世界最大のゲーム配信プラットフォームSteamの今後の可能性は?
2014年のゲーム業界の大きなトピックと言えば、やはりプレイステーション4やXbox Oneといった新世代機のリリース。一方で、関係者のあいだでは、新世代機に負けないくらい大きな話題を集めている“プラットフォーム”がある。そう、Steamだ。Steamは、バルブが展開する世界最大のPCゲーム配信プラットフォーム。ユーザー数は全世界で7500万人を超えており(2014年1月中旬現在)、今年中にも発売されると言われているSteamOSを搭載した家庭用PCゲーム機Steam Machineも、大きな注目を集めている。
そんな盛り上がりを受けて、国内におけるSteam関連の動きも賑やかになってきている。既報の通り、デジカはバルブと業務提携してSteamユーザー向けのサイト“PRO スチーマー”を開設。Steamでサービスを受けるために必要な“Steam ウォレットコード”の配信を開始したのだ(⇒詳細はこちら)。これにより、日本のユーザーは、日本円での決済が可能になったというわけだ。
ここでは、デジカ 代表取締役社長 ジャック・モモセ氏に、同社が“Steam ウォレットコード”の日本円決済の仕組みを導入したいきさつと、今後のSteamに対する展望などを訊いた。
日本人の利用者の利便性を高める日本円決済と日本語専用サイト
――まずは、デジカさんとはどのような会社なのか、教えてください。
モモセ はい。当社は2005年に設立したのですが、もともとは、海外のメーカーさんが日本で展開しようとするときのお手伝いをする会社としてスタートしました。海外の商品を日本で発売しようとすると、いろいろとインフラの整備が必要ですよね。マーケティングとかサポートとか……。中でもいちばん大事なのは、やはり決済のシステム。レートがわからなかったりするケースも多いので、他国の通貨で商品を購入しようとすると、不安になりますよね。そこで、我々は日本円で決済できる仕組みを作ったんです。
――日本のユーザーが安心して海外の商品を買えるためのシステムを作ったということですね?
モモセ はい。2007年ころからは、日本のメーカーさんが日本国内で販売ができるように、徐々にシステムを拡大していきました。で、つぎなる段階として、日本のメーカーさんが海外で商品を展開する際のサポートに取り組むようになったんです。
――今回、日本円決済のSteam ウォレットコードを展開することになったのも、その流れからですか?
モモセ はい。Steamのサイト自体は日本語化されているんですが、決済システムはドル立てのままで、円に対応するにしても、開発期間がそれなりにかかる。日本のユーザーの皆さんからも「日本円で買えるなら、そちらのほうがいい」というご意見もいただいていまして、実現しました。今後も日本円での決済がユーザーの皆さんにとって簡単になるような展開をしていく予定です。
――それは、日本のユーザーのSteamに対するニーズの高まりを示すものでもあるということですね?
モモセ はい。それは感じますね。
――実際に、日本円決済のSteam ウォレットコードを展開してみてのユーザーさんからの反響はいかがですか?
モモセ とてもいいです。カードをお持ちでないユーザーさんからは、とても歓迎されています。あと、「いままでは海外決済なので、実際の価格がわかりづらかったけれど、円になって明確になった」というご意見を多くいただきました。実際のところ、海外決済だとけっこう手数料を取られてしまったりするので、そういった意味からも日本円決済のほうがリーズナブルなんです。
――日本でSteam用ソフトを購入しようと思ったら、日本円決済のほうが遥かに安いということですね?
モモセ そうですね。少なくとも、カードの手数料のぶんだけ安くなることは間違いありません。あと、セキュリティー的にも安心ですし。
――あと、日本円決済とあわせて、PRO スチーマーも明らかにされましたね。こちらは?
モモセ 日本のSteamユーザーのための、コミュニティーサイトです。やっぱりSteamは全世界で展開しているので、英語以外の対応がどうしてもおろそかになってしまうんですよ。もちろん、バルブさんとしても、日本語への対応は急務ではあるのですが、日本語だけ特別扱いというわけにもいかず、どうしても手が足りない。そこで、日本のユーザーさんからも、「日本語のコンテンツが足りない」「日本語のフォーラムがない」「日本語のゲーム説明がない」というご意見がよくあがってきているんです。そのへんをサポートしていこうというのがPRO スチーマーですね。
――Steamの日本語版のサポートサービスのサイトということですね?
モモセ そうです。たとえゲーム本編が英語のままであっても、せめてゲームの説明が日本語化されていることで、ゲームに対してぜんぜん取っ付き安くなると思うんです。あと、やっぱり日本のユーザーなので、日本語でコミュニケーションを取りたいというのがある。PRO スチーマーでは、そのへんをしっかりとサポートしていきたいと思っています。日本円決済にしても、PRO スチーマーにしても、日本のユーザーさんのSteamに対する利便性を高めるための取り組みですね。ちなみに、PRO スチーマー的な展開は、世界でもほかに類がなくて、バルブ公認のサポートサイトというのも、PRO スチーマーが世界初なんです。
――となると、PRO スチーマーのような流れが、世界各国でも出てくるかもしれませんね。
モモセ はい。そうなるかもしれません。PRO スチーマーが始まったときも、バルブさんが公式サイトでアナウンスをしてくれたほどなので、けっこう期待してくれているのではないかと。
Steamはプレイステーション4やXbox Oneに並びうるプラットフォームになる
――やっぱり、御社的にもSteamに期待するところは大きい?
モモセ はい。手前味噌ですが、当社にも社内にゲーマーは数多くいて、みんなSteamが大好きです(笑)。我々としても、Steamで展開し始めたころから、大きな手応えを感じていました。任天堂さんは独自の方向性を歩まれていると思うのですが、これまでゲームメーカーさんにとっては、プレイステーションプラットフォームか、Xboxプラットフォームか……という選択だった。今後はここに第3のチョイスとして、Steamが加わるのではないかと期待しています。
――プレイステーションやXboxといったコンシューマーのプラットフォームに対抗し得るということですか?
モモセ “対抗”というとなんですが、少なくともプレイステーション4やXbox Oneに並び得るプラットフォームになるとは確信しています。
――モモセさんが、とくにSteamで魅力を感じている点は?
モモセ ユーザーにゲームを届ける上で利便性が高いというのが、Steamの大きな魅力です。これまでは、ゲームをリリースすると、プレイステーションかXboxか……という選択肢しかなくて、どうしても敷居が高かった。それがSteamだと気軽にゲームが作れる。何よりの魅力は、ゲームを作る上でクリエイターが自由である、ということです。Steamが海外のゲームメーカーに高い評価を得ている理由はそこにあると思います。
――なるほど。インディーゲームの流れもありますが、ゲームをユーザーに届ける上で敷居が低いというのは、クリエイターにとっては何よりの魅力ですね。
モモセ そうなんです。そんな敷居の低さもあって、Steamでは積極的にインディーゲームに取り組んでいまして、いまや配信しているタイトルは相当数に上ります。
――昨今、日本でも大きな盛り上がりを見せ始めているインディーゲームですが、Steamでは、いち早く取り組んできたということですね。
モモセ と言えるかもしれません。一方で、Steamはユーザーにとっても利便性がとても高いんです。自分専用アカウントさえあれば、オンラインショップに行くだけで、すぐに遊びたいゲームをプレイできるわけですから。「ほしい!」と思ったらボタンを押すだけですぐに購入できる。価格の柔軟性の高さも、Steamならではの魅力ですね。コンシューマー用ソフトだとある程度値段が固定化してしまうのですが、Steamであればゲームのボリュームに応じて幅広い範囲での値付けができる。タイムセールやキャンペーンなど、期間限定でディスカウントをするといったことも可能です。
――そのへんは、ダウンロードソフトならではの柔軟さですね。
モモセ そのとおりです。デジカを設立した2005年当時は、「ダウンロードソフトは売れない」とよく言われたものですが、時代は変わりました(笑)。あと、私が個人的にSteamを使ってみてすぐに実感したのは、ソフトが管理しやすいということですね。私もスーパーファミコンの代からゲームを遊んでいるのですが、パッケージソフトだとすぐにゲームが溜まってしまい、「あのゲーム、どこに行ったかな?」みたいなことになってしまう。まあ、自分がズボラなのかもしれませんが(笑)。それがデジタルだと一括で管理できるし、場所を取ることもない。「これは便利だ!」と思いました。
――2014年は、Steam Machineもいよいよ本格的に動き始めますね。2014年1月頭に行われた2014 International CESでは、Steam Machineが多数お披露目されましたね。
モモセ Steam Machineには、大きな可能性を感じています。ご存じの通りSteamはただのゲーム配信プラットフォームではありません。熱烈なゲーマーやコンテンツ開発者によって支えられている、巨大コミュニティでもあります。このサービスの扉が、Steam Machineにより、さらに多くの人々の元へ開かれると思うと興奮を禁じ得ませんね。一方で、Steam Machineの発表は、これから起こる大きな潮流の変化の第一歩に過ぎないとも感じています。Steam Machineの登場により、ゲーマーのプレイスタイル、ソフト開発、流通など、あらゆる環境が大きく変わると思いました。
――Steam Machineに関して、とくにどの点を魅力に感じていますか?
モモセ Steam Machineによってマウスやキーボードという旧来の入力デバイスから解放され、大画面テレビのあるリビングで、快適にゲームプレイできるという点がとても魅力的だと思いました。これを可能にしているのはSteam Controllerなのですが、これは本当にすばらしいコントローラーです。プレイステーションやXboxのアナログスティック付きのコントローラーとはまったく違う、革新的デバイスと言えるでしょう。
――ほう、具体的には、Steam Controllerのどんな点がすぐれているのですか?
モモセ すぐれているというのとはちょっと違うかもしれませんが、これまでのゲーム機のコントローラーと決定的に違うのは、Steam Controllerは、内部をユーザーが細部までハックできるように設計されているところではないでしょうか。これにより、Steam Controllerに新たな付加価値をユーザー自身で付ける可能になっています。そして、これらのユーザーが作成した情報は、Steamコミュニティを通じて、共有することが可能になっています。操作感に関しては、「体験してみないと伝わらない」としか現状は言えませんね(笑)。
――デジカさんは、Steamの国内における窓口も担当されているとのことですが、CESでの発表を受けて、国内メーカーからのお問い合わせなどはありましたか?
モモセ すでに数社からご連絡をいただいております。国産のSteam Machineの登場もそう遠くないと思います。
――Steam Machineは今年中にもお目見えする?
モモセ どうでしょうね……。バルブさんが納得すれば、といったところでしょうか。とにかく、ユーザーさんの声をいちばん大事にするのがバルブさんの流儀です。Steam Machineに関しても、2013年夏あたりから一部のSteamユーザーにプロトタイプを支給して、逐一フィードバックを吸い上げています。それを何度もくり返しているんですよ。“とにかくユーザーにベストな体験を提供する”というのが、バルブの方針なので、納得するまで出さないのではないかと。少なくとも、市場動向を考えて、発売するタイミングを決めるということはないです。
――なるほど。では、Steam Machineがリリースされるのを、首を長くして待つとします。
モモセ とはいえ、2014年はSteamにとってすばらしい年になると思います。Steamに関しては、近い将来に、日本のゲームファン、そしてゲーム関係者に向けて、ちょっとしたサプライズを発表できると思いますので、楽しみにお待ちください。