殴れ! 撃て! 刺せ! 吹き飛ばせ!

暴力と狂気は拡散し、物語は究極の破滅へ疾走する――『Hotline Miami 2: Wrong Number』レビュー_08

 Devolver Digitalの2Dアクションシューティングゲーム『Hotline Miami 2: Wrong Number』(以下、HM2)を紹介する。海外ではプレイステーション4、プレイステーション3、PS Vita、PC/Mac/Linux版が配信中。

 本作はDennaton Gamesが開発し、2012年に発売された『ホットラインマイアミ』(以下、HM)の続編。電話からの謎めいたメッセージに従って、動物のマスクを被った男がロシアンマフィアなどを殺害するという奇怪な連続殺人事件から数年。ふたたびマイアミを舞台に血なまぐさい殺傷事件が立て続けに起こる。歪んだピクセルアートとシンセポップで彩られたウルトラバイオレンスアクションが帰ってきた!

プレイの基本は前作とほぼ同様。しかし難度は前作プレイを推奨!

 ゲームの基本は前作同様なのだが一応説明しておくと、犯罪組織のアジトなどに単独で殴り込み、ベースボールバットで殴り、ショットガンで吹き飛ばし、ナイフを突き刺し、マチェーテを振るい、サブマシンガンで薙ぎ撃ちし、弾切れのライフルをぶん投げたりドアをぶち当てて昏倒させてからボコボコ撲殺したり、要はマップ内の敵を全員殺害すれば大体オーケー(ミッションによって細かな違いはある)。

 しかし敵も自分もほぼ一撃死なので、「入り口すぐのチンピラを昏倒させて殴り殺そうとしたら奥のライフル持ちに撃たれて死亡」、「今度はちょっと待ってから銃を持った奴が通るタイミングでドアをブチ当てて昏倒させ、さっきのチンピラを殴り倒してからライフル持ちを殴り倒し、すぐにライフルを拾って3人目の敵を射殺。しかし銃声に反応してやってきた4人目は倒したが5人目の対応をミスってショットガンでミンチ」、「今度は4人目の射殺に失敗」、「雑になりすぎて、昏倒させてから殴る操作をミスって刺殺される」、「気を取り直して4人目と5人目の射殺に成功するが、不用意に入った部屋でスナイパーに撃ち抜かれる」といったように試行錯誤を繰り返すことになる。

 この殺しと死のループを、エッジの効いたシンセポップリバイバルのサウンドとドラッギーなグラフィックで延々と体感する内にミョーな気分になってくるのが、『Hotline Miami』の体験の本質だ。積み上がり続ける死体の山を前に、現実と幻覚の境目がわからなくなっていく……(それにしてもサウンド面は相変わらず素晴らしい)。

 前作と比較すると全体的にマップが広く、シチュエーションに沿った凝った配置やギミックも増えており、難度も最低限のチュートリアルが終わると序盤からもういきなり高め。考えずにノリで動くと瞬殺されるような配置がすぐに出てくるので、ストーリーの把握だけでなく、ゲームのメカニズムに慣れる意味でも、必須とまでは言わないが、できるだけ前作をプレイしておくのをオススメしたい(ちなみにHM2ではHM1のキャラクターたちの過去やその後もいくらか明かされる。HM2は英語だが、HM1のPC版はMaginoDriveなどで日本語版を買えるし、ゲーミングPCじゃなくても結構遊べるし、せっかくなのでこの機会にどうぞ。あとストーリーを味わいつくしたい人は、Steamなどで無料公開されているデジタルコミックもチェックされたし)。

暴力と狂気が拡大。もはやマスクは必須ではない

 一方、本作では複数主人公制になったことで、HM1にあった“変装用にどの動物マスクを被るかによって主人公の能力が変わる”という要素は一部エピソードの限定的なものになり、基本的には、各エピソード固定の主人公がいて、与えられた性能や初期武器でクリアーを目指すというパターンが多い。

 例えばプレイアブルキャラクターのひとりであるジャーナリストのエヴァンは、殺人が目的ではないので、銃器をゲットしても弾をすべて捨ててしまうし、バットを拾って殴り倒すことはできるが、ナイフのような手加減できない武器は拾えない。必然的に非殺傷系のプレイが中心となるが、ストーリー的にもうひとひねり入っていて、ノックダウンした敵を必要以上に殴り続けて撲殺することは可能。続けて撲殺することで怒りモードが発動すると、殺傷武器も使用可能になってしまう。
 これはつまり、ジャーナリストとしてHM1で起きた連続殺人事件を追ううちに、彼もまた少しずつ暴力に魅入られつつあるということだ(門番を殴り倒してから素に戻り、慌てて心臓マッサージをして蘇生を試みるという、ブラックなギャグシーンもある)。このようにHM2では、ミッションの設計の面でも、これまでよりストーリーが強く結びついた形となっている。

暴力と狂気は拡散し、物語は究極の破滅へ疾走する――『Hotline Miami 2: Wrong Number』レビュー_04
▲前作の主人公の模倣犯である“The Fan”と呼ばれる連中でプレイする際は、マスクの選択が可能。熊のマスク“マーク”を選ぶとマシンガンの二丁持ちでスタート。ジョン・ウーばりに横薙ぎにして回転撃ちもできる。
暴力と狂気は拡散し、物語は究極の破滅へ疾走する――『Hotline Miami 2: Wrong Number』レビュー_07
▲おなじくガチョウマスクの“アレックス&アッシュ”だと、チェーンソー持ちと銃持ちのふたりを一度に操作する変則プレイに。正直操作はしにくいが、近接と遠距離武器を同時に使えるのは凶悪。

どん詰まりの魂たちが織り成す、地獄のような群像劇

 前作からの最大の変更点は、プレイアブルキャラクターが増えて、ストーリーがより複雑で重層的なものに進化したことだ。HM1がマスクを被った暗殺者(半公式に“ジャケット”と呼ばれるメイン主人公)の物語+αだったのに対し、HM2ではHM1後のマイアミを中心に、現実とフィクションと幻覚と過去が入り混じった話が複数の視点から描かれる。

暴力と狂気は拡散し、物語は究極の破滅へ疾走する――『Hotline Miami 2: Wrong Number』レビュー_02
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▲80年代~90年代が舞台ということで、VHSビデオのイメージがちりばめられ、虚構感を高めている。

 そしていずれのエピソードも、絶望に満ちた社会のはぐれ者が別のはぐれ者によってあっけなく殺される、命が激安な話だ。
 ドラッグ、ロクな介護をしてやれない老いた母親との生活、安っぽいB級スラッシャームービー、パラノイア、暴走する自警主義、トラウマ、幻覚、何の意味もない日々、去っていった女、社会からの脱落、孤独、そんなもので埋め尽くされた、救いようのない物語だ。そしてどこからか聞こえてくるあの声。「お前は暴力を楽しんでいる。違うか?」

暴力と狂気は拡散し、物語は究極の破滅へ疾走する――『Hotline Miami 2: Wrong Number』レビュー_05
▲にわとりマスクの男“リチャード”が、お前は暴力を楽しんでいるんじゃないかと尋ねる。前作でも主人公に向けて似たようなことを問いかけていたが、彼の正体は一体?

 このゲームが暴力肯定の話だと思ったら大間違いだ。こんな脳漿と腸(はらわた)をぶちまけ続ける無限地獄には、あらゆる意味で栄光も名誉もないんだから。このゲームが暴力否定の話だと思ったら大間違いだ。HMの殺し屋たちは「もう止めたい」なんて言いながらどうせ殺すんだし、プレイヤーも含めて、お互い一秒後には肉塊になっているかもしれないウルトラバイオレンスをどこか楽しんでいることは否定できないんだから。

暴力と狂気は拡散し、物語は究極の破滅へ疾走する――『Hotline Miami 2: Wrong Number』レビュー_01
▲現実と虚構があいまいな世界で、ただ暴力だけがあるという異常事態。俺が殺したのか、俺が殺されたのか、これは現実なのか、作品なのか?

 HM2には“いい暴力”も“悪い暴力”もない。これは暴力そのものの話だ。そして、どん詰まりの魂たちが流した血で描く地獄のような群像劇として、HM2は間違いなく傑作だ。すべての決着としてラストにやってくる究極の暴力と狂気は、プレイヤーの頭を吹き飛ばすだろう。それは極限の暴力であるがゆえに、美しいグラデーションとともにやってくる究極のエクスタシーとして描かれる。その先には一体何が残るのか? 変わらぬ永遠の地獄なのか、それとも何かの涅槃なのか。あるいはすべてはまやかしなのか? その先は自身の目で確かめて欲しい。

暴力と狂気は拡散し、物語は究極の破滅へ疾走する――『Hotline Miami 2: Wrong Number』レビュー_06
▲3月8日、ボストンで行われたPAX EAST最終日は、発売直前ということもあり、Devolver Digitalのブースの試遊機を全部HM2に変えるイベントも行われた。みんなギャーギャー言いながら殺りまくり。あんたも好きねぇ。