審査員との駆け引きが、勝負のゆくえを左右する
2014年9月2日から4日まで、神奈川県・横浜にあるパシフィコ横浜で開催中の日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”(コンピューター エンターテイメントデベロッパーズカンファレンス)。開催初日に“文化庁メディア芸術祭”についてのセッション“「ゲーム」が文化庁メディア芸術祭に参加するということ”が行われた。本セッションでは、ゲームクリエイターでデジタルハリウッド大学教授の飯田和敏氏が講演を担当した。また、ゲストとして、ゲームクリエイターで立命館大学教授の米光一成氏も登場。飯田氏と米光氏は、今年の文化庁メディア芸術祭の審査員でもある。
本セッションは、これから文化庁メディア芸術祭に応募しようと思っている人、ちょっと興味がある人たちの背中を押すという主旨のもとに行われたセッションだ。エンターテインメント部門、それもゲームでの応募をしようという人にとってはとくにうれしいセッションである。以下、本セッションの概要をお届けする。
■文化庁メディア芸術祭は応募しづらい?
“文化庁メディア芸術祭”は、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門においてすぐれた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバルだ。
さまざまな娯楽作品が賞を獲得しているメディア芸術祭だが、やはりどうもとっつきにくいイメージがないだろうか?
今回のセッションで飯田氏も、「文化庁メディア芸術祭は、文字通り文化庁というお役所が主催しています。お役所って、どうも人柄が見えにくいですよね。名前にも“メディア”、“芸術”とお堅いワードが並んでいますし(笑)。かく言う私も、最近までメディア芸術祭をよく知りませんでした。というのも、とっつきにくいという先入観があり、深く関わろうとは思わなかったのです」と、当初のイメージを語っている。
しかし、2009年度の文化庁メディア芸術祭にて、飯田氏の作品である、実在の犯罪者をモチーフにしたキャラクターが登場する“キワドイ”ゲーム『ディシプリン*帝国の誕生』が、エンターテインメント部門審査委員会推薦作品として選出されている。当初飯田氏は、『ディシプリン*帝国の誕生』を発表し、ユーザーの反応に手ごたえを感じていたそうだが、もっとチャレンジしてみたいとも思ったという。その折に、知り合いから「メディア芸術祭に出してみてはどうか?」と提案されたことで応募を決意し、そこで本格的にメディア芸術祭を知ったのだそうだ。そもそもその段階まで飯田氏は、メディア芸術祭が応募式であることを知らなかったとのこと。「芥川賞のように、勝手に選出され、賞を与えられる類のものだと思っていました」と、その印象を述べた。そのうえで「案外簡単に応募できます。お堅いイメージを持っている方も多いかと思いますが、決してそんなことはないのです。傑作ができてしまったと思ったら、ぜひ応募してみてください」とアドバイスをした。
ちなみに、今年度の作品募集の締め切りは、このときすでに残り3分を切っていた! 本セッション中の2014年9月2日18時がタイムリミットだったのだ。米光氏が「もう間に合わないじゃないか!」とツッコミを入れるが、来場者の中から、「いま応募しました!」と、その場で即座に応募を済ませる猛者が現れた。飯田氏の言葉に、心を動かされたのかもしれない。
■審査はこのように行われる
さて、セッションでは、エンターテインメント部門の審査がどのように行われるかというレアな情報が公開された。
審査は、まず在宅審査が行われる。それぞれの分野の審査員が分担して、応募作を吟味するのだ。そこから見事選出された優秀作は、一次審査へと進む。ちなみに今年の審査について、ゲームの応募作は飯田氏と米光氏が審査することになる。
最終審査では、6人の審査員によって、改めて作品が吟味される。なお、最終審査の段階になると、ゲーム、映像、アプリなどといったジャンルすべてが同列に扱われ、偏見なしの審査が行われるという。飯田氏は「私はゲーム業界の人間ですので、どうしてもゲームこそが至高、エンタメのすべてだ、などとついつい思ってしまうのですが、それではダメなんです。自分の専門以外の作品もきちんと審査しなければなりません」とコメント。
なお、昨年度の受賞作は、大賞が『Sound of Honda - Ayrton Senna 1989』、優秀賞が『スポーツタイムマシン』という結果だ。『Sound of Honda - Ayrton Senna 1989』は、1989年のF1日本グランプリ予選でアイルトン・セナが樹立した、世界最速ラップの走行データを用い、彼の走りを音と光でよみがえらせた作品である。『スポーツタイムマシン』は、壁に投影される昔の記録と実際に“かけっこ”できる装置で、“山口情報芸術センター[YCAM]10周年記念祭”をきっかけに誕生した作品だ。また、ビデオゲーム作品として、ボタンを押して四角い箱の4つの辺を伸ばしながらゴールを目指して進んでいく2Dアクションゲーム『TorqueL』が新人賞を受賞している。さらには、イベントである“福島ゲームジャム”が審査委員会推薦作品として選出されていることからもわかる通り、一言にエンターテインメントといっても、さまざまな表現方法があるのだ。
■審査員との駆け引きが、勝負のゆくえを左右する
続いても、興味深い話が飛び出した。
アニメーションと漫画(劇画)を融合した“劇メーション”作品『燃える仏像人間』が、昨年のエンターテイメント部門優秀賞を受賞したことについて、飯田氏は「アニメーション部門が存在するにも関わらず、本作はエンターテインメント部門に応募してきました。これは、作者と我々審査員との駆け引きなのです」と、応募の仕方で明暗が分かれる可能性も示唆された。米光氏も「ふつうに考えれば、アニメはアニメーション部門に送ります。しかし、あらかじめそれぞれの部門の審査員の名前が出ているので、任意の審査員に送ることもできるのです」と語った。
基本的に先入観なしで審査が行われるのだが、やはり人間、好みはある。同じ作品でも、見る人次第で評価が変わってくるものだろう。
■どんなゲームが評価されやすい? どんなゲームが嫌われる?
セッションの最後は質疑応答が行われ、「在宅審査の段階で、応募されたゲームはすべてプレイされるのでしょうか?」という質問が出た。数十分でクリアーできるお手軽なものなら、はじめから最後までプレイするのにそう手間はかからないだろうが、たとえばクリアーに80時間かかるような大作が送られてきた場合、果たして審査員はどうするのだろうか? これは気になるところである。
答えは、「とくに決まりはない」とのこと。つまり、途中でやめるも、最後までプレイするも審査員の自由だということだ。
すると気になってくるのは、どんなゲームがきちんとプレイされ、どんなゲームがプレイされないのかということだろう。プレイしてもらえなければ、そもそも勝負は始まらない。
飯田氏いわく、「これはすべてのゲームに言えることではありますが、チュートリアルが長いゲームは、ちょっと嫌ですね。逆に、“ここをプレイしてほしい!”、“ここが本作の魅力です!”というアピールポイントがわかりやすいものについては、興味をひかれます」とのこと。ひとつの案として出たのが、たとえば80時間の大作を応募しようと思ったら、全クリ直前のセーブデータをいっしょに送ること。そうすることで、1番盛り上がる部分を見てもらいやすくなるのだ。こういった細かな配慮が、結果に結びつくのかもしれない。
また、アドバイスとして、その年を反映した作品が有利であるという話も出た。
その年がどんな年だったのか、ということを表現できている作品が選ばれやすいのだという。もちろん、おもしろい作品を作ることが重要課題ではあるが、結果的に、時代を反映した作品が選ばれやすい傾向にあるようだ。
質疑応答が終わると、飯田氏は「ゲームをもっとイケてるカルチャーにしたい! なので皆さん、どんどん傑作を応募してください!」、米光氏は「ゲームが、ほかのエンターテインメントに負けないジャンルになることを望んでいます。そのために、優秀な人材がどんどん出てきてほしいです」と、ゲームへ対する情熱、そして新しい才能への期待を述べ、本セッションは幕を閉じた。
記者の席の位置の問題上、米光氏を撮影することができなかったので、セッション終了後個人的にパシャリ。ご協力ありがとうございます!