとかできるという時代じゃない(から、流用・引き継ぎ前提の環境になる)というのもありますね。
小保田 ああ。小規模のモバイルプロジェクトをやると、自分で一から十までやれるのに懐かしい感じを覚えたりしますね。
※6 Frostbite: 『バトルフィールド』シリーズのために開発されているゲームエンジン。今秋発売の『バトルフィールド4』では、その最新版Frostbite 3が使われている。エレクトロニック・アーツ傘下のスタジオの他プロジェクトでの利用も進んでいる。
転職文化その1: スタジオカルチャーはどうやって出来る?
――流動性が高すぎることによる問題ってあったりするんでしょうか? 例えば、スタジオのカルチャーみたいなもの。ボストン行ってIrrational Gamesを取材したら、あの辺のスタジオに脈々と繋がるMIT系の人材というか、ディベート好きな人たちが集まっている感じがして、「あぁ、この人達だからああいうゲームになるんだ」というのはすごい納得がいったんです。でも一方では、Epic Gamesなんかはクリフ・ブレジンスキーとかリー・ペリーとか、イケイケのゲームデザイナーの人たちが抜けたあとは、結構雰囲気が変わったなんて話を聞いて。
松田 社風が変わるってことはありますね。こっちではマネージャーが変わると全部ちゃぶ台返しになって、そこでうまくいかなくなるってのはよくある話で。
小保田 ファウンダー(創設者)が残っていればいつまでもそういう社風が残っていたりしますけど、そういう人がいなくなるとやっぱりガラッと変わったりとか。
瀬尾 技術的な話だと、社内での教育とかのプロセスが大事ですね。それがしっかり確立されていれば、あの人がいないとわからないという場面も少なくなると思います。忙しくなってくると中々時間が取れなくて難しいですけど、それでも普段からトレーニングとかをちゃんとやれていれば、チームやスタジオが変わっても何とかなるし、作り終わった後でもPostmortem(※7)をして、あれが良かった悪かったという情報も共有して残していける。そういったことで人が流れていっても何とか対応できる。ちゃんとできている会社は少ないですけどね。
小保田 そういうシステムとかプロセスが大事ですよね。例えばPostmortemも、社員30人とか集めて何日もやらせるのが無駄と思えばやれない。それは長期的に考えて価値があることなんだ、と定められる人がいないと結局ダメ。だからやっぱり、上の方の人の意思がシステムとなってスタジオの文化みたいなものになるんじゃないかなと。
松田 結構属人性が高いですよね。
菊地 究極的に上次第ですよね。もっとインスタントな話で言うと、プロデューサーが引っ張ってくる人がその人の好みの人だったりするから。俺の見た範囲だと、ファンキーでイージーなプロデューサーだと、ファンキーでイージーな奴をどんどんチームに引っ張りこんで、チーム全体が何となくこんな感じ(ファンキーなポーズをしてイェーイ)。その後イギリス人のちょっと気難しい奴が来たら、そいつが性の合う奴を連れてくるんで、そういう人たちが集まってきたりとか。それでいいこともあるし悪いこともあって、良かれ悪しかれですね。
小島 でもデベロッパーにとっては流動性が高いと売り手市場になるんですよね。気に入らなかったらどこにでも行ける。むしろスタジオ側が何とか気に入ってもらおうとしたりする。それはいい所ですね。
菊地 こっちで転職しようとして、いくつか受けたんですけど、ここがいかに素晴らしい会社かというプレゼンをしてくるんですよね。こっちが売り込みたいところは向こうは履歴書を読んだ時点でわかっているから、逆に向こうが売り込んできて「ドーナッツ、好き?」とか言ってくる。「はい」とか言ったら「エブリーフライデー、フリードーナッツ!(毎週金曜日はドーナッツをタダで置いてあるよの意)」と。こっちも「それはいいね」なんて言ったりして。
「どんなことやりたいの?」っていうのも、「こいつあわないな」と否定するためじゃなくて「出来るよ」って言うために聞くんですよ。「こんなことやりたいんですけど」って言うと、「今ちょっとないけど、絶対できるから。だからウチ来たほうがいいよ」って。
小保田 今マネージャーの立場でやってても、何とか辞めてほしくないから、QoL(生活の質)を上げて、会社を気に入ってもらえるように気にかけてますよ。マネージャーって仕事で命令を下すよりも、むしろそこを気にするためにいるぐらいの感じですよね。
瀬尾 そこが悪くなったらすぐ辞めていきますからね。
小島 その企業に所属することの付加価値が大事ですよね。居続けてもらうための魅力があるかどうか。
小保田 それプラス、キャリアの形成に役立つかどうか。
菊地 それはすごいあるね。あたらしく来たマネージャーから「君が転職したときにクールなところから来たねって言われるチームにしたい」って言われたことがあって、今から辞めた時の話かよと心の中で突っ込んだんだけど、こっちではそれくらい重要なポイントってことですよね。実際、「次行くところは別に好きじゃないけどレジュメが良くなるから転職するわ」って言って辞めていった人もいました。
※7 Postmortem: プロジェクトが終わった後に、何が良かったか、何が悪かったか、なぜそうなったかなどを振り返ること。後でも出てくるが「反省会」ではない。
転職文化その2:適正価格は?
小島 でもそれに甘んじてばかりいるとすぐに切られちゃったりもするんだよね。
瀬尾 切られる時はスパっと切られるから、逆に悪いことでもそれを言うのがいいことだと思えば言うし。
小島 日本より意見しやすい。言って当たり前ぐらいの所だから。
菊地 言わないのはいないのと一緒ぐらいだからね。
小保田 こっちの人は「どうせだったら」と言いたいことを言うよね。逆に溜め込んでパッといなくなる人もいるけど。「あいつが気に食わない」から「給料が安い」までストレートに言ってくれるから、わかりやすいと思いますけどね。
瀬尾 転職する時に「どれぐらい欲しい」って聞かれて、自分の日本人としての感覚からすると「あまり高く言うと……雇われなかったらどうしよう」とか考えてしまうんだけど、「自分のスキルに対してこれぐらいは欲しい」と希望ははっきり出したほうがいいんですよね。
菊地 自分で「これぐらいかな」と思った数字からちょっと引いてキリのいい数字に丸めたのを出したら、「お前、それは低すぎる」って言われたことがあった。安すぎる給料で雇うと辞められちゃうから、よくないらしいね。「あなたのスキルだとこれぐらいですから、ウチはさらにこれだけ出します」って言われて、そうなんだと。
松田 自分の市場価格がいくらか知っとくのが大事ですよね。エンジニアですと、レベル1、2、3と大体各社共通のレベルみたいなのがあって、自分が大体このぐらいのスキルでこの土地だとこのぐらいという相場がわかるようになってたりしますね。
小島 今便利なサイトがありますよね。Glassdoor.com。
小保田 あれ、どこまで正しいんですかね?
小島 見てると結構正しい感じはしますけどね。旅行するたびに「ココら辺なら相場はいくらだ」と調べてます(笑)。
小保田 難しいのは、高い給料をもらいすぎてると切られやすいっていうのもありますからね。
松田 低すぎず、高すぎず……。
瀬尾 結局はわからないんだよね。
小保田 ものすごい役に立つ人だったらどんなに高くても問題ないし、役に立たないと予算の都合に合わせて切られてしまいやすいですし……。
松田 ボスと仲良しかというのも結構重要……。
小保田 最終的にはそれもありますね。
小島 一緒に飲みに行くかというのが意外と大きかったりするんですよね。
「チャレンジすることは偉い」インディペンデントの土壌
――さきほど「自分の経歴がよくなる」という理由で転職する話が出ましたが、その逆というか、インディーになるとか、小さいスタジオを立ち上げるっていう人もやっぱり多いですか?
小島 かなりいますよ。
松田 会社を作るというのはそれはそれで尊敬を集めることですからね。「ああ自分で作ったんだ、すごいな」と。失敗したか上手く行ったかはあんまり関係ない。
小保田 チャレンジしたことが偉いというね。
小島 InstagramとかOMGPOPとか、そういう成功話があちらこちらにありますから、自分でインディーゲーム作ったり、チームで起業して買収されたりとか、そういうのはよくありますよ。
小保田 最近は特に多いですね。モバイルでセルフパブリッシングできるようになったので。パブリッシャーとの契約がいらなくて、直接出せる。逆に考えると今後パブリッシャーって何だろうなと考えなきゃいけない時代になってきましたよね。非常に面白い時代です。
小島 去年・一昨年のGDCではソーシャル周りの話ばっかりだったと思うんですけど、今年はインディーズだらけでしたよね。
小保田 ゲームアワードもインディーだらけですしね。IGFアワードだけじゃなくてGDCアワードもいくつかノミネートされてた。
小島 パッケージゲームもそんなに多くなくてね。
――大型のパッケージゲームで賞を取ったのは『ファークライ3』だけでしたね。
小保田 大賞が『Journey』(風ノ旅ビト)ですからね。
――講演会場の列もすごかったですね。
小保田 あれもインディーの精神みたいなのがありますよね。
菊地 ただ俺は、このムーブメントについて「インディーが席巻している」とか「非暴力ゲームが席巻している」といった見方よりも、「作りたいものを作りきってる」という部分が素晴らしいなと思っていて。『Hotline Miami』はバイオレンスだけど、その表現を通してメッセージを伝えてきてるわけで。元々あった志を完遂できるかどうかが肝心だと思う。
“やりきる”選択肢としてのインディー、ニッチを許容するデジタル時代
菊地 息子の友だちのお父さんが91年からずっとインディーでゲームを作っているんですけど、最近いろんな人から話聞かれるらしいんですよ、やっぱり。大手パブリッシャーとの付き合い方とか、自己資金だけで作ってから売り込むのか、それとも作りながらプレゼンもするのかとか、いろんなノウハウを持ってるから。
『トージャム&アール』というゲームを作ってた人(※8)なんですけど、3で苦い思いをしたらしいんですよね。パブリッシャーから「ボスがいないとダメだ」とか「武器がなきゃダメだ」とか言われたらしくて。そこでちょっと折れてしまったのを今でも後悔していると……サインを貰おうと思って持っていった3を渡した時に、すごい微妙な顔でそんな話をされた(笑)。それでも、作りたいものを作るならやっぱり今の形(インディー)だって言うんですよね。小さなスタジオで、自分がコントロールできる範囲でやるしかないと。
小島 インディーのドキュメンタリーフィルム(『Indie Game: The Movie』)見ました?
菊地 あの追い詰められ方も怖いですよね。「これができなかったら自殺する!」とか。
小保田 でも、それでもそうしたい人はそうできるという、いい時代になりましたよね。それでうまくいけば対価もちゃんと貰える。昔だったらパブリッシャーについていないと開発機材がないとかそういう問題もありましたけど。今でもモバイルだって上の方は大手が占めていて、商売だとソッチのほうが大きいんだけど、“やりきる”系のも増えてきている。
菊地 マスを狙わなくてもよくなった時代だと思う。マスを狙おうとすると売れ線にしなければいけなくて、そうすると大多数の人に受けなければいけないし、その方法としてバイオレンスとか銃だとやりやすいというのもあると思うんだけど。
小保田 デジタルになって良くなった部分ですよね。雑誌でもそうだと思うんですよ。誌面だと限りがあるから難しい話でも、Webなら「やればいいじゃん」という。ものづくりがそういうものになってきたというか。大手でやっている人も、インディーでやっている人もそれぞれ必死だっていう面白い時代。OUYA(※9)って何で注目されてるかっていうと、そういう部分ですよね。オープンで誰でもやれますよっていう所。スペックだけ見ると平凡なんですが、その意味ではアリになる。
――スペックだけ見たら「いや、ただのAndroidマシンでしょ?」って話ですからね。そこではない所での評価。
※8 『トージャム&アール』というゲームを作ってた人: グレッグ・ジョンソン氏のこと。その後、自身のスタジオHuman Nature Studiosで発表した新タイトルが『Doki-Doki Universe』。
※9 OUYA: “99ドルと格安ですべてがオープンな据え置きゲーム機”として発表され、クラウドファンディングサイトのKickStarterで出資募集が始まると大ヒットして大きな話題を呼んだ。基本的には本当にAndroidマシンで、超絶スゴい処理能力とか機能がついているわけではない。改造すらも上等なオープン主義に新たな可能性を感じるか感じないかが重要です。
KickStarter狂騒曲
松田 最近はKickStarter(※10)とかもありますよね。
小島 Double Fine(※11)とかね。
瀬尾 あれも作りたいものを作りたいからっていうことでしょ。でも、あれだけハイペースにお金が集まるのは見てて面白いですよね。
小保田 あれはまた面白いのは、完全に無名な人がやっていてもそんなに集まらないんですよね。アイデアだけあってもそうそうはうまくいかなくて、あの人だからというのが強い。
小島 だけど有名でも成功するとは限らないじゃない。この前見て面白かったのは、『CLANG』って「リアルな剣のアクションゲームを作る」という奴。「今までのソードアクションゲームは嘘ばっか。みんな本当のソードアクションを遊んでみないか?」って。でも企画読むと「ゲーム作ったことない」っていうの。本とかを書く人で。そういうのが大成功して。すごい面白いムーブメントだなと思いますよ。ゲームを作ったことがなくてもゲームのプロジェクトを立ち上げられちゃう。
――基本的には名前がある人とか、インディーでもコミュニティを掴んでいる人が強くて、でも大物も盛大にコケることがあったり、一方ですごい思いつきがブチ抜いたり、“KickStarterの政治学”みたいな話で一本書けそうなぐらい深いコミュニティですよね。
菊地 『トージャム&アール』の人もDouble Fineの社長と仲がいいから「お前もKickStarterやればいいじゃん」とか言われてるらしいですよ。
――とある大物から聞いたんですが、誰にでも言ってるっぽいですよ(笑)。「キミんちならすぐ集まるから大丈夫!」とかって。KickStarterに成功してからのDouble Fineは外から見ていても明らかにノリノリですね。
菊地 やっぱり成功した人はそういうんですよね(笑)。今は知る人ぞ知るゲームの続編やりますとか言うとすぐ集まりますから。
※10 KickStarter: 一般の人から出資募集して、希望額を超えるとそのお金が支払われるという、クラウドファンディングサービスの大手サイト。
※11 Double Fine: ティム・シェーファー氏率いるゲームスタジオ。ちょっと変わったゲームをいろいろ出していたが、KickStarterでアドベンチャーゲーム(後に『Broken Age』とタイトル発表)を発表すると出資が殺到し、それまでゲーム業界からはそんなに利用されていなかったKickStarterが一気に話題になるほどのブームになり、後を追うスタジオが続出した。その後、『MASSIVE CHALICE』というタイトルもKickStarterで出資募集中。
――『カーマゲドン』なんかもKickStarterで続編のプロジェクトが成功したんですけど、集まったお金で昔雇っていた人を呼び戻したりしているんですよね。それがメールで送られてきて、本当はゲームの新情報をガンガンアップデートして欲しいんですけど、ファンとしてはチームが再集結しているのを見るだけでも結構満足です(笑)。やっぱりそういう家族意識もあるんですかね。
小島 OMG POPもZyngaに買われる直前に、レイオフをした人を呼び戻して、その人達にもボーナスを与えたっていう話を聞きましたよ。
菊地 いい話ですね。結論としては、ここで集まっているメンバーでゲームを作ればいいのではないかと。
――ひと通り揃ってますね(笑)。
菊地 あ、でもサウンドとモデラーがいないな。
松田 でもGDCで音を一曲200ドルとか300ドルとかで売るって所がエキスポに出展してましたよ。サイトで選んでカートに入れてチェックアウトすると買えるの。
小島 モーションでも前にあったな。パンチとか投げ技ひとつ単位で買えるっていう。誰が買うんだろうと思ったけど。
小保田 そういう細かい単位の仕事が流行っているよね。uTest.comって知ってます? フォーカステストとかのクラウド版で、モバイルゲームをアップして、フォームを書いて送ると、1時間後にはテストした人のビデオが送られてくるの。元々はWebページのテストだったんだけど、最近はモバイルもやってる。まぁそういう風に、サウンドいません、モデラーいませんみたいな、細かい穴埋めができる仕事やシステムが増えてますよね、UnityのAsset Storeとか。
菊地 Asset Store(※12)で稼いでる人は稼いでるらしいね。
松田 ハーフミリオン(約5000万円)稼いでるとか聞きますね。
――では皆さんがいつかゲームを作って、そのゲームがKickStarterで出資募集始めたという記事を自分が書きますんで。ひとまず今日はありがとうございました。
※12 Asset Store: Unity Asset Store。ゲームエンジン“Unity”で使えるツールや素材などが販売されている。
ボーナストラック1: ベイエリア子育てはどうですか
(日本ではソーシャルゲームで未成年者の課金が加熱しているらしいという話から)
小保田 中学生とかがお金を使えるようにせずに親が管理するのが普通ですよね。
菊地 子供にあんまりお金を渡さないですからね。事故としてたまに子供がクリックしちゃうってことはあるけど、もっと止める仕組みを入れろって親が訴えるぐらい。
松田 この前、ウチの子供がiPhoneでMMSを15ドルぐらい使っちゃってて、「それはやめろ」って言ったんだけど、やっぱりいちいち監視してますね。
菊地 僕の(日本の)親戚は、塾に通う電車賃とか食事代とかを全部ゲーセンに遣ってるのに(笑)。
小保田 そう聞くと日本の方が自主性が育ちそうだけど、どこで入れ替わるんだろうね。
菊地 日本は通学も子供だけで行っちゃうけど、こっちは子供だけで行かせられるところってそんなにないじゃない。松田さんが住んでる辺りとか、子供だけで歩かせたら通報されますよね。
松田 そうっすね。ウチの上の子は自転車で通えるようになりましたけど、下の子は無理ですね。
菊地 危ないから通報されるんじゃなくて、いい地域だから監視をちゃんとやるという意味で通報する。
小保田 子供だけで子供の家遊びに行けないもんね。
瀬尾 子供同士で学校終わりに遊ぶっていう機会があんまりないですよね。
小保田 親が連れて帰っちゃいますからね。
瀬尾 そう。遊ぼうと思ったら事前にアポイントメントを取って。Play date決めてね。
小島 要は親同士が連絡取って、いつ、どっちの家で遊ばせるか決めることね。
松田 親が連れて行ってあとで迎えに来るんでもいいですし、親も一緒にいるんでもいいですし。そうしないと普通に遊ぶ機会があんまりない。
瀬尾 (日本で)僕が子供の頃とか、田舎だったんで幼稚園の頃からひとりで遊んでましたけどね。
小保田 そんなもんですよね。勝手に友達の家に遊びに行ったりして。
小島 (アメリカで)ひとりで歩いている子をクルマで見つけたりすると、「あの子ひとりで歩いてるよ」なんて娘がいいますからね。
瀬尾 バースデーパーティーとか、行くたびに規模が大きくなっていくの、あれなんなんでしょうね。お金のかけ方が違う。
菊地 10歳とか区切りの奴は特にすごいですよね。水族館を借りて、裏を回ってくれるスペシャルツアーを組み込んであるとか、水族館にお泊りとか。女の子だったらBuild-a-Bearっていう、クマの人形を自由に作れるのとか。
菊地 あれを作りつつパーティーをするっていうのがステータス。結構高いんだよね。あとは爬虫類屋がこんなにデカいトカゲをバースデーパーティー用に貸してたりするんだよ(笑)。
小保田 どうすればいいの、それ(笑)。
菊地 「リビングに」だって。「アイツんちこんなトカゲいるぜ」ってことなんじゃないの。普段は「Not for sale」で飾ってあって、「誕生日パーティー用にご両親に聞いてね」って子供の目線の位置に張り紙がしてあるの。
小保田 射撃場でバースデーパーティーやったってニュースをこの前読んだよ。ああいったパーティーは、主催者が全部払うの?
菊地 そうなんだよ。会費制じゃないの。
松田 コストを計算して、それに見合ったプレゼントを持っていく仕組み。
菊地 プレゼントにはギフトレシートがついてるんで……。
松田 それを返品して別の物に替えてもいいの。
小島 みんなやるんで「次はウチかぁ」みたいなプレッシャーがありますね、あれ。
ボーナストラック2: 英語と日本語のちゃんぽん
――英語のスキルってどれぐらいで抜かされますか?
小島 ウチの子は幼稚園に入って大分喋れるようになりましたね。今、上の子が3年生なんですけど、そっちはネイティブ並みに喋れるようになっています。
松田 ウチは6(th grade=11~12歳)ですけど、なかなか難しいですね。日本語7割ぐらいで英語3割ぐらい。ウチの中は100%日本語なので、その影響もあるかな。
菊地 3rd(7~8歳)で抜かれた感じ。ボキャブラリーはまだ勝てるんですけど、明らかなのは歌をネイティブ発音で理解するの。聞き取れないですよ。この前「レ・ミゼラブル」を見に行ったんですけど、子供が歌えるようになってて、意味も理解してる感じなんですよね。もうラジオでいいのがかかると「あれどういう意味なの」って聞くようにしてます。
一同 歌はわかんないですね……。
瀬尾 クルマでヒップホップのラジオ局をかけていたりすると、嫁さんに「なんでこんなの聞くのよ」って怒られるんですよ。大体、女性蔑視の歌詞でね。
菊地 それはありますね。俺のiPodで聞いてる曲をクルマでかけてると、息子があとで奥さんに「お父さんあんな曲聞いてるんだよ」って言ってたり。俺は意味あんまりわかってないから「あ、ダメだったの?」って(笑)。
小保田 じゃあ父親の立場を保つの難しい?
菊地 そう。だから日本語教えるよ。日本語なら勝てるから(力強く)。本でも英訳があると英訳読みたがるようになるんだよね。
小島 ウチの子も英語の方が読むのは楽そうですね。逆に日本語が心配になってくる。
――日本語はやっぱりちゃんと覚えさせておきたいと。
小島 そうですね。ほったらかしにしておくと日本人同士でも英語で喋るようになっちゃうから、日本人じゃなくなっちゃう。
菊地 漢字は絶対に書けなくなるからね。親もそうだけど。
瀬尾 タイピングばっかりしてると、書きながら悩むようになるね。ビジネスレターみたいなのを日本語で書くのとか難しい。
菊地 だから家の中ぐらいはできるだけ日本語を使うように。
小保田 単語単語で混ざったりしてないですか?
小島 するする。「トゥギャザーしようぜ」みたいな感じになるね。
――日本語ベラベラな日系アメリカ人の友達に取材の通訳をお願いしたことがあるんですけど、晩飯探しに行った時にいきなり「To Goする?」と言われて喧嘩したことがありましたね。「日本語ならテイクアウトだろ!」って(笑)。
小島 こっちの日本人にはよくありますね。
小保田 英語で認識しているものは日本語出てこなくなるね……。
菊地 ゲームでも“ジャンプイン・ジャンプアウト”(協力プレイ対応ゲームの“(途中から)参加・離脱”)とか日本のゲームにはあんまり出てこないから、日本語でいい単語がなくて説明に困ったりね。
小保田 近い言葉でも意味がちょっとずれてたりとか。
小島 昔、Postmortemとか日本であんまり浸透してなくて、どう言えばいいのか困りましたね。「反省会」っていうのもちょっと意味が違うし。
小保田 あぁ、Postmortemにネガティブな意味は含まれてないから。
――記事書く時に困ることがありますね。今はプロの人ならPostmortemとそのまま書いてもわかるでしょうけども、一般のゲーマーにも伝わらなきゃいけないので、“振り返り”ぐらいなら意味的にもフラットかなとか。
松田 エンジニア用語は英語でも大体通じるんだけど、発音が英語になっちゃう。
小保田 Visual Studioを「ビジュアルストゥーディオ」みたいな。「それ何?」って言われちゃう。
小島 IKEA(アイケア)もね、日本から来てる人には「イケア」って言わなきゃとか。Ubisoft(ウビソフト)もユービーアイソフトだっけ。
菊地 日本はSを省略するじゃない。『Assassin's Creed』(アサシンズクリード)をアサシンクリードとか、『Angry Birds』(アングリーバーズ)をアングリーバードとか。それを聞くと微妙にひっかかる。
瀬尾 アニメとかも違うタイトルになったりしますからね。
菊地 「Brave」が「メリダとおそろしの森」ね。「Wreck it Ralph」は「シュガー・ラッシュ」。
小島 「UP」は「カールじいさんの空飛ぶ家」。アニメ業界の人に聞いたら。ジブリの「~の~」っていうタイトルに倣ってつけているらしいけど。
(以下、ゲームと映画のタイトル違いの話で夜は更ける……)
(編集&取材: ミル☆吉村)