そして現在、これからのディー・エヌ・エーについても語られる
2014年12月4日、都内・明治記念館にて、公益財団法人 科学技術融合振興財団foundation for the Fusion Of Science and Technology、略称FOST)によるFOST設立20周年記念講演会が行われた。本記事では、ディー・エヌ・エー取締役、ファウンダー の南場智子氏の講演内容をお届けする。
■Javaで失敗した
南場氏の講演では、ディー・エヌ・エーの成功と失敗の軌跡について語られた。
ディー・エヌ・エーは、ゲームについては、フラッシュゲームで事業をスタートさせた。いわゆるガラケーと言われていたフィーチャーフォンの中で、Mobageを展開したのだ。カジュアルゲームとSNSを融合させる新しい手法、一分くらいのちょっとした暇で遊べる手軽さなどから、大変なブームを巻き起こした。
「覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、Mobage内のゲームで普通じゃ考えられないような点数を叩き出し、ランキングにのっていた人がいませんでしたか? じつはそこにも、戦略があったんです」と、南場氏は当時の裏事情を語った。
曰く、すさまじい点数を叩き出せる“裏ワザ”を、わざと仕込んでいたというのだ。それをユーザーに発見してもらい、SNSで友だちや知り合いに拡散されることで、ますます盛り上がる、といったシナリオである。「とはいえゲーム自体は、収益モデルではありませんでした」と南場氏。当時のMobageのビジネスモデルはアバターだったのだ。しかし、ランキングに自分のアバターが表示されるならば、そこで個性を演出したいと思うのが人情であろう。自分だけのアバター作りに夢中になる人たちがどんどん課金し、ディー・エヌ・エーは多くの利益を得ることができていたのだという。もちろん広告での収入も大きかったそうだ。
順風満帆と思われていたディー・エヌ・エーだが、あるときを境に陰りが見え始めた。「Javaを使えば、もっと表現豊かなゲームが作れるぞ」と欲を出してしまったことが原因だと南場氏は述べた。
というのも、Javaアプリゲームは起動に時間がかかり、通信環境がよくないとプレイできないという欠点を持っていたのだ。確かに表現豊かなものを作れるが、Mobageのよさである“カジュアル”さが失われてしまった。さらに、GREEという競合の登場により、大事な顧客を奪われてしまうという事態も。
■救世主『怪盗ロワイヤル』
そんな、にっちもさっちもいかないような状況に登場したのが、携帯ゲーム『怪盗ロワイヤル』だ。読者の皆様の中にも、夢中でプレイしていた方はたくさんいるだろう。本作は、ゲームの開発経験ゼロのうえ、あまりゲームを遊ばない社員が作ったものだというから驚きだ。ほかにも、『農園ホッコリーナ』などの成功例が挙げられる。
つぎにディー・エヌ・エーが行ったのは、オープン化だった。これは大きな決断だったという。上場企業であるディー・エヌ・エーは、収益率を重視しないわけにはいかない。とはいえ、開発リソースには限界があるうえ、ディー・エヌ・エーというひとつの会社が提供できるゲームはどうしても似通ってしまうということを考慮し、最終的にオープン化に踏み切ったそうだ。サードパーティーにどんどん新しいゲームを開発してもらうことで、結果、すさまじい飛躍を遂げることができたのだ。
■スマートフォンの時代到来で地獄を見た
そして、いつしかフィーチャーフォンの時代は終わりを迎え、スマートフォンの時代がやってきた。それにともない、ゲームもネイティブアプリがメインに。
しかしながらディー・エヌ・エーは、ブラウザゲームを諦めきれなかった。そこで、これまで展開してきたゲームにちょっと手を加えて表現豊かにすることで乗り切ろうと考えたのだという。「我が社のゲームエンジニアは、とても優秀だと私は思っています。しかしこの優秀さがマズかった。従来のブラウザゲームに手を加えて提供し、中途半端にヒットさせてしまったんです……って、こんなこと言うと社員に怒られてしまいますね(笑)。ともあれ、そのせいで我々は“なんだやっぱりブラウザ型でもいけるぞ!”と勘違いしてしまったんです(笑)」と、過去の“成功の呪縛”を振り払えなかったことを南場氏は語った。
■ゲーム開発の人数について
とはいえ、ユーザーが求めたのはネイティブアプリ。ディー・エヌ・エーもネイティブアプリの道を模索し始めることになるわけだが、圧倒的に知識が不足していたという。たとえば開発に必要な人数についての認識。「『怪盗ロワイヤル』は五人くらいで、なおかつ数ヵ月で作ったじゃないか。大人数ではフットワークが重くなってしまうよ」といった意見が、ネイティブアプリ開発の際に出たそうだ。ネイティブアプリの開発には、ブラウザゲームとは桁違いの人数が必要であることを、知らない社員が多かったのだという。
実際のところ、ブラウザゲームに比べてネイティブアプリは相当な数の開発スタッフが必要になるようで、先日、大ヒットを記録した『ファイナルファンタジー レコードキーパー』の制作チームが社内で表彰された際に、ステージに登壇したスタッフの人数を見て、「こんなに多かったのか」と、改めて驚いたというエピソードを披露し、会場を笑わせた。
■『怪盗ロワイヤル』や『農園ホッコリーナ』の成功は、人数や時間の問題ではない
「『怪盗ロワイヤル』や『農園ホッコリーナ』は五人くらいで制作して、それでいて何十億も売り上げていましたよね?」と、ネイティブアプリの開発に多くの人員を割くことを敬遠する空気だったディー・エヌ・エーだったが、のちに『ファイナルファンタジー レコードキーパー』を創ることになる執行役が「『怪盗ロワイヤル』や『農園ホッコリーナ』の成功の要因は五人で制作したからですか? 短期間で作ったからですか? 違いますよね。あれは純粋におもしろかったから成功したんですよ。人数や時間に拘泥し、おもしろいゲームを作るチャンスを逃すのは馬鹿馬鹿しい」と周囲を説得したそうだ。それを聞き、南場氏も目からうろこが落ちたようだったと語った。
実際南場氏は、『怪盗ロワイヤル』にどっぷりハマっていたそうだ。「私はゲームをあまり遊ぶほうではありませんが、『怪盗ロワイヤル』は夢中でやっていました。それこそ、深夜2時に寝て、明け方4時には起きてお宝を盗みに行っていました(笑)。そしてその要因は、ただおもしろいから、それだけだったんですよね」と、南場氏は当時を振り返り相好を崩した。
こうして、本格的にネイティブアプリの開発が始まり、『ファイナルファンタジー レコードキーパー』というヒット作を叩き出すことができたのだそうだ。
なお、先日南場氏は、『ファイナルファンタジー レコードキーパー』ヒットのご褒美ということで、その執行役とすっぽん鍋を食べに行った際、同作の成功の要因を聞いてみたそうだ。すると「剣を振って気持ちいいキャラクターの動き」と返されたそうな。はじめまったく意味がわからなかった南場氏だが、要は、剣で戦う昔ながらのRPGのプレイの楽しみや快感を、スマートフォンでも提供することに集中したということらしい。グラフィックをキレイにするだとかではなく、ユーザーの求める“おもしろさ”を素直に提供することで、人気獲得に成功したのだ。
さらに南場氏が「そのためには何が必要だったの?」と尋ねると、執行役は「技術の積み上げです」と返答したらしい。つまり、『忍者ロワイヤル』、『三国志ロワイヤル』、『D.O.T.』などでの失敗も、技術の積み上げとして見れば、決して無駄ではなかったということだ。
■現在のディー・エヌ・エーと今後について
自分たちの力だけでなく、他社の力も借りることでユーザーをより喜ばせることができるプラットフォームというポジションを気に入っていたという南場氏だが、いまディー・エヌ・エーはアプリマーケットでゲームを配信するビジネスの比重が高まっている。
だが、「プラットフォームを本当に諦めていいのか、ということはもう一度考えたいと思っています。プラットフォームは、ビジネスの難度を下げる役割があると思うんです。そこが魅力です」と南場氏は続けた。プラットフォームは、ユーザーのデータを集めやすい。加えて、値決めという要素も大きいという。たとえばMobageの例で言うと、ガチャは一回いくら、十回セットでいくらと、値段のコンセンサスがある程度とれていた。すると企業側はビジネスプランの算段がつき、立ち回りやすくなる。
「そういった、事業者に対してよい環境を提供するのが、プラットフォーマーの役割ではないでしょうか。いまのアプリマーケットは、そういったことはやる気がないようですので、我々がやってみたいとも思わなくもない次第です」と南場氏。
■モバイルゲームの未来は?
最後に南場氏は、これから先どういったゲームが流行るのかという疑問を提示し、「残念ながらわかりません」と自答。「仮に三年後に流行るゲームを教えてくださる方がいても、我々はその人を信じません」と続けた。
デバイスも、ユーザーも、通信も変わっていくなか、未来を断定することなど不可能であると、南場氏は断言した。
未来など誰にもわからないという状況のなかで、ではいったいどうすればいいのか? 南場氏は将来に向けての指針として、「過去の失敗を鑑みて、製作側の意地や偏見を捨て去り、とにかくユーザーが求めているものを追求することで、おもしろい、気持ちいいゲームを提供したい」と語る。まさに、南場氏の柔軟な発想を改めて実感させる方針というべきだが、そういった柔軟な姿勢がどんな変化にも対応できるような企業につながっていくのだと思わせた。今後のディー・エヌ・エーのゲーム作りに、さらに期待したい。
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